《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》ED.No77 【北ヒロシマ基地から、遙か彼方の君へ】

條件達

"空野一夏"を"サイシン"から取り戻す

"サイシン"戦に"アレタ・アシュフィールド"を連れて行く

空野一夏の好度が""以上

"ラドン・M・クラーク"がこの世界から消失している

"サイシン"を痛めつけ、北ヒロシマから追い出している

故郷を捨て、バベル島に戻る

〜2029年 3月中旬〜

〜北ヒロシマ町、味山初彥所有の山の中腹〜

「おじーさん、この箱はどこに運びますかー?」

大きめのダンボール箱には真空パックされた非常食がたくさん。

ハニーバー・レスキュー、そう英語で書いてある。

「おーう、それはシェルターのり口に置いちょってくれー。一夏ちゃん、それ置いたらそろそろ休憩しよや」

おじーさん、なぜかこの3月に麥わら帽子を被り、田植えする人みたいな格好の味山初彥が薪を割りながら答えてくれた。

「はーい」

わたしは目の前の大きなドアの前に箱を置く。

シェルター。

おじーさんの私有地である山を切り抜き作られた災害用施設のり口。

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ものものしい鋼鉄のドアは理論上、核発に巻き込まれても影響はない。技部のシミュレーション通りであればだけども。

「まだまだ寒いですねえ。雪は最近降らなくてラッキーですけど」

「ほーじゃのー。昔より確かに雪、ふらんくなったの」

おじーさんが開けた場所に腰を下ろす。わたしも隣の切り株に座る。しざらざらしてるけど、すいばりは立たないだろう。

「……なんか、やっぱいいなあ、ここ」

山の中腹、ちょうど丘になっているこの場所からは北ヒロシマがよく見える。

整理された田んぼ、遠い線路、茅葺つくりのおうちなんてものちらほら。

向こう側にはサンヨウ道路、通う車がのやうにいったり來たり。

青い空の下、彼とわたしが生まれた故郷は何も変わっていない。吸い込む空気の味もなにも。

「なあ、一夏ちゃんや、ここまで々手伝ってもらって言うことやないんじゃが…… 楽しいか? これ」

「え? 楽しいですよー? なんか昔、只人くんと基地作ってた頃を思い出す……って、おじいさん、気まずそうに顔背けるのやめてくださいよ!」

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「いや、すまん。なんか、こう一夏ちゃん見てるとラブコメのイフエンド見てるような気がしてきて、涙腺が」

「……おじーさん、たまにわけわかんないこと言い出すのお孫さんも似てますよね」

「ばっか、そりゃわしがアイツに似たんじゃなくてアイツがわしに似たんじゃて」

「ほらー、そういうとこ。変なことでムキになる」

軽口をかわす。

おじーさんとは昔からの仲だ。大人になってからもそのあたりのノリは変わらない。

「……のう、一夏ちゃん、その……」

「なんですか? ふふ、大丈夫ですよ、おじーさん。私もうかなり吹っ切れてますから。聞いたでしょ、おじーさんも、先月のあの"聲"」

「おお、そーじゃない…… バカ孫め、やっぱりわけわからんことに巻き込まれちょってからに。おでご近所さんからえらい質問攻めにおうたわい」

"聲" 去年の12月。彼が故郷を去ってからしした後、突如聞こえてきたなにかのアナウンス。

それは始め、失のショックで頭がおかしくなった私の幻聴かと思っていた。

でもそうじゃない。それは等しく、同時に、意味不明に全世界、全人類へと向けられたダンジョンからのアナウンス、らしい。

つい先日、中國が"北京文書"なるものを公表した。曰くアメリカが々やってはいけないことをやっていて、それの影響でダンジョンからあの異常事態が起きた、ニュースで見たのはそんな容だったはず。

その聲の中には、私たちにとって衝撃的な人の名前もちらっと含まれていた。

報酬ってなによ、只人くん。

「おじーさん、し嬉しそうですよ」

「あ? ……ふん、あんたもよ、一夏ちゃん」

「ふふふふ、そうですね。なんか、全然、全然あの聲が言ってる意味はわかんなかったけど、あの人が、只人くんがすっごくすっごく頑張って、それで會いたい人に會えたんだなって思ったんです」

「彼は昔のままから変わらない。彼だけに見えるものを見て、彼だけにわかることを信じて前に進んでるんだって。だから、なんかもう吹っ切れてます。あの日の只人くんはきっと、ただしい選択をしたんです」

「……只人は、惜しい子を逃したの、ほんまに」

「ふふん、彼に後悔させてやりますよー。只人くんがー私抜きでも生きていけるように、私だって只人くん抜きでたのしく人生を歩んでやるんです」

「そうか」

「ええ、そうです」

「それはそうと、一夏ちゃん。君、仕事はどうすんじゃ? ほれ、トーキョーでキミ、外資系の仕事じゃったろ? なんちゅー會社じゃったけ?」

「むふふ、おじーさん。このシェルター、どこの會社のものか、お忘れですか?」

「おー? それは覚えちょる。ラドン・テックじゃ。いやー、この會社には株でも大儲けさせてもろうて、更にシェルターの選まで當たってのー。突貫工事でもないのに2ヶ月でもう、ワシの山が砦よ、砦」

すごいのーラドン・テック。

呑気に笑うおじいさんの顔をみて、しわたしのいたずら心に火がついた。

ふっと、笑い、言葉を紡ぐ。

「私、そこの社員です。今は會社に許可もらって、ニホン初の民間シェルター當選者の施工後調査って名目でここにいるんですよ?」

「ほーか、ほーか、そこの社員…… ……え? マジ?」

「はい、ラドン・テック・コーポレーションニホン法人、シェルター部門調査部管理課、課長補佐です! あ、シェルター選に一切の恣意的なものはないのでご安心ください」

「うわー、只人、お前、とんでもない大魚逃しとるー。マジウケる」

「えへ。お褒めの言葉とけとります。……ふう、空気が冷たくて寒いけど、私やっぱりここが好きだなあ」

目を瞑る。冷たい冬の風が森を駆け巡る。木々の間をすり抜けた風が防寒のウインドブレーカー越しにぶつかる。

が引き締まりが固まる。

冷たい、寒い、空が青く、高い。

ここには覚だけがある。

私が確かに生きている、都會では忘れがちなことを故郷は教えてくれる。

「ねえ、おじーさん。し気になってたんですけど、おじーさんどうしてシェルター選に応募したんですか?」

本當に単純な疑問だった。

なんというか、大人になってから再びこの老人と話しているとどこか一種の超越じることがある。

彼の祖父といえば祖父らしい。私たちに見えないものを見て、私たちとは違うじ方で世の中を見ている。

それはある意味、生死すら超越していて、この老人は心の底からそういうのに興味がないものだと思っていた。

シェルターというのはつまるところ避難、生存の為に求めるもの。そこにはある種の自分だけは何がなんでも生き殘ってやるという汚さにも似たものがあるのは確かだ。

まあ、それは人間であれば當たり前のなのだけど。

だから、意外だ。らしくないとすら思えた。

お金が好きなのは彼と同じく俗らしい部分があるからで納得できるけど、大金と引き換えに、この老人がシェルターを求めるのにし違和を覚えていた。

「ふんむ……」

老人がし考えて、お茶をすする。

それからしわの刻まれた瞼を開き、その中の栗の瞳でわたしを見つめた。

ああ。

やっぱり、只人くんと同じ目だ。しっかりこちらを見てるくせに、本當は全然別のところを見てる目。

あの目、好きだったな。

どうやら、わたしは中々に引きずるタイプらしい。

「……この前の'"聲"、言うとったろ。備えておけって」

「え、あ、はい。聲、あ、ああ、そうですね」

正直言うとその辺は忘れかけていた。アレフチーム、彼のチームと、報酬 味山只人というワードが強すぎてそれ以外の記憶が曖昧だった。

「ワシ、昔、すこーし、特殊な仕事しちょっての。その時の経験から他の連中よりほんのし、知っとるんじゃよ」

「知ってる?」

「今、ワシらを守ってくれとる"常識"っちゅーもんがほんとに薄っぺらで弱いものちゅうことじゃて。……のう、一夏ちゃん、君は賢い子じゃ。頭がキれて才能もある。じゃがの、そういうもん全て無視して平等に人は死ぬんよ」

おじーさんの聲は今まで聞いたことない聲だった。

その目、そのが語る記憶はどんなものなんだろう。

「常識が崩れた時、人はほんとに脆い。一部の人間を除いて、戦爭から離れ、戦うことに疎いこの國はなおさらの。のー、一夏ちゃん」

「もうぼちぼち、今のままではおれんくなる。匂いがするんよ。世の中が変わる匂いが。あの孫が帰ってきた時、そしてここを出て行く時にしてた匂い。それがどんどん、どんどん強くなっちょる。この匂いは世の中を変えるぞ」

その目、その顔。

ああ、同じ。あの山の中、カミサマと戦う只人くんと同じ、見ててゾクゾクする顔、それと同時にいやでも自分とは生きる世界が違うと確信してしまう嫌いな顔。

おじーさんが只人くんと同じ表でどこかを見ていた。

「……なーんちゃって! びっくりした? いけてた? ワシさあ、昔さあ! メンインブラックみたいな連中に憧れててさあ! てか、あれよ、普通にシェルターとかロマンじゃろ? 基地よ、基地。婆さん生きてたらこんなん絶対無理やったもの。ばーさん! 安心せい! お前の納骨堂もきちーんと絶対するからのー! 化けて出るとか、無駄遣いにキレるとかそういうのなしで!」

「くす、もう、おじーさんたら。ふざけてばっか」

わかってる。全部その振りだって。きっと、このおじーさんが言うんならそう言うことなんだ。

あの日、只人くんが故郷を捨てたのと、世の中が変わることはきっと無関係じゃない。その変化はきっと見えないところでじわじわといてる。

おじーさんみたいな人だけがそれをじとり、備えることが出來る。

他の人はどうなるんだろう。

「ふふん、まあ、あれじゃよ、あれ」

「あのバカ孫より先に死ぬわけにゃいかん。ワシは死ぬ時は老衰で苦しむまもなく死ぬのが人生の目標じゃからな」

ふと呟いたその言葉。ああ、それがきっと本音なんだらうな。只人くんと同じ目でおじーさんが空を見上げていた。

私もおじーさんと同じように空を見上げる。

お晝前、薄く高い、雲一つない青空に、はんぶんの月が掠れて見えた。

ねえ、君。

わたしはさ、

キミみたいに探索にはいけないけど。それでもさ。

聞こえなくてもいいや、屆かなくてもいいや。

それでも、北ヒロシマ基地から遙か彼方の君へ。

「がんばれよ、只人くん」

ただ、それだけをわたしはつぶやく。

まだ春は遠く。

3月のそれでも冷たい風がぶるり、また私のを震わせていった。

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