《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》151話 約定をここにーー

「凡人、ソロ……?」

「ああ、そうとも。夏だ、耳との遭遇戦だ。君はあの恐ろしき部位の化けを相手どり、生き殘り、英雄の助力を得て撃退に功した。素晴らしい戦果だ」

ガス男がまた何か言い始めた。

「だが、君にあらためて問おう。味山只人、アレタ・アシュフィールドとの合流、沈殿現象に巻き込まれら前、君は果たしてどうやって生き延びた?」

「……………….あ?」

頭が痛む。空気が止まる。

まるで世界で今いているのは自分とガス男、いや墓石の男だけではないかと錯覚した。

「"耳の部位保持者"、味山只人。君は忘れているんだ、君の持つもう一つの部位、たしかにわされたその約定を」

「奴の目的と君の願いは一致した。我々にとっても、奴にとっても"彼たち"は超えるべき試練だ。これは君の知らない君と奴が畫策していた流れだ」

「奴………?」

「君の忘れている小賢しい化け、"耳"と同じ腑分けされた部位、その名前はーー」

TIPS€ 継き木された右腕

その翡翠をもつものは+¥3これは、味山只人が夏の耳戦¥11☆2¥1→→→→→→¥¥☆1

「おお、なんかバグってんぞ」

「ああ、大丈夫さ。よく、耳を澄ますといい」

音が聞こえた。

底の見えない深い谷底、見えないのにきっと何かがいる、そんな谷底から響くような聲だった。

*TIPS* なかなかの、ものだった。

「あ?」

ヒントが語りかけてきた。そう、今思えばたまにこれは顔を出していた。

普段は無機質で殘酷な事実だけを伝えてくる耳が拾うヒント、TIPS。それがたまに見せる、人格のようなーー

*TIPS* 私の探索者、私の共犯者。人間風にしては上出來だ。

あの忌々しいの再現者、あのタンカスよりも下劣で腹立たしい厄介なカスどもをここまでよく引き摺り出した。

箱庭の底に辿り著き、世界を殺した甲斐があったではないか。

明日をむ人々を、絶の底に叩き落とした甲斐が有ったじゃないか。

いいだろう、約束通りあの夏の報酬を再び、貸してやる。

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栄に思え、我が権能、我がヒスイの輝きこそが"某"に最も近く素晴らしいものであることを示してやろう。

あの醜い"耳"なんぞよりも、私のほうが優れていることを証明してやろう。

奈落にて、貴様を待つ。

せいぜい足掻け、凡人探索者。

「……な、んだ、これ。いつものヒントと……」

「ああ、聞こえたのかい? 相変わらず小が抜けない奴だろう。だが、あれはあれで君のことを買っている。君の知らない君の語の中で、既にあの化けと君は手を組んでいるのだから」

何を言ってるのかいまいちわからない話し方、コイツはいつもそんな話ばかりだ。

味山の知らないことを沢山知っているのだろう。ガス男はそれを決して説明しようとはしない。

なのに

「夏…… 耳……」

冷や汗、ヒントの聲、それはどこかで聞いた覚えがあるような地の底から響く嫌な聲だ。

「今、この瞬間だけの奇跡、人間奇跡、耳男、神の殘り滓、君は全ての武裝を使い潰した。だが、まだ殘っているんだ、君の忘れた部位の力が」

ガス男の聲が遠く聞こえる。妙に右腕が、痛む。

よく燃える、ジャワの火が異様につきやすい右腕。

「あ……」

目眩とともに、視界が歪む。見つめていた右腕が、一瞬、"木"でできているような錯覚に陥った。

TIPS€ 條件達 *夏の出來事にれる*

技能解明

"継ぎ木された右腕"

お前の右腕はよく燃える。

【腑分けされた部位"腕"】の権能により生やされた木を原材料にして造られた右腕。

それは今の味山只人がもう覚えていないひと夏の戦いの名譽の負傷、その思い出。

思い出す必要はない、ただ言葉にするだけでいい。

ああ、"腕"の共犯者よ、我が翡翠の輝きは貴様と共にあるのだから。

「言え」

TIPS* 言え

消えたわけじゃない、忘れているだけだ。私の力、お前の道、世界を相手に戦った我らの報酬を

ーータダ、お前なーんか、中距離…… 斧が獲のくせに距離取って戦う時の方が妙にきいいっすね

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いつだったか、戦闘の天才に指摘された妙な癖。語りかけてくるヒント、ガス男の言葉。

脂汗とともに、味山の脳を駆け巡る存在していた記憶、齟齬のある記憶。

「……俺、どうやって、クソ耳から生き延びたんだ?」

"耳"の耳クソは勿論、神の殘り滓もあの時はなかった。

あるのは手斧、市販の探索者道。それでどうやって?

今まで不思議なくらいに気にならなかった違和がついに形になって現れる。

その言葉。

ふと。見上げる。

ガス男が、手のひらをむけていた。黒い黒い手のひら。

味山の目に、ガス男の姿が映り込み、離れない。

「確かに、君から君へ」

そのてのひらから、また何かこぼれ落ちる。

霞んだ緑の何か、すぐに崩れて、味山のに染み込んで行って消える。

「未だ殘る奴と君との縁。ここは中庭。ダンジョンの深底に最も近く、最も遠く、どこにもあってどこにもない特別な場所。繋がる筈だ、奴が世界の奧底で楔となっていたとしても。さあ、味山只人、あの夏を再び再現する時がきた」

ガス男が味山にゆっくり語りかける。

のないその顔がそれでも、確かに、笑ったような。

「得意だろう? 恐ろしい化けを相手にするのは」

ガス男が笑った、たしかに笑った。

味山は何もわからない、何も覚えていない。なのに

どうしようもなく早鐘を打つ心臓だけがうるさくて。

「見てごらん、空を」

空。

ソフィ・M・クラークが飛んでいた。背中から生やしたの羽が煌めいて。

「……アイツ、ほんと、當たり前に飛びやがって」

「耳を澄ませてごらん。ソフィの聲を聞いて。君がわした言葉を思い出す時だ」

つぶやき?

味山の疑問よりも先によく聞こえる耳がソフィの呟きを拾った。

「ーーを、ここに」

ソフィの言葉が、聞こえた。

「ーーおお」

熱がたまる。がその熱にうめいた。

味山のが知らず、その言葉を紡ぐ。

ソフィの言葉と重なるように、言葉が紡がれた。

それは、味山の知らない、もう覚えていない夏の出來事。

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「やく、じょう……」

知らない、知らない、知らない言葉。しかしーー

たしかにわした、小賢しい化け、目的が一致しただけのいずれ殺し合う運命にある化け

「を、……に」

味山は戸う。自分のを割り、を震わせるこの言葉に。

「そうだ、あの夏も、君の逆襲はその"言葉"から始まった」

ガス男の言葉が終わる。

影達の背中を見つめ、彼らを見送り、味山只人が、無意識に右手を突き出すように構えた。

その言葉を、味山只人は確かに知っていた。消えることはなかったのだ。

確かにわした小賢しい化けとのーー

「約定を、ここに」

り落ちるは言葉。

存在していた記憶、消えた夏の思い出はしかし、今、凡人ソロ探索者(味山只人)から凡人探索者(味山只人)へ

された語を再現するのは"腕"の翡翠の擔い手なり」

味山がつぶやく。止まらない。ジワジワと響くセミの聲だけが世界を埋め盡くしていく。

された語は示す、"某"がした偉業はまさに人類の業なりて」

「"某"はまずはじめにその"腕"にて木々を薙ぎ倒した」

高揚していた。

「それは木々を尖らせるもの、木々を手繰るもの、木々を尖らせるもの、木々を焚べるもの。"某"は腕によって木をり、それをあらゆるものとして扱った」

影達、その中の數人が立ち止まり振り向く。

「神の作りたもうた星の自然、その不可侵は"腕"の業により終わりを告げた」

味山の足元、地面が蠢く。世界に潛むものの権能が"中庭"に屆く

足元から、生えた。茶く、太く、しなり、蠢き、よじれて、びる。

「某はその業により、人の傲慢を広げた。ここに人は道を用いて他者を害することを覚えた」

木の、尖った木のが味山只人に侍る。

「世界を侵せ、他者を害せ」

ああ、歪にそのがつり上がる。

その力に酔う顔だけで全てがわかる。

この男、味山只人は決して善人ではないことが。

「樹心限界」

背後、地面が割れて、現れるのは木の瀑布。尖った木、ねじれた木、蛇のようにうねりのたうつ木。

よく似た力、あの指定探索者の"黒い森"と決定的に違うのはそのおぞましさ。

森、そのものを顕現させるあの號級とは違い、味山只人が喚んだもののなんとおぞましいことか。

それは全て尖っている。生命の皮を破り、を貫き、臓を殺せるように。

「……それは、なんだい、ほんとに」

「ははは、あのやろー、マジで退屈させねーっすね」

ソフィとグレンが振り返り、呆れた聲をあげた。

ぺなり。

ギャハハハハハハハハハハハ、ギャハハハハハ、ギャハハハハハハハハハハハハハハ!!

「うわ」

一斉に、木が笑い始める。木のにぐちりと浮き上がるのは口、口、口。

人の口だ。笑顔の形につり上がった口が木のの表面にうかびあがり、舌を巻いて歯を剝き出し、笑い続ける。

「君の果さ。さあ、世界に挑んだ大罪の力、見せてもらおうじゃあないかい」

に覚えがねーって」

『"腕"? まさか、ソイツは消したはず、夏に私達が確かに消していたはず!! 何を、どうやって?!』

「言ったろう、彼は全てを壊して全てを欺いた。この場に必要なピースは全て揃った。我々、アレフチーム、腑分けされた部位、そして、味山只人」

「さあ、終わるんだ。始まった語は必ず終わらせなければならない」

『いやだ、認めない、認めてなるもんか!! 終わらない、私たちは終わらない!! 私たちだけが終わるなんて許されない!』

「それを決めるのはお前じゃない、彼らだよ」

「おい、どうでもいいから、アレタを返せよ」

ソフィ、の羽とっか。"眼"の力によりかつてのの模倣を可能とする部位保持者の散弾銃が輝く。

狀に銃口から放たれたの弾が、巨人のほおを抉る。

『ギャァアアア!? そ、フイイイイ!! なんで、なんでええええ、私を』

「お前なんか、知らないさ」

『アアアアアア!!!』

巨人の手のひらが空を飛ぶソフィに迫る。ハエをはらうかのような一撃。

「おっと、センセ!! 危ねえって!!」

ジェット機のような勢いで、グレン・ウォーカー、星雲の墮とし仔の力により黒いの翼を生やした共生がソフィを攫い、手のひらの一撃を躱す。

「む、ナイスだグレン。どうにも空を飛ぶのは慣れなくてね。この片羽だとなおさらだよ」

『グレン、グレングレン、あなたも、あなたも私の邪魔をするのね、あなたも敵なのね』

「俺はセンセの味方なんで、俺の敵はセンセが決めるんすよ、てか、そもそもアンタ誰っすか?」

『………もういい、いらない。お前達は私私私私私私私私私私私私私私のアレフチームじゃないんだ』

『もう、いらない』

の巨人、神に限りなく近い報とエネルギーの塊が探索者達を睨みつけた。

「……チッ」

「うわ、なんかやば」

英雄、それに類いする選ばれし者であるソフィとグレンをしても、それはを震え上がらせて直させる神威をもっていて

「行けええええええええ!! 突撃じゃああああああ!!!」

ギャハハハハハ、ギャハハハハハギャハハハハハギャハハハハハ!!

その神威を、下品な笑い聲が塗りつぶした。

それは悪夢のような景だった。

味山只人の笑う木のがねじれて、一気にびる。太いその木のに幾人もの敗北した凡人探索者達の影がとりつき、運ばれる。

「なんだこれなんだこれなんだこれ!!? マジで思うままにくぞ!? やべえ、なんかだんだん面白くなってきた!」

『ひ……』

木のが白い巨人に一斉におそいかかる。大量の大きな蛇が獲に絡むかのようなおぞましい絵。

「…………………」

影達が、木のから飛び降り空に浮く巨人のに飛び乗る。それぞれの獲を巨人のに突き刺す。

夕焼けがさらに強く、影達を照らす。

影からびた影法師からさらにまた新たな影達が生まれていく。

それは敗北したもの、それは終わりをれたもの、それは、それでもこの時を待ち続けたもの達。

『あ、やめ、やめて、やめてやめてやめて、サキヒト、クルヒトミヒトスケヒトマナヒトタテヒトカジヒトアラヒトフクヒトタケヒトリュウヒトシンヒトアカヒトアオヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒト、やめてやめてやめて!! あなた達が、私を、!? なんでえええええ!?』

「………………」

巨人がをよじる。影達がそので出來た巨人のを傷つけるたびに巨人が苦悶の聲を上げ続ける。

頭を抱え、を丸めるその姿は苦悩する人間そのままで。

「隙ありだ、化け

味山が指を鳴らす。

味山只人に容赦はない。敵にどんな想いが、背景があろうと関係ない。

気分が良い、ものすごく。この木を扱える理由も、この木がどこから來ているものかもまったくわからない。

それでも意のままにくこの力は非常に、味山只人によく馴染んでいた。

「締め殺せ、樹心限界」

ギャハハハハハハハハハハハハハハ!!

ゲラゲラ笑う木の、束が固まり、大きな一つへ。

蛇が獲に巻きつくようにの巨人のを締め上げる。

『うで、うで、うでうでで!! 小賢しい敗北者、耳に劣る下劣な部位ごときがああああ!!?』

「クラァアアク! グレエエエエン!! なんか1発いいのねえのか!?」

味山がを震わせる。に、木のじている圧力をじる。こめかみの管がプシっと、軋んだ。

「まったく、本當にキミはデタラメだな、好き勝手言いやがってさ」

「タダ、お前も2度と俺らの力のビジュアルに文句言う権利ねーっすから。耳男に、笑う木のって。お前だけ完全に怪人じゃねーか」

「ぐ、ぎぎぎ!! うるせええ! どっこいどっこいだろうが!! こいつをこのまま締め殺してやりたいところだが、き抑えるので一杯だ! クラーク!! お前、なんか切り札みてえのないのかよ!!」

「はあ、本當にアジヤマ、キミはなんというかノリで生きているというか、ノリしかないというか。切り札だって? そんなもの…… あるに決まってるだろう」

ソフィが額を抑え、ため息をつく。

見開かれた瞳、赤い眼。

そしていつも前髪からはみ出ている戦闘用の遠義眼がる。

隣で浮くグレンをソフィが見つめた。

「グレン、支えておいてくれないか」

「ええ、勿論」

空を舞う2人、グレンがソフィの背中に立ち、そのを支える。黒い大きな翼が、2人を包むように。

「センセ、この片方だけの羽、微妙に邪魔なんすけど」

「うるさいよ、我慢しておくれ」

2人が、そして上へ。

味山只人の、いや、腑分けされた部位"腕"の木のにより縛られてきを封じられている白き巨人の真上へ移する。

そして、ソフィの言葉が紡がれる。

ぐちり、ソフィの白い額が割れる。

ぎょろり、そこから覗くのは"眼"だ。茶の瞳がソフィの額を割って世界を見回した。

「約定をここにーー」

それはソフィ・M・クラークが翼持つ大蛇との絶の戦いの中に見出した部位。

された景を再現する」

「某のした偉業はまさに人の業なりて」

その部位には今も焼けついている。輝く"彼"の煌めきが。

「某はしかして、""と共に在り、そして""と別たれる道を選んだ。永遠の安寧よりも、人としての終わりをんだ。それでも、その眼に焼き盡くは消えず」

その部位は再現する、在りし日の"某"が目撃し、記憶していた"彼"のを。

「別れと終焉、別れと絶、その法則は"眼"の業により潰えた。例え別れようとも、例え終わろうとも、人は思い出を抱えることが出來ると」

ソフィの足元に、が。

それは弓、それは矢。

誰がつがえることもなく、弓に矢が備わり、その時を待つ。

「消し飛べ」

『あ、ソーー」

「剝離景」

の矢が、真下に、白き巨人に放たれた。

音もなく。

矢が巨人に吸い込まれるように放たれ、大きなが巨人を包んだ。

ボールのような、そこからはみ出た巨人の腕が苦しそうにバタバタと蠢き、そしてだらりと垂れ下がる。

「やっーー」

つい味山はやったか?! と言ってしまいそうになるのを我慢する。今こんなところでそんなフラグを

「「やったか?!!」」

すうっと、空から降りてきた2人、ソフィとグレンが味山の隣にぐいっと現れる。

「馬鹿!!! お前ら!!」

揃ってそのセリフを口にしたソフィとグレンに味山が目を向いて唾を飛ばす。

「な、なんすか、バカが人のことバカとか言うもんじゃないすよ」

「アジヤマ、人のことをバカと言ってもキミのバカは治らないしなすりつけることも出來ないんだよ?」

「うるっせえ! バカ! お前らなんでそのセリフをそんな簡単に言っちゃうの!」

「何をそんなに」

TIPS€ 警告ーー

「はい知ってましたあああ!! 樹心限界!! 俺らを守れ!!」

「あ?」

「お?」

味山の反応は早かった。

地面から現れた太い木のが一気に巻かれながら現れ、味山達をドームのように包み込む。

白い巨人から、圧倒的な津波の如きが放たれるのはその直後だった。

「う、ぎゃああああ?! なんぞ、熱い、熱ううううう?!」

*TIPS* 雑な使い方をするからだ。しは私の痛みを知れ、愚かな人間

「てめ、くそ、なんかわかんねえけどお前らしい気がする、ぎゃ、ははは。お前、誰だ」

*TIPS* ……………ふん、本當に忘れているのだな。

「これは、アジヤマ…… 本當になんだい?」

「さあ?! ついに俺の隠された力が解放されたんじゃねえの?」

「……ふうん、なるほど。"腕"か。耳といい、神の殘り滓といい、妙なものと縁があるね、キミは」

「お前何が見えてんの?!」

「……我々には話し合うべきことがたくさんあるようだね、アジヤマ。……死ぬなよ、ワタシはまだキミとたくさん話していたいから」

「……お前もな」

ぎ、ぎぎ。

樹心限界で作られたドームが開いていく。

津波の、圧倒的な力、熱量で溶けかけ、焼け爛れた木の樹皮の香りが漂う。

嗚呼、眼前にはソフィの攻撃から抜け出したらしい白き巨人が完全に、ストームルーラーから這い出ていた。

「キモいな」

その姿は哀れ。

未完、一目でわかる。溶けかけの4対の翼、の空いたの上半、そしてグズグスに溶けてイモムシのようになっている下半

それが空に浮かんでいる。化け、その名前がほんとによく似合う。

夕焼けに照らされる地面にはいつのまにか嵐で攫われたはずの花が復活していた。

花畑の中に、で焼かれた影たちが倒れ伏し、かない。

手向けの花が、風にそよいだ。

『ア、アアアアアアアアア、私は負けない、私は終わらない、私たちに終わりはない、私たちだけが終わってなる、ものか』

TIPS€ 敵報更新

【52番目の星・神

それは未完だ。中にいる"嵐の英雄"がそれの完を阻んでいる。

それは群であり個だ。しかし群を構するうちの半分の52番目の星達が迷い始めている。懐かしき"影たち"に思い出の香りを見出した故に。

それは"神殺し"の兵への被特攻を被る。

それは限りなく神に近く、しかし脆い。上半は完したが、下半は遂に嵐の抵抗に遭い崩れている。

それは

殺せる

「それだけ聞ければ充分だ」

「アジヤマ、ワタシも……チッ、頭が……」

「センセ?!」

ふらつくソフィをグレンが抱き止める。

「いいや、ソフィ、キミとグレンにはここでやるべき事がある。前線は我々と味山只人が向かおう」

ガス男の言葉、ソフィがじっと、ガス男を見つめる。ガス男も黙ってソフィを見つめていた。

そしてしばらくして、ソフィが諦めたように頷く。

「……アジヤマ、これを」

ソフィが背中にぶら下げていたものを味山に投げ渡す。

「おっと、いいのかよ、クラーク」

キャッチしたそれは、散弾銃。黒塗りされたソフィ・M・クラークの武裝だ。

「使い方はわかるだろう? マスターキーだ。どんな頑固ものが締めた鍵もソイツなら一撃て吹き飛ばせる」

「ぎゃはは、お前、やっぱバカだろ。……そっちは任せた」

味山がショットガンを肩に擔ぐ。

溶けかけのドームから一歩、花畑へと歩みを進める。

「味山只人、アレタ・アシュフィールドを取り戻せ。アレフチームを全員揃えてくれ、あとは私がやる」

「おう」

背中にガス男の言葉をけ、また花を味山が踏みしめる。ぎゅ、ぎゅっ。しっかり、進む。

眼前、に焼かれ倒れ盡くしている影たち、がその影を蝕み、影たちが溶けていく。

「行く」

味山が進む。眼前上空、崩れかけの神を見上げ、ゆっくり花畑を歩む。

「起きろ、置いてくぞ」

語りかけるのは、辺りに倒れている影たちへ。

「俺が立ち上がれたんだ、俺があきらめなかった、俺が進んだ、俺がたどり著いた。なら、答えは簡単だ」

倒れてかず、溶け始めている影たちに味山が言葉を向ける。

「お前らだって、立ち上がる。お前らだって諦めない、お前らが進む、お前らがたどり著く」

「俺たち全員で、証明する! 見せるぞ! 凡人ども!!」

その聲、汚く、が枯れるほどに響く雄び。

影たちが、蠢く。

1人、また1人。

に焼かれ、それでも、立ち上がり始める。

そうだ、味山只人がそうしてきたように、彼らだってそうしてきた。

傷付き、負けて、打ちのめされ、それでも常に立ち上がった。

「ああ、我らが最善、我らが最前。ありがとう」

ガス男が、靜かにつぶやいた。それは味山には聞こえない言葉。

味山が空いた手で、手斧を構える、影達も同時にそれぞれの武を構える。

凡人探索者達が、歩む。

最前には手斧と、ショットガンを擔いだ味山只人、その後ろを、橫を、影たちが立ち上がり行進する。

1人、2人、3人、味山只人が進むたび、に焼かれて倒れていた影たちが復活していく。

最前の凡人が、數多の凡人たちを引き上げる。

進め、進め、進め。

もう負けることは許されない、止まることも、諦めることもない。

「ぶっ殺す」

【●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●!!!】

味山のびに、影たちがんだ。

一気に走り始める無數の凡人たち、味山只人がその最前。

『あ、ああああ、ああああああああ、やめろやめろ、あなた達が、そんな目で私をををををををををんんんんんん??!、』

がたわむ。

白い巨人が芋蟲のような下半を揺わせながら空を泳ぐ。

そして、輝いた。

「うお」

が降り注ぐ。その溶けかけの4対の翼から一條のがいくつも、いくつも地に降り注ぐ。

先頭の味山目掛けて、流星の如きがーー

【……………!!!】

影、飛ぶ。

大太刀を構えた影が味山に迫るそのを斬り弾く。

一つ、2つ、しかし、3つ、続けて振り降りるに影は対応出來ない。

瞬く間にその闇を貫かれ、空中にぶらり。

「お前っ!?」

味山の足が一瞬止まって

「進め!! 味山只人!! 振り返るな!!」

ガス男のびが背中を打つ、止まりかけた足が進んでいく。

「ッ!! クソ!!」

味山が更に進む。

その背後、空中でに貫かれた影、"山原先人"が指を空に、前へ刺しながら消えていく。

TIPS€ 【墓¥石の男たち人&#_者】 "山原先人"消滅

その表の見えない顔に、ふと浮かんだものはもう誰も知らない。

が、また。味山を狙う。

【………】

座禪を組み、逆さまに浮かぶ影がけ止める。

何條にも重なる、座禪の男の周りに浮かび上がる影の矢がを撃ち落とす。

1つ、2つ、3つ、4つ。

「……っ、すまん!!」

味山の目の前で、座禪の影が力盡きる。5つ目のの條に貫かれ蝕まれ、溶けていく。

進む味山、その背中を見つめた影、いいや、"木手 滝人"が前を指さす。

その姿を味山がみることはもう無い。

TIPS€ 【墓凡の€¥探男達#】 "木手滝人" 消滅

影が味山を庇う。庇い続ける。

影たち、"墓石の男たち"が、凡人探索者をたどり著かせる為にその存在を燃やし盡くしていく。

彼らなしでは、味山はすぐにに貫かれて消えていただろう。しかし、そうはならない。

「まだ、まだゆく!! まだだ!!」

影、二振りのナイフを構えた影が味山に迫るを弾く。舞うように空をかけ、き寄せ、味山から注意を逸らす。

1つ、2つ、ダメだ。に貫かれてまた、影が消えていく。

TIPS€ 【凡人石→☆1¥の男者】"武川人" 消滅

「ッ、まだ!!」

味山は止まらない。影たちと共に花を踏み潰し、地面を蹴って走り進む。

が瞬く、その度に影達が姿を消していく。皆が、最前の味山只人を庇い続ける。

味山只人は決して振り返らない。

影たちは皆、全員、消える間際に指を指す。

前へ、前へ、前へ。

味山只人に振り返ることを許さない。

『消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消え消える消える!! あああははははははは!! そう、消えろ! 私達には敗北が相応しいのよ!』

「アシュフィールドの聲でバカな事言ってんじゃねえ! 化け!!」

地を這うように一條のが味山に迫る。

速すぎる、鬼裂に作を渡す暇すらーー

どん。

「あ」

【……………】

影、肩に大きな大きな槌を構えた影が、味山に當たり、から味山を逃がす。

振りかぶる大槌、とぶつかり、破裂する。

影が、溶ける。消えていく。

「っ、ああ、分かった、わかってる!! 進むさ、進んでやる!!」

溶けかけ、消えていく影、しかし、また彼も指を前に、前に。

TIPS€ 【凡人探索者】 "花谷茂人" 消滅

「クソ、クソ、クソ!!」

味山が、進む。

墓石の男たち、いや、"凡人探索者"たちがおのれの存在を懸けてそれでも、凡人探索者を前へ進める。

TIPS€【凡人探索者】"谷龍人" 消滅

TIPS€【凡人探索者】"風間浦人"消滅

彼らが消えるたびに示される道。

に貫かれ消えながら、溶けながらも前を指すその指先はたしかに味山只人へ託される。

前へ。

その意思、彼らがたどり著けなかった結末、彼らが伝えられなかった言葉、彼らが取り戻せなかった未來。

「俺が、ぜんぶ算する…… 俺が!!」

味山只人に全て、託される。

死者から志を引き継ぎ、例え個が死してもそれを終わりとはしない。

人間のみに許された概念、継承。味山只人が振り返らず、それでも確かに彼らから志をけ継ぎ走る。

『あ、アアアアア?! く、來るな、來るなあああ!! なんで、止まらない?! なんで、進める?! なんで、消えるのが、終わるのが怖くないの?! おかしい、おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!!』

『あんまりじゃない、こんな終わり、あんまりじゃない、こんな報われない語、ああああああ、あなたが消える、あなた達が終わっていく!! なんで、なんでなんでこうなってるの?! 私、私私私私私私私は?!』

「死んでも、死なねえ。死んでも、終わりじゃねえ。俺が、生きて、いて、進む限り!! 何も悲劇じゃねえ! てめえが決めんな!! 化け!」

『あああああああ!!! うるさあああい!! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!! ずるい、ずるいずるいずるいずるいずるい!! お前達ばかり! この子ばかり!! なんでお前達は諦めないの?! 私の時は諦めたのに!! 私の時は忘れたくせに! 私の時は助けにきてくれなかったのに!! あああああああああ!!!』

より一層、の弾幕が濃くなる。れるだけで生命を存在ごと消す神の

味山只人に迫るそれはしかし、"凡人探索者達"が己の存在を懸けて防ぐ。

あれだけ、地を埋め盡くさんばかりにいたはずの影たちがどんどんなくなっていく。

「忘れねえ、お前達のおかげでここにたどり著いたことは」

それでも、ついに。

直上、至近。

上空、"52番目の星" 神

たどり、著いた。

「やるべきことはもう、わかってる」

右手をかざす。味山の知らない歴史の中、世界を終わらせた力の1つ。

「力、貸せ。"クソ腕"」

木が、唸る。

笑う。地面から冒涜的に木のが生える。

『あああああ、來るなああああああ!!』

天に向かってびる木の、數多の影たちが再び木のと共に神に迫る。

輝くその、數多の52番目の星という存在で構築されたその神に向けて影たちが武を構えて。

【…………………】

そしてそれを手放した。

『え?』

【………………】

影たちが、木のの上で手を広げる。武を手放し、棒立ちで。

まるで、

『ーーは? 待て、待って、私? 私? 私? あなた達!? どこへ!? 待て!! そんな、うそ!』

まるで誰かを迎えるように。

神のが、一部ほつれていく。

とろり、剝がれるように神のから白い影、皆一様にの姿をした"白い影"が剝がれ始める。

"彼たち"の存在、それが解け始めた。

『待て、待ってよ、噓でしょ、なんで、私だけ、なんで……』

白い影が、黒い影の元へ帰っていく。

ある影たちは互いに抱きしめ合い、溶けるように互いに消えた。

ある影たちは互いに握手して、溶けるように消えた。

ある影たちはをそっと合わせ、溶けるように消えた。

ある影たちは額と額を合わせ微笑み、溶けるように消えた。

【………………】

《…………………》

數多の星と凡人、彼と彼語が終わっていく。

、友、憐憫、補完。

彼と彼の數だけ、それぞれの在り方がある。

それはきっと、その語を歩んだものだけの優しい終わり。

始まった語が、彼と彼だけの語が終わっていく。

敗北した彼と彼、それでも彼らはここへたどり著いた。

味山只人が進んだ、辿り著いた。凡人探索者(墓石の男たち)を52番目の星(彼たち)の元へと送り屆けた。

『なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで、お前たちだけ、お前達だけ、そんな、なんで、私は私私私私私私私私は?! 私には?!』

「決まってんだろ」

『あ?!』

一際高く、びた木の

神を見下ろす地點に一気にのびた木のに取りつく男が、神のびに応えた。

「てめえは借りモンばっかだ。てめえの中に、てめえ自のモンなんか何一つないんだ」

赤い夕焼けが、男を照らす。

ひょい、木のから男が飛び降りる。

眼下に揺の巨人めがけて。

あたしを、助けてーー

男の耳に蘇る仲間の最期の聲。

あの時返せなかった返事、の中にあって、それでも言えなかった言葉。

きっと、黒い影たちが言えなかった言葉を、味山只人がけ継ぐ。

「ーー了解、アシュフィールド」

落下していく男が、夕日と重なった。まるで、夕焼けが男のを焼き盡くしているような景。

ああ、全てはこの時の為に。

火が男のを焼き盡くし、耳の化が顕れる。

味山只人 固定技能

"耳男" 壽命消費

斷の3回目、発

うさぎのぬいぐるみ、ひこうきのおもちゃ、がいこくのパズル。

おままごと用のお人形がひとつだけ。

暖かいクッションに、座る。ふかふかで、気持ちいい。

こどもべやに、彼は1人。

固く鍵が閉まったそのドアを、彼、アレタ・アシュフィールドはぼーっと眺めていた。

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