《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》67話 ユートン・イン・ドリンク そのⅠ
「味山…… 味山只人ってあの! アレタ・アシュフィールドの!」
「おいおいおい、有名人ですね? こんなところでめたら々まずいんじゃないの? この前テレビで見てたよ、國絡みのお遊戯會ご苦労様でした!」
味山の名前を聞いた途端、メタボが目を丸くして反応した。あの會見は、広く一般人にも知れ渡っている。
「瀧川社長、原田専務。あまり、挑発なさらないでください。彼…… しイかれてるんで、容赦なく襲ってきますよ」
「ははは、でもキミがいるんなら問題ないだろう。坂田くん」
朗らかな笑顔で、坂田が笑いそれをメタボ達が冗談のようにけ止める。
味山は笑えなかった。
「……坂田、めたくない。お前のツレなら早く持って帰ってくれないか? 後ろのこいつら、お前なら知ってるだろう?」
味山は背後で抑えている2人を指差す。
ぼちぼち限界だ。多分グレンの方が先に切れる。
「久しぶりに會ったのに、言うことがそれですか? 味山さん。ああ、知っていますよ。みんな有名人だ。グレン・ウォーカー上級探索者に、ベテランのソロ探索者鮫島竜樹。良いお友達をお持ちで」
坂田から好青年の顔が消えない。
「お前ほどじゃねえよ。お前が貓かぶれてるうちに穏便に済まさないか?」
でも、この顔はこいつの本當じゃないことを味山はもう知っていた。
「おい! お前、俺たちを無視して話すなよ! 失禮だろう!」
「ここにいる方をどなたかご存知ないのか? 瀧川工業の社長、瀧川傑氏だぞ! お前ら探索者の大好きなスポンサー様だ」
メタボ達が怒り立つ。普段からどのような扱いをけ、どのように振る舞っているのか、すぐにわかる。
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「興味ない。おっさんら2人、まじでそこのから離れてください。おっしゃる通り、俺たちは育ちがよろしくない。安易な暴力を振るうタイプの人間です」
社畜時代ならいざ知らず、今はもう味山には一般人における社會的地位など大して関係ない。
「味山ぁ、もういいか?」
「タダ、話が進まないようなら、俺が進めてやるっすよ」
剣呑さを孕んだ2人が、一歩、
「な、なんだ、やる気か?」
「野蠻人どもめ、探索者がお似合いだ」
酔いに飲まれた素人が戦力の違いに気づかないままに、やる気になる。
「まあまあ、皆さん。落ち著いて」
「坂田くん、しかしだね」
「社長、たしかにこれは我々が悪役ですよ。ほら、そこのお姉さん達はたしかに嫌がっています。彼たちは彼たちの意志で、彼らとプライベートを過ごしているようですからね」
坂田の言葉は、だれにとっても意外なものだった。
「なっ!? 坂田くん?! 連中の肩を持つというのかね?」
メタボ達が目を剝き、坂田に唾を飛ばす。ニコニコした顔はそれでも変わらない。
「しは言葉が理解できる人がいて助かったわ。わかりましたか? 私たち、好きであの人たちと過ごしています」
「そうです! てかっ! おっさん、マジで離せし! 臭いんだけど!!」
2人がメタボの手を振り払い、一歩離れる。
グレンと鮫島の怒気がし和らいだ。
味山は、じっと、坂田を見つめていた。コイツ、そんなに聞き分けの良い奴だったか?
「いいえ、違いますよ。話は単純です。彼たちが彼らよりも、社長たちと過ごしたくなればいいんですよね? 彼たちの意志のもと、僕達を選んでもらいましょう」
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ニコニコした顔のまま、坂田が爽やかに言葉をつむいだ。臓腑に宿る、悪を完璧に閉じ込めたままに。
「は? 何言ってーー」
「そんなことありえるわけありまーー」
朝霧と朝日が、坂田の言葉に否を、否をーー
「いいや、違うね。君たちは彼らよりも僕達の方が魅力的にじている筈だ。そうだろう、朝霧さん、朝日さん」
「っあ……」
「へっ、な……」
坂田の言葉が響いた。
同時に、朝霧と朝日の目つきが変わる。トロンと、とろけてわずかに熱を持ったものに変わっていた。
異変はすぐに起きていた。
朝霧と朝日が、ぼーっと、虛空を見つめ、近くのメタボたちの方へふらついた。
「やだ…… 何か、変……」
「あれ、…… わたし、やだ、嫌なのに……」
「っほう! 朝霧、いやあ、よかった。キミは賢いだよ。ほら、倒れたらいけない、こっちにきなさい」
「朝日ちゃん、ほらよたよたしてたら危ないよ。ああ、髪しばってないほうが大人っぽくで気があるね」
朝霧と朝日の肩をそれぞれ2人のメタボが摑み、自分の元へ引き寄せる。
先程よりも近い著、なのに、彼たちの抵抗は明らかに弱い。
「やだ…… 鮫島さん、見ないで…… あれ? 鮫島、さん。瀧川……さん?」
「グレンさ、ん。……あ、原田せんむだぁ、ふふ、お腹ぽよぽよじゃん…… え、なんで、わたし……」
2人の様子は、明らかにおかしい。メタボどもに抱き寄せられつつも、目つきはどこかトロンと茹だり、足元はおぼついていない。
「ひひ、始めから素直になれよう…… 朝霧ちゃん、この肩出してるの、セクシーだねえ」
「ふひ、朝日ちゃん、ほら、もっとってもいいよ。その代わり、俺も朝日ちゃんのを……」
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メタボの手が、朝霧の肩をじっとり這う。もう1人のメタボの手が、小刻みに震えながら、朝日の服をおしあげて膨らんだへびようとして
「おい! てめえらぁ、いい加減2人から離れろぉ。マジにしばくぞ、素人ども」
「おい、デブ! 馴れ馴れしく朝日ちゃんにるんじゃねえ!」
唾を散らしぶ2人、探索者の圧、たじろぐメタボの前に坂田が出る。
坂田はそれを笑ってけ止めた。
「あはは、鮫島さん、ウォーカーさん、そんな聲を荒げないでくださいよ。僕の目には、そうですね、彼達は嫌がっているようにみえないんですけど」
「なわけあるかぁ! てめえ、何したぁ、ガキ!!」
「やだなあ、何もしてないですよ。話はシンプルだ。彼たちは貴方達よりも、社長たちのほうがいいんですよ、ほら、この態度見たらわかるでしょ? それとも貴方たちは彼たちが誰にでもびるとでも?」
坂田が崩れない和な笑顔を鮫島に向ける。
「な…… なんだとお……」
「なら聞いてみましょうよ? ねえ、朝霧さん、朝日さん。これから僕達と飲み直しましょうよ。社長と専務のおごりですから」
「おいおい、坂田くん、キミってやつは。仕事が出來る男だね。気にったよ!」
「目上の人間を敬うことのできるタイプは出世するよー。坂田くん、スポンサーの件も任せてくれよ、ねえ、社長」
坂田の言葉にメタボたちが下卑た笑いを浮かべる。達を抱く手のひらに力がっていた。
「わ、わたし…… あれ…… 鮫島、さん」
「違う、ちがう、ちがう…… なんか、これ、へんで、す……」
坂田の言葉に、彼たちがをびくりと震わせる。いやいやをするように、こうとするも、やはり抵抗は弱い。
「……チッ、なんだよ、売の癖にしぶといな」
坂田の舌打ちは、対面している味山に1番に屆いた。
その顔、張り付いた笑顔の代わりに、心底人を見下した冷たい瞳が顕になる。
そう、これだ。
坂田という男の本はこっち。傲慢で、冷酷で、自己中心的。
「坂田…… お前……!」
味山は聲をかすらせる。出せなかった、自分が出そうと思った聲量が出なかった。
TIPS。
頭に響いたヒントが伝えたあまりにもひどい狀況に、唖然としていた。
TIPS€ 未登録 "殺油地獄"
「おんなごろし、あぶらのじごく?」
味山へのヒントが、坂田が振るった力の名前を告げる。
TIPS€ 所有者、坂田時臣。形狀、小指についた指。
TIPS€ それはへの神干渉を可能とする。神対抗ロールに失敗すると魅了狀態に陥る。
TIPS€ それは周囲の男の劣を煽る。神対抗ロールに失敗した男のへのを増加させる。
TIPS€ それは坂田時臣が2028年9月3日にバベルの大で所有権を得た。組合に登録されていない未登録である。
「……!! 正気か? 素人、いや、人間相手に何てことしてやがる?!」
味山がんだ。こいつ、信じられねえ、を、人に!!
探索者法に記載されるまでもない、人としての最低限度の常識、それをいとも簡単に、坂田は破っている。
あまりにも簡単に行われているおぞましい行為に思わず聲を荒げた。
「あ? お前、なんで…… っと、ふふ。なんのことですか? 味山さん、? ははは、面白いことおっしゃるんですね」
一瞬、坂田がけげんな表を浮かべ、すぐにそれを打ち消す。こいつは頭が良い。この場で自分がボロを出さない限り、の使用など証明出來ないことを知っている。
「おい! その気持ち悪いですます言葉やめろ! 坂田、お前、自分がやってる事わかってんのか!? 探索者法どころじゃねえぞ!」
味山は恐ろしかった。一般人、しかもにこんなに簡単に強大な力を振るうその神が。
「なんですか? 突然。まさか僕がを使って2人をどうこうしてるとか言うんです? アッハッハ、味山さん、それはし無茶ありますって。そもそも僕、なんて持っていませんよ」
り付けた笑顔は消えない。坂田の余裕を崩す材料が味山にはない。
「やかましい! 未登録のだろうが! その指だ! その趣味の悪い指の力だ」
「っ…… いやいやいや、無理ありますって。これただのアクセだし。それとも、何か証拠があるんです?」
「味山、どういう事だ、?」
「あのニイちゃんの指折れば解決するんす?」
「あはは、おじさん達そんな怖い顔しないでくださいよ。って、面白い作り話ですね。で? 証拠は? 僕が使ってるっていう証拠を教えてくださいよ」
「証拠……」
味山が固まる。TIPSは味山にだけ聞こえるヒントだ。
それは共有することなどーー
「証拠? 関係ねーっすよ。証拠なんざ後からいくらでも作ってやる。ガキ、お前今日で探索者廃業な」
「廃業理由はよお、とても長い院生活と後癥ってとこかぁ?」
必要はなかった。共有しなくても、理解しなくても。
鮫島とグレンにはもう、そんなもの必要なかった。共有せずとも、彼らは味山只人という人間をよく、知っていた。
「ばか、おい、2人とも!!」
味山を押し除けて前にずいっと出る2人。
「タダ、お前が言うならそれが正解っすよ。俺はお前を信じる」
「てめえの勘はよく當たる。俺もグレンに乗るぜえ」
「お、おい! 今の坂田くんの話を聞いてなかったのか?! 証拠もないのに、お前ら!」
「野蠻人の探索者め! こんなところで騒ぎ起こしてみろ!警備部隊がすぐに來るぞ!」
メタボ2人はようやく気づいたらしい。探索者というのがどんな人種であるかを。
「安心しろよお、豚ども。警備部隊が來るまでにはよお、てめえら仲良く病院行きだぁ」
「よーし、俺はあの朝日ちゃんを嫌らしい目で見てる眼鏡デブをやりますからねー」
鮫島が首をごきりと鳴らす。グレンが肩をグルグル回しパンチの素振りを始めた。
「ひ、さ、坂田くん、大丈夫かね?」
「わ、我々はの子達がいるから……」
今更メタボ達が怯え始める。虛な目をしたを盾に、あとずさりした。
「ああ、大丈夫ですよ。社長、専務。やれやれ、いやですね。すぐに暴力にすがる大人は。恥ずかしくないんですか?」
「口のへらねえクソガキっすね。親に代わってしつけしてやりますよ」
「やだやだ、怖い怖い。……やるんなら、相手になってやるよ。おっさんども」
坂田が構える。
確かな土壌、天のに、探索者としての素質、経験。坂田はそれなりに戦える。
一即発、味山はを噛んだ。
まずい、このまま始まれば勝つのは間違いなくこちらだ、そして間違いなく逮捕されるのもこちらだ。
坂田が、を不正使用している証拠が用意できない。
側から見ればの取り合いで逆上した探索者が一般人を痛めつけるようにしか見れない。
もう、グレンも鮫島も止めることがーー
「おなり、おなーりー、みなみなさま」
「えんや、お耳をはいしゃく、はいしゃくうー」
空気が、変わる。酔いと酒に茹ったように、熱い空気が冷涼なものに変わった覚を覚えた。
雙子の聲。
廊下の向こうから。そして、ふわりとじるのは濃い果実の香り、
桃の、香り。
「あ……」
誰の聲だろうか。男の聲だ。ここにいるどれかの男の聲が間抜けな呟きとなった。
。
雙子が廊下の向こうから歩いてくる。可憐な鏡合わせの。
そのすぐ背後、雙子達よりも頭ひとつ、彼の背は高かった。
だ。
黒髪、なめらかに夜を編んだようなそれは腰辺りまでびる。
ぴったりしたパンツに包まれた長い腳、腰は力を込めて見つめれば折れてしまいそうなほど、華奢で。
「ごめんなさい、皆様。し、お仕事が長引いてしまいまして。遅れてしまいました」
「あはは、雨霧お姉さんのおなーりーです。あれ、何かめ事かな? ね、朝顔」
「雨霧お姉さんが到著したからご飯も解です! 唐揚げ食べたい! ほんとだね、夕顔」
「ごめんなさい、皆様。し、お仕事が長引いてしまいまして。遅れてしまいました」
「お……」
「ぽ……」
メタボ2人が、息を飲む。朝霧と朝日の肩を抱いていた腕が緩んだ。
「あ…… 雨…… だめ」
「雨霧、お姉さ……ん、きちゃダメで……」
朝霧と朝日、2人が雨霧に反応する。頰は赤く上気し、視線はおぼつかない。それでも、異変を雨霧に伝えた。
「……へえ、あれがあめりやの雨霧か。あんたらいい揃えてたんだな」
坂田がニィっと、綺麗な形をしたから赤い舌を覗かせる。
TIPS€ 未登録、起まで、殘り3秒
「っ!? おい、坂田!!」
「やあ、はじめまして、お姉さん。僕の名前は坂田時臣。お姉さん達も、僕らと一緒に飲みましょうよ。朝霧さんと朝日さんも一緒ですから」
坂田が、言葉を投げかける。の力が混じった呪言に近いそれを、雨霧達に向けて。
つよい、桃の香りがした。
坂田を、メタボ達を飛越し、雨霧がこのガラス細工のような瞳を、向けた。
味山只人に。
「あら…… 味山様、お久しぶりでございます。ふふ、お店でずうっと、お待ちしていたんですが、お忙しかったようで」
すっ、と。メタボ、坂田を雨霧が通り過ぎる。向けられたの篭る視線も、言葉も、まるで存在しないかのように振る舞いながら。
「雨霧は本當に、寂しゅうございましたのよ」
雨霧の目の端、涙の通り道にぽつりとあるホクロが目についた。
「あ、あの、雨霧さん、それは非常に申し訳ないし、近いし、いい匂いしすぎだしなんだけど、今、ちょっともめてるんすけど」
坂田やメタボ、それらの言葉を完全に無視して、雨霧が味山に笑いかける。
その距離は近い。味山が、雨霧が、あと一歩近寄れば互いの吐息すら、屆いてしまうだろうほどに。
「……ああ。なにごとかと思えば。悪い酒でございますね。腐った胃の腑からこぼれ出たような腐臭」
朝霧が、一歩、一歩。坂田に、メタボ達に近づく。
天の、完璧なカラダのに坂田がニヤリとを歪めた。
「……お姉さん、俺たちと一緒にーー」
TIPS€ 警告、未登録の起。
まずい、またアレがくる。
「雨霧さん!」
味山が雨霧を呼び戻そうとして。
「朝霧さん、朝日さん。しっかり、してくださいな。殿方の前ではしたのうございます」
「あ」
「う」
雨霧が、2人を一瞥した。雷に打たれたように、びくり、朝霧と朝日がを跳ねさせる。
目に、力が戻っていた。
雨霧は坂田を完全に無視していた、存在すら認知していないように。
「っ!! いい加減っ! 離しなさい!!」
「っあ!! もう! んないでよ!! デブ!!」
「ブッ?!」
「デッ?!!」
ばちん、朝霧のビンタがメタボを跳ね、朝日がメガネのメタボのスネを蹴り飛ばす。
メタボ達が悲鳴をあげる、しかしの力だ、あまり大きなダメージはなく、すぐにメタボ達の目にわかりやすい怒りが宿る。
「っのお!! 馬鹿が!!」
「ガキ!! 優しくしてりゃあ調子に乗りやがって!!」
「っ!!」
「きゃっ!?」
あまりにも簡単に、メタボ達は拳を握りしめた。酒にも大にも酔った彼らは躊躇いもなく、自分よりも弱い存在に暴力を向けようとしてーー
ぱし。
ごっ。
「お前、なにしてんの?」
「いってえなあ、おい。本気で毆る気だったのかあ?」
飛び出したのはグレンと鮫島。日々、命がけの探索で鍛えられた男が、安易な暴力をけ止めていた。
「あ…… ぎ、ぎゃあ!? 痛っ!! あ、折れる……」
グレンが手のひらでけ止めたメタボの拳を思い切り握りしめる。たまらずメタボが膝をつき、悲鳴を上げた。
「ひ、あ、ぎゃ?! ゆ、びぃ!!?」
鮫島がを呈してけ止めたメガネメタボの拳を摑み、下手くそに握られている親指を捻った。
「さ、鮫島さん……」
「グレンさん……」
心細そうに呟く朝霧と朝日、それぞれ2人を背中に庇う。
悲鳴を上げ、地面に膝をつき、這いつくばる素人を探索者が見下ろしていた。
「よお、おっさん…… 選べよお、親指の次はよお、小指か? 中指かぁ?」
「右手、もっかい握らせてよ、おっさん。次は完全に折るっすから」
「「ひ、ひいいいい!!?」」
痛みにより、し酔いが覚めたのだろうか。メタボ2人は餅をついたまま、後ずさる。
「さ、坂田くん!! こ、こいつらを早く!!」
「こ、殺される、野蠻人に、殺されるう!!」
汚い悲鳴、助けを求める先は固まってかない坂田時臣だ。
「坂田くん!!!」
その悲鳴を坂田は無視していた。その整った顔に、脂汗がういていた。
「お前、なにした? なんでコレが効かねえ?」
坂田が問うた。その口調、その表からは笑顔や余裕が消える。
「味山様…… 私、今日を楽しみにしてまいりましたの。びーるに焼きとりを頼んでもよろしいですか?」
しかし、そもそも雨霧は坂田の存在を認知してすらしていない。呼びかけに答えず味山にしなだれかかる。
「おい!! ぁ!! 無視してんじゃねえ!!」
再び、坂田がその探索の報酬、ダンジョンの神を傲慢に振るおうとしてーー
「坂田」
「っぁ……」
それはただの聲だ。名前を呼ばれただけ。なのに。
坂田のが震えて、それきりかなくなる。
自分を無視した、その隣に立っている男。
そう、坂田時臣は知っている。既に思い知らされている。
「お前、次は殺すぞ」
その男は本當にやることを。
「う、あ……」
一歩、一歩下がった。
坂田は自分よりも一回り長の小さい、その只の凡人から離れた。
「一歩引いたらよお、そりゃもうお前の負けだぜえ、お兄ちゃん」
「今、消えるんならもう忘れるっす。俺たちはここで出會うことはなかった、ってことにしてもいい」
それぞれのを優しく支える探索者2人が、坂田に聲を向ける。
ギュッと支えたその姿、目線は油斷なく正不明の力を扱う坂田を捉えて離さない。
「っ…… はあ、しらけた……。まじありえねー。アンタら素人に手出しといてよくそんな態度でいられるな。イカレどもが」
激、怯え、諦め。一瞬で様々な表を覗かせる坂田は、ため息をついた。
膨らんだ張が、緩まる。
「さあ、社長、専務。もう行きましょう。ならもっと気の穏やかなのを僕が用意してますので。むざむざ、兇暴なのを選ぶ必要もないでしょう」
うめくメタボ達にり付けた笑顔を向けて坂田が連中に手を貸した。
味山は目を離さない。
「……味山只人」
坂田が振り返る。
「なんだ」
味山の返事に、坂田は目線を向けるだけ。
者達は消えていく。後に殘ったのはいいようのない、どうしようもない徒労と、雙子達の食事を再開しようという呑気な聲だけだった。
読んで頂きありがとうございます!
宜しければ是非ブクマして続きをご覧ください!
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