《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》53話 バベル・イン・アクター II
「もしもーし! 味山でーす、到著しましたー」
インタビューを切り抜け、どんどん多くなる人間の波を抜けて、味山は探索者組合本部に到達していた。
付本部へ到著した途端、普段はわりと想のない職員が飛び出してきたこと以外に変わった様子はない。
「ああ、タダヒトね。ってちょうだい」
がちゃり。聞き慣れたリーダーの聲。味山はなんのきなしに部屋にる。
「おーう、ギリギリ間に合った。いやー、途中でよー、テレビ局の取材けちゃってよ、あれ放送されるかな」
部屋の中の様子を確認しながら呑気に味山はぼやく。よく見ればここは、組合本部の中で1番のVIPルームだ。
ふかふかのペルシャ絨毯、無駄に豪華なシャンデリア。艶々のオークで出來た大機。
「うわ、豪華な部屋だな、付ん時のVIP待遇といい、大ごとになってんな」
味山がここで違和に気づく。
普段ならここまで喋れば誰かが反応してくれそうなものだ。しかし、部屋には妙な沈黙がただよっていた。
やべ、空気読めてなかったか?
味山が助けを求めるように、壁によりかかって腕組みしてるグレンをチラリと見つめる。
小さく首を振るグレン。ダメだ、役に立ちそうにない。
「アジヤマ、急な召集すまなかったね。もうニュースは見たかい?」
「ん、おお。朝のニュースな。えーと、あれマジ?」
味山は椅子に座りながら部屋の奧に位置するアレタを見る。
ラフな格好、シンプルなシャツにジャケット、ホットパンツ。いつもの私服姿だ。
長い腳をプラプラと揺らしながらアレタが流し目を向ける。
「……ごめんなさい、タダヒト。伝えるのがギリギリになってしまって。うん、その、説明するより見てもらった方が早いわよね、いいかしら、ソフィ」
アレタに聲をかけられたソフィが、1つ息を吐いた。
「ああ、キミの補佐探索者だ。知る権利はある。理解を早めてもらうためにも必要だろう」
「ん、ありがと、ソフィ」
アレタが呟き、立ち上がる。ぐっと背びしてこちらを見つめた。
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「お前ら、なんの話してんだ?」
部屋の中に満ちる妙な雰囲気。よく趣旨のわからない話に、味山がし目を細めた。
「タダヒト。あそこにある花瓶、見ててくれるかしら?」
「花瓶? ああ、あの高そーなやつ?」
「そう、その高そうなやつ。じっと、見ててね」
アレタが指し示したのは部屋の隅に置いてある花瓶。多分味山の1ヶ月の稼ぎよりも高そうなそれ。
「花瓶を? はあ、了解」
「ありがと。……風よ」
アレタが何かを呟く。何しようとしてんだ、こいつ、と思いつつ味山が素直に花瓶を見つめていると。
ふわり。
突如、頬にじたのは風。部屋は室、空調が強くなったのかと味山が疑ったその瞬間。
「え、は? な、に?」
目を剝いた。
不自然に起きた風が吹いたかと思えば
花瓶が、浮いている。
ふよふよと時折り回転しながら、まるで何かに吊られているようにして花瓶が宙を舞っていた。
「……ドッキリ?」
「ふふ、殘念ながら違うわ。ここにはカメラもネタバラシの看板もないの。はい、タダヒト、プレゼント」
浮いていた花瓶から用に花が一挿し抜かれ、ふよふよと浮きながら味山の手元に渡る。
「わお…… え、なにこれ、ほんとに。えー、待って、すげえ…… えー、待って」
語彙がない。味山はふと始まった奇妙な出來事にロクな反応がなかった。ふわりと薫る花びらを無意識にで、それを見つめる。
紫のたんぽぽみたいな花だ。ひっくり返してみてもなにも仕掛けのようなものは見つからない。
「……改めてみても、驚きっすね」
グレンが呟く。
「いや、驚きっすね、じゃねえよ。アシュフィールドお前……」
味山がじいとアレタを見つめる。
その視線をけ止めたアレタが一度目を曬し、それから困ったように笑う。
「そうよね…… やっぱり、怖ーー」
アレタがまた困り笑いしながら頭を掻く。
ソフィが目を背け、グレンだけがじっと味山を見つめていた。
「お前!マジですげえな!! 強くて人でおまけになに? 魔法まで使えんの?! 屬過多かよ!!」
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そして響く、頭の悪い発言。
びくり、目を背けていたソフィがを跳ねさせ、アレタがキョトンと小さく口を開いていた。
「えー、なに? なにこれマジで。いや、ほんとに浮いてんじゃん、っていい?」
のしのしと歩いて味山が未だに浮いている花瓶に手をばす。
「……へ? あ、ダメよ! タダヒト、危ないわ!」
キョトンしたアレタが正気に戻る。呑気な味山とは対照的に焦った聲でそれを制した。
「ふ、ふふ! はははははは!!」
その様子を見ていたソフィが突如笑い始めた。最初は小さな笑いだったがそれはすぐに大笑いに変わる。を鳴らすものから、腹を抱えてくの字になる。
「あ? なんだよ、クラーク」
「ふ、ふふふ、いや、なに。気にしないでくれ…… ふふふふ、ああ、面白い、いや、これはし嬉しいのかな」
「センセ、だから言ったでしょ? タダが今更一々こんなことでびびったりしないっすよ、こいつ、頭のネジ數十本ないんすから」
「はい、グレン君アウトー。プレゼントあったんですが貴方の心ない一言でそれはなくなりました」
「いや、貶してるわけじゃないっすよ、タダ。え、プレゼント?」
懐から取り出したメモ帳、その1ページをグレンにひらひらと見せる。最初は目を細めて訝しげに見つめていたグレンだったが、突如目を剝いてこちらに走り寄ってきた。
「え!? うそおおお?! おま、タダ!! これ、Spのギャル系小悪魔天才悪アイドルの禮ちゃんさんのサイン?!」
「あの子そんな屬多いのかよ。屬ビルドだな。はい、その子の直筆、書いてもらってから數十分経ってないホヤホヤでーす。仲間思いの味山くんは頑張ってサインもらったのに、グレン君の言葉に傷付いたのでもうむりでーす」
メモ帳を懐に戻した味山に対し、グレンがノータイムで土下座する。
いつものアレフチームの景にアレタやソフィが笑顔を浮かべる。
「……良かった」
「アレタ、キミの見る目は正しかったようだね。ああ、賭けはキミとグレンの勝ちだ。今夜の晩餐會の金額はワタシが持つよ」
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「賭け?」
「おっと、聴こえてしまっていたかな。味山の反応で賭けてたのさ。キミがアレタの様子を見てどんな反応するかでね。ワタシはキミが怯えたりすることに賭けたんだが、どうやら負けのようだ」
「てんめー、綺麗な顔して険なことしやがって。容的に商品は晩飯か? たんまり食ってやるからな、クラーク」
「くく、お手らかに頼むよ、アジヤマ」
ニヤリと味山がクラークに笑いかける。ヘタクソな笑顔を向けられたクラークはを鳴らしながら花のように微笑む。
眉すら雪が積もったように白いその異端の貌にし目が眩んだ。
味山がアレタの隣の椅子にどかりと座る。
朗らかな雰囲気。
しかし、味山は心汗をかきまくっていた。
え、やばくない? なにあれ。マジでなに?
やばい奴に対して1番してはいけない対応はそのヤバさにビビることだ。
自分のような凡人がアレタ達のような特別な人間と肩を並べるには演技と思い切りがいる。
なにが起きても平然としろ、奴らの不安を笑い飛ばせ。それが出來なければ連中と付き合うべきではない。
「どうしたの? タダヒト」
「お、おお、悪い。クラークにどんなもん食わしてもらおうかと考えてた。あー、それでよ、やっぱあれか。あのニュースとアシュフィールドのその魔法は関係あるのか?」
「そう、ね。結果的にはそうなるみたい」
「正確には魔法ではない。これはれっきとした現象だ。決して呪文やオカルトの類ではないんだよ、アジヤマ」
「あ? じゃあ、今のはなんだ?」
「ふむ、だよ。アレタと繋がる號級、ストームルーラーの力だ」
「…… ストームルーラー……?」
背筋が怖気る。思い出すのはあの夕焼けの中で紅するアシュフィールド、によく似たニセモノの顔。
アシュフィールドではない何か、確かあれはと関係あったはずだ。
味山は最近起きた気味の悪い出來事を思い出す。それとなくアレタに目を向けるも、小さくかぶりを振るわれた。
どうやら、今ここで話す容ではないらしい。
「そう、今のはストームルーラーの力。アレタはついに自分の意思で、ストームルーラーの力をコントロールすることに功したのさ」
「コントロール…… 今までも何度か使ってなかったか?」
「あれは思い切り振り回してただけよ。ボールを思い切り地面に叩きつけることが出來るのと、狙いを定めてキャッチャーミットに投げることが出來るのは違うでしょ?」
くるくるとアレタが指を回す。その度に部屋に置いてある調度品達が浮き上がり、同じくくるくる回る。
味山は目を見開きそうになるのを我慢して、平然なフリをしながらアレタに聲をかけた。
「ほーん、まあ確かに。で、それがなんで探索者を休業することに繋がるんだ?」
「それはワタシがーー」
ソフィがアレタに向けられた質問に答えようとしてーー
「タダヒト アジヤマ、その先は私から説明させてもらおう」
ガチャ。
いきなり開けられたドアにチームが反応する。アレタは一瞥し、ため息を、ソフィは小さく舌打ちを、グレンは靜かにソフィの側へ。
そして味山は、初め誰がってきたかよくわからなかった。
「うわ、え、誰? うん?」
「ハハ、タダヒト アジヤマ。落ち著いてよく、私の顔を見てご覧。ああ、そうだ、深呼吸して、そしてついでに高能の探索者端末で検索してみるんだ。アメリカ合衆國現大統領、とね」
まず鼻についたのはムスクの深い匂い。ミントのような辛さに化粧品のしつこさがごちゃ混ぜになった嗅ぎ慣れていない匂いだ。
「……だいとうりょう?」
仕立ての良い黒いスーツ。広い肩幅に見上げるような高長。金にウェーブした髪はセットされ、白い歯がる。
「YES I AM!! 會えて栄だ! タダヒト アジヤマ!! 一度キミには挨拶をしておきたかった!!」
ワラワラとその男の周りを後からってきたゴツいスーツの男たちが並ぶ。
歩き方や、立ち姿から荒事に生きるものだということがわかる。
「ああ、彼らのことは気にしないでくれ。仕事熱心なボディガード達だ。なにぶん私は友人は多いと自負しているものの、それ以上に敵も多いのでね」
ザ、アメリカの男。差し出された大きな掌に味山は無意識に手を差し出す。
がしりと力強く握りしめられると、どこか安心してしまうような。
「え、は、ほんもの?」
「ははははは、そんなに固くなる必要はない! キミは我が合衆國の星である彼の補佐にして、アレフチームの一員なのだろう? で、あればもう我々は友人のようなものだ! 気軽に、そうだな、アランと呼んでくれても構わないよ」
「あ、アラン…… アラン・ウェイク大統領…… マジのアメリカ合衆國大統領……ですか」
空いた口が塞がらない。ニュースで見たことのある丈夫が自分の肩に手を置いてニカリと笑っている。
「大統領、あまりタダヒトをからかわないで。彼はあまりそういうの慣れてないんだから」
「おっと、すまない。キミの知り合いにしては……そうだな、あまりにも普通だったんでついおどけてしまったよ。非禮を詫びよう」
「あたしじゃなくてタダヒトに詫びてほしいものだわ。それと、確かにタダヒトは今はそんなじだけど、探索の時は違うのよ」
「ほお…… キミが個人にそんな評価をするのは珍しいな。いや、1ヶ月前のキミのわがままを思い出す。まさかニホン人を補佐にしてほしいと言われるとは全く考えてすらなかったからね」
大統領がちらりとこちらを一瞥する。友好的で人好きのする態度。しかしその中には確かに値踏みするようながあった。
「……大統領、すまないが今はチームでの話し合いなんだ。貴方との打ち合わせは先程終わらせた筈だが」
何か嫌なものを見たかのように目を背けていたクラークが呟く。
「おおっと、我らが史。そんな剣呑な目つきを向けないでくれ。なに、我々合衆國の都合に振り回してしまったんだ。アレタの休業については私の方からタダヒト アジヤマに伝える責務があると思ってね」
「ならその説明を早くしてくれ。會見までそんなに時間があるわけではないだろう」
「ふむ、もうし彼との會話を楽しみたかったのだが、仕方ないか。アレタ、Mrタダヒトにはどこまで説明を?」
「ついさっき、タダヒトには見せたわ」
「オーケーなら話は早いか。すまない、座らせてもらうよ」
大統領が空いた椅子に座り、その周りを囲むようにボディガードが移する。
言葉の通り世界をかす人間が目の前にいることに今更味山は実を覚えていた。
「Mr、キミは探索者深度についてどれだけ理解しているかな?」
「……探索者の酔いへの耐の度合い……じゃないっすかね」
「ふむ、さすがは探索者。基本的な事は抑えてくれてるね。あー、でもそうか、キミは確か上級探索者ではなかったね」
「あ、はい。すんません」
「はは、ニホン人はすぐに頭を下げるな。あのアレタ・アシュフィールドの補佐が上級ですらない……か」
大統領が彫りの深い出っ張った眉頭をわずかに歪める。味山を見るその目に宿るものは決して友好的なものではなかった。
「大統領、今その事は関係ないはずよ。説明を続けて」
「おっと、そうだった。ではここから話そうか、Mr、実は探索者深度には裏に數値が設定されているんだ」
「はあ、數値ですか」
「おっとその顔はあまりピンときていないね。ふーむ、簡単に言えばね、ビデオゲームだ。ビデオゲームのRPGによくあるだろう? レベルというやつが」
「レベル?」
味山は聞き慣れた単語にを乗り出す。え、探索者にそんなのあったの? 探索者レベル的な?
大統領の言葉に耳を傾ける。
「お、食いついたね。そう、レベルだ。的には3段階のレベルが設定されてある。深度Ⅰ これはキミの狀態。バベルの大においてのダンジョン酔いへの耐の獲得、及びほんのしの能力の向上。キミにわかるように言うならレベル1だね」
大統領が指を振りながら説明を始める。軽やかにく手が、グレンとそれからソフィを示した。
「そして深度Ⅱ、レベル2だ。より強い酔いへの耐、そしてダンジョンにおける驚異的なまでの運能力の向上。だいたいの指定探索者、そして一部の上級探索者はこの狀態にある」
「そして、最後。探索者深度Ⅲ…… 実はこれまでこの狀態にある探索者の存在は確認されていなかったんだ。疑いのある人は何名か存在していたけどね」
大統領が長い足を組みなおし、じっと味山を見る。
アレタと同じ青い瞳が無機質なを帯びていた。実験を見つめる科學者のような。
「えと、なにか?」
「うん、いいや、すまない。何でもないよ。まあ、そんなわけがない。なに、気にしないでくれ。そう、深度Ⅲはこれまで理論的には存在するであろうという代だったんだ。深度Ⅲに認定されるにはかなり特殊な條件がかるからね」
「はあ、條件。それでその條件とは?」
「彼が先程キミに見せたアレさ。深度Ⅲ、レベル3は科學的に説明のつかない事象、超科學現象を自らの意思でコントロール出來る條件を指す」
「超科學、現象」
突拍子もない言葉だが妙に、心の中の中2を刺激される言葉だ。
味山はその言葉に若干ワクワクしつつも、すぐにその言葉に疑問を持つ。
「ん? えっと、すんません、でもその超科學現象ってもしかして持ってる連中、例えばアシュフィールド以外の指定探索者も當てはまるんじゃないですか?」
先程見たあの力は號級"ストームルーラー"の力をコントロールしたものとソフィは言っていた筈だ。
「ああ、キミの疑問は何よりだ。確かにストームルーラーと並ぶ號級を所持している探索者もいる。だが、あれらはどちらかと言えば、を道として扱っているだけだ」
「道として?」
「例え話をしようか。そうだな…… ピストルだ。ピストルを想像してくれたまえ。今私の手元には巧に作られ弾が込められたピストルがある。これを使うにはどうすればいいと思う?」
大統領が手でジェスチャーを現す。味山の眉間に向けられた太くて長い指先が揺れている。
「えー、と。安全裝置外して引き金を引く?」
「正解だ、ミスター。今この瞬間、私は銃の使い方を理解し、それを正しく道として扱った。これがを普通に扱うということに當てはめてくれ。そして次、深度Ⅲの人間の場合だ」
ぱん、大統領がおどけて味山に指先で銃を放つ真似をする。
話に集中しているため味山はそれを無視した。
「深度Ⅲ、つまりアレタがしていることはまるで違う。私の手には今ピストルはない。しかしだ。私とピストルは繋がっている。手元に銃がなくとも、弾丸を放ち、今目の前にいるキミを撃ち殺すことが出來る。これが深度Ⅲの人間の條件だ」
「えーと、それ凄いインチキというか、めちゃくちゃなことじゃないです?」
「はっはっは! ミスター、その通りだ。キミのいう通りインチキさ。原理も理屈も何一つ分からない。分かるのは事実だけだ。アレタ・アシュフィールドはを道としてではなく、己のに備わる機能として扱うことが出來る。これは今までの人間の概念を明らかに超えている事態だ」
大統領が笑う。愉快そうにアレタを眺めた。
「ミスター、いいかい。探索者深度Ⅲの存在とはね、我々にとっての福音だ。停滯しつつある人類という種が次のステップに進めるという証になるやもしれない世紀の大発見なのだよ。アレタ、今我々の目の前にいる彼こそ、まさに暗闇の未來をさまよう我々の道を照らす明るい星。52番目の星とはよく言ったものだ」
厚い板を開き腕を振るって大統領が力説する。2人の會話を見つめるアレタへ向けるその目には熱がこもっていた。
「これは偉業だ。合衆國の誇る星が他の國、他の人種を押し除けていち早く深度Ⅲに至った。まさに神の思し召し、かくあれかしと言わんばかりにね。ミスター。キミは誇るべきだ。自らのチームにいるリーダーがした奇跡そのものを!!」
不思議な聲だ。
味山は目の前の歴代で最も若い大統領の聲を聞いてそうじた。
不思議とその聲を聞いていると、信じたくなる。この大統領が話す容を飛びこし、その人が絶対的に正しい存在のようなーー
TIPS€ 狀態異常、"魅了 星條旗のカリスマ"を確認。対抗手段…… 神値対抗クリア。ノーリスクで狀態異常を回復
突如響いたTIPS。は? なに、カリスマ?
聞き慣れないヒントの容に意識を割くといつのまにか大統領にじていた奇妙な覚は消え失せていた。
「……どうかしたかい? ミスター」
「あ、いえ、お気になさらず。えっと、はい。だいたいわかりました。ご説明ありがとうございます」
味山が素直に頭を下げる。
大統領がまたなんのも映していないような瞳で味山を見つめた。
「……なるほど、あながちーー」
「なにか?」
大統領の小さなつぶやきに味山が反応する。
「いいやなにもないさ。さてミスター、ここまでの話でキミならば理解はいったろう? 彼は元々合衆國にとっての象徴的存在だった。しかし深度Ⅲに至った今、その存在は世界、いや、人類という種にとっても重大なものとなったのだ」
「ちょっと、大統領。大げさよ。貴方の悪い癖だわ」
「おや、そうかい? ははは、職業病と思って大目に見てくれ。ミスター。今、アレタ・アシュフィールドはとてもデリケートな狀況なんだ。深度Ⅲという人類にとっての未來を先駆けて歩んでいる」
「えっと、つまり?」
「合衆國、世界は彼をもっと知る必要があるという事さ。このことは彼たっての意思だ。探索者としての活を休止してでも、自についての研究、調査を優先したいとね」
味山はその言葉をけて、アレタを見る。
視線に気付いたアレタが一度目を逸らし、それからふわりと笑った。
「大統領の表現は大げさだけど、だいたいはそんなじよ。私は自分に起きたことがなんなのかを知りたい。そしてこれが世界の役に立つことなら解明したいの」
アレタの言葉に大統領が満足そうに頷く。視界の端でその様子をソフィが冷たい目で見つめていたのに気付いた。
「ミスター、キミの気持ちはよく分かる。だがこれは彼自の希でもある。世界を照らす星であろうとするその獻を、どうか敬意を持って認めてあげてくれないだろうか?」
大統領が子を諭すような口調で味山に話しかける。
どうやらこの男は俺がその調査や研究とやらに反対するだろうと考えているらしい。味山は今までの話を反芻し、アレタに問いかけた。
「アシュフィールド、自分で決めたんだよな」
大統領を無視し、直接屆けた問いにアレタはいつもの笑みで即答した。
「ええ、もちろん。あたしがそうしたいの。あたしのこの力がみんなの役に立つのならそれに協力することは當然よ。生まれた時から変わらない。軍人になったのも、"嵐"を墮としたのも同じ理由。あたしは國と世界、そして全ての人々の為に事を為す」
ハリウッド映畫の主役のようなセリフだ。真顔で告げるアレタの顔に含むものはない。
ああ、コイツはこういう人間だ。味山は自分とは価値観も生きる理由もまるで違う存在を眺めでぼんやりとそうじた。
利他的なフリをして重度の利己主義者である味山にとってアレタ・アシュフィールドの言葉には同意できる點は何一つない。
「了解、アシュフィールド。自分で決めたんたら特に言うことはないや」
だが味山はアレタの選択に口を挾むことはしなかった。
異なる価値観、異なる意見、自分には理解出來ないものでもそれが仲間の自由意思だとするなら、味山にとってそれは尊重すべきことだ。
大統領がその様子を眺めて口笛を吹く。ソフィだけが味山の言葉を聞いて目を背けていた。
「おっと、これは予想外だな。ミスター、キミはもっと反対するものだと思っていたよ。勝手に休業を決めるな、とか、國の言いなりになるのかとかね」
「安心してください、大統領。アレタは俺の仲間で仰ぐべきボスですがその前に1人の人間です。人した1人の人間が決めたことに口出す野暮なことはしませんよ」
「ふふ、ほら、ね。大統領。だから言ったでしょ? タダヒトは反対しないって」
アレタが不敵な笑みを浮かべて味山に近づく。そのまま味山にしなだれかかるように肩に手を置き、大統領を見つめた。
「彼はあたしの選んだあたしの補佐探索者だもの。大統領の心配は杞憂だったみたいね」
「……ああ、その通りだね。それはそうとアレタ、彼に、その近すぎないかい?」
大統領がわずかに言葉を詰まらせた。あれ、なんか睨まらている? 味山は悠然とし続けていた目の前の権力者の態度に僅かな変化が生まれたことに気づく。
「あら、そんなことないわ。仲間だもの。探索の時とかは寢袋並べて寢ることだってあるんだから、この程度のスキンシップ、今更なにも思わないわ」
貴が思わなくてもこちらは思うんですけど。肩や首をさする白い手指の覚に味山の背筋に寒気が昇る。
「さ、大統領。説明してくれてありがとう。會見まであともうししか時間がないわ。準備を進めましょう。お互いにね」
「……星に袖にされるのは殘念だが、確かにその通りだ。私はこれで失禮させてもらうよ。また會見の時に會おう、アレフチームの諸君」
大統領が立ち上がり、キラリと輝く白い歯を見せつつ部屋から出ていく。屈強なボディガードに囲まれながら。
ばたり。ドアが閉まった。
嵐のように襲來した人は、部屋にってきたときと同じように急に去った。
「はあ、疲れた…… 悪い人ではないんだけれど、しお節介がすぎるわね、困ったものだわ」
味山の首や顔をでながら、アレタが大きくため息をつく。
すべすべした覚をひっそりと楽しみつつ味山は努めて不機嫌な聲をだした。
「あのー、なんかいろいろ突っ込みたいことはあるんだけどよ、まずあのおっさん、本?」
「ふふ、ええ殘念ながら本よ。歴代で最も若く最も支持率の高い合衆國の大統領だわ。ちょっといたずら好きなのがたまに傷かしら」
「まじか。やべえ有名人と話しちまったな。アイドルときて、次は大統領か」
味山はしみじみとつぶやく。
「くく、あの男はアレタに偉くご執心だからね。味山のことを見ておきたかったんじゃないのか?」
赤い瞳が味山を見る。
「もうソフィたら。彼はそんなんじゃないわ。公務としてあたしを気にかけてくれてるだけよ」
「どうだかねえ。ワタシには言葉の節々にアジヤマに対する意識が見え隠れしてた気がするけどね」
ソフィが壁によりかかったままアレタに軽口をたたく。
「もう、ソフィの意地悪。まだ拗ねてるの?」
「ふん、どうだか。だがあまり機嫌はよくないな。こんなにも重要なことをチームの人間と先に話すのではなく、教や合衆國と相談して決めるだなんて。ワタシは殘念ながらアジヤマほど達観しているわけじゃないからね」
つんっとソフィが顔をそむける。なんとなく話が読めてきた。つまりこの休業は急に決まったことなのだ。副リーダーであるソフィへの相談はなかったらしい。
それについてあまり納得していないソフィ、特にあまり考えていないグレン、といったところか。味山は部屋にったときの微妙な空気の理由を推測した。
「そふぃー、ごめんってば。ね、お願い、貴に冷たくされたらあたし、悲しいわ」
味山から離れアレタがソフィに抱き著く。長の差からして年の離れた姉妹が抱擁しているような。
「む、むう、くっつくな、アレタ。そんなのでは誤魔化されないぞ」
といいつつ、ソフィの表は明らかに緩んでいる。あいつほんと、アシュフィールド限定にチョロいな。
「ふふ、ソフィってば。素直じゃないんだから」
なでり、なでりとアレタがソフィをで回す。
白人の人とが絡み合う姿は良い。
何か神的なものすらじる。ゴチです、味山が手を合わせて拝み始めかけたそのとき、
「む、なに余裕ぶってるんだ、アレタ。キミだってアジヤマと離れたくない為に、大統領に無茶を言っていたじゃないか」
「へ?! そ、ソフィ、貴何を」
「ふふん、なーにが、人類のために、だ。アジヤマの前だからかっこつけて。ーーバベル島から離れるつもりはない、深度Ⅲの調査に協力する條件として、バベル島に調査機関を作れ、と大統領に直接突き付けたすぐ後によく言えたものだね。さすがは我らがリーダー、渉が上手いものだ」
「な、なによ! ち、違うからね。別にタダヒトを合衆國に連れて行っても良かったんだから。でも、それはさすがに橫暴だし…… じゃない! 違うわ! そう、例え活をお休みしててもアタシは指定探索者なの。アタシの力が必要になったとき、本國にいると間に合わないことがあったりするでしょ」
「くく、アレタ、いつになく早口…… ぐえ、く、くるし、アレタ、苦しい」
アレタがソフィをぎゅっと抱きしめ黙らせる。
アレタが仏頂面を味山に向けた。
「タダヒト、何か聞こえたかしら?」
「いえ、特に」
アレタの耳は赤く染まっていた。対照的にソフィの白い顔はさらに白く、生気を失いかけていた。
読んで頂きありがとうございます!
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