《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》153話 アレフチーム

『ア、なに、これは』

「ッ、ギャハハハハ!! ガス男ぉ、お前マジか!!」

「さあ、神殺しを始めよう。大罪"全世界のホームセンターからのチェーンソー強奪"」

それは夢のような景。

ゥヴん、ヴヴン、ウウヴヴヴヴヴヴ!!

唸れエンジン、回れデンノコ。

理屈も原理も考えるのが馬鹿らしい。

夕日の向こう側から、何かが降ってくる。

「チェーンソーって、ヤバ、IQなんぼだよ、ガス男ぉ」

『あ、は、バカすぎでしょ、なに、こヴエ?!』

ヴヴン!!

降り注いだ、チェーンソーが。

デンノコが神のに食い込み、その

TIPS€" チェーンソー"の持つ神特攻により、"52番目の星神"にダメージを確認。

『ギャァアアアアアアアアアアアアアア?!!』

バラバラにしていく。降り注ぐ、降り続ける、飛びう無數のチェーンソー、數えることすら馬鹿らしいキラ星の如く。

散らばる、巨人の面積を數多のチェーンソーが抉り飛ばしていく。

「お前たちは恐れた。お前たちが、いいや、お前が味山只人を恐れ、自らの完を"神"に選んだ時點で、我々の勝利は決まっていた」

『ア、アアアアアア、や、メロオオオオオオオオオオオオオオ!!』

「おっとお!! ここは通行止めだァ!!」

ガス男の元へ行こうとする神を、味山只人と"腕"が押し留める。木のがさらに太く、多く、その巨を縛って離さない。

時間稼ぎ、それは味山只人に課せられた仕事だ。

「あ、あなた、一……」

アレタが、その男へ問う。

「やあ、アレタ・アシュフィールド。帰還を心から喜ばしくおもうよ。……ああ、本當に」

ガス男は答えない。ただ、何かをるように味山只人が連れ戻した英雄を見つめる。

「……あなた、誰?」

「……ニホン、いや、"日本人"だよ、アメリカ人」

言葉を噛み締める、ガス男が靜かにつぶやいた。それはどこか懐かしいやりとりで。

「アレタ、彼は我々の味方だ。アジヤマの味方なんだよ」

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ソフィがたまらず助け舟をアレタに出す。

「……そっか。宜しくね、"ニホン人"」

「ああ」

ガス男とアレタ、その會話は短く。

「さあ、味山只人の稼いでくれる時間を無駄には出來ない。仕事をしよう、アレフチーム」

「んで、ガス男さん、アンタの切り札はなんなんすか? あの空飛ぶチェーンソーたち?」

グレンがチェーンソーの舞う夕焼け空を見上げてつぶやく。ゥヴん、今年のチェーンソーはいきが良い。

「ああ、あれはその布石の一部さ。神を殺すのに必要な全てのピースは今ここに全て揃った」

ガス男がゆっくり、歩く。

グレンを、ソフィを、アレタを。順番に指差していく。

「1人、グレン・ウォーカー。造られた生命、星雲の墮とし仔との理想的な共生、それはまさに神にされしの化

「1人、ソフィ・M・クラーク。故に、に反き、世に、理に、神に叛く事のできる強き反英雄」

「1人、アレタ・アシュフィールド。嵐を乗り越えた英雄、神すら飲み干すやもしれなかった世界に選ばれし英雄」

揃えたのは可能

凡人に至れぬ選択肢、それを可能にする人類の中の特異點たち。

「ああ、君たちは我々とはまるで違う。選ばれし者、宿命を與えられた者、持てる者。君たちにしか、なし得ないことがある」

真に、ガス男にもしも顔があったなら、細められる目が、紡ぐがあったならば。

きっと、アレフチームを見つめるその顔には憧憬が浮かんでいただろう。

「さあ、歴史と世界に選ばれた英雄たち、神を殺そう。過去の英雄たちがそうしてきたように、神を超えるのが君たちの役割だ」

「その聖人は強く、ただ、ただ強きを備えていた。いと高き山より降りし"神"。それと言葉をわすどころか、拳をわし、あまつさえ勝利してしまうほどに」

グレンを見る。ガス男が指を鳴らす。

「罪狀"バチカン市國より聖數點の強奪"」

それはとある凡人の大罪、その1つ。

世界一小さな國、宗教という人の生み出した途方もない大きな力、それすら凡人は侵した。

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「"ヤコブの手甲"」

グレンの手のひらに、鈍の手甲が現れる。掠れて、傷つき、それでも錆一つないその聖

聖人が、神を毆り倒した時に付けていた歴史と寓話の産

「なん、すかこれ…… 力が、溢れてくる」

「思い出すよ、バチカンの指定探索者は中々に厄介だった。……あのバケツ頭とだけは2度と戦いたくねえ」

遠い日を思う、それも厄介な思い出を。

「君?」

ソフィが言葉を向ける。

「おっと、すまない。続けよう。味山只人が保たなくなるね。ごほん」

ガス男がいずまいをただす。

「その人はただ、ただ、彼を人として終わらせてやりたかった。神の子ではなく、當たり前の人として。しかし運命はそれを許さない。彼は人ではなく神で、友の願いを葉えようとしたその人は、裏切り者の代名詞として後世に語り継がれた」

「罪狀、"バチカン市國より聖數點の強奪"」

凡人は侵した。世界一小さな國、それが保有していた數多くの力持つ聖たちを。

ダンジョンとは関係ない、ただ、人と神の歴史の語の中で力を得た存在を蒐集したのだ。

「"銀貨30枚"」

「ふ、ふふ、趣味の悪いジョークだね。……ああ、が軽い。なるほど、全てわかった」

ソフィの周りに、掠れた銀貨がふわり、ふわり。浮かび続ける銀貨たち。

銀貨30枚、それが何か。わかってしまったソフィが自嘲、笑みを浮かべた。

「君の探索者道、"目"とこれは相がいいはずだ。時が來るまで休んでおくれ。これを強奪するのは本當に骨が折れたからね」

ガス男がそして、最後の1人。

アレタへ顔を向けた。

「……これは、罪の槍。殺してはならない、殺せてはならない存在を殺してしまった恐るべき槍。それは人類の歴史において証明してしまった、即ち、神は殺せるということを」

「罪狀、"バチカン市國、指定探索者"テンプルナイト"の殲滅、および、"聖の強奪"」

最大宗教、世界一小さな國。

それが保有する宗教的戦力、単一にして群

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"テンプル・ナイト" 。指定探索者も含むその集団を、凡人はついに殺し盡くした。

何度殺しても復活する神の群、軍隊。

おぞましい木の、笑う木。

そして共に全てをめちゃくちゃにするために集めた愉快な仲間たちの犠牲を以って、神を嗤った。

「"ロンギヌスの槍"」

それはあまりにも有名な神殺しの概念。

二又に別れ、複雑に絡み合うその槍先には未だ乾かぬが垂れ続ける。

いと高き、神の子のが止まらぬのだ。

「あなた、これ、どこから……」

「ああ、奴、いや、ほんとにあのバケツ頭だけはおそろしかった。ブロッコリーのスプラウトのようなものだ。殺しても殺しても次のバケツ頭が現れるのだから」

「ほんとにアンタ何したんすか」

々さ。さあ、ここに揃うのはそれぞれ、神に抗いしものが殘した人間の道。だが、まだ足りない」

まさしく、神をも恐れぬ大罪。しかし、それをもってなお、ガス男は足りない、そう表現した。

「アレフチームを味山只人が生かした。グレンを見捨てず、ソフィを狂わせず、アレタ・アシュフィールドを連れ戻した」

それでも、足りない。

"彼たち"それを滅ぼすにはまだ。

ガス男と、アレフチームが空を見上げる。

『アアアアアアアアア、なんだ、なんなんだぁ、お前はははは?!』

「ギャーハッハッハ!! 耳男だァ!!!」

『意味わかんないいいいいいいい!!』

ガス男が、眺める。

汚い嗤いを響かせて神に挑む探索者を。

それは彼らが待ち続けた景、悲劇と敗北と喪失を積み重ね、たどり著いた可能

「そして、アレフチームに相応しい神殺しの武裝も用意した。グレンには強き聖人の手甲、ソフィには誇り高き裏切り者の報酬、アレタ・アシュフィールドには神殺しの槍」

「だが、それでも、アレは規格外。積み重なりし敗北の集合。勝利すべきものが負けに負けて連なる世界の殘留、異そのもの」

「強すぎる。単なる神殺しでは足りないんだ。アレは人の思いと英雄の力と神の宿命がり混じる幻想と現実の到達點、星よりも報の多い高次元存在。神を殺せてもアレには足りない」

あまりにも途方もない話。

凡人でも、英雄でも、そして神殺しの武でも。

それでもまだ、足りない。

ガス男の言葉に、アレフチームが息を呑む。

そして、ガス男が首を振りながら、下を向いて、またアレフチームを見つめた。

「そこで、IQ3000をゆうに超える頭脳明晰な我々はひらめいた。強すぎる存在には、強すぎる存在をぶつければいい、と」

「「「ん?」」」

思わず。アレタが、ソフィが、グレンが。言葉をハモらせた。

どこかで聞いたような、バカな言葉を耳にしたから。

「奴らが"わたしのかんがえたさいきょうのそんざい"ならば!! "おれのかんがえたさいきょうのぶき"を用意すればいいと」

「はい?」

「あ、コイツ、バカっすね」

「……ふふ、誰かに似てるわね、ほんと」

「さあ、始めよう! これが、私、いいや、我々、ああ!! 俺(・)た(・)ち(・)がかんがえた、てめえらのぶち殺し方だァァァア!!」

び。

現れる。顕れる、あらわれる。

夕焼けに照らされ、世界に浮き出るかのごとく。

ガス男の周りに無數の武が顕れる。

「てめえらをぶち殺すのにパワーが足りねえんなら、足りるまで揃えてやる! パワーこそ力! 數こそ正義!! 全部ぶち込んでぐちゃぐちゃにしてやらあ!!」

ガス男がぶ。その郭を震わせながら、今まで溜まっていたものを吐き出すように。

「罪狀 "石上布都魂神社異界祭殿より"アメノハバキリ"強奪" 罪狀 "鹿島神宮異界寶殿より"アメノハバキリ同位トツカツノツルギ"強奪、全世界の"ヤドリギ植生地"の強奪、罪狀、大英博館への侵、多數の展覧品の強奪、"ツァラトゥストラはかく語りき"原本の強奪」

並べるのは罪。世界を壊し、奪い盡くし、蒐集した。

神の如きヤマタの大蛇を討ちとった剣、とされる數點。

傷付かぬ神、それを唯一殺し得る植

たった一言で神を殺した哲學者の本。

數多の神殺しの概念。それらがガス男の周りに顕れる。

「そして、これを、ぜええええんぶ、"ロンギヌスの槍"にぶちこむ!! ラーメンにカレーとチャーハンとハンバーグと唐揚げと焼ぶち込んだらよお! 味えに決まってるよなあ!!」

ガス男が、言葉を荒げる。知のかけらもないその言葉。

アレフチームはその喋り方をする人間のことをよく、知っていた。

「ああ、コイツ、タダと同じっすね」

「は、ああ、なにせ、彼もアレフチームだ。救いようはないよ」

「なんか、あたしが負けるのって必然だった気がするわ」

3人が頷く。ガス男は興した口調を崩さない。紳士ぶっていた遠回しないつもの話し方は影もなく。

「人は積み重ねる、人は束ねる、たとえ今、それに手が屆かなくても、たとえ今、その壁が越えれなくても!!」

ああ、ふたふりの剣が、塗れの槍と同化していく。

「時をかける、耐える、くいしばる、慣れる、待つ、試し続ける。気の持ちようだけで全てをいつか、止まらない限り変えることが出來るのだ!!」

ああ、槍に本が同化していく。"

Gott ist tot! ! Gott bleibt tot! Und wir haben ihn getötet"

"神は死んだ、神は死んだまま、私たちが神を殺したのだ"

狂人の言葉が生きの如く、槍に張り付き、槍の表面をり回る。

ヤドリギが槍に、へびのごとくとぐろに巻きつく。

「ああ!! 良い言葉じゃあないか! そう、神は死ぬ! 我々が、我々こそがその哲人が求めた人の姿! 我々こそが、神を殺すに相応しい人間!」

ガス男が両手をかかげる。

無理やりに混ぜられ、ねじ曲げられ、生まれた兵へ捧げる。

それは屆かなかった祈り、たどり著けなかった無念。

痛くて、苦しくて、悲しくて。それでも、それを全て引きずってきたものたちの答え。

ガス男のが崩れ始める。

『なに、それ、だめ、だめだ、だめだめだめ、それだけはーー アぷでえ?!』

神、それに近い彼たちがはっきりと恐れた。ふくらむ、アレフチームへ狙いをつけるも、それは悪手だ。

「おいおいおいおいおいおいおい、よそ見い、してんじゃあねーよ!! クソ腕、ぶちかませ!!」

ガス男とよく似た喋り方。知じぬそののままに、味山がぶ。

アレフチームの前に仁王立うのはは、凡人探索者、耳男。そして"腕"の権能。

木のが集まり、象るは大きな、大きな人間の腕。

「デンプシイイイイロオオオオオル!!」

そのまま、巨大な腕が握り拳を象る。縛り付けられた神の橫面を毆り抜ける。

『ロールしてないいいいいいいいい?!! ブベエエエ!!?』

通ることは能わず。神の道を、耳男と、腕が完全に塞いでいた。

「ああ、それでいい!! 味山只人! 最後の凡人探索者!! そのまま抑えとけよ!! あとは俺らがそいつをぶち殺す!!」

「ギャハハハハ、言われなくても、やってやるよ! ガス男、お前、その喋り方の方が似合ってるぜええ!!」

ぶ。2人の凡人探索者、目的は同じ、標的はただ1人。

「そりゃどうも…… ほんと、俺はお前が羨ましいよ」

ガス男が、肩をすくめる。ため息をつきながら自分たちの最善の姿を眺めて。

「ねえ、あなた、あなたは、誰なの?」

アレタの問いかけ。

「……影さ、アレと同じ敗北に敗北を重ねてきた影。間違いばかり、選択肢を違え、戦うべき相手を間違えた敗北者、だからこそ、今度こそ、間違えない」

「きみ、が……」

ソフィが、ガス男の崩れ始めているに気付いた。結ばれていた紐が解けて、溶けていくように、ガス男の郭が、ぼやけていく。

「ふ、ふふ、ギャハハ…… なに、君たちとちがって卑小で凡庸な存在でね。神すら殺せる偉大なる武の融合、それを束ねて混ぜることにはそれなりの代償がいるのさ。なに、問題ない。全てはノープロブレムだ、なにせ、アレフチームが健在なのだから」

「きみ…… な、んで」

「……ああ、ソフィ。そんな顔をするなよ。今は笑うところだ。君には本當に苦労をかけた」

「あんた、マジで……」

「グレン、ソフィやみんなとの時間を大切にな。大丈夫さ、君が君のままいるのなら、きっと大丈夫」

「…………」

「後は頼んだ、ア(・)シ(・)ュ(・)フ(・)ィ(・)ー(・)ル(・)ド(・)」

「ーー了解」

ずうん。

融合が完了する。が薄れ、崩れかけているガス男の足元にそれが落ちる。

それは槍だ、それは剣だ、銃で、本で、槌で、ナイフで、ヤドリギで、毒でーー

ありとあらゆる武の概念、ありとあらゆる"他者を害する"概念。

"殺す"ということ、そのものの集合

「地面に、食い込んでるんすけど」

まるでその兵が扱われるのを拒むかのように。槍が沈んで、花畑に食い込む。

「ハア…… ハァ…… ああ、重いんだよ。とてもとてもね。世界がそれを振るうことを許さないんだ。あってはならない、法則の外のそのさらに外の武。グレン、これは君にしか持ち上げることは出來ない」

「俺に、しか」

グレンをガス男が見つめる。

グレンが、小さく頷く。鈍の手甲をつけたまま、槍に手をかけてそれを持ち上げる。

すくり、簡単に、槍は持ち上がる。ガス男が指を鳴らした。

「そして…… 祝福を。ソフィ、君の目に、焼き付いている彼、その殘滓を、この武に。30枚の銀貨を持つ君ならば、殺す為の武を昇華出來るはずだ。君のはたしかに英雄を救うことが出來る」

「ワタシの、

ソフィが、片羽を震わせる。30枚の銀貨がソフィのへ溶ける、消えていく。

ソフィの右手、槍をでる。

在りし日のが槍にコーティングされた。

「さあ、グレン、ソフィ。その槍を持ち手へ。相応しき場、相応しき英雄、ああ、神を飲み干し、殺すのはいつだってその存在の役割なのだから」

2人が、アレタを見る。

「英雄、頼めるかい」

「ええ、大丈夫よ。この言葉だけは、噓なんかじゃない」

グレン・ウォーカー、神とステゴロをかました大聖人、それの依代から、ソフィ・M・クラーク、神の子をした裏切り者へ。

そして、2人の英雄から、1人の英雄へとその道が手渡される。

用意したのは持たざる、凡人。世界を壊し、世界から奪い去ったのは人の可能の塊。

振るうのは選ばれし者、英雄たち。凡人に為せぬことを為すゆえに彼らは英雄と呼ばれるのだから。

『あ、ああ、やだ、やだ、やだ、それ、怖い、こわいいいいいいい?!」

「ぎや?! うぎ、のおおおおおおどいしょおおおおおおおお!! クソ腕、クソ耳!! キュウセンボウ!! 鬼裂!! ジャワァァァァ!!」

味山只人が、全ての力、全ての道を駆使する。

木のが、2本の腕となり神の首を絞める。

耳男のが張り巡る木のを駆ける、を鬼裂の捌きでわし、そのに、水かきの腕を食い込ませる。

右手、よく燃える右手。火葬の火を神に屆けた。

「燃えおちろ! もう、終われ!!」

『ああああ、アツイイイイイイイイイイイイ?! やだ、ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!! 終わりたくない、ずっと、ずっと、続けたいのに、ヤダあああ』

凡人が神を狩る、しかし、足りない。火がに飲み込まれ消えていく。

神は死なない。凡人の手だけでは足りないのだ。

だからこそ、彼らは揃えた。

だからこそ、彼らはためし続けた。

悲劇に、沈むことをよしとせず。

敗北に、慣れることをよしとせず。

賭けた、膨大な敗北の積み重なり。怨嗟に呑まれるギリギリの時間。

その中で、ただひたすら待ち続けた。

最善が現れるのを。大凡なるものでも、持たざる者でも、凡人でも。何度負けてもなおーー

「ギャハハハハハハ!! おい、お前ええ、なあああに、逃げようとしてんだあ?! 最期までたのしんでいけよ!! なあ!?」

悲劇の中で笑い続ける者を待った。誰に言われるでもなく、己の、それ一つで怒り、進み続けることのできるものを待った。

「アレタ」

「アレタさん」

その者が、アレフチームを生かすルートを待ったのだ。

「ええ」

英雄が、手にするのは道

尖り、穿ち、歪む。

それは神殺しの槍に、數多の神殺しの概念が無理矢理に混ぜられた代

バカが考えた、最強の武裝。

「あとは…… 君、の仕事だ。英雄」

「ええ、凡人」

言葉はもうない。

今、アレタ・アシュフィールドの中にあるのはその道の振るい方。

形狀、重さ、威圧、その全てを五じ取る。

「重たい」

その槍先、両刃の銅剣と、二又に別れた槍が同化し生きのように蠢く。

い」

その持ち手、ヤドリギが蛇のように巻きつき持ち主の手と同化する。

槍の穂先が震えて回転している。それはかみをバラバラにする人類の叡智の道

「ああ、やはり、お前、すげえよ」

ガス男がたしかに、目を細めた。

まばゆく輝く、一番星を見つけたように。

アレタが、振りかぶる。

回れ、軸、踏みしめろ、大地。

の軸から生まれた力は全ての関節をたどり、その長い腕、しなやかな指先へ。

嵐が、に逆巻く。金の髪がすすくたびに、極小の雷が髪の中でいなないた。

その時、雑念はなかった。

その青い目には1つ、1つだけが映る。

自分とよく似た、自分がなれなかった存在、世界に挑むにふさわしき力の集合

今の自分が狩るべき、神。それだけが青い瞳に映っていて。

「あたしは、部屋を出る」

オーバースロー。アレタの手から槍が放たれる。

夕焼け空を裂き、形を変えた投槍がまっすぐに。

それは空より振り降り、いつか消え失せる流れ星ではない。

地より、空へ至る人の輝き。殺すという概念の集合

「マーダー・ウェポン(人の為の道)」

『ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!

やだやだあ!! はなせ、はなせえええ!!』

それが何か、理解したのだろう。

たち、神がはっきりと怯えた。

逃げようとした。

流星群のごとく降り続けるチェーンソーに削られながら、木ので締め殺されかけながも逃げようとしたのだ。

翼を大きくはためかせ、を大きく震わせて、その神威を世界に撒きながら。

しかし、ああ。

木のは止まらない。何本、何千本、に焼き盡くされようと、絶えず地面を突き破り、び続ける。

それでも、ああ。

機の唸り聲は止まらない。かみをバラバラにするまでそのエンジンはなり続ける。

唸れ、デンノコ、回れ鉄紐。

神に、逃げることを許さない。

英雄の一撃から逃れることは能わない。

なぜなら

「馬鹿が。死ね」

味山只人が、それを許さない。

「ーーァーーーーーーーアーーーーーーーーーーーーーーー」

あっけなく。

人の為の道が、神のを貫く。

聲なき聲が響き、ぽっかりに空いた孔に、その巨大な神が吸い込まれ。

最期の斷末魔ごと、夕焼けの中に消えていく。

TIPS€ かみはバラバラになって、に墮ちてしんだ!

「……さよなら」

アレタが小さくつぶやく。その目に、今、自分と限りなく近いものたちの末期が映る。

「あばよ」

木のり臺にして、前線の男、味山只人がアレフチームの元へ戻る。

耳の面はただれ、には再生が追いつかない傷、にそのを焼かれつつそれでも、生きて戻ってきた。

「ナイス」

「あなたも」

味山とアレタが並ぶ。目も合わさず、互いに手の甲と手の甲をぶつけ合う。

「す、すげえ…… やべえ」

「まったく、相変わらずデタラメだね、アレタ」

ソフィとグレンが同時に息を吐いた。

アレタと味山が振り返り、息を吐いた。

「ああ、ああ…… みんな、皆、無駄じゃ、なかったよ。我らの最期は、我らのいまわのきわは、あの苦しみも、慟哭も、全て彼らが屆けてくれた」

どさり。

ガス男が、その場に座り込んだ。

そのは誰が見ても壊れかけ。郭はぼやけ、顔は端っこから崩れ始めて。

「ガス男…… お前……」

「…………」

「は、はハ、なんて顔をしてるんだい、アシュフィールド。笑えよ、ソフィ、泣くなよ、グレン」

「キミは、いや、やはり、君たちは……」

「な、なあ、おれ、俺やっぱ、アンタとどっかで、會ってねえすか? だって、じゃないと、こんな、説明出來ねえ……」

グレンが、やはり涙目になりながらガス男に答えを求める。

ガス男は答えない。ただ、グレン・ウォーカーを見上げただけ。

「……たのしかったよ、ほんとに。最期、君たちとまた共に戦えてほんとうにたのしかった。ありがとう、ソフィ。我々を、俺をまたアレフチームにれてくれて」

「……気にしないでくれ。ワタシはこう見えても人を選ぶ。キミは間違いなくアレフチームに相応しい人間だった」

「ふ、ふふ、ああ、ありがとう、その言葉でほんとに救われる」

「お前、消えるのか」

味山がしっかりとガス男を見た。

「ああ、消える。今度こそ、本當に終わりだよ。“彼たち"が消えた。ならば、我々も消えなければ」

ガス男の右腕が崩れる。花畑に落ちた右腕が、そよ風に溶けていく。

「死者がね、生者にしていいことは1つだけ。思い出になることだけだよ」

ガス男が足を崩して、雑に、花を踏み潰しながら座る。

「ありがとう、アレフチーム、ありがとう、味山只人。我々をここに連れて來てくれて。我々を無駄にしないでくれて本當にありがとう」

満足げに、ガス男が空を見上げた。そこに広がる茜空、紫、赤、薄桃

夕焼けが遠く。セミの聲が響く。

「あなたは、どうして、あたしたちを助けてくれたの?」

アレタがガス男と目線を合わせる。蒼い瞳に、黒い影が映り込んだ。

「はは、アシュフィールド、それはそこの男が1番良く知っているさ。なあ、我らが最前、最後の凡人探索者よ」

ガス男の郭がぶれていく。世界にわたる、中庭に吹き渡るそよ風で吹き飛ばされそうなほど、その存在は儚く。

ガス男と、味山が見つめ合う。

そして、どちらともなく、にへらと下手くそな笑顔を浮かべ

「そっちの方がーー」

風が、吹いた。

「「気分が良い」」

2人の凡人探索者の言葉が重なる。2人が靜かに、似た笑いを続けた。

「ああ、味山只人、君が羨ましいよ。君の語は続く。前に進み続ける限り、続いていく。そして、その語にはアレフチームが共にある。その未來は本當に得難いものだ」

「ああ、まあ、前途多難、だけどな」

「いや、大丈夫さ。君たち探索者がたどり著いたんだ。ならばあって然るべきものがある」

「あって、然るべきもの? なんだそりゃ」

「ああ、それは

ーーっ?!

味山只人!!!!」

ガス男が、顔を歪ませぶ。

冷や汗、同時に響くヒント、腰にじる知らせ石の熱。

TIPS€ 警告 "彼たち"

「っう」

「ひ……」

「チッ……」

それは怨念、それは妄執、それは嫉妬。

それは幸せな終わり、希に続く次を許さない。

神の如きものがその存在の報全てを、妬みに変えて現れる。

『み。とめない』

アイビーの花、蔦が花畑に顕れる。

それは3対の翼を持ち、それは人の形をしていた。

またたくまに、花と蔓がとなる。

の長髪、金の瞳、白い、52番目の星、その概念集合

"彼たち" もう自分が誰かもわかっていない、敗北の集合

それはハッピーエンドを認めない。

が、3筋。妬みのつばさからまたたいた。

人造英雄、反英雄、英雄。

それら選ばれしものたちのきすら止める怨念。

ああ、神のなんと理不盡なことか。

歪みに歪んだ神が、英雄たちから全てを奪う。

宿命、特別、それらは全て與えられたものである。神の如きもの、妬みだけでそこに至った敗北者がアレフチームからその特別を奪い去る。

けなかった。

英雄たちはいま、生まれて初めて"何もない"という狀態を味わう。己を定義していたはずの特別、あって當たり前の力、それら全てが怨念に曬されてーー

『し ね』

消失の、傲慢な力が、ソフィの目を、グレンの心臓を、アレタのに突き刺さ

「い き ろ」

けたのは2人。

初めから何もない2人だけ。

ガス男が、いた。その速さ。重ねた凡人の中で速度に特化したものの力。

殘った左腕で、グレンを、ソフィを、アレタを突き飛ばす。

消失の、三叉のそれが全て、ガス男のに突き刺さり、串刺しにした。

「が、はーー」

1人は後ろへ。次に進むべきものを庇い、見送るために護った。

そしてガス男も串刺しになりつつも、また、指を指す。消えていった數多の影たちと同じく、指をさす。

それは呪い、それは祝福。積み重ねた願いの形。

味山只人に託すべき、願い。即ち

ーー前へ。

「君が、殺せ。味山只人」

「ああ」

1人は進んだ。次に進むのに邪魔なものを始末するため。右手に手斧を構えて、地面を踏み込む。

進むために、殺しにいく。

たしかに、け継がれた。殺意も無念も、何一つ味山只人は捨てることなく持っていく。

1人は護った、1人は殺しに向かった。全ての凡人探索者の集合が、最後の凡人探索者を見送る。

、味山に向かう。

「"腕"」

地面を突き破る、木のがそのに真っ向から向かい、全て撃ち落とす。

『ア、エ? なん、で?』

呆気なく、たどり著いた。手斧の屆くすぐ近くまで。

振り上げる、未だ、膝立ちの間抜けづらの"彼たち"に、凡人が小さな手斧を振り上げる。

「お前が、死ね」

っ、ちど。

首の付けから、肩口にかけて。手斧の刃が食い込む。

を破き、を破り、関節を抉る。

『う、あ』

信じられない、そんな顔を"彼たち"が浮かべる。

一撃では仕留められない。なら、何度でも。

手斧をから引き抜き、また両手で振り上げる。

「お前だけが死ね」

『ア、アアアアアアアアアアアア!!』

ちゅど。振り下ろされるはまぐり刃、首の付けに食い込む。

たちが咄嗟に刃を引き抜こうと斧に手をかける。

『嫌だ、嫌だ、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!! 死にたくない、私は、まだ! まだもっともっともっと!!』

斧を押し込む味山、びながらその刃を引き抜こうする彼たち。

その白い指に斧の刃がくいこみ、赤いを花びらがけ止める。

ず、ず、ずず。徐々に、刃がから離れて

『エーー』

風が吹いた。花畑を蹴散らす大風、野を分かつ、野分の風が。

庇われたのはアレフチーム、護られたのは未來と希

味山が生かし、ガス男が護った。凡人探索者たちの報酬。

「剝離、景」

"眼"に見込められた反英雄、それが創り出したのはの槍。

嵐を乗り越えた英雄に手渡されたその、投槍が、今、振りかぶられる。

「ストーム・ルーラー」

嵐、それ全て嵐の英雄に侍りし星の力。収された嵐が、投槍にまとわりつく。

英雄がそれを投げた。

たちのを貫き、翼をぬいとどめる。

の3対の翼が吹き飛ぶように消え去った。

「ぐ、リゴリイイイイイイイイ!!

グレンが駆ける、跳んだ。

その飛び蹴りが拮抗する斧の背を蹴り踏み抜く。

杭を撃ち込むように、手斧が深々と"彼たち"の存在の食い込んだ。

「「「「迷だ」」」」

アレフチームが、言い放つ。誰も欠けていないアレフチームが。

『 あ、れふ、……あ、あ、い、いなあ……』

グレンが斧を足場にくるりと地面に著地、力の抜けた彼たちから味山が手斧を引き抜く。

無言、力し、首を垂れた彼たち。

味山只人の手斧がその脳天に振り下ろされた。

TIPS€ お前は勝利した

脳天を、手斧が砕く。スイカを割ったような覚。

突如、生えた"木の"が彼たちのを下から抉るように貫く。

が飛び散り、の代わりに花が舞い散った。

もう、どこにも"彼たち"はいない。

風が、吹いている。

味山は息を整える。

グレンがいる、目を合わすと靜かに頷いた。

ソフィがいる、目を合わすとその赤い目が味山を見ていた。

アレタがいる、目を合わすと、すこし目を逸らした後、小さく親指を立てた。

TIPS€ 全條件達 お前たちは勝利した

風が、強く、吹いて。

味山が後ろを振り向く。

ソフィがいて、グレンがいて、アレタがいた。

確かにみんな、ここにいた。

そして

別れの時がやってくる。

後もうし。

最後までご覧いただければ幸いです。

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