《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》69話 ある日の指定探索者たち
「よーう、52番目。相変わらず目つきの悪いストーカー引き連れて、お前も苦労だなあ」
アメリカ街のとあるパブ。
探索者や島で生活する者達の喧噪。
カウンターに並ぶ2人の。気の早い探索者ならナンパの1つでもあるはずだが、どれだけ酔っている男でも、彼たちの顔を見ればギョッとしてそそくさと遠くに逃げる。
そんな真空地帯のカウンターに腰かけている二人のに向かって軽薄なの聲が屆いた。
「チッ、クソビッチ。確認するが、そのストーカーというのは誰のことを言っているんだい?」
心底、忌々しそうに舌打ちをした赤い髪の。
と見まごうばかりのい顔立ち、新雪が降り積もったような白いに白い。前髪で隠れた義眼をぎょろつかせて、ソフィ・M・クラークが振り向きざまに悪態をつく。
「あー? こりゃ驚いた。自覚がなかったのか? まあ、ストーカーなんてそんなもんか」
普通の人間なら向けられた時點で足がすくむ殺気を浴びつつも、そのの足取りは止まらない。
信じられないほど気安く、彼の隣の空いた席にをり込ませた。
「ちょっと、ルーン。口が悪すぎよ。貴は憎まれ口を叩かないと人とコミュニケーションが取れないのが悪徳だわ。ソフィも、いちいち彼の挑発に乗らないの」
彼。金髪の髪に青い瞳。健康的に整った肢を長いジーンズとシャツに包んだが2人をたしなめる。
「だってアレタ、このビッチが」
「ソフィ」
「う、わ、わかったよ、アレタ」
親に叱られたこどものようにソフィがしゅんと黙りこむ。
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「あっはっはっは、こりゃいいや。よお、クラーク。私は心底52番目がこの世に存在していてラッキーだと思うよ。この世であんたに問答無用で言うこと聞かせるのはこのアメリカだけだろうからね」
が笑う。
先はエキセントリックな緑、本に近づくほどに本來の地である金髪に変わっていく。
ピアスの開いたヘソが出ているタンクトップにぴったりと腳のラインが分かるパンツ。、
盛り上がったに、くびれた腰、男たちの視線がよりその席に集まる。
垂れ目がちの目元には、奇妙な丸い形をしたタトゥーが彫られワイルドな印象を強くする。
元でる十字架のアクセサリーが、異様なほどに似合っている退廃的な人。
「ルーン、それほめてるつもりかしら?」
ぐびり、アレタがグラスを傾けながら靜かに呟く。
「んだよー、52番目。わかんねーかあ? 恥ずかしがりの私なりの表現だろうがよー。私ほど正しくあんたに敬意を抱いてる人間はいねーよ。そこのストーカーや世間の連中と違ってね。あ、これ味しい」
ぐびり、アレタのグラスを當たり前のように奪い取ったルーンと呼ばれたが、グラスを空にする。
「アレタ、何度も言うがやはり友人は選ぶべきだよ。このの品は下劣だ。君にもし移ったらと思うとワタシは耐えられない」
「おいおいおいおい、クラーク、処こじらせるのは自分だけにしておくれよ。あんまりに幻想持たないほうが神的に安心だよ」
「のお前がそれを言うなよ。はあ、なんでお前みたいなをアレタは友人として選んだのかさっぱりだ」
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「はっはっは、ひでー言い草だなあ、表に出ろよ、出來損ない」
「出てどうするんだ? お前にワタシがやれるとでも? 狂い」
「2人とも、やめて」
「……すまない、アレタ」
「……ラジャー、52番目。悪かったよ」
「もう、2人とも顔合わすたびにケンカするのはやめてよね。お店の迷になっちゃうわ。ルーン、あたしの飲み勝手に飲むのはやめて自分のを頼みなさい。久しぶりにみんなで飲むんだから」
「オーライ、ボス。マスター、エールある? ああ、じゃあそれちょうだい」
「ルイズはやっぱりこれなかったの?」
「ああ、あのモンスターフリークは殘念ながら仕事だとよ。ほら、今組合と軍が躍起になって調べてる新種の調査。結構、苦戦してるみたいねえ」
ぐびり、渡されたジョッキをあおりながらルーンがぞんざいに答える。作するたびに薄著を盛り上げてるが大きく揺れる。近くの席の男たちが橫目にそれを盜み見ているが、それを気にする様子は一切ない。
「ああ、あのアンノウンか。近々上級探索者を中心とした調査、掃討作戦が行われると聞いていたが」
「さすがに耳が早いね、クラーク。そうさ、今回の新種はどうもきな臭い。ここ最近の探索者の行方不明者の発的な増加もその新種が絡んでるらしいよ」
「……どうしてお前がそんなことまで知っている?」
「寢床を共にした男は口が軽くなるもんだよ。屈強で訓練を積まれた軍人でも男であることはすてられないからねえ」
「チっ、口が軽くなるのが男だけであることを祈るよ」
「安心しろよ、クラーク。うぶでネンネなあんたと一緒にすんじゃないよ、こちとらベッドで本音を話すことなんて16の頃に卒業してる」
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「ああ、神よ。どうかこの下半になるべく苦しい試練をお與えくださいませ」
ルーンの言葉にソフィが戯けて元で十字を切る。ソフィがすると妙に形になっていた。
「ふふ、仲いいわね。ソフィとルーンは」
2人のやりとりを肴にしていたアレタがニヤリと笑う。
「「どこが??」」
同じようにつり目になった2人がアレタに迫り、
「そういうところよ」
軽く流される。
「っくそ、かぶせてんじゃねーよ、クラーク。まあいいや、つうかよー52番目、こーんな仕事の話なんざするためにお前に逢いに來たんじゃねーよ。別の話しようぜ、別の話」
「別の話?」
「おいおい、お前までクラークってんじゃねーよ。あのお子様とは違うだろうが。男、お、と、こだよ。オトコの話しようぜ」
「おい、今のクラークってるというのはどういう意味だ? 。あ、これじゃあなんか譽め言葉みたいだ」
クラークの文句を無視してルーンがアレタにを寄せる。
的な、どこか退廃的なが、明るいのようなと重なる。
「ちょ、ちょっと、ルーン近いわ、熱いんだけれど」
「ほーんとお前、きれいだよなあ、52番目。の私からみてもあんたはクールだ。そんなクールなあんたとも軍からの付き合いを考えればもう5年だろ? 私は心配だったんだよ、今まで男の噂がなかったからよー」
「し、心配?」
「そうだよ、あんたがのほうがイケル口なんじゃないかってなあ。いやあ、今日はめでたい日だ、ほんと、あ、マスターおかわりー」
「ルーン、何が言いたいの?」
「あー? 隠すなよ52番目。お前、男できたんだろ? な? 水臭いぜえ、ウチらの仲じゃねーか。お前の口からききたかったんだぜー?」
ルーンが長い腳をアレタの長い腳に絡ませながらつぶやく。怪しいしさを持つと、のようなしさのが絡み合うその景は見ている者の心に焦がれる何かをもたらす。
「な、なんの話よ、ルーン」
アレタが、し言葉を言い淀む。
目を丸くしたのはルーン。ぱっと、アレタから離れてワナワナを震わしたかと思うと、
「へい、ヘイヘイヘイヘイヘイヘイ!! その反応! おいおいおいおいマジかよ52番目! あんたのそんな人間臭い顔初めて見たよ! マスター、祝いだ、この店の今日の會計、私が全部出すよ」
「え? は?」
突然話を振られたカウンターの店主が首を傾げる。
その様子にルーンが舌打ちをする。悪態すら、絵になるだ。
「んだよ、商売下手め。ほら、指定探索者端末だよ。正真正銘のブラックフォンだ。面倒くさいからこの店に先に10萬$振り込んどくから今日は全員無料で飲ませてやんな」
ぷらぷらとの谷間から取り出した黒の端末をいじるルーンの言葉に、店主がかたまる。
ずり下がった眼鏡をかけなおしながらパッド端末を確認し、すぐに口をあんぐり開けた。
「え。は? は、ってる…… 振込名義…… スカイ・ルーン…… 指定探索者の!?」
「だから、最初からそう言ってんじゃないのよ、マスター。金確認できたならほら、さっさと酒を用意してきなよ。足りなかったら探索者組合イギリス支部に請求書おくりな。即日金されるからさ」
言いたいことだけを言っだ後、ルーンが用に丸椅子の上に立ち上がる。
何も大きな聲を発したわけではない、しかし注目が集まった。
「よーう!! 酒飲みの凡人ども! あんたら今日は運が良いよ! おごりだ、この店の酒はぜーんぶ! この私、スカイ ・ルーンと我らが大英帝國の奢りだよ!」
カウンターから振り向きざまによく通る聲でルーンがぶ。
一瞬の沈黙のあと、破裂するような歓聲が轟いた。
「あれ、本の! スカイルーンか?! 指定探索者だ!」
「まじかよ、ケルト十字!!」
「おい、聞いたか? 指定探索者様のおごりだ!!」
「ケルト十字最高! 抱いてくれ!」
「ルーン様、マジ神」
「ははははは、ありがたがれよお、凡人ども!ただし、今日の酒、今日の乾杯はすべてここにおわす我らが52番目の星に捧げるように! 返事はあ?!」
「「「「「はーい!!!!! きゃっほおおおう!!!!」」」」
パブの熱気が二段階ほどあがる。一気に注文が飛びいはじめ、店員たちがてんやわんやとき出す。
「乾杯!! 52番目の星と、ケルト十字の友に!!」
「アメリカ野郎でもアンタのことはしてるぜえ! 52番目の星!!」
「クラークせんせええ! おれだあ! 結婚してくれえ!」
「おれだ! すぐに人員を回してくれ! いいから! 金は払う! それと休みのバイトにも全員連絡れてくれ! 特別ボーナスを出すと伝えろ!」
ぼんやりしてたマスターが顔を変えて人目もはばからず電話を始める。
「はっはっはっは、いやー、やっぱ酒の席はこうじゃないとねえ。……これで私たちの席を盜み聞きしてる連中はいないよ、52番目」
「あ、あなたねえ、はあ、敵わないわ、ルーン」
アレタががくりと肩を落とす。
どうやら盜み聞き対策のためにわざわざあんな真似を本気でしたらしい。そうだ、この年上の友人はいつも本気だ。
「んっでよお、聞かせろよ52番目? あんたのハートを止めたのは誰だ? あのギラギラの大統領か? それともとうとうルイズのアプローチに反応したか? それかそれか、どっかの指定探索者か? あ、そういやハリウッドのセレブっつーパターンもあるよなあ、おい」
ルーンが整った顔に下世話な笑みを浮かべながら、アレタを突っつく。
恐らくアレタ・アシュフィールドにこの絡み方が出來るのは、スカイ ・ルーンだけだ。
「ちょっとルーン。違うわよ、そもそもそんな男だなんて」
ルーンの絡みをアレタが軽くいなす。先ほどの質問でし浮き足立った様子のアレタだが、その返しは冷靜そのものでーー
「あ? もしかしてあのニホン人か?」
目敏く、ルーンが質問を変えた。
「べ、別に、タダヒトは関係ないわ! 何言って、って、何笑ってるの、ルーン!」
途端、スイッチがったように早口になるアレタ、ルーンはその様子をニターっとり付けた笑みでながめる。
「っあー、かっかっか。おいおい、おいおいおいおいおい、52番目。私はニホン人って言っただけだぜえ? そうか、そうか、タダヒト、あー、なるほどねえ、タダヒト・アジヤマ。あの補佐探索者かよ、納得、納得、そりゃお前があんなわがまま通すわけだよ」
「だ、だから、違うってば!! もう! ルーン、そのニヤニヤ顔をやめて。そ、ソフィ、ソフィも何か言ってやってよ!」
「クソビッチ、お前のそういう下世話な話の察しの良さだけは褒めてやる。我らの星は、アジヤマの話題の時だけこんなふうに早口になるんだ」
「ちょ! ソフィ!」
つまらなさそうにズズーっと音を立てながら酒を飲んでいたソフィが吐き捨てるように呟いた。
「はー!! ぎゃっはっはっは! おいおい、こりゃーいいもん見れたなあおい、アレタ! お前、そんな人間みたいに顔赤くしたりするのかよ!」
「あ、赤くなってないわ! もうからかわないで!」
「はっはっはっ、あー、ルイズの野郎も居りゃもっーと面白かったかもなー。アイツが今のアレタ見てどんなツラするのか想像するだけで笑いが止まらねーわ」
「むー、もう知らない」
「おいおいおい、へそ曲げんじゃねえよ、52番目。話聞かせてくれよー。なあ、そもそもあれだぜえ? 私やルイズはお前から補佐探索者のけれの話ける気になってたのによー、ハシゴ外したのはお前だろー? アレタ。かー、々よおー、友人の為に組合とか國の能無し共と段取りしてたのになー。メール1つでやっぱり辭めたとか言われた時はよー」
「む、むむむ、それを言われると、弱いわね…… そこは素直にごめんなさい、ルーン」
「にっひひひ、いいよ、いいよ。アンタと私の仲じゃねえか。そのかわりー、なあ、聞かせてくれよー、タダヒト・アジヤマの事をさー。お前にそんな顔させる男、気にならないわけねーだろうがよー」
「だ、だから、別にタダヒトはそんなんじゃないわよ。ふ、普通の仲間で、良き友人だもの」
「あー? 本當かー? クラーク?」
「業腹だが、アレタはアジヤマと會う時だけ服裝の趣味が違う。どこかの誰かさんのようなの武丸出しの服裝を好むようだけどね」
「ち、ちょっと! ソフィ!」
「んまー、あのアレタ・アシュフィールドにもとうとう春が來たってわけだ。恥ずかしがんなよ、アレター。ダチだろー?」
「は、恥ずかしがってなんかないわ。もうソフィもルーンもなんなのよ」
「なんなのよとはなんなのよ。気になるに決まってるだろ? 何せ、タダヒト・アジヤマといえばよー。銃弾を斬った男なんだからよー」
「……どういう意味かしら?」
ワントーン、アレタの聲から熱が失われた。
その様子を理解していながらも、ルーンは言葉を止めない。
「今更とぼけんじゃねーよ。52番目。お前らが大統領とあの総理の茶番として終わらせたお遊戯會のことだよ。アレ、仕込みじゃないだろ?」
「……さあ、なんのことかしら」
「はっ、顔が恐ろしいぜ、52番目。あの場に居た指定探索者や一部の上級に軍の現場出者は気付いてんよ。タダヒト・アジヤマは本當に銃弾を叩き斬ってるてなあ。あのヒステリックになったクソ大統領。アイツが放ったのは実弾だよ」
「……それで何が知りたいの?」
「んな、コエー顔すんなってよー。……興味が湧くのは仕方ねーだろ? あのアレタ・アシュフィールドがようやく選んだ補佐探索者、そいつはなんと銃弾すら斬るイかれた男だった。私はよ、男好きなんだよ。特にああいうイかれたのがタイプなんだ」
ルーンがアレタの耳元に口を寄せる。
ばらり、2人のの金髪が絡まり合う。
「お前がよー、アレタ。本當にあのニホン人に執著ねーんならよー、本気でくれねーかなっと思っーー」
軽薄に顔を歪めるルーン。その言葉が突如止んだ。
こぽり。
「あーー っ?!! うおっとお?!!!」
ガタン!! 大きく勢をよろめかせてルーンが椅子から転げ落ちる。
その剎那の後、ルーンのグラスにっていた酒が重力を無視して、浮かび上がり、はじけた。
弾けたはその全てが作されているかのようにルーンが座っていた場所へと迸る。
あのままルーンがのけぞっていなければびしょ濡れになっていただろう。
「あら、流石ね。ケルト十字。未來が見えたのかしら」
床に餅をついたルーンを、アレタが煽った。
「……あ、はは。やってくれるねー、52番目の星。嵐の征服者。それがアンタの新しい力ってワケだ。人間辭めるつもりかーい?」
椅子を起こし、ルーンが再びその席に座り直す。し、アレタと距離を取りながら。
「さてね、なんのことかしら。えっと、それでルーン。なんの話をしてたのかしら?」
「へ、へへ。いーや、なんでもないよ。ふん、探索者を休業するって言ってたからよ、腑抜けてると思ったら大違いだ。ああ、アレタ。アンタにはやっぱり、その顔が似合うよ」
「あなたがからかうからよ、ルーン」
「違うね、アンタは私が本気でアンタのものに手を出そうとしてるから怒ったのさ。……偉く気にってるみたいじゃないのよ」
「ふふ、なんの話かしら?」
「とぼけんなよー。さっきのことは謝るからよー。おい。なあ、アレタ、どの辺が気にったんだ? なー、それぐらいいいだろ? 教えろよー」
「もう、ルーン。貴、本當こりないわね…… 」
アレタがため息をつきつつ、し頰を膨らませて長い指でトントンと機を叩き始める。
知らんぷりしながらも全力で耳を傾けているソフィと、ニマニマした笑いを保つルーン。
観念したかのように、アレタが桜のをもご、もご。
頰を薄く染めて、言葉を選ぶようにゆっくりと紡ぐ。
「……馬鹿なのよ、彼。本當に今まで見たことないほど、バカなの」
遠くを眺める瞳のアレタ、その目に思い浮かべるのは1人の男、只の人。
「ほほーん、んで? んで?」
「……弱っちくて、臆病者で、がめつくて、自己中で、いじっぱりなの。……でも、そのたまになんか、すごいのよ」
浮かべる。初めて出會った時のボロボロの姿を。
浮かべる、チームを組んでからの彼の凡庸さを。
浮かべる。彼の、奇妙なことに大きく見える背中を。自分を見つめて、本気で怒ってくれるその栗の瞳を。
「ほう、ほうほうほう!! すごい、すごい、ね。アレタ・アシュフィールドがすごいと來たもんだ。どんな所がだよ、アレタ」
「む、むー。もう、なんか恥ずかしいわ。言っておくけど、あたしが彼を好きとかそんなんじゃないからね。……嬉しかったの。あの時、探索者を休むって決めた時も、彼はあたしの補佐のままでいてくれるって。なんの迷いもなく…… それが、嬉しかったの」
べきり。
木製の機、ソフィが機の端を握り、繊維が悲鳴をあげる。
「うっひょー!! おいおいおい、乙してんじゃねーか、アレタ。他には?! ほら、なんかあるだろうがよー、仕草とか、どの辺が気になるとかよー、私は男の鼠蹊部が好きだけどな」
「し、仕草……? ……そ、その、あのね。笑わない?」
「「笑わない」」
おずおずと呟くアレタに、ソフィとルーンが同時に首を振る。いつのまにかソフィもを乗り出している。
「……にやっ、て笑うの。彼、自分でも気付いてないと思うけど、探索とか、トラブルが起きた時に、ほんと、不細工に、笑うの。……不細工なはずなのに、あたし、その笑いを探してるのかも。つい、目が行っちゃうっていうか……」
アレタは言い終わる、同時に
「あ、あー、やっぱ、なし!! 今のなしよ! 聞かなかっだことにして! 忘れなさい! 忘れて、忘れろ! 忘れましょう!」
ぐびぐびぐひー、殘った酒を一気に呷り、自分の言った事を忘れようとするアレタ。
しかし、ルーンのニヤケヅラに変わりはない。
「いや、めでたい。めでてえよ。ああ、金ばらまいて正解だ。アレタ・アシュフィールドのそんな顔見れたなら満足だ。あー、酒がうめー!!」
グラスを一息でルーンが空にする、煌めく酒が、水滴したたる明なグラスの中で踴る。
「もう、ルーンの馬鹿」
「馬鹿たあ、何よ、バカとは。ふふ、今日は楽しい夜になりそうだねー、舊を溫めようぜえー、なあ、52番目、ついでにクラーク」
「ふん、アレタがいなければお前のような低俗な者と言葉をわすのすら苦痛なだけだよ」
「そんな事言って、ソフィ。なんだかんだ、ルーンが來る飲み會には必ず顔出してくれるわよね」
「なっ!? アレタ、いくらキミでも言って良いことと悪いことがあるよ! そんなのただの偶然さ!」
「ぎゃは! おいおいおい、なんだよ、クラーク。お前、52番目の専屬かと思いきやよー、人で金髪なら誰でもイケンのかー? 今晩は一緒に寢てやろうか?」
やいのやいのと、3人のがしく笑い騒ぐ。
指定探索者、國家に選ばれた現代の英雄。いずれも常軌を逸したアイテム、""に選ばれた特別な存在。
そんな特別な彼たちが、酒場の喧騒をBGMに笑う。互いに愚癡り、互いに嘲り、互いに稱え合う。
奇妙な友がここにある。
3人が、誰からともなくため息をついて杯をかかげる。
示し合わしたように、肩をすくめて、靜かに乾杯した。
騒がしく、それでいて騒がしい夜が進んでいく。
ルーンが、緑の先を揺らしながらアレタをからかう。アレタが時に肩をすくめ、時に冷たい目をしながらそれをけ流す。ソフィがルーンに食って掛かり、アレタがそれを諫める。
洗練されていた。彼たちは確かに友人だった。
會話が続き、杯が乾く。
ふと、本當にふと。
背後のただ酒に揺れる人々、その中の會話がたまたまに、空間の喧騒の合間をうように彼たちに屆いた。
屆いてしまった。
「いやー、それにしてもさっきの! 凄い人だったよな! すれ違ったアジア人! あれは華僑か?」
「なんだよ、お前知らねえの? あれはあめりやのだよ。有名だろ、雨霧っつーチャイニーズだ。あの超高級のお座敷遊びが出來る店の中でも1番のだ、でも2人いた雙子も可かったなー」
「へー! ああ、いいなー。あの男、あんな人を3人も連れてよー! パッとしねえニホン人だったのに!」
ニホン、人。
ふと、アレタのグラスを傾ける手が止まった。
「あ? お前、気づかなかったのか? あのニホン人、最近し、有名な奴だぜ? 星の會見に出てた奴だ。ほら、えーと、なんだったけ? ヤマジ? ヒトナリ? アジカワ?」
「お前もうろ覚えじゃねーか。あー、くそ、なんであんなパッとしねえのがあんな上玉をよー。あめりや、俺も行ってみようかな」
「いや、なんでもよ、あめりやはあれ、基本的には紹介とかじゃないと店出來ないらしいぜ? しかも店してからもの子に気にられないと次に行っても誰も相手してくれねーとか」
近くの席、ルーンが大盤振る舞いを始めた後に店したであろう西洋人の2人組の男がだらだらと管をまく。
ルーンが、ソフィが、気付いた。
アレタ・アシュフィールドから、表が抜け落ちていたことに。
「あ、お、おい? アレタ?」
「あ、アレタ? ど、どこへ?」
ルーンとソフィの言葉も虛しく。
ふらり。
「あー、いいなー、あのニホン人。アジカワ、ヒトヒト」
「いっそし絡んでやってもよかったかもな。テレビで見るよりだいぶ小さかったしよ、あれなら俺でもーー」
「アジヤマ タダヒト」
「「へ?」」
2人の飲んだくれの男たちが怪訝な顔をする、急に2人がけの席に、が現れたから。
そして、怪訝な顔の次には、舌が溢れるようにあんぐりと口を開ける。
彼の顔を知らない、名前も出てこないような人間は、もう現代には存在しないから。
「あ、アレーー…」
「ハァイ、はじめまして。ミスター。ねえ、その話、その人のチャイニーズを連れたニホン人の話、もうしあたしに聞かせてもらってもいいかしら?」
靜かに、告げられるアレタの聲。
その聲に逆らえる人間が何人いるだろう。なくとも飲んだくれたちが逆らうことはなかった。
「うわー、アイツ、アレタのヤツ。ガチハマりじゃねーか。やだねー、慣れしてないはほんと」
「お前も似たようなものだろう。経験は多くても、経験など皆無だろ?」
「……クラーク、それは流石に傷付く」
「む、すまない、言いすぎた。……アレタが怖いからワタシ達は隅っこで飲んでいることにするか」
「だな。哀れな男どもに神々の慈悲があらんことを、だな」
ある日、指定探索者達の夜が過ぎていく。
明るい夜に、彼たちは生きる。
とある凡人がちょうどその頃、雙子にサンドイッチにされながら耳に息を吹きかけられたりしていたのは何も関係のない話だ。
読んで頂きありがとうございます!
宜しければ是非ブクマして続きをご覧ください!
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