《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》65話 合コンに行こう!(決著)

ごくり。

グレンがジョッキのビールを一息で飲み干す。

「っはーー!! よっしゃあ! 2番目は俺っす! 上級探索者、グレン・ウォーカー! 俺に任せとけええい!!」

肩をぐるぐる回しながら、グレンがぶ。

「いけえ! グレン、仇を取ってくれえ!」

「おお、アレフチームのグレンさん、栄です。ね、朝顔」

「おおう、迫力あります。そうですね、夕顔」

「グレン、お前勝算あんのか?」

「ふ、タツキのアプローチは悪くなかったっす。富なアクセサリーへの知識、優れた人間への察、どれもタツキの得意分野が出ていたっす。俺はすでにゲームの本質を理解しましたよ」

「グレンくん?」

「ずばり、これはゲームに挑む人間の一番得意な能力で挑むもの! タツキなら知識と察! しかしこれはタツキが単細胞だったんで雙子ちゃん達には通じなかった。だが、俺は違う!!」

「なあ、味山ぁ。あいつ今、俺のこと単細胞って言ったよな」

「だいぶ酔ってんな。そんなに飲んでたっけ?」

「ふふ、楽しみです、ね、朝顔」

「ふふ、グレンさんもなかなか鋭いです。そうだね、夕顔」

「この勝負! 貰ったっす! 人間には呼吸のタイミングがある。いくら雙子と言えどもそれは必ず違うはずっす! さあ、どっからでもかかってこいっす!」

「じゃあ、はじめますね、グレンさん」

「くすくす、當たるかなあ、グレンさん」

雙子がとてて、と個室から出て行き、ばたりとまた部屋にすぐってくる。

うーん、やはり見てもわからん。味山は橫並びになる雙子を見比べて首を傾げた。

だが、今回はあのグレン・ウォーカーだ。ぶっちゃけ上級探索者になれる人間というのは、どこか的、または覚的な分野において何かしら才能がないとなれない階級だ。

その中でも、グレンの名は有名。あのソフィ・M・クラークが選んだ補佐探索者でもある。

呼吸の違い。味山には見分けるどころかそんなものの存在すら分からない何かを見分けることができてもおかしくない。

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これはやるかもしれない。

味山は、グレンをちらりと見てーー

「え、まじ? え、うそ。あれ? まじ? 呼吸のタイミングが、一緒? まったく? え?」

目を白黒させているグレンがすごい早口で、汗をかいているのが見えた。

ダメそうだ。

「ふふ、グレンさん、すごいです。本當に呼吸のきがわかるんですね」

「良い功夫を積んでいるんですね、さすがは朝日お姉さんのお気にりです」

雙子がグレンへの稱賛を口にする。しかし、その余裕は崩れない。

「「さあ、グレンさん、どっちが朝顔でどっちが夕顔でしょーか?」」

雙子が、笑った。

「………ふっ」

グレンは靜かにを緩めた。覚悟を決めた顔だ。朝日が、ぼうっとし頰を赤らめてその顔を見ていた。

「最後に殘るのは希っす…… 見事だと言っておきましょう! 雙子ちゃんズ! だが、大人には、いや男には意地がある! 負けるとわかっていても戦わなければいけない時がある! 俺はそれをある男から教わった!」

「あの時もダメだった、この前も俺は一歩を踏み出せなかった! でも、もう違う! 俺は今日! 今までの自分を乗り越えるっす!」

「味山ぁ、あいつダンジョン酔いしてねえか?」

「いや多分酔ってるのは自分にだから大丈夫だ」

「そこ! うるさいっす! その汚い目開いてよく見とけっす! タダ! タツキ!」

「右が朝顔ちゃんで、左が夕顔ちゃんだあああああ!!」

「「その拠は?」」

「俺の勘だああああああああっす!!」

「「ぶっぶー♪♪」」

「やっぱりねえええええええ!!」

これで2敗。あっという間に特攻野郎達は追い詰められていた。

「顔をあげてください、グレンさん。とってもかっこよかったですよ」

「あ、朝日ちゃーー」

「うふ、私をソフィさんにどういう風に紹介してくれるのか、とっーてもたのしみです。お願いゴトも期待していてくださいね!」

「ひえ」

「タダぁぁ……」

「わかった、わかってるからそんな顔でこっちを見るな」

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「ふふ、これであと、1人ですね。ね、朝顔」

「ふふ、あっと、ひっとり。あっと、ひっとりですです。夕顔」

くひひ、と雙子がいこどもがはしゃぐようににかーと笑う。

それを優しく見守る朝霧と、朝日の顔は優しい。子供を見守る母にも似ていた。

「ううう、味山ぁ」

「うおお、タダぁ」

「景観臺無しだな、泣くな、泣くな。何も綺麗じゃねえ。おら、男ども。けねえ顔すんなよ。こっからが本番だ」

味山が地面に伏せながら青い顔しつつ、くグレンと鮫島を席に引き摺る。

にやり、笑って雙子を見た。

「おお、好戦的な笑いです。朝顔」

「ですね、私ああいう悪そうな笑い方、好きです、夕顔」

「ふふ、味山さん、程々に頑張ってくださいね。鮫島さんの姪っ子さんやお姉さんとも話してみたいですし」

「頑張れー、味山さん。でも無理しないでくださいねー。グレンさんに、私とソフィさんどっちが好きなのか、オネガイを使って聴いてみたいんでー」

「はっ、ドS人どもめ。朝霧さんと朝日さんも、別のことを心配していた方がいいですよ」

「別のこと?」

「ですか?」

「ええ、別のこと。勝つのは俺です。そこの悪徳探索者と、顔だけイケメンにひどいオネガイをされないようにとね」

「ーーふふ。雨ちゃんがここにいないのが殘念ね」

「すごいドヤ顔でした! テレビで見たのとおんなじ! でもちょっとかっこよかったですよ!」

「あ、味山さぁん……」

「タダヒトさぁん……」

味山がここまで自信があるのは、もちろん"耳"のささやき。

TIPSの存在だ。こと、謎を解く、答えを知るということにおいてここまで反則的なはない。

知らなくてもいいことを勝手に伝えてくるコレは味山にとってとても便利なものとなっていた。

「ふふ、でははじめますよ、味山さん」

「はじめますのです、味山さん」

雙子が再び部屋から出る。また位置を変えて部屋にってくるのだろう。

勝った。

味山はいつものように、自分が知りたいことに耳をすませる。

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ここはダンジョンが近い。なんでも知ってる★5¥$の聲を"耳"が拾うはずだ。

ーー?

俺、今何を考えていた?

白晝夢のように走った妙な思考。

その違和に時間を割く暇はなく、いつもの味山にだけ聞こえるTIPSが屆いた。

TIPS€ 朝顔と夕顔。¥$$1010010011001111101000011010001011000000111001111011111111001101101001001100000010100001101000111010010010111101101001001110110010100100110011111010010010101010110000011011000010100100110011100011000100110000001100000011000011000111110111001010010011001111101101101010111110100100101011111010000110100010110010011111011110100100111010001010010011101010101001001110001011000001111000011010010010101111110001101011000010100100101011011010000110100010110011011110101110100100111010001010010011101010101001001110001010110110101011111010010010100100101000011010001100001101

TIPS€ その2人は¥+○%☆だった。中+○共#ウは彼たちから+¥☆==〒ーーー

TIPS€ そして夜が終わり朝が來る。彼たちはその當たり前をしている。

「ぎゃっ……」

思わず。

思わず味山はうめいた。耳を傾けた途端にり込むノイズ。

唯一まともに聞こえたのは、妙なヒントだ。

「……象的すぎるわ!!」

味山のび、なんだこれ、ほんと役にたたねえ。

ぐわん、ぐわんと耳を揺らす耳鳴りに頭を振っていると

「お待たせしましたです。味山さん」

「ですです、味山さん」

雙子が部屋にってくる。同じ顔、同じ、同じ服裝、同じ呼吸。

全てが鏡合わせで出來た不思議な存在。

鮫島の知識でも、グレンの覚でもついぞ見極めることが出來なかったモノ。

「たのしみですね」

「そうですね」

そうあれかしと造られたばかりに、綺麗な顔、黒真珠のごとき四つの目が味山を捉える。

「「さあ、どっちが朝顔で、どっちが夕顔? わたし達はだあれ?」」

雙子が同じ作で同時にく。すっと、細い人差し指をに當てて、ニヤリと微笑んだ。

くそ、いちいち可い。

もう一度だ。さっきのは酒がってたからなんかあったのだろう。

味山が都合の良いことを考えつつ、再び耳を澄まそうとする。

聴かせろ、全てを。

「「ーーーーーーー♪♪」」

「っっっ!?!

ばちん! 音がするほどに強く早く、味山が耳を抑えた。

見えないように、隠した。この行に味山は論理的な理由を持ち合わせない。

やばい。

じたのは1つだけ。

「くす、くすり。どうしたんですか? 味山さん」

「くすり、くす。ですか? 味山さん。お耳を抑えて」

「「どうしたんですか??」」

互に話しかけてくる雙子。

味山は耳を隠したまま、あることをじていた。

味山只人は探索者だ。仕事柄それなりに危険な目にあって、何度か本気で死にかけたこともある。

その度になんやかんやで、生き殘ってきた。

その験の中、數個。本気で恐ろしい存在というものにれた記憶がある。

それは例えば"耳の化け"との遭遇。

それは例えばアレタ・アシュフィールドによく似たあの"金髪の"との接

「同じだ……」

理解と常識を超え、それをゴミにするような存在との記憶。

同じだ。"耳"の耳が収するサマを至近で見たときと、"金髪"がアレタの顔で熱い吐息を吹きかけてきた時と、同じ。

超越したナニカに観察されているような覚。

だめだ、ヒントは、耳くそは使えない。見られている、気付かれている、試されている。

「さあ、味山さん」

「どうしたんですか? 味山さん」

雙子がすっと、歩く。味山を挾み込むように2人が近づき、抑えている耳にそれぞれ、小さな口を近づけた。

「「力を見せてください、味山只人さん。あの8月の時のように」」

やべえ。

思考が走る。

アレタ・アシュフィールドにバラされる。アイツは怒るだろうか。いやそもそも付き合ってすらないになんでこんなに気を遣わんといけんのじゃ。別にバラされたところでなんもーー いや、きっと、アシュフィールドは怒らない。怒らずに、なんとなく小さく笑いながら、ううん、いいのよ。タダヒトが楽しそうにしてるのならいいの。とか言いそうだ。し、目を伏せながら、それでも笑って言いそうだ。いや、それ、きっつ!!

「あ……」

雙子がにこり、にこり、互に笑った。

當てないと、當てないと、當てないと當てないと。

追い詰められた味山の脳みそが回る。殺す以外、攻撃すること以外でこの試練を乗り越えなければならない。

たのしい合コンはどこにいったのだろうか。

「あ……」

震える手、雙子を指さそうとき始める。

危機に慣れた脳みそが、この狀況をそれなりのピンチだと認識する。金魚みたいに口をパクパクさせる味山に変わり、苦労な脳みそは、きちんと考えを巡らせていた。

「よ……」

頭が回る、無意識にあるワードをが紡いでいた。

「ふふ、はーやーく、ねえ、味山さん」

「ふふ、あーてーて。ね、味山さん」

「「どっちがーー」」

雙子が、顔面を青にしたり白にしたり忙しい味山にとろけるような聲を向けていてーー

閃き。

グレンウォーカーの言葉を借りるなら、このゲームは挑戦者の素養を以って挑むべきもの。

鮫島は知識と察を、グレンは才覚と覚を、では、味山は?

味山只人はこれだ。忍耐と賭け。

忍び耐え、賭ける。流れを変えることは出來ない。味山はどこまでいってもその本質は凡人だ。

だが、その凡人はこれまでいくつもの危機を、忍び、耐えてきた。

ちっぽけな偶然に賭け、それを摑み、勝利を待つのではなく、奪いとって來た。

それは、今日も変わらなかった。

だから、これはいつもの賭けだ。

「夜、だ」

味山の言葉に、今度は雙子がきを止めた。

汗をだらだらかきつつ、味山がへっぴり腰になりながらも、雙子を指差した。

「夜が終わって、朝が來る。先に來るのは夜だ、そうだ、君たちはそのルールに従って、そのルールをしている……」

脳みそが、ヒントをもとにたどり著く。

雙子が初めて、目を丸くして、言葉を止めた。

「ね、ねえ、ど、どういうこと?」

「え、え? ど、どういうことってーー」

雙子がうろたえた。

傍らの雙子が、先に言葉を紡ぐ。もう1人の片割れに、問いかけるように視線をそっちに向けた。

そう。いつだって、夜が朝に話しかけていた。

問いかけるのは夜、応えるのは朝。

味山が、雙子へと指を向けた。

「君だ。夜だ、夜がいつも先にくるんだ。夜に咲くのは夕顔。だから、君。先に喋った方」

固まる雙子、先に話した片方へ、味山が人差しを向けた。

「君が、夕顔だ」

はっきりと、告げた。

「そして、いつも朝は夜の後にやってくる。応えるのはいつも朝だ。だから、君が朝顔だ」

左の雙子へ指を差す。

「自己紹介の時もそうだった。話すのはいつも夕顔が先、朝顔が後。それが理由、俺の答え!!」

「「あ……」」

雙子が同時に、らした、聲を。

「言ったぞ! 君が夕顔で、君が朝顔だ!! 答えはこれだ! 答えてもらおう、正解か、不正解か!?」

「決著を!!」

味山が指差す。背後で鮫島とグレンがそれぞれの宗教の祈りを、手を合わせ、に十字架を飾り捧げていた。

雙子が、そんな男達を見つめ、ふっと、を綻ばせた。

「「ピンポーン!! だいせいかーいでーす!!」」

「「「ーーーよっしゃあああああああああああああああああああああああああ」」」

汚い歓聲と、綺麗な笑い聲が部屋に響く。

味山只人はまたしても、あめりやの誇るクソゲー、かぐや姫ゲームに勝利していた。

テンションが上がりすぎて、すっかり雙子からじていた違和を忘れる。

歓聲を上げる中こちらを見つめて笑う2人からはもう、あの威圧にも似たモノはすっかり消え去っていた。

「ううう、悔しいです。ね、朝顔」

「ああああん。雨霧お姉さん以外にノーヒントでクリアされたのは初めてです。ね、夕顔」

雙子達がよよよと、抱き合いながら聲を上げる。

グレンと鮫島は席に座り、ジョッキを鳴らしながら改めて酒盛りに戻っていた。

「あらあら、すごいわね、味山さん。ほんとに朝顔と夕顔のかぐや姫ゲームをクリアするなんて」

「いやー、びっくりしました。ほんとにクリアしちゃうなんて! あめりやの誇る2大クソゲーの雨霧さんと雙子ズのかぐや姫ゲーム、2連勝ですね!」

朝霧と朝日が小さくパチパチと拍手する。

「あぁ、よかったぁ、ほんとによかったぁ」

「うう、酒が、酒がうめえっす」

男2人が安堵した表で、鼻水を吹きながら酒を呷り始めた。

「ふふ、はい。鮫島さん。飲み過ぎちゃだめよ? あーあ、でもし殘念だったなあ」

朝霧が自分のジョッキを鮫島に渡す。グレンがそれをけ取りぐびびと飲み干す。

「どうぞ、グレンさん。……今回は我慢してあげますね」

グレンは朝日からけ取った梅酒を、かっと、一息で飲み干した。

「いやー、ギリギリだった。いい戦いだったわ」

味山は自分の席にどかりと、座る。スカッと爽やか。そんな爽快だけが背中から頭に上る。

「むむむ、なんか余裕です、余裕しゃくしゃくです」

「むむむむむ、さっきまで顔を白くさせたり青くさせたり面白かったのに」

いつのまにか味山の両隣に侍る雙子がほっぺを膨らませる。絶対ったららかい。

「ふふ、あら? じゃあそうすると罰ゲームしないといけないのは私たちの方ね」

「あ、ほんとだ。グレンさーん。朝日にどんなお願いがありますかー?」

「朝霧ちゃんにぃ?」

「朝日ちゃんに?」

「「お願い?」」

グレンと鮫島が目を見開き、酒を傾けるのを止める。

「ふふ、あまりエッチなのはだめよ、鮫島さん」

「グレンさんならー、紳士的なお願いしてくれるよねー?」

流し目を送る朝霧、元を引っ張りそれを仰ぐ朝日。

鮫島とグレンが、また固まって。

「「総員集合!!」」

グレンと鮫島が、同時に味山の首元を引っ張り引き寄せる。暑い、臭い、うざい。そして無駄に力強い。

味山は途端に不機嫌になりつつ、

「臭い。やめろ、男が俺の首に抱きつくな」

「うるせええ、元はと言えば全部てめえの、いや、良そう。なにはともあれ、よくやったぁ、味山ぁ」

「ははは、朝日ちゃんに、お願いを聴いてもらえる? おいおい、そんなんアガるじゃねえっすか」

「鼻の下びてんぞ、お前ら」

「ばかやろう! グレンの貞野郎はそうだとしてもなあ、俺がんなことで浮かれるわけねえだろうがよお」

「誰が貞っすか、このシスコンにして姪コンの倒錯者。いや、今はこんな野郎のことより大事なことがあるっす。タダ、お前も考えろ」

「あ? なにをだ」

「きまってるだろうがよお、どうやったら好度下げずにそれなりにエロいお願い出來るか、だよ」

「まったく、これだから恵まれている人間は…… 普段からアレタさんや、凜ちゃんのような人と戯れあっている奴はこれだからっす」

鮫島が真剣な目を、グレンはプヒーとため息をつきながら首を振る。

ダメだ、こいつら。こいつは、ダメだ。

味山が心底酒に酔ってダメになっている友人達に哀れみの目を向けて。

「ふふ、鮫島さんがそんなにはしゃいでる所初めて見たかも。かわいいんだから」

「グレンさんのお願いたっのしみだなー」

ニコニコと笑う人。

朝霧が何かに気づいたように片目をつまり、朝日へ聲をかけた。

「そうね、朝日、朝顔、夕顔。男陣の方はしお話があるみたいだから」

「あ、わっかりましたー! ほら、夕顔、朝顔! 行くよ!」

「どこにです? 朝顔?」

「あ、きっとトイレです! 連れションですよ! 夕顔!」

「こら、可い顔して下品なこと言わないの。じゃあ、鮫島さん、し外すから、作戦會議頑張ってね」

「はぁーい、あんがとお、朝霧ちゃん」

「グレンさん、いいこにしてまっててくださいねー!」

「はーい、待ってるっす!」

「いやあ、朝日ちゃん、可いなあ。ちょーっとダークってるすけど、それもまたスパイス的な?」

「ああ、そうだなあ。まあ、俺は朝霧ちゃんが最高だなあ。あのなんでもお見通しってじがたまらねえやぁ」

人軍団が部屋から出ていく。彼達が前を通るたびに、ものすごくいい匂いがした。

え、ほんとに同じ生き? 味山はの神に目を瞬かせる。

こいつら、先ほどまであんなに追い詰められていたのにもうそれを忘れてやがる。

鳥…… 多分カラスの方がよっぽど記憶力が良さそうだ。味山は、だらけた顔をしている2人を眺めていた。

「んでよお、まじでどんなお願いにするぅ? あんま過激なのは、ダメだよなあ」

「難しいラインっすね。おれたちの求める刺激と、彼達からの好度、両方しいところっす。え、グレンさん、そんなお願いをしてくれるんですか? 貴方みたいな人、初めて…… 的な! その辺タダはどう思うっすか?!」

「単純にグレンの聲真似がキモい、あと発想もキモい」

「んだとお! このムッツリ野郎! お前だってあの超絶、2人にお願い聞いてもらえるんでしょーが! サンドイッチか?! 2人に挾んでもらおうとか考えてるんすか?!」

「落ち著けえ、グレン。瞳孔開いてんぞ。だが、実際どうするか。あめりやのの子達はあれで百戦錬磨だあ。こっちの下心、下手に好かれようとすると逆効果かもしれねえ、その辺、味山ぁ、お前はどう思う?」

「なんだよ、鮫島。タラシのお前らしくないな。本気でお願いを何にしたらいいのか悩んでんのか?」

「ああ? なんだぁ、お前なんかいいアイデアでもあるのか?」

「タダ、隠し立てするとお前のためにならんっすよ」

「だから瞳孔とじろ、グレン。こんなん一択だろうが。お前らは下手に夜の店で遊び慣れてるから無意識に、このお願いを避けてるんだよ。正解は1つだけだ」

「聞かせろお、味山」

「聞くっす、タダ」

「それはだなーー」

3人、暑苦しい男3人が室でを寄せ合い、ヒソヒソと話す。

味山がその策を全て話し合える。

その策は、青天の霹靂。

グレンが目頭を抑えたあと、味山と靜かに握手した。

鮫島は、タバコに火をつけ深く吸う。紫煙をポワリと吐いたあと、味山に向けて靜かに手を合わせた。

「味山ぁ、お前はすでに、味山を超えたぁ。今日からお前は富士山だ」

「あえて、呼ばせてもらうっす。番長と呼ばさるを得まいっ」

怪しいクスリをやっているようなテンションの2人に味山はどうも、と頭を下げる。

奇妙な儀式が靜かに始まり、靜かに終わる。

誰からともなくジョッキをかかげ、がちんと酌みわす。

暑苦しい空間の中で、男たちのがごくごくとくだけ。

「そりゃあ、そうだ。そりゃあ、そうだよ、味山。俺は大切なことを忘れていた」

「タダ、流石。流石は52番目の星の右腕っす。アレフチームにはお前みたいな男が絶対に必要っす」

「ふ、褒めるな褒めるな。あとは彼たちが帰ってくるのを待つだけ。ばしっと決めるぞ!」

「おう!」

「ああ!」

がしりと3人が手を組み合う。ゴツゴツした覚、暑苦しく、見栄えが悪い。

でも、3人は確かに友達だった。この年齢、この世界じゃ得にくい男友達がガキのような顔で笑い合いーー

「それにしてもよお、の子たち遅くねえかぁ?」

「たしかに、言われてみれば」

「ははっ、2人とも慣れてないっすねえ。の子ってのは々と準備がーー」

グレンがしたり顔でジョッキを舐める。空になったそれを機に置いた。

「きゃあ!!?」

「や、やめてください! 朝霧お姉さんにらないでっ、きゃっ!?」

個室の外、廊下からドア越しに響いたのはの悲鳴。

朝霧の、聲。

鮫島竜樹の目が、鋭く。

朝日の聲。

グレン・ウォーカーが椅子を弾いて立ち上がる。

「っおい、2人とも! 落ち著け!」

味山が聲を上げ終わるその頃には、の気の多い探索者2人が部屋を飛び出していた。

「ばかが!」

追いかける、半開きの引き戸をあけて、廊下に飛びでた。

薄暗い照明の長い廊下、向こう側から酒場の喧騒がBGMのように。

そこで、味山は目にした。

「そんな態度はねえだろう? 朝霧。アンタになんぼほど払ったと思ってんだ?」

「朝日ちゃーん、冷たいなあ。いつもみたいに笑ってよ。そんな怖い聲出すなって、店員さんが勘違いしちゃうでしょうが」

「……っ。今はプライベートです。瀧川社長。手を、離していただけないかしら?」

「痛いです! 失禮ですよ! いきなり道を遮ったりして! 今は私たちお休みなんです!」

恰幅の良い中年男が2人。歳の割に落ち著きのないアロハみたいなシャツに無駄に額にかけたサングラスがる、どことなく裕福そうな服裝。

おっさん2人に、朝霧と朝日が壁に押しつけられ、手を無理やり摑まれている。

「あ、鮫島さーー ……ごめんなさい。こんなところ……」

「グレンさ、ん…… やだ、見ないで……」

男に手を摑まれている2人が、鮫島とグレン、それぞれを見つけて安堵の表を浮かべる。しかしそれも一瞬、恥いるように顔を伏せた。

「あ? なんだ、お前ら。見せじゃねえよ。さっさとーー ……あ? まさか、プライベートって、こいつらと?!」

「おいおいおいおい、朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん。趣味悪いぜ、こんな貧乏そうな連中と?! あ! わかった! 遊びかサイフだろ? でもよ、サイフにしてももーちょい選ぼうや!」

下卑た笑い。

味山は2人を観察する。ジャケット越しにもわかるでっぷりとえた腹。筋太りではなく、単なる臓脂肪。

素人だ。だとすると、鮫島とグレンを止めないと、まずい。

下手すると殺してしまう。

「っ、ええそうです。このお方達とたのしい時間を過ごしていたんです。申し訳ないですが、お手を離して頂けませんか?」

「さ、サイフ?! 謝ってください! グレンさんに、謝って!」

「あ? なんだ、その態度は? お水のの程知らんのか?」

「謝ってとか! 本當のこといっただけじゃん! ほら、いいからこっちきて一緒に飲みなおそう、ほら、ね!」

ぐいっと、男が朝日を強く引っ張る。小柄なが男へと引き寄せられた。

「おい、グレン、鮫島。わかってるよな」

味山が2人を制するように前に出る。手を出してしまうのだけは防がなければならない。一般人に手を出せば2人の探索者資格は終わる。

「わかってるよお。あのデブ腹を蹴りぬきゃあいいんだろお?」

「グラサン叩き割ると指が痛いんすよねー。まあいいけど」

鮫島が革靴の先を地面にコンコンとぶつける。

みしり、ぽきり。グレンの指が軋んで音をたてた。

なにもわかっちゃいねえ。こいつら。

味山がどうやってこの場を乗り越えようかと必死に考える。そういえば雙子がいない。ああ、もう、いつもこんなんだ。

「お?なんだ、やるのか? ガキども。お前らその育ちの悪そうな顔、探索者だろ? 知ってるぞ、お前ら堅気に手出せないんだろ?」

「ぶはっ、まあ、喧嘩しても負けないけどなあ。お前らにあめりやのこの子達はもったいねーよ!」

ヘラヘラと、おっさん2人が笑う。目つきがどこかおぼろ。

酒の酔い方じゃない。味山は気づいた。

こいつら、まさかーー

TIPS€ 前方、人間。男。2人。狀態異常、"ダンジョン酔い"、"????"による理低下狀態。

耳鳴りが、味山の予を確実にする。

こいつら、ダンジョンに酔っている。最悪だ。表層でこんなに酷く酔うのは珍しい。

味山は背中に庇う鮫と灰狼の怒気が膨らんでいくのをひしひしとじる。

メタボ2人はそれにすら気づかず、未だにの子たちの細い腕を汗ばんだ汚い手で摑んだままだ。

ーー早くなんとかしないと。

味山が何か言おうとした、その時。

がらり。

個室の扉、味山達の個室とし離れた向かい側の扉が開いた、

「瀧川社長、原田専務、何かめ事ですか?」

爽やかな聲だった。

聲優か、俳優か、聞いているだけで爽やかない風が吹いたような覚。

「おお、キミか! すまんね、し知り合いと偶然會ったところを、そこの兄ちゃん達にいちゃもんつけられてんだ」

「そうなんだよ、彼らが威嚇してくるものだから、ほら彼たちもおびえちゃってさ」

メタボ2人が、その男を見上げて、どこかびるように聲を出した。

和な笑顔、端正な顔立ち。たくましい

雄として完された、そんな男だった。

「なんとか話してくれないか? ほら、どうやらキミと同じ探索者らしいからさ」

「頼むよ、坂田くん!」

味山が目をみひらいた。

男も、気付いたらしい。メタボ達に向けていたらかな優男スマイルは、蒸発するように消え、本來の酷薄な表が現れる。

「お、まえ……」

味山はその男を知っていた。

お前はいらない、そう告げられたあの路地裏のゴミ箱の匂いを思い出す。

「味山…… 只人……」

男が、目を見開いた。それは、それは強く。激しく。瞳孔が揺れていた。

本來の顔、この男の本、傲慢、嫉妬、怒り。さまざまな暗いが男の目に燈る。

坂田時臣。

あの世界最速の上級探索者昇格者、貴崎 凜のなじみにして、味山只人の、元仲間。

「やあー、久しぶり、だな。味山……さん」

味山只人の元チームメイトの整った顔、筋の通った鼻が、薄暗い照明に照らされた。

ご覧頂きありがとうございます!

宜しければ是非ブクマして続きをご覧ください!

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