《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》ED.No44【ヨリマシ、ワミタマ、ツグモノ、ツギヒト、かしこみ、かしこみ、たてまつれ】
條件達
11月26日、プランCにてオプション目標の半分を達する
バベル島防衛戦にて、"ある親子"を助けている
バベル島防衛戦にて"田村部隊"の救援に功している
"サイシン"戦にアレタ・アシュフィールドを連れていく
"サイシン"戦で"神の殘り滓"を奪われていない
北ヒロシマから"サイシン"を追い出している
〜2029年 3月29日 シブヤ差點からし離れたところにて〜
「こっち、こっちだよ! おかあさん! ここにいちゃだめだ! こっち、ついてきて!」
1人息子とのシブヤでの買い中、急に走り出した直後、それは起きた。
「継人! 待って、お母さんから離れたらだめよ!」
「早く、早く、早く、あそこまで!」
母の手を引きながら、その小さなのどこにこの力強さがあるのか、ぐいぐいと子が進んでいく。
危険から離れるように。
事実、あの時こどもが何かに気付き、母親とその場を離れなければ2人はあの差點で、溶けた地面に沈んでいただろう。
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「ごめんなさい、ごめんなさい、通ります、通ります!」
地面が溶けた、シブヤ差點の異常事態に集まる人々の中をうように進んでいく。
「継人! お母さんと一緒にいなさい、……なに、これ。このじ、あの時の島と、同じ……」
蘇るのは、あの島の記憶。
バベル島防衛戦、去年の秋、11月26日の恐怖の記憶。
ふとじた空気。ぬめつく脂のように、にまとわふ。
その時の空気と、今のシブヤの空気があまりにも似ていて。
「違う、おかあさん、ここだけじゃない。早く離れないと」
子供が、母の手を引き続けーー
「継人、いったいどうしたのーー」
「あ、始まった」
ふと、子が立ち止まる。同時にーー
【ピンポン、パンポーン ぴんぽんぱんぼおおん!】
【全世界、全人類の皆様へ。現代ダンジョン、バベルの大からのお知らせです】
【突然ですが、本日、先程よりver2.0のメインコンテンツ、"スタンピード"の準備が整いましたので、急遽開催致します】
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【いやあ、この前2回も忠告したのに、幻聴とか言われてとても傷つきました。なので、私を幻聴扱いしていた専門家の周りや、および私の忠告を全く聞きれていなかったイギリス、オーストラリア、ハンガリーには特別張り切って、たくさん怪種が這い出るようにしておきました!】
【どうですか? 幻聴ではなかったでしょう? これに、懲りたら人のことを噓つき呼ばわり、幻聴扱いするのはやめてくださいね?】
【また、今回の"スタンピード"をいち早く鎮めた國には特典を用意しています。皆様、張り切って怪狩りに邁進してください。5匹くらい殺せれば深度がⅡくらいにはなるのではないでしょうか?】
【ルールを守ってたのしい現代ダンジョンライフを! バベルの大からのお知らせ、でした】
ふざけた、聲。
また、聞こえた。はっきりと。の聲と男の聲と、よくわからないあらゆる人間の聲が混じった、誰(・)で(・)も(・)な(・)い(・)聲(・)。
テレビでは幻聴、集団幻聴とか言ってたのに。
もうあのワイドショーは見ない、ぼんやりそんなことを考えていた時。
キャアアアアアアアア?!
ヒイイイイイイイ?!!
ぎ、チチチチチチチチチ!!
悲鳴。そして、
鳴き聲。
その方を、見る。
化け、ムカデの化けがし走ればすぐという距離で、人のに噛みつき、それを生きたまま食べていた。
あ、あ、あああーー
母親の脳にはっきり甦る、去年の11月26日、あのバベル島防衛戦の恐怖。
怪の、恐ろしさ。
「え、あ、あああああ?! やだ、やだ、これ、あの日と、あの日と同じ、バベル島の時とーー」
ふわり。
しゃがみこんでしまった母親の頭にらかく、しかしどこか頼りがいのある暖かさがれる。
こどもが、その小さな、小さなに母を抱きしめていた。
「よしよし、だいじょうぶだよ、お母さん。怖がらないで。さあ、立って。だいじょうぶだから」
「つぎ、ひと?」
思わず、母が顔をあげる。
まだ、いこども。自分が守ってあげないといけないこどもだと、思っていた。
でもーー
「"お耳マン"や、"じえいぐんのおじさん"に言われたんだ。あの日、僕がおかあさんを守れって。だから、ぼく怖くない。だいじょうぶ、ぼくたちはだいじょうぶなんだ」
「継人、どうして、あなたは」
強い、人間がそこにいた。
母は理解する。自分はあの秋の恐怖にただ怯えて、そこから逃げるしかなかった。
でも、この子は、なんということだろう。
長していた、確実に。恐怖を糧に、確かに人間として長していたのだ。
「こっち、こっちならだいじょうぶ、すぐにきてくれる」
母親を立たせ、再びこどもがその手を引きながら進み始める。
パニックになった大衆、彼らとはし違う方向に進む。
「継人、どこに向かってるの?! みんなそっちには逃げてないわ!」
「みんな、と一緒じゃだめなんだ、アイツらはたくさん人がいるところを目指す、人の聲、泣き聲や、びが好きなんだって言ってる、だから、こっち、すぐ、きてくれるから」
「言ってる?! 言ってるて誰が?!」
「サ(・)イ(・)シ(・)ン(・)サ(・)マ(・)がおしえてくれる。お母さんを守りたいなら言うこと聞けって。だから、こっち」
「サイ、シン……」
我が子の、目。それは初めて見る目だった。
何故だろう、その目と似てるものをなんどか見たことがある。
學生の頃旅行した時に見たヤクシマの縄文杉。新婚旅行で見たナイアガラの滝、い頃に見た、嵐の前の真っ赤な夕焼け。
人の及ばぬ領域、人理の通じぬ何かを目の當たりにした時にじた、圧倒される違和。
己から産まれたはずのその子が、とても、遠いナニカにり果てているような。
「つ、ぎひと?」
母は困する。この子、この子はーー
「……どうしたの、お母さん?」
子どもが首をかしげてーー
だが、この母親。変なところで親バカだった。
この異常事態、島での恐怖の記憶が蘇り半狂になりつつもギリギリ親としての想いと、し斜め上の親バカが絶妙に絡み合った結果ーー
「ヤダ、うちのむちゅこタン、頼もしいわ」
こういう結論に至った。
怯えるでもなく、怒るでもなく、割とポワポワしている母親は恐怖や違和よりも、割と簡単に息子を信じることにした。
サイシンサマってなにかしら? 何かのアニメ?
なんてことを呑気に考えながら息子についていく。化けが溢れるシブヤ。
不思議なことに、息子の選ぶ道はその化けと絶妙に出會うことはない。
近くに化けがいても、他の人間を襲ったり、化け同士で爭い始めたりして、2人の親子に気づく化けはいなかった。
「うん、うん、サイシンサマ、わかった。そのお姉ちゃんを探すんだね。おにのおねえちゃん、あっち? わかったよ」
「継人、誰とお話ししてるの?」
「サイシンサマ、ぼくのお友達なんだ。怖い人たちにいじめられてヒロシマから逃げてきたって。おうちも怖い人に取られてもう帰れないんだって。だからね、おかあさん、僕がお友達になってサイシンサマを寂しくないようにしてるんだ。サイシンサマも、友達だから助けてくれるって」
「まあ、うちの継人がお世話になってるのね! サイシンサマにお禮を言わなきゃ」
「うん! サイシンサマも喜んでる! マーー お母さんのハンバーグ味しいから好きったゆってる」
「あら、ヤダ、サイシンサマもごはん食べれるの? まあまあ、どうしましょ。普段用意してないわ」
「だいじょうぶ、僕が食べたらサイシンサマも味わかるらしいから。ヨリマシとワミタマだから繋がってるんだって」
「マサヨシ? アミハマ? よくわからないけど継人、サイシンサマにお禮を言ってて頂戴。あなたと仲良くしてくれてありがとうって」
うん、どんな相手にも禮儀は大切よね。でも、最近のアニメってなんかすごいのね。
街に怪とともに溢れている"酔い"がこの母親の本を浮き彫りにしていく。
即ち、"親バカ"。
「うん! え? なに? サイシンサマ? 止まれ? うん、わかった」
「あら、ここ、差點…… ひ、たくさん、化けが……、ひ、ひ」
「だいじょうぶだよ、お母さん」
「ホホホホホホホホホホ!! ウホソホホホホホハイソオオオオイ!!」
猿の化け。けむくじゃら、頭にぎょろりと目が一つ。
それがとうとう親子を視認して。
母が子どもを庇うよりも、先に。
子どもが、その小さな手足を開いて、任俠立ちーー
「僕が守るから」
「継人っ!? ダメ!」
猿、猿、口を真っ赤に染めた人のの臭いがする猿が、手を振りかぶりーー
「うん、ここなんだね、サイシンサマ、ありがと、教えてくれて」
「えっーー」
ずんぱらり。
子どもにその手が振り下ろされる前に、一眼から白いが飛び出した。
波のような紋、鋭い刃。
刀、だ。
それがそのまま、真下にすぱり。
縦に、真っ二つ。
エリンギみたいね。母はこのごにおよんで、やはりし呑気だった。
「お見事です、ボク。……いいものを、キミの勇気を確かに、見せてもらいました」
「おにの、おねーちゃん?」
子どもが、首を傾げる。
真っ二つになった猿の背後から現れた黒いセーラ服姿のに向けて。
綺麗な、子ーー 陶磁のような、アーモンド型の綺麗な目、作品のような艶やかな黒髪。
母親は思わず、同であるにもか変わらず見惚れる。
「……ボク、人のこと鬼は勘弁してくださいよ」
否定はしなかった。
継人の母は、その顔、刀を構えたに見惚れたま
ま。
なんて綺麗なお顔。
なんて、青い返りが映えるの子なんだろう、と
……
…
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8 108久遠
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