《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》147話 英雄VS耳男

ついにここまで進めた。

ふわり、ふわり、味山只人が耳たぶをパラシュートのように靡かせて著地する。

目の前にはふらつきながらも立ち上がりこちらをみている英雄が1人。

「やっと、同じ目線に立てたな、アシュフィールド。気分はどうだァ?」

「げほ、……お腹が痛いわ…… 容赦、ないのね」

「ギャハハハハ、男平等主義者だからなあ。てめえに手加減する理由が見つかんねえんだよ」

首を鳴らしながら嗤う耳男、脂汗を流しながら肩で息をする英雄。

両者の立ち位置は今、れ替わろうとしている。

「…….あたしは、どんなことになろうともあなたを救う、この程度の試練、この程度の痛み、この程度の苦しみ、なんてことはない!」

「……お前、なーんか勘違いしてねえか?」

「え?」

「鼻、額、腹、腕、足、顔面…… ぶっ壊れても死なねえ部分、全てギタギタにする。そう言ったよな? この程度の試練? 痛み? 苦しみ? 笑わせんなよ、くそバカ」

「なにを」

「これからだ。真の試練、真の痛み、真の苦しみはこれからなんだよ。アシュフィールド、また言おう、何度でも言おう」

指を刺す、嗤う、嗤う。

味山は知るよしもない、その姿、その有様はまさに、その歪んだ力、耳男の源泉、"耳の化け"とそっくりで。

「俺がお前をギタギタにする。泣き喚いても、謝っても続ける。さあ、立ち向かってみろ、英雄」

化けとして、味山只人が英雄の前に立ち塞がる。

「………あたしは探索者よ、探し索める者、しいものがあるの、願いがあるの。それを邪魔する化けがいるなら、どうするか。あなたにはわかるわよね」

英雄が腰に手を當てて空を見上げた。

その言葉に耳男が嗤って応える。

「ああ、よおく、知ってる。いやんなるほどな。で、そろそろいいか?」

「ええ、いいわ。……あたしが進む、あたしの願いのために、完璧な世界の為に。タダヒト、あなたが邪魔よ」

「ギャハハハハ!! ああ、なんだよ、アシュフィールド、そんな目も出來たのかよ! ……あ、アシュフィールド、靴紐、溶けてるぞ」

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「え? 靴ひボっ?!!」

クリーンヒット。

目線を一瞬、下に曬した英雄の顔面に、耳男の拳が直撃した。

「ギャハハハハハハハ!! おいおいおいおい! 大丈夫かあ?! 俺が悪者みてえに見えるからよお! 引っ掛かるなよ、こんな単純なことによ!」

「こ、の!! ッあ!!」

「喚いてる場合かよ」

追撃、本気で耳男の力を振るう。倒れているアレタの腹を踏み潰すつもりでスタンピング。

「ッ!! ストーム・ルーラー!!」

「安易に空飛ぼうとしてんじゃねえよ!!」

TIPS€脳 異界"ストーム・ルーラー"侵食27%、使用者アレタ・アシュフィールドから"浮遊"特を簒奪

「な、なんで?!」

「はい、おかえり!!」

ぐらり、と傾き落ちてくるアレタ、それに向かって味山が跳ぶ、け止めるのではなく拳を構えてぶん毆る。

「く、あ?!!」

咄嗟に腕をクロスさせてけ止めるアレタ、自的に風と雨の盾が生まれ衝撃を緩和ーー

「スマッアアアアアアアアアシュゥヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!!ラァアアザアアアアアアア!!」

出來ない。バカのびとともにとんでもない力でアレタが嵐の盾ごと吹き飛ぶ。水切りされた石のように地面をりながら吹き飛んだ。

「が、ハ……!?」

「ぎゃーハッハ!! すげえな、アシュフィールド、今ので死なねえのか?! 割と本気でぶん毆ったんだけどよお?」

「げほ、……殺さないってのは信用しない方が良さそうね」

「だーいじょうぶ、死なねえだろ、お前なら!!」

「あたしは、間違ってない!!」

「あ、そういう話は後でいいんで」

「この!! わからず屋!」

「いや、お前だけはそれを言ってはダメだろ」

「ギャっ?!」

「いいのったな!! おら、もう1発!!」

「こ、の!!」

まだだ。こんなもんじゃない。

味山はどんどんペースを上げていく。右、左、時には上。水溜りを蹴散らし、風を味方につけている味山が高速で移しながら重たい一撃を英雄に浴びせ続ける。

1発目は嵐の壁が英雄を守る、2発目も同じ、3発目、顎を狙って放たれた蹴りも嵐が自的に、でも4発目、間に合わない。

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瞬時にアレタの真上に跳んだ味山の雑なアームハンマーに嵐が対応出來ない、英雄が攻撃を防ごうと構える

「ドラッシャッアアア!!」

その上から思い切り耳男の力任せの攻撃が放たれる。

ゴム毬のように吹き飛ぶ英雄、なんどもなんどもごろごろ転がり、そして倒れた。

「だけど、俺は知ってる。お前は諦めない。くそいじっぱりのバカだからな」

「まだ、よ、タダヒト。まだ、何も終わってない」

味山の言葉通り、ふらつき、傷つき、割れた額からを流しつつ英雄が立ち上がる。

「ああ、だろうな、知ってるよ。隣で嫌というほど思い知らせてきたからな」

その輝きを、味山只人は知っている。

自分にはない人々を照らし、魅せるその輝き。

試練の中で、華やかに確かに、明るくる1番星の明るさを。

TIPS€脳 警告 アレタ・アシュフィールド固定技能の発を確認

TIPS€脳 敵保有技能 一部公開

"英雄"

アレタ・アシュフィールドは英雄だ。'"試練"、"困難"に対して絶大な補正を得ることが出來る

"主人公"

この人は"敗北"しない

"救う者"

何かを救う時にその行に絶大な補正がかかる。

"救出"、"救命"、"救世"に関わる行を行う際、神力の上限がなくなる。

それは祝福の言葉から生まれたアレタ・アシュフィールドの在り方。自分以外の誰かの幸せを最優先するその生き方に人々は輝きを見出す。

しかし、自らの幸せを考えることもしないその在り方、圧倒的な他利しか求めることのないその在り方は歪でもある。

さて、本當にアレタ・アシュフィールドに授けられた言葉は祝福だったのだろうか。

それはどちらかといえばーー

"宿命の戦い"

全ての戦闘において絶大な補正を得る。しかし相手に"凡人"特、"カス"特、"一般人"特などのマイナス技能がある場合、この技能は発しない

"鋼の意思"

この人の"神力"に補正をかける。

アレフチームの幸せの為にアレフチームを手にかける。追い詰められ、考え悩み、煮詰まった人間の持つ鋼の意思、それのなんと厄介なことだろうか

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"嵐の裁定者"

大號級"ストーム・ルーラー"の所持者、そしてそのを完全に支配した者の証。

¥→¥2??が星から簒奪した力の現、アレタ・アシュフィールドはストーム・ルーラーを通じて限定的に、嵐の領域"異界・ストーム・ルーラー"を顕現することが出來る

"高次元移行段階 1"

あまりにも多すぎる報量の集合、人のに許された報量を超え、生的、概念的に次の存在へと変わりかけている。

移行段階の為、"凡人"、"カス"、"一般人"、"人間"、"ホモ・サピエンス"、"人類種"、"信仰者"、"日本人"特への絶対優位権は未だ発現していない。

今はまだーー

"52番目の星"

側で奴らが蠢いている。消化するのが先か、それともーー

「チートすぎてワロタ」

味山がヒントの容を聞いてぼやいた。なんじゃそりゃ。

「あたしは負けない、あたしが救う、そのために」

輝き、星の

それはあの夏に味山只人を救った英雄の在り方。

誰かを救う。はっきりとした理由も拠も背景も、それら全て朧げなまま、しかしそれを使命と認識しているシステムとしての在り方。

それが、英雄、それがアレタ・アシュフィールド。

そののことを味山はよく知っていた。

「さて、こっからが正念場か、來いよ、英雄。最大最強の試練をくれてやらぁ」

「どうして、そこまで……」

「言ってるだろ、てめえが気に食わねえからだ」

味山の言葉にアレタが瞳を震わせる。金の眼がまた、一瞬蒼に戻った。

「ストーム・ルーラー、拡大解釈」

雷。

閃く。西洋において神の力と認識されたその自然現象。

雷霆の主、唯一の神、それらが扱う神の武

雷。

耳男ですら一時的にけなくさせることが出來る嵐が持つ暴力の一面。

英雄の手にそれが傅きーー

「やれるな、鬼裂」

手斧を構える。語りかけるは中に存在する平安最恐。

鬼に墮ちし、選ばれし武人。

TIPS€脳 敵、雷を用いての攻撃を確認。対抗技能検索 人間奇跡【前進】

過去の人間奇跡【前進】から"雷に対抗し得る"存在を検索

発見 1752年 人間奇跡【前進】"ベンジャミン・フランクリン" (雷の正発見)

???年人間奇跡【前進】鬼裂 "雷獣 麒麟" 討伐

「はは、あんたほんと昔ヤンチャしすぎだな、鬼裂」

雷が英雄の手から放たれる、それは神の力。天より降りる問答無用の裁きの力。

しかし

「伝承再生・鬼裂+人間奇跡【前進】」

耳男が手斧を構える。の全ての作権、己の中の鬼へと引き渡す。

耳男、呪われた化けの耳糞を無理やりに暴走させ力づくで抑えて扱う偶然と狂気の産。巨大すぎるその力は味山只人の才覚では十全に扱うことは出來ない。

だが、この存在ならそれが出來る。平安最恐の鬼狩りにして、鬼に墮ちた武人。日の本の闇を見遊山気分で歩んだエンジョイ勢。

鬼裂が、耳男のを扱う。

「ストーム・ルーラー "デイン"」

雷が、神の力を英雄が扱いーー

「かかっ、良いよい。面白いものを見せてくれた禮よ、見せてやろう、凡人探索者。鬼裂の伝説を」

耳男が嗤う。

構えるのは手斧、よく手れされ、しかしかつてその男が振るっていた刀とは趣が相當違うシロモノ。

腰だめに、手斧が構えられる。ハマグリ刃が雨に濡れていた。

遠雷、遙か

音は後から遙々とーー

閃く雷鳴、走る雷迅

驚愕のに目を見開く英雄と、どこか優に嗤う耳男。

「あんた、やっぱすげえなあ」

耳男の嗤いから上品さが消えた。歯を剝き出しにして兇暴に歪んだ笑い方は味山只人のものだ。

「なに、それ…………」

つぶやく英雄、そのあとようやく雷鳴が追いついた。

青白い稲妻が、振り上げた手斧にまとわりつくように。しかしそれも掠れて消えて。

英雄から放たれた雷が、凡人探索者に屆くことはなかった。

「雷切」

耳男が、雷を切った。

「あ、あ……」

ぱしゃり。

英雄の足が一歩、下がり。

ぱしゃ。

耳男の足が一歩、進んだ。

「覚悟はいいよな」

「あ、ああああああああああああ!!?」

アレタの手に嵐がまとわりつく。雨と風と雷が混ざり合い、それが形をなしていく。

「アジヤマ、タダヒトオオオオオ!!」

「ああ、開き直ったてめえが俺も1番怖いよ」

英雄の手に握られたのは槍の形をした嵐。

指定探索者、アレタ・アシュフィールドの本來のスタイル。

あの日、あの夏、味山只人の網に焼け付いている英雄の戦い。

戦列に共に並んだあの槍の切先が今度は自分に向けられる。

「たまに、考えてたことがあるんだよ、アシュフィールド」

アレタ・アシュフィールドが槍を構える。2本の槍、投げやすいサイズ、高速移しつつの中距離戦闘。投槍で相手を削りのちに暖まったで殺傷力の高い近接戦に移る。

アレタの必勝パターン。

振りかぶるは嵐で象られた槍、槍の形をした嵐。

「九千坊を手にれた時、鬼裂を手にれた時、はじまりの火葬車を手にれた時ーー」

そして

「クソ耳の力を手にれた時。思ったんだ」

「アアアアアアアアア!!」

廻る肩甲骨、踏み込む長い腳、神に贔屓されたとデタラメなの起こす奇跡。

嵐の投槍が、その手から放たれた。

「俺とお前、結局どっちが強えんだ、てよ」

しゃがむ、頭スレスレを投槍が通過した。

踏み込む、耳の、耳糞が味山只人のを変えていく。大飛沫を上げながら、耳男が一気にその距離を詰める。

「舐めるな、タダヒト!!」

瞬時、アレタの手に水が溢れるように嵐の槍が備わる。

真橫、ほぼ飛ぶようにアレタがく。いつ投げたかもわからない、また一本投槍が迫っていた。

「おんどりゃああああ!!」

山カンで手斧を振るう、嵐が弾けて飛び散る。

迸る嵐の槍、無造作に、しかし恐ろしき力を持って振われる手斧。

耳男は近づこうとする、英雄は距離を保ち槍を投げ続ける。

跳ぶ英雄、耳男もそれに追い縋ろうと跳ぶ。

「フッ!!」

「おっとォ!! あぶねえ!」

くるくる回りながらアレタのが舞うたびに嵐の槍が耳男を襲う。

右に、左に、力任せに振われる手斧で槍を毆り飛ばして

「そこ!!」

「んぎゃ?!」

大振り、その直後、ついに嵐の槍が味山只人のを突き刺す。

の中で小さな嵐がぜる衝撃、味山の口からが溢れる。

「まだ」

「あ、やべ」

きが鈍る。寒気がした。

瞬時に、腹に2本、槍が突き刺さる。

指定探索者、アレタ・アシュフィールドの狩り、これが本來の英雄の戦い方。

今の味山からしてみれば大味なをぶん回すやり方よりこちらの探索者としてのスタイルのアレタ・アシュフィールドの方がよほど怖い。

「オラ!! ゲッ?!!」

破れかぶれで腹に槍が突き刺さったまま進もうとする。そのきを読んでいたかのように、次は味山の膝に槍が刺さる。

「もうあなたには近づかない、本當に本気で心の底から言うわ。あなたは強い、あなたが怖くて仕方ない」

「ギャハハ、冷靜に人をハリネズミにしていくの方が俺は怖いけど、な!!」

瞬時に、味山が力づくでくのを諦める。

やりを構えて止まったアレタ目掛けて手斧を振りかぶる。

投げ、リスクしかないその行、しかし耳男の力によって投げられるそれはーー

「ーーマジ、か」

ぼん。

振りかぶった直後、肩から先の右腕が吹き飛んだ。完璧なタイミング、全てのきが読まれているかのように槍が味山只人の右腕を攫っていく。

「いつも、見てたもの。貴方は割とすぐに武を投げる癖がある」

「おっと、これまずーー」

ずぱん

次は左足、膝から先が吹き飛ぶ。

脂汗が一気に噴き出る、どうしようもない痛み、し遅れてそれが汚いびへと代わった。

「ッギャァアアア?!! あ、腳いいイイイイイ?!!!」

嵐に響く悲鳴、雨音にそれがさらわれる。噴き出るを嵐が薄めていく。

「その足が無ければもう、前には進めないわよね」

英雄の手に現れる槍。

地力の差がはっきりと出始める、調子を取り戻し、本來の戦いをすれば味山とアレタにはこれほどまでの差がある。

やっぱ、コイツ、強えなあ。

味山がバランスを崩し、まえのめりに倒れ

「まだ、よ」

「ぶ、うえ」

腹、心臓、橫腹、3本の槍が耳男のを貫いた。

視界がぐるり、のけぞってそのまま仰向けに。

ホオオオオオオオオオオオオオオ!?!

空、ストーム・ルーラーを抑えて、嵐の神話に1匹で立ち向かっていた一目蓮、一つ目の竜が他の嵐の神話にタコ毆りにされていた。

馬鹿でかいイカがそのに絡みつき、ちょうちんアンコウみたいな化けがそのに噛み付く。

ひっくり返される、勢いとノリで摑みかけた勝利が離れていく。

びちゃ、びちゃ。

英雄の足音が聞こえる、それは狩りの終わりを告げるトドメの一撃の合図。

「お前、ほんとムカつくくらい強いな」

ぼん。

嵐がぜる。

味山のに突き刺さっていた槍が一斉に破裂。

側から耳男のをバラバラにした。

あ、そういえば、お前の槍、発するんだったわ。

「ぐほ」

だけになった味山が、地面に墮ちた。

の他のパーツは嵐に攫われて片とを撒きながら嵐にながれる。

し開き直られたらこれだ。雷切ったり、嵐を超えたりしてもガチでやり合えばこんなものだ。

英雄、アレタ・アシュフィールド。

「あたしは、負けない、あたしは止まらない。もう決めたの、もう決まったことなの。タダヒト、……ごめんね」

手に握られたのは嵐の槍、仰向けの、だけになった味山只人の元に英雄がトドメを刺しにやってくる。

「ごぼ、……決まったこと、ね」

「…….大丈夫よ、全て終わったらあなたはもう戦わなくていいの。用意してるの、準備してるの、あなたの幸せを。完璧な世界をあなたにあげる。だから、その時までおやすみなさい」

決まったこと。英雄の決定とはつまり世界のルールになるのだろう。

ふと、味山は思う。自らに向けられた槍がトドメとして振り下ろされる直前に思った。

知っている。決められたこと、決まったこと、この世のありとあらゆる法則、システム、ルール。

「…………あ」

それら全てを無視して、好き勝手に暴れる恐(・)ろ(・)し(・)い(・)怪(・)(・)のことを。

「……ほんと、嫌になるな」

また、だ。バベル島防衛戦、東條により負わされた重傷、死ぬ間際、いまわのきわに思い出すのはまたしてもアレだ。

仲間でも、家族でも、友人達のことでもない。

「……いつも、なんで、よりによって、てめえなんだよ」

ごぼ、り。

れた。

薄れる視界、目の前で雨に濡れながら、顔をくしゃくしゃにしながら槍を両手で握り振りかぶる英雄、その槍のきっさきが、カタカタと揺れていた。

違う、味山只人はその英雄のことを見ていなかった。

吹き飛ばされた腕と腳、その他のパーツが風に舞いながらもようやく、くるくると落ちてきていた。

間抜けな絵だった。

自分の(・)(・)がくるくると、落ちてきていた。

「ほんと、なんでいつも死ぬ間際に思い出すのはてめえなんだよ」

賢者は歴史から學び、愚者は経験から學ぶ。

味山只人にあるのは経験。

恐ろしい怪との経験。

「クソ耳」

そして、味山只人は経験から學べる愚者であった。

愚者であることが出來たのだ。

TIPS€脳 人間奇跡【前進】+耳の部位保持者+耳の

TIPS€脳 "耳の"派生 新技能獲得

"耳の軍勢"

TIPS€脳 ……うわ

部(・)位(・)

発想があった。

耳男となって、耳と行った殺し合い。

互いのを引きちぎりながら行った殺し合い。あの時の経験、恐怖の験もしかし、味山只人は糧にする。

「おみみだよ」

「えっ?」

英雄が、空を見上げる。

ぼたぼたぼたぼたぼた。

らかいが、大量に墮ちた。

「ギャハハ、出來ちまった」

嵐の音が消えて。

英雄に吹き飛ばされた味山只人のバラバラになった部位、

片、

ああ、それはなぜだろう。

耳の形をしていて。

「おみみなんだ」「おみみです」「おみみ」

「「「おみみだよ」」」

わらわら。ぼたぼた空から落ちてくる無數のお耳達。短い手足をばたばたしながら起き上がる。

にっこり、耳が歪んだ。

にっこり、耳男も笑った。

「え、なんーー」

英雄のが吹き飛ぶ。

何度も、何度も地面を転がり、ようやく嵐がクッションのように現れてそれにけ止められた。

蹴り飛ばされたのだ。

なにに?

「おみみだよ」

「……ふ、ふざけてるの? タダヒト」

小さな耳の化け、その短い腳に蹴り飛ばされた英雄が、今度こそはっきり笑った。

もう笑うしかないそんな笑い方だった。

「いんや、大真面目だぜ」

「おみみ」「おみみだ」「おみみさ」「おみみよ」

凡人が立ち上がる。

まだ側に殘るカロリー、生きるための力を消費し、新たなるを耳糞が創り続ける。

腕が戻り、腳が戻る。

恐ろしい怪に立ち向かい続け、その報酬にたどり著いた凡人が立ち上がる。

腹からを流す、ぼたり、濡れた地面にが垂れる。

じゅわりと、が膨らみ、何かを形作る。

人間の耳に、こどもの

英雄に飛ばされた腕、足が変化していた。

恐ろしき怪の姿に変わっていく。

「アシュフィールド。あの夏の再現だ、覚えてるよな」

「あ、ハハ。ほんと、笑える」

英雄の顔がたしかに引き攣る。

それは人間の顔だった。

「クソゲーの時間だ。チート

「おみみ!!」

耳男の頭に乗っかっていた一際小さい手乗りサイズのお耳が両手を上げてポーズを決める。

味山只人のから小さなサイズの耳の化け達が生まれた。

「せいれえええええつ!!」

「みみっ!」「おみみ!!」「year!!」

味山の言葉に反応して小さな耳たちが一斉に規則正しく整列する。

寢転んでいたやつ、逆立ちをしていたやつ、他のやつの耳たぶを引きちぎろうとしていたやつ、座禪を組んでいたやつ、ブレイクダンスしていたやつ、盆踴りしていたやつ。

全員一斉に味山の指示に従う。

「「「おみみ!」」」

びしりと一斉に、耳男へ向けて耳が敬禮のポーズを取る。

地獄のような景だった。

「よろしい、本もこんだけ素直だったらな。よし、いくぞ、お前ら、敵は目の前のバカ。ギタギタにしにいく!」

「おみみだ!」「おみみじゃ!」

「タダヒト、やっぱり、馬鹿……なの?」

「やっぱりとか言うな。俺のIQは高い」

腕から生まれたお耳が味山只人にあるものを手渡す。

手斧、投げようとした時に槍で腕ごともぎ取られたそれが再び味山只人の手に戻る。

心地よい重さをじつつ、味山がそれを新たに向けた。

「"耳の軍勢" さあ、立ち向かってみろ、探索の時間だ。指定探索者」

「おみみ!!」

「あ、は。もう、どうにもでなれって、じね」

にやり。味山とおみみ達が笑った。

もうそこからはめちゃくちゃ。

「はあ!!」

英雄の槍が投げられる、そのたびにお耳達がバラバラになる。

だが

「おびっ?! みみみみみみ!!」.

むにょん。バラバラになった瞬間、飛び散った片からまた新たな耳が生まれる。

そのままわちゃわちゃと進む耳の軍勢。

サイズは小さいがそれはまさしく化け

英雄の攻撃をいくら食らおうとも、バラバラになろうとも進み続ける。

前進特を帯びた耳達、英雄にとっては悪夢の景。

「ギャハハハハ!! 進め進めえ! あ、耳1番隊!! 上空の援護だァ! 一つ目ん竜、あれを助けにいけえ!!」

「おみ!!」

複數の耳が、神風に乗って空へと昇っていく。耳たぶを広げて上昇気流に乗る大量のお耳達。

「悪夢かな」

「ええ、ほんとうに!!」

味山がほえーと空を見上げて、呑気につぶやく。アレタが大汗を流しながら耳へと槍を投げながらんだ。

空には耳、一目蓮とともに嵐の神話に襲いかかる。悪夢のように神話の存在達が小さなお耳達にバラバラにされていく。

そして地にはお耳。じわり、じわり。英雄が嵐の槍とで対抗するも徐々に、周りを囲まれていく。

もうここは、嵐の異界ではない。英雄の世界ではなくなった。

「ギャハハ」

「あっ」

「耳男を隠すなら耳ん中ってなあ!! らしくねえぜえ、アシュフィールドオ!」

IQが2くらいの言葉をびながら味山があっけなくたどり著いた。

耳男のデザインが奇しくも、耳の軍勢の中でのカモフラージュになっていた。

「ほんっと、バカね! あなた!」

アレタからすれば悪夢だろう。

「バカっていう方がバカなんですうううう!!」

その悪夢が笑う。

耳男が、耳の軍勢から飛び出した。

「こ、の!」

英雄の容赦ない一撃、槍が閃く、嵐の切先が味山を捉えてーー

「せんせえ!!」

味山只人の才覚ではあり得ないき、膝を抜き一瞬で地を這うかの如くり避ける。

「ふ!」

英雄の判斷は早い。耳男となった味山との接近戦は余程嫌なのだろう。嵐を纏い、一瞬で後退ーー

「は?」

目を剝く。

味山只人が手につかみ、振りかぶっているものを見て英雄の目がまた、一瞬、青に戻った。

「てめえのパクリだ、投槍じゃなくて、投げ耳だけどなあ!!」

「おみみ!!?」

振りかぶるのは小さな耳、オーバースロー、雑な投げ方、しかし、それは耳の大力を持って投げられる。

「おみみみみみみみみみみみ!!」

味山に捕まれていた小さなお耳が戸っていたのは一瞬、投げられた瞬間、ノリノリで小さなおててをクラスさせて構える。

「は?」

アレタは今度は反応出來なかった、あまりにも馬鹿すぎるその行に、一瞬きが止まってーー

「おみみんぐくろすちょっぶ!」

直撃。

小さなお耳のフライングクロスチョップが、嵐を纏って退がるアレタに追いついた。

「あっ?!!」

勢が崩れる、小さなお耳をそれでも蹴り飛ばし、地面に著地して

「よう、お疲れさん」

「はやーー」

それでも、やはり英雄は速い。

嵐が足元に渦巻く。

味山は神風を味方につけた、しかしアレタは嵐を支配している。

その命令の方がとても夙く。

どん。

味山が、何かを踏みつけた。

アレタのには屆かない、しかしその瞬間、アレタ・アシュフィールドが勢を大きく崩した。

「なん、で」

大きく目を開けて、アレタがぼそり。

呟きながら味山の方へこけた。

「言ったよな、靴紐、解けてるって」

「あ」

踏み締めていたのはアレタのブーツの靴紐。

それを耳男の軍用ブーツが強く踏み締めて。

「うそじゃ、なかったのね」

「正直者だからな」

諦めたように、笑うアレタ。花が散り際に笑うのならこんな顔。

歯を剝き出しにして汚く笑う味山。バチバチに酔った人間のなんと醜く、そして剝き出しな事だろう。

振りかぶるのは、凡人の拳。

つよく、つよく、握り締められたそれがついに。

「鼻ァ、食いしばっとけ」

「ほんと、バカね、あなっーーー んガっ!!??」

英雄の顔面に食い込んだ。

綺麗な顔、整った鼻、それに耳男の拳がついに。

「こんの、クソボケがああああああああ!!」

「ァ!??」

振り抜いた拳、吹き飛ぶ英雄。

ぼきり。

鼻が折れ、骨が砕けた。

なんども、なんども、濡れた地面を跳ね転がり吹き飛んでいく。

もう、英雄は立ち上がらない。うつ伏せのまま、かない。

嵐の中、立っているのは

「おみみだよ」

耳の軍勢

そして

「イヨッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアゴラァアア!! チバッ!シガッ!サガ!! ン気持ちイイイイイ!! ギャーハッハッハ!!」

の顔をマジで容赦なく毆り抜き、テンションおかしくなったまま高笑いする耳男だけだった。

……

ああ、ようやく。

折れたのね、わたし。

いいわ、それでいいの。

ひどいね、の子の顔を毆るなんて。

やっぱり、あれはあなたなんかじゃないね。

もう、いらないわよね。

………

……

篝火。

夕焼けの中、火の影が揺らめいた。

ここには溫い風が吹き続ける。丘の下には寺のような建、夕日がそれを照らし鈍く瓦が輝いていた。

「時は來た」

「我らが最前はついに、ついにたどり著いた」

「戦うべき時を誤らず、託すべき者に託し、容赦なく、呵責なく、ここにたどり著いた」

「全ての條件は達された、さあ、さあ、時は來た。逆襲の時だ」

「決まりきった敗北を覆す時がきたのだ」

「さあ、中斷していたものを再開しよう」

ガス男が、墓場に語る。

夕焼けに照らされてらてらと輝く墓石。

篝火が揺れ、そして、どこかで、石が砕ける音が響いた。

「さあ、行こう。數多の敗者達、そして、最後に必ず笑うべき者達よ」

「そして、始めよう、そして終わらせよう。我々のーー」

がらり。

どこかで、また、石がーー

墓石が砕ける音がした。

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