《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》57話 バベル・イン・アクターⅥ

會場のインタビュー席へ黒服が一気に集まり、舞臺裝置を変えていく。

黒服が大統領に何かを渡した。黒りしている筒、持ち手……

「銃……?」

ガラガラと別の黒服が舞臺袖から運んできたのはワゴン。

煌びやかな刺繍の施された布が上から被されていた。

ざわざわと湧き立つ會場。味山はものすごい勢いで居心地が悪くなる。

強すぎるスポットライトのせいで観客席の連中の顔は見えない。だが、あちらからは顔が丸見えなのだろう。

薄暗い會場に大きなBGMが鳴り響く。映畫で耳にしたことがある音楽。

アメリカ合衆國、國歌。

スポットライトが會場の後ろ、いつのまにか出來ていたスピーチ臺に、歌手が立つ。

「今日のために駆けつけて頂きました我が國が誇る歌姫!! ステーラー・ハドソンにどうか大きな拍手を!!」

大統領の言葉に會場のボルテージが湧き上がる。

味山ですら知っている、有名な歌手、全米のチャートで何度も一位にっているだ。

荘厳な前奏が響き、會場が1つになっていく。

味山を除いて。

「レディース!アンドジェントルメン!! 世界中よりお集まり頂きました皆様にご用意した催し! アレタ・アシュフィールドの勇気ある獻は、ここにいるアレフチームのメンバー! 國籍、人種を超えた人の絆による信頼が大きく影響しています! 彼のスピーチの通りに!!」

大きな聲。

いつだって、世界をかしてきたのはこんな大きな聲だ。

「大統領……! おふざけが過ぎるわ! 何をするつも……り…… っ」

スポットライトを浴びてぶ大統領にアレタが詰め寄る。しかし、聲を荒げた途端に片手で頭を抑え、ふらりとよろめいた。

「アシューー」

「アレタ!!」

味山が席を立ち1歩踏み出す、それより前にソフィが駆け出す。

「おっと、危ない。お怪我はないかな? 我らが星。キミ、星を控え室に、お疲れのようだ」

しかしアレフチームの誰より先に、アレタを支えたのは大統領だった。

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よろけるアレタをその分厚い板で抱きしめるようにけ止め、即座に近くにいた黒服へとエスコートする。

ワァアア!! 大統領の紳士的な行に會場は更に盛り上がる。

順調に舞臺は整って來た。

「皆さま! 我らが52番目の星はしお疲れのようです! しかしご安心を! 彼がいなくても彼の誇る仲間達がここに!!」

スムーズに進む大統領の言葉。壇上はもはや彼の國とり果てた。

壇上を見上げる観衆はみな、期待している。大統領が用意しているショウの始まりを。

味山はその一歩を止めた。

ソフィが鋭い目を味山に向け、そして黒服に支えられているアレタへと駆け出す。

「すまない、アジヤマ。ワタシはアレタと一緒にいる」

駆け出す前に告げられた一言。

歓聲がうるさい。しかしその聲はかき消されず、味山に屆く。

味山は返事が出來ない。

あ、う、と呟き、足を前に進ませることが出來なかった。會場が見える、大統領の言葉により1つになりつつある大衆のプレッシャーに息が詰まる。

「どけ! アレタにるな!」

黒服を押し除け、ソフィがアレタへと肩を貸す。長差があるためどこか歪なその姿。

それを一瞥した大統領の目に、あってはならない。それは一瞬で消えて、おそらく同じ壇上に立つ味山にしかわからないもの。

ソフィへとむけられた侮蔑のを味山は見つけた。

「ああ…… ご覧ください! 星に肩を貸す史の姿を! しい仲間の姿! 彼たちはきっとバベルの大の中でも同じく! 肩を貸し會い助け合って偉大な功績を殘して來たのでしょう! 皆様、どうか大きな拍手を!!」

響き渡る拍手、一斉に鳴り響くそれは真夜中に突然降り出す雨みたいに不安を掻き立てる。

「ニホン。極東の國。長い歴史において未だ征服されたことのない強く、小さくそして強大な國家。その國には、サムライと呼ばれる武裝集団が存在していました。時の流れに従いその階級は消えど、ニホン人のに殘るサムライの力。本日は皆さまに52番目の星が認めたサムライの技をご披させていただきます!!」

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大統領が立ち竦む味山へ手を差しばす。この男が何を言っているかがわからない。

「私の手にあるこのおもちゃをご覧下さい!! これはものづくり大國、ニホンの誇るハンドロケット呼ばれる暴徒鎮圧用の裝備です! この中に蔵されたカラーボール! 本日のショウはこれと刀を使った催しとなります!」

黒服がワゴンにかけられた布をばさりと取り除く。

鹿の角であつらえた刀置き。

もちろんそこに飾られるはニホン人なら誰しもが知る武、かつては権威の象徴、そして今は品として扱われるモノ。

ニホン刀。

黒い鞘に靜かに納められたモノが衆目に曬される。

「ガン&サムライソード」

大統領の言葉が降る。端的に表された趣味の悪い催しの名前が告げられた。

「本日のショウはガン&サムライソード、銃と刀、どちらがより優れた人類の武なのか。皆様の目にて決めていただく時がやってまいりました!!」

大統領は止まらない。荘厳な BGMの中、歓聲の渦の中でぶ。

「ショウの容は単純!! ガンによって放たれるカラーボール!! これを刀で斬り裂く!! それだけです! おおっと、皆さん! もちろんこんな真似が出來るのはニホン人だけ、くれぐれも皆様はなさらぬようにここでしっかり告げておきます!!」

會場が笑いに満ちる。

楽しんでいる、愉しんでいる。

誰もが、大統領のショウに乗ろうとしていた。

刀で、ガンを?

馬鹿か、こいつ?

味山はあまりにも陳腐で下品なその容に口を開いた。

しかし、そうじている人間はないらしい。會場はどんどん盛り上がっていく。

いっそう大きくなるBGM、その中で大統領が立ち竦む味山に近づいてきた。

大統領が會場に向けて手を挙げて、下げる。

そのジェスチャーだけで、歓聲が止み、靜寂が訪れた。

一瞬の間。

すうっと、會場の奧。呼ばれていた世界最高の歌姫が息を吸った音すら聞こえる、それは大統領がもたらした靜寂。

星條旗の歌が、その靜寂に広がる。

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バベルの力が歌を共通の言葉に変えていく。

こつ、コツ。

大統領が近づく。鼻につくムスクの香り、味山と拳一つ分の間隔で大統領が隣に並んだ。

♪ああ、見えるだろうか。夜明けの薄明かりの中、我々は誇りをに轟き、ぶ♪

「目障りなんだよ、ニホン人」

歌を背景に味山へ伝わる言葉。

それは冷たい、どこまでも冷たく、靜かで、それでいて大きな聲だった。

味山にしか聞こえない聲量。世界最大の権威を持つ男が、凡人の隣に立ち、凡人よりも頭2つ高い位置から言葉を向けた。

「あの星は、合衆國のものだ。決してキミの仲間などではない。我々の、私の星なのだよ」

♪ 試練の中、城壁の上に闇を照らし月よりも強く翻る星々を、私は目にした♪

「……は」

息を、飲む。

な敵意、笑顔のままに自分に降りかかる敵意に味山はきを止めた。

「正直、あの控え室にいた時からハラワタが煮えくり返っていたんだ。星は本來あのような顔を個人に向けていい存在ではない。それもキミ、お前のようなちっぽけな人間ごときがけていいものじゃあないんだ」

♪砲弾が赤くを放ち夜空を彩る、我等の旗は夜を超えて在り続けた♪

「みろ、この大衆を。世界をかすメンバーがここに集っている。政治家、セレブ、指導者、指定探索者、いずれも大きな力を持つ、世界から選ばれた本だけがここに集まっている」

歌が聞こえる。合衆國。あらとあらゆる多様れ、拡がる國の歌が。

「キミだけだ。この場に存在すらしてはいけない、路傍の石コロ。何にも選ばれていない、運だけで生きていることを許されているような慘めな存在はね」

♪ああ、我らの星の旗!!輝き在り続ける星の旗はまだたなびいているか?♪

「これはね、ショウなんだ。世界が人々がんでいるショウ。思い上がった凡人に、現実を思い知らせると同時に、道化を笑うためのショウだ」

自由と正義を謳う國。その聡明で若い指導者が笑顔のまま、凡人へ言葉を向ける。

「おおっと、凡人なりに考えろ。そう、深呼吸してな。キミはこれをけるしかない。ここで私を毆っても、このショウを降りても、キミにもう道はない。意味がわかるだろう? あれだけ星が絶賛したんだ、世界が星が殘したキミ達、いやお前に注目している」

♪自由の地 勇者の故郷の上に!♪

「お前がショウを降りれば、誰に失は向けられると思う? お前なんかじゃない、お前のようなちっぽけな存在には誰も関心を寄せない。悪意すらね」

♪濃い霧の向こう側、かすかに見える、狡猾に息をひそめる敵の軍勢が♪

「星だよ、世界は星に失する。ただのひいき、ただの願。とんだ腰抜け、もしくは暴者を星は自分達に殘したのか、とね」

♪切り立つ崖の向こうで、気まぐれに吹く風に見え隠れする♪

「ああ、ニホン風にいうのなら、そうだね、キミは星に生恥をかかせるのかい? ヒュー、まあ、それもいいかもしれない。プランを変えるだけだ」

♪朝日をけ栄に満ちて輝きはためく、星の旗よ、永遠に!♪

「そして、星への失は容易に、星への恐怖、敵意に変わるんだ」

♪自由の地 勇者の故郷の上に!♪

「何故、先程の星の異能がこんなにも簡単に皆にれられたかわかるか? それはリスペクトだ。彼は世界に尊敬されている、だからあのような特別ですら、好意的にれられる。それがリスペクトというものの力だ」

♪戦爭による破壊と混を、自慢げに斷言した奴等は何処へ♪

「それが消えればどうなる? ああ、キミの予想通り。いつものアレさ。人は理解不能の強さを恐れ、排斥する。夜空に輝く一等星は一気に、不吉を表す兇星へと墮ちる。アレタ・アシュフィールドは世界から除かれるだろう」

♪家も國もこれ以上我々を見捨てはしない♪

「こう考えているのか? お前はそれでいいのか? と。いいんだよ、あの兇星でも星は、星だ。彼は例え大衆に恐れられようとも合衆國の進歩の礎となる。ああ、そしてこれは私の経験談だが、は弱っているときに優しくしてくれる相手に不思議なを抱きがちなものだ。それはそれで、私にも都合が良い」

♪家も國もこれ以上我々を見捨てはしない。彼等の邪悪な足跡は彼等自らので洗い流された♪

「迷うことはない。ショウに出ろ。カタナを無様に振るってみんなを笑わせるんだ。大丈夫、後のことは私がなんとかする。なくとも、星に恥はかかせない」

♪敗走の恐怖と死の闇の前ではどんなめも傭兵や奴隷達の救いにはならず♪

「選択はキミに任せる、ニホン人。ああ、なんというんだろうか、これも一種のハラキリショーだ。ニホン人は好きなんだろ? 大衆の前でハラを、斬るのが。野蠻な黃人種らしいよ」

♪勝利の歓喜の中でのみ我らの星の旗は翻る♪

「いい歌だ。さて、では始めようとしようか」

♪自由の地 勇者の故郷の上に!♪

振り返り、大統領が大きな拍手をする。

「素晴らしい歌でした!! さて、それでは準備も整ったようですし、始めるとしましょう! カタナを持つのはもちろん、星のフトコロガタナ、タダヒト・アジヤマ! そして道化やくたるガンマンは…… そうですね! どうでしょうか! 僭越ながら、この私に皆さま! お任せしては頂けませんか!!」

「「いいぞおおお! 大統領!!」」

「「最高だ! 見せてくれ!」」

「「USA!! USA!! USA!」」

轟音。歓聲。一瞬の沈黙の後に訪れたのは質量を伴った大衆の聲。

個人であれば國を、人の運命を預かる責務にある世界のVIP達も、今はもはや大衆とり下がる。

歓聲の中、大統領がポケットのハンカチをり、ガンを手に取る。黒りしたそれは人の力の象徴。

合衆國を、世界最強に仕立てた人の武

心臓が嫌な音を立てる。

息が荒い。

怒り、悲しみ、恥、張。

々なことが一気に起こりすぎて味山は何も分からなくなっていた。

間違いなく、大統領は自分の敵だ。

敵は怖い。

敵は恐怖だ。

恐怖は殺さなければならない。

いつもそうしてきた。

だが、今回は?

殺せない。大統領は人だ。化けじゃない。人は殺したらダメだ。

あれ、どうすりゃいいんだ。怖いのに、こんな怖いのに、どうしようもねえや。

味山は初めて向き合う恐怖。

人の、いや、力ある人、そして大衆の持つ恐怖に呑まれていた。

「さあ、タダヒト! ここに集まったみんなに東洋の神、サムライスピリットを見せてくれ!」

「いいぞー!」

「はやくみせて!」

「「サームライ! サームライ! サームライ!」」

囃し立てられた大衆に恐らく悪気はない。彼らは単純に催しを楽しみに來ているのだ。

酔い。

人の理、人の品、人の善

人が後天的に手にれた社會を酔いが薄めていく。

バベルの大からじわり、じわりと染み出した酔いが人々を駆り立てる。

より面白いモノを、より愉快に、より気持ちよく。

人としての単純なが浮き彫りにされていく。

「早く見せてくれよ!」

「怖がってんのか?!」

味山は息を吐いた。

冷靜に考えてもみろ、大丈夫。死ぬわけじゃねえ。

あの大統領は俺を笑い者にしたいだけ、何も殺そうとしてるわけじゃない。そうだ、大人だ。大人になれ、味山只人。

権力に逆らってもいいことなんてない。めんどくさいことになるだけだ。

「タダ……」

後ろ、様子を見守っていたグレンが珍しくしょげた聲を出した。

らしくねえなこいつまで。

「……わり、グレン。行ってくるわ」

味山が一歩を踏み出す。

壇上の中央、ワゴンに飾られたニホン刀の元へ歩き出した。

歓聲が沸く。

味山が進むたびに、壇上の下から盛り上がる聲が。

皆、楽しみなのだ。これから起こる余興が、結果のわかり切った催しが。

「……ふ。さあ! 皆様! 勇敢なるサムライが今、サムライソードの元へたどり著きました! ああ! この興、皆さまに伝わるでしょうか! この迫力! 果たして私はこのショウが終わった後、無事に戻ってこれるのでしょうか!?」

大統領の芝居がかった言葉に、會場がまた沸いた。

すっと、大統領が近付き、マイクを外し、味山にだけ聞こえるように耳打つ。

「賢いじゃないか、ニホン人、悪いようにはしない。なあに、きちんとキミが聞き分け良く合衆國に従ってくれたことは星にも伝えておく。彼がここにいないのが助かったよ。キミのことを異常なまでに気にっているからな」

「……アシュフィールドが気にってんのは演技して大きく見せてる俺だよ。アイツは俺がこんなダサイ奴って知らないだけだ」

「ンン、それは良いことを聞いた。なら彼にゆっくり時間をかけてキミが賢い選択が出來る人間だということ教えておこう。彼と私の時間はこれからたくさんあるのだからね」

笑い。

勝利を確信し、自信に満ちた男の顔だ。味山は目を伏せた。

別にこんなこと珍しいことじゃない。

たまたま、巡り合わせが悪かった。

権力と実力とカリスマを持った人間にたまたま敵視されてしまっただけ。

よくあることだ。生きていればこんなことよくある。

今までも、そうだったじゃないか。

逆らうだけ無駄。やり過ごせばいい。

死にはしない。死にはしないのだから。

「さあ! それでは皆さまお待たせいたしました! ガンマン対サムライ! 今、因縁の対決に決著がーー」

ハンドロケットを構え、壇上で大統領が手を広げショウの始まりを告げる。

その時だった。

「あ、あのう、大統領…… ほんのしよろしいでしょうか?」

不思議と、その聲は歓聲や笑い聲を押し除け、良く通った。

大統領と比べればそれは、小さな聲。

だが、しかしその小さな聲はショウの始まりに間に合った。

ニホン國、首相。

あの卑屈な小男の聲だった。

「ン? ……これは、これは! 多賀首相!! 合衆國の友! いかが致しましたでしょうか? 皆さん! 恐ですが、しばし靜粛に! ニホンの首相のお言葉です」

驚き、次に苛立ち、それらを一瞬で消し、笑顔をり付けた大統領が、その聲に応える。

會場にしばし、笑いが響く。しかし大統領の言葉に従うようにすぐにそれは消えた。

「あ、あー…… いえ、そ、そのですね、大統領、とても興味深い催しを開いて頂き大変私、心しております。我が國の工蕓品や、新商品の宣伝を兼ねている、ほ、ほんとにまさに両國の友好を表している催しかと」

びるように小男が席を立ち、マイクで話す。小さな額に浮いた脂汗を拭こうとしたのだろう。ポケットからハンカチを取り出そうとそれを落とす。

ぷっ。それを見た他の観客が吹き出す音が會場に広がる。

ニホンのアメリカへのいつものおべっか。り寄り。見ている方が哀れな気持ちになるその様子に、笑いを堪える者。目を背ける者、あからさまな侮蔑の視線を向ける者、さまざまな反応。

しかし、次の瞬間、多賀の言葉に誰もが言葉を失った。

「と、いうわけで、ですね、えー、大変、恐、僭越ながら、ガンマン役を大統領がされるのであれば、えー、主役のカタナ、これは私がさせて頂くわけにはいかないでしょうか?」

「……AH?」

沈黙。

そして、

笑い聲、わらいごえ、嗤い聲。

會場が割れんばかりの嗤い聲が響く。

味山にはその聲がどこかで聞いたことのある不快なモノに思えた。

笑っていないモノは、壇上の味山とグレン、そして首相の斜め背後に座るあの背の高い書だけ。

首相の席、ニホンの來賓席に座っているニホン人のVIPですら皆、苦笑いどころか、聲を押し殺して笑う者、目を曬すモノすらいた。

首相の言葉に一番大きく嗤っていた男、大統領が真っ先に平靜を取り戻す。

「はあ、……シンジ! なんだ、キミ、ジョークが言えるようになってるじゃないか! ゴルフの時もそうしてくれよお! ああ、良いさ、もちろん、私とシンジ、いやアメリカとニホンの仲じゃないか! ほら! 壇上に上がっておくれ!」

「ありがとうございます。大統領」

鷹揚に頷く大統領に、90°腰を折って首相が恭しく禮をする。

オジギだ! オジギ!

會場が首相の姿を見て、また沸いた。

「首相っ」

「上村くん、待機だ」

首相が席を立つ、後に続こうとした書を靜かに嗜め、一人壇上へと向かう。

拍手ではない。

下品な指笛によって送られる。

し予定とは違うが、ニホン人。お前たちは私をなかなか笑わせてくれる。だが、嫌いじゃないよ、お前たちはいつも、我々に従順だからね」

壇上に上がってくる首相を見下ろしながら、大統領が再び味山にしか聞こえない聲量で話しかける。

こいつ……。

味山が目を見開き、大統領を見る。

味山のすぐ手元には、鞘に納められたしい兇があって。

啖いモノ、探索の時に沸き起こるそれが単純な解決策を提示してくる。

殺せば、全てがーー

ワァああああああああ!!

歓聲。

味山がびくりときを止めた。

「味山くん、熱くなってはダメだよ」

その中でもその言葉ははっきりと屆いた。

首相がいつのまにか壇上に登り、味山のすぐ後ろに立っていた。

歓聲の中、また首相も味山にしか聞こえないような聲量で聲をかけた。

「すまなかったね、味山くん。若いキミに全てを背負わせようとしてしまった。私は臆病モノだよ。今の今まで、ここに出てこれなかったんだから」

味山よりも低い長。は薄く、髪のもあまりない。

的特徴かなアメリカ大統領と比べればその威容は頼りないにもほどがある。

だが、それでも首相はこの壇上に登っていた。

「い。いや、そ、総理、あんた、なんで」

思わず敬語も忘れて味山が呆気に取られる。

「ふう…… 私はね、私が馬鹿にされるのはほんとにどうでもいいんだ。國益のためなら息子ほどの歳の権力者のゴルフバックを運んだり、カートの運転手になるのは全く構わない。相手がこちらを心底舐めていてもね」

沸く、沸く。

會場が、人が、世界が、大統領のショウに現れた生贄に沸く。

「でもね、これはダメだよ。我が國の若者、命をかけてダンジョンという神に挑み、國を富ませてくれる若者を、スケープゴートには出來ない。これを見過ごせば、國はいつか滅びる。若者をいのいちに差し出す國など存在してはならない」

「でも、それじゃ、首相が」

「なに、安心しなさい。こういうのは慣れている。これは年寄りの仕事だよ」

にこり。

なんの毒もなく、小男が笑う。

味山は、一歩後ずさる。

言葉が出なかった。

「會場にお集まりの皆さま、ニホン國首相の多賀 慎二です。いやー、こ、このように、お、大勢に見つめられる機會はあまりなくて、張しております。と、と、というのも、我が國ではこう、記者會見など開いても誰も私のこと見てくれませんもので」

首相が、スーツ臓マイクをオンに変えて會場に向けて話す。

的な言葉に、皆が喜ぶ。

ガンバレー、首相!

オールドサムラーイ!

ヤジと変わらぬ聲を浴びても首相は表を変えない。ヘラヘラと笑うだけだ。

「シンジ、ほんとにいいんだね? 怪我はないだろうけど、キミの國の開発したこのおもちゃは良く出來ている。ショックで心臓を止めないでおくれよ?」

「ははは、もしそうなれば大統領に心臓マッサージをしてもらえれば栄です」

どっ!

會場が2人の軽快な掛け合いに沸く。

味山にはなにも面白くなかった。

「それでは始めようか。ルールは先程通り、サムライソードで、ハンドロケットのボールを止めてくれ。なに、サムライなら簡単だろう?」

「役者不足でしょうが、一杯」

味山の前、首相が恭しく、その伝統工蕓品を鞘から持ち上げる。

流れるように、首相が鞘からその隠された刀を抜いた。

會場から嘆の聲が。

炎と鋼、そして人が作り出したしさに皆が息を飲む。

見ているだけで背筋が冷たくなる。刀や品について素人の味山でも、それが本だと分かった。

こつ、こつ、こつ。

「ふふふーん、ふふふふふーん」

大統領がゆっくりと離れる。耳障りな鼻歌を奏で、ハンドロケットをゆらゆらと揺らしながら。

首相が、鞘をゆっくりと立てかける。

正中線に刀を構え、両手で握り込む。

中段の構え。

小男の頭の遙か上に刀の先が有る。

ヒュー! サムラーイ!

會場から沸く聲に影響されず、生贄の道化がそれでも刀を構えた。

ショウの主役。この世界最大、最強の國家の指導者が愉快げに振り返り、ハンドロケットを向けた。

「距離は15メートル。サムライならこれで充分かな」

「はは、お手らかに」

「安心しなよ、シンジ。キミの國の製品は間違いない。24時間働き続けることが趣味の勤勉な國民が作ったモノなんだから。おっと、寢不足で設計ミスはないだろうね」

大統領のジョークに、會場が嗤いの渦を巻き起こす。

ニホンの席からは咳払いが聞こえてくるだけ。

「じゃあ、始めようか。狙うのは顔面だ。ハンドロケットから放たれるカラーボールを見事、サムライが斬り落とせば、キミの勝ち。出來なければキミの負けさ」

「は、は、はい。未モノながらをお借りします」

二人が向き合う。

照明が忙しなく移り変わる。

青、赤、緑、黃

そして暗闇。

向き合う首相と大統領だけが、スポットライトに照らされた。

「それでは、皆さま、カウントダウンをお願いします」

大統領が煽る。ハンドロケット、手のひらに収まるそれの銃口を向けて。

スリイイイイイ!! 3

味山は首相の手がし、震えていることに気付いた。構えた刀が、ふるふると小刻みに。

トゥウウウウウウウ!! 2

それでも味山は見ているだけだった。

ワアアアン!! 1

大衆の興に満ちた聲。

誰しもが誰かが道化になるのをんでいる。

人の多くは、人を嗤う事が好きだ。

誰しもが石を投げた嗤ってもいい人間を待ちんでいる。

安心したいのだ。自分以外の誰かが石を投げられる姿をみて、安堵したいのだ。

自分は石を投げられる存在ではないと、思い込みたいのだ。

それだけで、ヒトはヒトに対してここまで殘酷になれる。

それが人。ヒト。人間。

この星の霊長にして、頂點捕食者の間違えようのない本質の1つだ。

から滲み出た酔いが、それを加速力させる。

「ゼロ」

ッパアン!!

風船が破裂したような音。

すぐその後にどたりと、間抜けな音が響いてーー

首相が真後ろに餅をついていた。

「ンッンー、銃は剣よりも強し、ってことかな。シンジ」

シンっ。

會場に渡る沈黙。

むくりと、首相が腰を起こす。餅をべたりとついて、傍らに刀を置いて。

その顔にはハンドロケットから出されたカラーボールが命中していてーー

「ぶふっ」

大統領がフき出した。

それが石投げの合図だった。

hahahaha hahahahaha!!

hehehehehehehehehe!

アハハハハ笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑。

笑笑笑笑笑笑笑笑。

嗤笑嗤。

嗤い。

皆が首相を、その姿を見て嗤った。

ヒノマルが、首相の顔に咲いていた。

赤と白、塗料。

首相の顔に放たれたカラーボールが炸裂。破裂したカラーボールはその仕組みが忠実に作

鼻を中心に赤い丸がべとり。それを囲むように白い塗料がべたりと。

まるで首相の顔にニホンの國旗が塗られたようなーー

「ぶっ、はははははは!! シンジ! いや、いい! 良いよ! ははは! これ最高だね! ニホン人は素晴らしいモノを作るものだ」

「あ、はは。恐です。すごい、べたべただ」

首相が餅をついたまま立ち上がらない。

味山は呆然とその様子を眺めていた。

なんだ、これ。

嗤い。

嗤い。

どいつもこいつも嗤っている。なにがたのしい? 何が面白い?

なにを見せられているんだ。

「さあ、皆さま! ご覧頂けましたでしょうか? ニホンの首相、我らの親なる友人、シンジ・タガがを張って前座をこなしてくれました! これより本番! ショウの主役は老いたサムライから若きサムライへ!」

「な、あ、あのう、大統領。そ、そのこれで終わりなのでは……?」

顔に日の丸塗料をべとりとつけた首相が聲をあげる。

「ん? 私はシンジ、キミの參加を認めたが、タダヒト・アジヤマのショウを止めるとは言っていないよ」

「な…… そんな……」

呆然と呟く首相を目に、大統領が観客へと向き直る。

「さあ、皆さまご覧の通り、このショウは安全、安心、顔面に國心が現れる以外はシンジになにも害はありませんからね!」

嗤い。

あの男が話すたびに誰かが嗤う。

味山はきの鈍い首を一杯かし、観客の席を見る。

瞬くカメラフラッシュ。その向こうに見える様々な人種、人間、ヒト、人。

白人、黒人、黃人種問わず、みんながショウを嗤う。

笑えてないのはニホン人くらいだ。顔を赤くして何かに耐える表。無表で舞臺を見つめる表。顔を背けるモノ。

そして、味山を見つめる表があった。

「さあ、本番です! お待ちかね! あのアレタ・アシュフィールドが最も信頼するニホン人の探索者! あー、なんの功績かは分かりませんが、きっと彼も実力者なのでしょう! 果たして私はこのショウが終わった後、首とが繋がっているのでしょうか!?」

おどけて首をかき切るジェスチャーをする大統領に、拍手まで沸き起こる。

「さあ! サムライタダヒト! 前へ! あー、何というだったかな? チューシングラ…… アコウロウシ、アー、カタキウチ! そう、敵討ちだ! シンジの敵討ちの時間だよ!」

はははははは! いいぞー、サムライハタシアイだ!

「ああ、安心しておくれ! 弾はまだまだある! 驚きの技だよ! どうやってこんな小さな銃にあんな複雑な反応のカラーボールを詰めたんだい? 創意工夫が素晴らしい! さすがは小型化の國だ!」

ちゃき、ちゃき。大統領がハンドロケットをくるくると回す。

飛び道から放たれる小さなカラーボールを15メートルの距離から薄い刀で切り落とす。

出來るわけがない。

このショウの結果は初めから決まっている。

それは誰しもが知っている。この場の支配者は大統領だ。

強者に目をつけられた哀れな弱者の運命はもう、決まっていた。

「さあ、タダヒト! 早く! 始めようじゃないか! みんなに見せておくれ! アレタ・アシュフィールドの誇るキミの実力を」

ああ、なるほど。

味山は理解した。

この男は本當に俺だけを貶めたいのだ。俺が心底気にらなく、ここで完なきまでに貶め、勝利したいのだ。

アレタ・アシュフィールドから、俺を離したい。

そのためだけに、こんなことをしている。

「首相……!」

「おお、上村くん、ダメだよ、君…… 壇上あがったりなんかして」

思わず、と言った様子で観客席から壇上へ登ったのはあの背の高い書だ。

「おお! ご覧ください! しい上下関係を! これがニホンの文化です! 皆さま、どうか惜しみない拍手を!」

波が押し寄せたような拍手。わらいごえとともに。

こつり、こつり。

大統領がマイクを外し、壇上から目を背け、味山たちを見つめる。

ポケットに誂えた星條旗のポケットチーフが、し揺れた。

軽薄な笑みを浮かべて、萬雷の拍手の中、壇上にのみ伝わる聲量で確かにこう言った。

みじめすぎて、笑える。生きてて恥ずかしくないのか?

「っ!!!」

「上村くん、ダメだよ」

書が餅ついたまま立てれない首相を支えながら、大統領に目線を向ける。

その手、観客から見えないように握り込まれた拳には筋が浮かんでいた。

なんだ、これは。

なにを、見せられてるんだ。

握り込まれた拳はしかし、緩やかに解かれる。

顔を伏せた書は、次の瞬間には想笑いを浮かべて、大統領に會釈した。

そこが、味山の限界だった。

殺されなければいい?

死にはしない?

やり過ごせばいい?

違うだろ。

俺は馬鹿か?

なんで、この人たちがあんな奴に笑われてるんだ?

なんだ、この耳障りなくそ雑音は?

なんだ、この狀況は?

何が悪い? 何を間違えた?

決まっている。

俺がなにもしようとしなかったからだ。

この景は違う。

死にはしない。怪に殺されかけているわけではない。

それでも、これは恐怖だ。

死に繋がる、死よりも厄介。

屈辱。

これは、こいつらはーー

味山が殺すべき恐怖だった。

TIPS€ 経験點が足りない。お前の全てを使うことにより"耳の化"を使用出來る。この會場に存在する非戦闘員、および忍んでいる護衛は全て皆殺しに出來るだろう。

「いや」

TIPS€ ルイズ・ヴェーバー、スカイ・ルーン、アナスタシア・ホーレンを除いた指定探索者も、皆殺しに出來るだろう。この3名は恐らく逃してしまうだろう。

「違う」

頭に響くのは

観客席で嗤う大衆の聲。その全てをこの力を使えば消せるらしい。

だが、それは違う。この恐怖の殺し方はそうじゃない。

TIPS€ 違わない。お前はこの人間たちを許すのか? お前のために恥を掻いた同胞をこのままにするのか?

「違う、黙ってろ、化け

ぶつぶつ、獨り言を呟き始めた味山に首相と、書だけが気付いた。

TIPS€ お前はーーーー

"耳"の

怒りに呼ばれ、それがささやく。

暗いに染まる味山はしかし、その手を取ることをよしとしない。

刀、サムライ、銃、ニホン人。

味山は無意識、しかし冷靜にこの場における最適解の手を取る。

探索と同じ。

究極の1、至高の1に至れぬならば、凡百を可能な限り持たねばならない。

なくとも味山は、凡人なりにその準備をしてきていた。

そして、味山はためらわない。

その道、その力、見捨てられ、忘れられた彼らに力を借りることを厭わない。

例えそれを隠すべき匿だと勘付いていながらも。

屈辱には力でしか抗えないと知っていた。

TIPS€ 條件達

TIspき お前はーーーー

Tさき鬼ーーー

TIPS"鬼裂 "黙っていろ。鬼め

耳から伝わるヒントが途切れ、代わりにあの存在の聲が耳に屆いた。烏帽子を被った首切り骸骨だ。

最善手。

「ころしたらダメだ。でも、あれは人間じゃない」

TIPS"鬼裂" わかっているではないか。そう、今お前の目の前に広がるのは人間ではない。

「力ぁ、貸せ」

味山が一歩、進む。

観客を煽っていた大統領がその様子に気付いた。

「ご覧ください、皆さま! 今、タダヒトが一歩前へ。シンジが手放した刀を握りしめようとしています!」

ワアアアアアア!! いいぞー! 見せてみろ!

うるさい。

黙れ。

「あ、味山くん?」

餅ついたままの首相、その傍らに置いてある刀を握る。

「しゅ、首相、まずはお顔をーー」

味山を見上げる首相、その顔を拭こうと書がハンカチを取り出して。

「待って下さい」

それを味山が止める。

「え?」

「総理の顔拭く布は、あなたのハンカチじゃない」

味山の手の中に刀が収まる。

初めて握る本の刀。

職人がその人生を懸けて造られた蕓、恐ろしいほど合理的に命を斷つ道を味山が握る。

「な、何を……」

し、まってて下さい」

書が手にしたハンカチをゆるりと味山がその手に握る。

の刀をたずさえ、首相と書を庇うように立つ。

會場のボルテージは再び、噴き上がる。

それをさらに盛り上げるごとく、大統領がその厚いを膨らませ、會場に向けて聲を発する。

「さあ! 皆さま! 本日のデモンストレーション最後の一番。ガンマンとサムライ、最後の戦いです、果たして、サムライは敵ーー」

それは、大衆を駆り立てる、魔にも近いカリスマのーー

「やかましい」

それは裂くような聲だった。

それは靜かな聲だった。

ヤジは止まらない。

それでも異変に気付いた者はいた。

「あ、は?」

大統領にははっきりと聞こえたようだ。己の聲を遮る聲が。

TIPS"鬼裂" こやつらは人に在らず。己ののままに振る舞う鬼、怪どもよ。人か化けかを決めるのは見目にあらず、にあらず、魂にあらず。その者の振る舞い、如何在るかを決める心にあり。

味山の中、昔在った殘り滓がささやく。耳の力と混じり、夢の住人が現世に聲を屆ける。

「付き合ってやる。大統領」

味山は立つ。

握り慣れていない刀を、切っ先は地面に、だらりと剣先を下に向け、ぶら下げるように刀を持つ。

サムライ! サムライ! ヒノマル見せてくれー!

大衆は湧く。更なるショウの加熱の予に。新たなる生贄の登場に。

異変に気付く者はまだ多からず。

「凡人ごときが。お前が今目の前にしている男が誰なのか、わかっていないのか?」

マイクを通さず、大統領の聲が屆く。

味山は刀を持っていない方の手を腰に當て

「おもちゃの銃ではしゃぐオッサン」

言葉を投げ返した。

「は、ふ、ふふふ、なんだ、お前やはり自分の立場がわかっていないようだな。興醒めだよ。本當の馬鹿の相手はつまらん。自尊心ある存在を貶めるのが楽しいというのに」

大統領は表を崩さず、そして、銃口を逸らさず告げる。

「お前と喋るのは飽きた。いいから來い。嫉妬おじさん」

「ーーなんだと」

「耳も遠いのか?ムスクで隠せるのは加齢臭だけか? バベルの力できちんと翻訳できてるだろ? ほら、早く來いよ。アシュフィールドにこう言えばいい。探索者よりも凄い大統領は俺だと。だから、俺を見てくれってな」

味山が、嗤う。

目の前の強大で、ちっぽけな存在を。

「ーーもういい」

大統領は興味なさそうに、味山から目線を逸らし、観客へと顔を向けた。

「さあ! 始めましょう! 皆さまのむショウを! アレタ・アシュフィールドが選んだ男の実力を! それが本なのかどうか、我らが星の見る目が正しかったのかどうか! 今、ここで分かります! なあに、もし1発目が分からなくてもご安心を、弾は充分にありますからね」

一番の嗤い。大きく。

「それでは。カウントダウンを!!」

そして。始まった。

スリイイイイイイイイイイイイ!!! 3

TIPS"鬼裂 "俺の力はこのためにある。牙なき同胞を、モノどもから守る為に。同胞に明日を笑って生きてもらうために。

「悪いな。最初の出番が、こんな小相手で」

トゥウウウウウウウウウ!!! 2

TIPS"鬼裂" 構わん。獲の大小に差異はあらず。我が怪狩りよ!! 裂け! 鬼裂の狩りを再びこの世に見せつけよ!

ワアアアああああん!!! 1

「ゼロだ、ニホン人!!」

TIPS€ "鬼裂の技"を経験點100を消費し、使用するか?

「ああ」

パァン!

ワアアアあああああああああ!!

ヒュー!!

歓聲、ハンドロケットの出音とともに、皆が歓聲を上げた。

ヒノマルの予

誰しもが、ヒノマルを顔に咲かせた男が2人になったと喜んだ。

嗤う、嗤う。嗤う。

嗤って、それから。

ざわり。

しづつ、すこおしづつ。笑いが消えていく。かすれた火が消えていくように。

1人が気付いた。その男は指定探索者だった。

その生贄の立ち姿に。出されたというのに、顔面が塗料まみれになったはずなのに、微だにしていない。

また1人が気付いた。その男は要人警護についていた叩き上げの軍人だった。

男の顔がやけに綺麗なことに。

1人は知っていた。

味山只人が、このまま終わらぬことを。

そのは上級探索者だった。

そして、しの後、皆が思った。

あれ、と。

「あ、れ……?」

靜かになっていく會場に大統領の間抜けな聲が響いた。

味山は、前を見る。

その顔を汚す塗料はなく。

靜かに、一歩踏み出した。

パシャ。

遅れて、天井に2つのシミ。

誰かが見上げる。

それは赤い塗料と、白い塗料。

大統領から放たれたカラーボールが、真っ二つに割れ、會場の天井に張り付いていた。

「つぎ」

「は…… へ?」

「つぎだ。まだまだ弾はあるんだろ」

會場に響く、大統領以外の聲。

味山の聲だ。

しんとした會場に、その聲が響く。

「……あ、は。ははは! いやあ! 皆様申し訳ございません! タダヒトのプレッシャーに押され、私が外してしまったようです!! もう一度、もう一度! チャンスを! さ、さあ、カウントダウンをお願いいたします!」

なにが起きたか理解していない様子の大統領が、震える聲を一瞬で持ち直し、會場へと向き直る。

反応は悪い。

それでも、ざわざわし始めた大衆はもう一度、そのカリスマの言葉に従った。

す、すりいいいい。3

TIPS"鬼裂" 見せよ、見せつけよ、人は恥によって死ぬ。奴らはお前に、お前の同胞に恥をかぶせ、それを娯楽とした

トゥウウウウウウ! 2

TIPS"鬼裂" それは化けの業なり。人を喰らう卑しい怪ぞ。我らが狩るに値する。

ワアアアン…… 1

「ぜエエエエローー」

パァーー

「遅い」

シン。

発砲音が途中で途切れる。そんな錯覚を全員が共有した。

まるで、何かに斬られたように。

今度こそ、今度こそ、皆が黙った。

パシャ。

分かりやすく、今度はそう斬った。

真っ二つに斬られたカラーボールが味山の足元に。

「は、へ?」

「つぎだ」

びっ。

刀に乗った糊を払う。

再び味山が、片手で刀をぶら下げるように構える。

「お、お前、ま、まさか…… いや、ありえない……」

「つぎだ。早く次の準備をしろ」

「お前、あ、ありえない、ありえないあり得ない! 弾を!?」

TIPS€ 鬼裂の技を使用するか?

「YESだ。早くしろ。つぎを放て」

味山が、また一歩。

「ひーー」

事態を把握しつつある大統領のが引きつった。

「弾はまだ沢山あるんだろう? アラン・ウェイク大統領」

ご覧頂きありがとうございました!

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