《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》トゥルーED【焚き火】

條件達

味山只人が全てを諦めず、全てを拾い、前へ進む

〜???〜

ここは清らかな水が流れる土地。

「キュッキュッマ! マ!」

「ぼう! ぼぼ! ぼ!」

カッパと原人が今日も魚の取り分でケンカを始め、相撲でその決著をつけようとしている愉快な河原。

「はは! 九千坊、踏ん張れ踏ん張れ、じゃわよ、今回は火はなしぞ!」

その様子を切り株のイスに座り、で酒を煽りながら見する骸骨が1人。

彼らこそ、神の殘り滓。星の進歩、人類の繁栄が進む中、忘れ去られ老いさばり、それでも殘りかすとして殘っていた古きもの達。

「ギュマ!!」

ミニチュアカッパ、しかしその威は西國に響き渡て、九千坊。水の神、嵐すら、大荒れの海すら乗り越える音に聞こえし大化生。

「ふむ、味い。文字通り、骨に染みるな……」

盃で酒を飲み、飲んだ端からスカスカのガイコツ面からビシャビシャこぼし続ける著ガイコツ。

間抜けな絵面、しかしその武はついに嵐の龍すらまっぷたつ。

鬼裂、鬼に墮ちし平安の世、最恐の鬼狩り。善と悪、その両方を包しそれでも人の営みをした鬼の武人。

「ぼ?! ぼんぼやーじゅ?!」

あはれ、あはれ。カッパに投げ飛ばされたけむくじゃら。

ぼちゃんと清い水の流れに落ちる。

「かかかっ! 今回は負けたな、じゃわよ! 九千坊、主の勝ちぞ!」

「キュキュア! キューキュッキュッキュ!」

小さなかっぱが腰に手を當て、たからかに鳴き聲をあげる。本人はかなり威厳あるつもりだが殘念ながら、その姿ではゆるキャラにしか見えない。

「ぼう」

ばちゃり、けむくじゃら、始まりの火葬者、凡人がつけたその名前はジャワ。

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空が不服そうにを震わせて水を弾き飛ばしながら、パチパチ燃える焚き火に手をかざす。

「くく、じゃわよ、そう怒るな。かっぱは相撲が好きでな。以前お主にしてやられたのをに持ってたんじゃろうて」

「キュキュ、マ!」

かっぱがてちてち、こちらに歩む。

同じように火を囲み、を暖め始めた。

「ぼおう……」

「キュウ……」

「む? どうした? ……ああ、あれか」

肩を落としたけむくじゃらとかっぱ。

2匹の目線の先を追い、骸骨が頷く。

青々とした山野、清流を濾す大地、木々。

それが枯れつつあるのだ。彼らの友人、彼らの主。それが探索を全うした代償がついに。

彼らは良い。己が既に終わった存在とれ、それでも力を貸してやりたい友人の為にここに在る、いつ終わってもいい。それが彼ら、神の殘り滓たちの総意。

「きゅきゅま」

「ぼおう」

だからこそ、かっぱとけむくじゃらは肩を落とす。

その友人の終わりが近いことに。その友人に報いることが出來ないことに。

ぱちり、ぱちり。

火が、弾けた。

「くく、なに、そう気落ちすることはないぞ、九千坊、じゃわよ」

「きゅ?」

「ぼ?」

「なに、大丈夫さ。我らが友人、我らが主の終わりには近い。だが、我らは知っている。友人とよく似た男の最期を。その誇り高き生き様を見たではないか」

骸骨が、川原のほとを指差す。

そこには、丸いピカピカした石、九千坊が川底から攫い、鬼裂が削り、ジャワが磨いた綺麗な石が3つ縦に積まれていた。

しい、影石のようなーー

「だからな、我らは信じよう。我らは期待しよう、我らは備えよう。ああ、我らの友人には敵が多い。だが、我らだけは最期まで、共に、な」

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「きゅ」

「ぼう」

2匹のマスコットが影石に手を合わす。

もうここにいない、確かにいた彼らの仲間に。

彼らの主によく似て、しかし、確かに違う1人のヒトへ。

「安心せよ、黒もや。味山只人には我らがついとる。死してなお、この世に殘る、しぶとき、殘りカスが、のう」

「ぼう」

「きゅ」

そこは、清らかな水が流れる場所。

水が沸き、水が砕け、流れいづる。

彼らはそこで時を待つ、再びの戦い、再びの探索。

だが、それが始まるまではせめて。

靜かに、清らかな水とともに、安らぎを、誇り高き敗北者へとせめてーー

……………

……

〜現代ダンジョン・バベルの大の深いところ。なくとも人類未到達階層にて〜

「むぐ、あ、これ、味え。驚くほどに意外だ」

ぱちり、焚き火が僅かにはぜた。

広がる霧の海の中、ぽっかり浮かび、ゆらゆら揺れるオレンジの火。

それをアレフチームがのんびりと囲む。

木の枝を削って作った串に刺したシイタケみたいなキノコ。

遠火でじっくり焼いてが垂れているそれを口に運ぶ。ほこほこして熱い。

噛むとじゅわり、旨味が熱さとともに広がり、舌を火傷した。

「どれどれ、ん、む。おっ、いけるっすね。センセの目利きも捨てたもんじゃないわけだ」

焚き火を囲む隣、グレンがあぐらをかきながらキノコをむしゃむしゃ食べる。一口で食べ終えている。

コイツ、口の中火傷しねえのか? 単純な奴は熱さとかあまり気にしねえんだろうなあ。

味山が完全に自分のことを棚に上げてぼんやり考えた。

「まあ、流石にキノコの毒は冗談ではすまないからね。慎重に選んだつもりだよ。……さて、そろそろメインディッシュが來る頃だけど」

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焚き火に照らされた神的な容姿の、ソフィがむぐむぐと串に刺したキノコを齧る。うん、アシュフィールドが絡まない限りはコイツも充分といってもいいいな。

謎の上から目線、味山が揺れる火に照らされるその赤い目を眺めていた。

むぐ、むぐ。キノコを全てほうばる。味い、ホカホカのカサに、溢れる味い、うまいのだがーー

「あー、醤油ほしー! なあなあなあ、ハートマン、お前のキッチン機能に醤油ねえのか?」

口の中に醤油の幻覚がやってきて仕方ない。これは醤油だ、醤油しかない。

だが、殘念ながらここはバベルの大、そのかなり深い場所。スーパーもコンビニもない。

頼りになるキッチン機能つきのしゃべる裝甲車に味山が問いかけた。

『アーミー、その質問は既に6回目だ! ない!! 誇り高きアメリカ軍の尖兵ならば、ケチャップもマスタードで全て平らげてみせろ!』

「いや、お前のアメリカ観偏ってね?」

「まあ、作ったやつが作ったやつだからねえ。ああ、やはり、塩がいい、塩が。ニホン酒、持ってくるの忘れてしまったなあ…… 助手、キミのスキットルの中しわけてくれたまえよ」

ソフィがちびちびとケースにった塩をキノコにかけてそれを食む。どことなくおっさんくさい仕草だった。

「えー、いやっすよ、センセ、一口とか言ってゴバゴバいくんすもん。これはもう大事に大事に、ちびりちびり飲むんす」

グレンが足元に置いていたシルバーのスキットル、中に強い蒸留酒のっているそれをソフィから遠ざけた。

「むう、いいのかな、助手、ほうら、強い酒飲んでたらこれが吸いたくなるだろー? いいのかなー? 今なら一本まるまるわけてあげるけどなー」

ニヤリとソフィが笑い、懐からタバコを數本、で取り出す。ゆらゆらと揺れるタバコにグレンの目が釘付けになった。

「む、ぐ、まるぼろさん…… た、タダ、お前タバコは?」

「俺、吸えねえし飲めねえの知ってるだろうが。不健康コンビめ。にしてもこの謎キノコ、噛めば噛むほど味いな。ほんと、醤油くれ醤油」

酒とタバコと醤油。

それぞれがそれぞれの嗜好品を求め、火を囲む。

好みが違っても、考え方が、が、言葉が、全て違っても彼らは今も一緒にこうして火を囲んでいた。

ずる、ずるる。

何かを、引き摺る音がした。

的にソフィが手元に拳銃を構える、グレンが立ち上がりソフィを庇う。

味山は斧を拾いかけて、それから

「クラーク、グレン、大丈夫。アレフチームが誇る、炊事擔當のご帰還だ」

斧をまた地面に置く。

味山だけに聞こえるヒントはそいつが無事に帰ってきたことを知らせていた。

「たっだいまー! ソフィ、グレン、タダヒト! いい子にしてたかしら?」

「うわ」

「また、すげえの狩ってきたっすね」

「ああ、やはり、アレタ、いい……」

引いてる奴、心してるやつ、しみじみと頷き彼氏ヅラしてる奴。

アレフチームの反応はさまざまだ。

霧が晴れる。その、嵐の英雄の前では世界を閉ざす霧など邪魔にすらならない。

ずり、ずひ。

その華奢なのどこにそんな力があるのか。裝甲車両、ハートマンよりもでかい獲を引きずりながらアレタ・アシュフィールドが霧をかき分けて現れた。

「いやー、なかなか初めての地域でやるハンティングはスリルあるわね。彼、こんなに大きいのに、この霧の中に隠れるの上手いのよ。し見失ったりしちゃったわ」

ふふ、とアレタがに極小の嵐を纏わせながら、楽しそうに笑う。

引きずってきたのは狩りの獲。雄々しいツノのような牙、赤こけた皮、しっかりした四つ足。

「こりゃあ、イノシシか?」

「ええ、初めてみる怪種よ。火を吐くからフレイム・ボア、略してフレボね」

「なんだそのソシャゲのポイントみたいな名前は。……え、てか、コイツ燃えてない?」

味山がアレタの引きずってきた獲の様子に目をこらす。赤こけた皮はよく見ると、所々が赤く赤滅している。

焚き火の終わり、熾火にも似ていた。

「ふむ、ほんとだ。アレタ、火を吹くといったね? 基本的に火を吹くような怪種はそのが燃えないように、気管に火の逆流を防ぐ弁がついてたり、難燃の粘を持ってたりするものだが……」

研究室気質のソフィも、立ち上がり、獲をマジマジと見つめる。

「ふっふっふ、よくぞ気付いてくれました。あたし、彼を見つけてすぐ思ったの。味しそうって。付きもいいし、皮のもいいでしょ? でもこの巨を解して焼いて食べるのは手間だと思ったの」

「うんうん」

「へえ、まあ、確かに。それで?」

むふ。アレタが薄いを張り、鼻息をすぱーっと吐いた。

「ですので! 彼が火を吹く瞬間を狙って、ストーム・ルーラーで作った槍を投げれてみたの! これがビンゴ! BANG!! 槍が彼のを塞いで、そのまま火が逆流。なかなかいい火加減だと思うわ、文字通り、中まで火が通ってるじね」

キャッキャとはしゃぐアレタ。

みたの! じゃねえよ。

味山は改めてアレタの規格外ぶりにかなり引いていた。

「ふーんむ。まあ、アレタならそれくらい出來て當然か。でも、あまり危ないことしないでおくれよ」

「ふふ、ありがと、ソフィ。でも大丈夫、外してもコンマ數秒もあったから。きちんとリスク管理もしてるわ」

「やだ、アレタちゅよい。ナチュラルに傲慢、好き……」

だめだ。一時期アレタと敵対していた反し前までめちゃくちゃ頼りになってたソフィもかなりバカになっている。

「……なあ、タダ。お前、ほんとこの人にタイマンで勝てたんすか?」

「うん、グレン。俺もね、なんかね、よくわかんなくなっちゃったよ」

さりげないじで見せられるデタラメ加減。あれ、嵐のなかで俺コイツに一応勝ったよね?

あの激闘さえどこか夢だったかのようなーー

「いいえ、グレン。間違いないわ。タダヒトはあたしに勝った。間違いなく、強いのは彼の方よ…… ふふ、痛かったなあ、アレは……」

アシュフィールドが、どこかうっとりと自分の顔、主にあの戦いで味山がボコボコにした部分をでる。

形の良い鼻、すべすべのほお、火に照らされた彼の目、どこか怪しい熱を帯びて

「ねえ、タダヒト、その…… 変なこと言うんだけど、あたしがまた、そのおかしくなったら、その、またやってもらえるのかしら?」

「はい?」

アレタの方がし背が高い。

だからだろうか、アレタが手を後ろに組み腰を折って、下から味山を、その青い目、上目遣いで見つめて。

「だから、その、 またタダヒトが、あたしをギタギタにしてくれる?」

「ひえ」

潤んだ瞳には明らかに何か、期待するようなが燈る。

やべえ。なんかコイツ、扉を開きかけている。決して開けてはいけないタイプの扉を。

「ダメダメダメダメダメ!!! アレタ、その癖はイカンよ! 倫理的にも生産的にもそれは幸せにはなれないよ?! それはいくらワタシでもわかるから!」

「タダ、お前、お前こそが真の漢……」

慌てるソフィ、最敬禮するグレン。

いつものアレフチームがここにある。

「やめろ、グレン、やめてくれ、もうやめようこの話は。はいさい、やめやめ」

「むう……」

「むうじゃないよ、アレタ! うわ、だめだやっぱりかわいい。顔が良い、その膨れた顔、もっとワタシに向けてよベイビー」

「またこの人は、ほんと……って?! あ?! 俺のウイスキー!?! てめ、センセ! ソフィ! いつのまに!? なーんか普段より言がアホかと思えばこのバカ天才!!」

「グレンー、お腹すいらー。お食べたーい」

いつのまにか、ソフィがケラケラ笑いながら懐からシルバーの小さな水筒、グレンが大切に守っていた蒸留酒りのスキットルを見せびらかす。

「ああああ?! てめ、マジでいつのまにとったんだ?! そんな酔うほど飲んだんか?! 俺はちびちび舐めながら大切にしてたのに?! ああ、もう!!」

自分の酒を取られたことにキレつつも、グレンが用に解用ナイフで、燃え盛るイノシシの皮に切れ目をいれる。

ぷしっ、が溢れる。はもう完全に蒸発しているみたいだ。用に流れるナイフ、一口サイズのハラミをグレンが切り分ける。

「ほら、センセ、あーんしてっす、くそ、俺のマッカラン…… 高かったのに」

「あーん、もにゅ、もにゃ、うん、おいし!」

白いを赤く染めたソフィが、ナイフに乗せられた溢れるハラミを齧って咀嚼する。

グレンが悪態つきながらも、口元をハンカチで拭っていた。

グレン、お前はもつ多分クラークから離れられないんだなあ。

味山が靜かにぶつぶつ言いながらもソフィの面倒を見るグレンに向けて合掌していると

「た、タダヒト、その、ほら、なんていうのかしら、冷めたら、いけないから、さ、ほら」

アレタが何度も何度も、髪をいじり、耳に乗せながらチラチラこちらを見てくる。

いつのまにか、木の皿に切り分けられていたが數切れ。

「お、おお、悪い、アシュフィールド。もらうわ」

差し出されていた皿をけ取ろうと味山がそれに手をばし、ひょいっとそれが空振りする。

「……イジメ?」

「ち、違うわ! そ、その、ほら、えっと、そう! このおね、とても熱いの! ですので、タダヒトは火傷をしてしまうの絶対に、だから、ね、ほら」

味山の隣に座るアレタから、柑橘の果みたいな香りがする。

それほどまでに近い距離。おずおずと、アレタが木のフォークにをくるくる巻いて、差し出す。

「……味しい、よ?」

「ん、お」

火に照らされた彼の顔、蒼い瞳の中に、揺らぐ焔が映っていた。

それは、故郷の夜空よりもーー

味山は普通にたじろぐ。

一瞬、ソフィの暢気なこえや、グレンのキレ気味の聲も、火のぜる音も全て消えた、そんな気がした。

「……いただきます」

そのまま、差し出されたフォークにかぶりつく。照れるのは何故か負けたような気がしたからだ。

びくり、アレタの手が揺れる。それを無視して味山はただ、うちからよく焼けた火を吹くイノシシの化けを噛み締めた。

生命の味、強引に焼いた甘いの匂い、深い脂の滋味が舌に広がる。

「……味いよ、アシュフィールド」

「えへへ、でしょ? って、え?」

ぐいっと、アレタの手を握り、フォークを奪い取る。木の皿にまだ殘っている熱い焼を掬い、今度は味山がアレタにそれを差し出す。

「借りも、貸しも、全部返す。お前が俺にしたことは全部返すよ。ムカつくことも、……嬉しかったことも」

「あ、……う」

アレタが目をぐるぐるしながら、しさがる。

味山はそれを見逃さない。

ブサイクにを歪めた。

「どうした? アレタ・アシュフィールド、また、俺の勝ちか?」

煽る。アレタの目、キっと、吊り上がり。

「この、ニホン人!」

ぱくり。味山の差し出したフォークにアレタが食いついた。もぐり、もぐ。口をかす。

「良い食べっぷりだよ、アメリカ人」

「ふ、フフン! 當たり前よ、そもそもあたしたちのご先祖様たちはずっとおを食べてたんだから、マグロ食べてたあなたの先祖、と、は……」

訳の分からないマウントを取りはじめたアレタが急に固まる。

「どした? まずかった? 俺は味いと思ったけど」

味山がフォークを使い、木の皿のを掬おうとして

パシり。

その手をアレタが抑えた。

「あ?」

「ま、まって、た、だひと、その、アレよ、あの、あたしは全然、ぜんぜん、気にしてないんだけどね、その、気付いたというか、味がしたっていうか、そのですね」

「は? 何言ってんだお前。いや、普通に手退けてくれ。フォークで食えんのだけども」

「いやだからね! タダヒト! あなたフォークおタベタ! あたしもフォーク同じおタベタ! それであなたまたフォーク、同じフォーク…… あ、う」

「……まさか、お前、アシュフィールド、え、うそ、お前、何歳?」

「ととととしは関係ないじゃない?! なに? お子様とか言いたいの?! ていうか、何よ?! なんでタダヒトそんな普通にしてるの?! これじゃあ、あたし1人はしゃいで、バカじゃない?!」

「いや、まあ、お前バカだし」

味山がアレタのすきをついてフォークでまたをほうばる、味い。

「ーーーーー?!!」

もぐもぐと火を眺めながらを食べ続ける味山を見てアレタが聲なきびをあげる。

俯き、なんか震え始めた。

やべ、からかいすぎた。クラークにバトンタッチーー

「うわああああ!! グレンが、グレンがああ、ワタシのまるぼろさんをとったあああ!! 三本も同時に吸ってるうううう?!」

「ゲーハッハッハア! 大人を舐めるからこうなるんすよ! ティーンネイジャー!! ほーら、一息で全部吸い切っちゃうもんねー…… ゲホッ!! ゴホッ!! ゴッハオ!??」

グレンにタバコを強奪されたソフィが地面に這いつくばり、グレンがタバコ3本同時に灰にしてひどく咳き込む。

ダメだ。あそこはもう、知が存在していない。

どうするかなー、俯いて喋らないアレタをちらりと、見る。

「ふ、ふふふ、フフフフ、ッ、あははははははは!! もう、なによ! もう!」

笑っていた。腹を抱えて、金の髪を揺らし、青い目に涙をたたえて。

英雄がただの人のように笑う。

「ああ、もう、たのしい、たのしいなあ…… ふふふふふ、グレンもソフィもバカじゃない。ふふふふふ」

「……お前もな、アシュフィールド」

「あなたもよ、タダヒト」

目元を拭いながらアレタが笑う。味山を見る。

そっと、アレタの香りが濃くなる。肩と肩、僅かにこすれて。

「ねえ、タダヒト。……火、綺麗ね」

「……ああ」

「知ってる? 人間ってさ、火と波だけは永遠に見てられるらしいわ。いて、一回も同じきをすることがないから」

「へえ」

「……あたしに、この火、見せてくれてありがとね」

「……おう」

「……だから、お禮。あなたや、ソフィ、グレン。みんながずっと、ううん、永遠じゃなくても、もうし、もうし、いいえ、もっともっと長い時間、この火を見ていられるように、あたしはしたい」

なんの話をしているのだろう。

いや、これは誤魔化しだ。

アレタが、味山やソフィやグレンの抱える問題のことを言ってるのは明白だ。

「……なんで知ってるんだ?」

「……あの子達が、教えてくれたの。もう、じかんがないって。……それは噓じゃないのね。いえ、あの子達は多分、あたしに何も噓なんてついてなかった」

霧の世界。

この世と別のなにかを隔て、保存する霧が満ちる世界に、アレフチームは火を囲む。

「ここはさ、タダヒト。ダンジョンよ。世界に殘された最後の神、ロマンしかない異なる世界。あたしは一度やり方を間違えた。でも、もう、間違えない。正しいやり方を知ったから」

「正しい?」

味山が、アレタを見る。

アレタも味山を見ていた。

「あなた達と一緒にいる。あなた達と最後まで一緒。それがきっと、あたしの正しさ。タダヒト、あたしをあの子ども部屋から連れ出してくれてありがと」

「介護のアテがついたな」

味山が戦闘服の袖をまくる。

明らかに、そのには限界が近付いていた。シワシワにたるんだ皮、そこに生気はなく。

「大丈夫よ、タダヒト」

「そうか」

「ええ、そうよ、ここは現代ダンジョン、バベルの大。あたし達がまだ知らない未知が、今この場よりも下に必ずある。そこにたどり著く。そこにはきっと何かがあるから」

「何かって?」

「ふふ、箱の中、最後に殘るもの、1番深くにあるものはね、ずっと昔から決まってるの。それは奪えなくて、それはきっと1番いいものよ」

アレタ・アシュフィールドの眼の中に映る栗の瞳。

ああ、やはり、お前はすげえよ。

英雄、誰しもがその有様に憧れ、それを求める。

強すぎるはみなの目を焼き、蒙昧にさせる。

だけど、その価値を知らず、そもそも他人のに頼らず、そして近くにばち、ぱちと、燃える焚き火があるなら、そのはちょうどいい明るさになるだろう。

「だから、タダヒト。最後まで一緒にいさせて。今度こそ、あなた達を置いていったりしないから」

らかな、アレタの白い手が味山のカサカサの手を握っていた。

「ーー」

誰も、ここに至れなかった。

誇り高き敗北者たちが、至れなかった景がここにある。

誰も、向かおうとしなかった。

哀れな敗北者たちが、諦めていたがここにある。

味山只人(凡人探索者)がその手を握る。

アレタ(52番目の星)・アシュフィールドがそのてを握る。

言えなかった言葉、聞かなかった言葉が、今。

焚き火の前で

「了解、アシューー」

真っ赤な眼、真っ赤な顔。

ソフィ・M・クラークが味山と、アレタを覗き込んでいた。酔いに酔った酔っ払いの姿で。

「こおんらあ、なああに、ワタシのアレタといちゃついて、う、ブ」

「え、ソフィ?」

「クラーク、さん?」

「オボホロロラロロロロロロロロロロロロロロロロロリ」

ここは、現代ダンジョン、バベルの大

「ギャァああ!? センセ、センセが、そのビジュアルではしてならないキラキラをををを?! うえ、ゲホッゲホッ! やべ、マジ、ヤニボケが、ぐふっ」

ひしめき、未知が嗤う、魔境。

「う。うわあああああ?! きたねええ!? ハートマン! お前、なんか洗浄機能とかねえの?!」

『ピーガガ、音聲認識機能に不合。メッセージを理解出來ません』

しかし、そこで生きるもの達がいる。

未知を嗤い、怪を殺し、仲間とたのしむ、しイかれた連中が。

「頭良すぎるAIも問題だな! グレン! お前の上司だろ! なんとかしろ!」

「タダ、タバコの霊が。ユニコーンが火の中で踴ってる……」

「お前二度とタバコ吸うな!!」

例え世界がクソだらけでも。

その終わりに向かう道が悪意と絶で舗裝されていたとしても。

「プッ! ふふ、あはははははは、ああ! もう、たのしいなあ!! ほら、ソフィ、お水飲んで、お口拭いてあげる」

彼らは笑って進むだろう。

彼らはみんなで進むだろう。

「オウ、ベイベ。カムオン、アレタ、マイベイビー」

「クラーク、てめえはしばらく酒な」

だって、その方が

「うええええ、あだまいだーい! きもちわるるい! でも、アレタかわいいー! グレンがいるー! アジヤマもいるー! うひひひい、そふい、そふいねー

たーのしーー!!」

きっと、その方がたのしいから。

『…………ミュージック、スタート』

霧の世界の中、焚き火を囲んで。

探索者たちのび聲、どこか楽しそうな騒ぎが響く。

心を持つ裝甲車両が選んだ詩はーー

帰ってこい、帰ってこいよ、お前の場所へ、戻ってこいーー

彼らは遠い周りみち、ようやく帰った。戻ったのだ。

だから、あとは進むだけ。

ここは現代ダンジョン、バベルの大

世界のがその最も深き場所に眠る神の地、異なる世界と繋がる宇宙唯一のバグ。

彼らは、ここで、今、確かに生きていた。

凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ、終わーーーーーーーー

「にしても、このマジで味いな。全部食べたろ」

大騒ぎするバカ達を目に食い意地の張っている凡人がを平らげる。

空になった木皿を焚き火に放り投げ、手を合わせた。

ごちそうさまーー

TIPS€ アレフチーム特典 "クリア報酬"ダンジョン・サバイバー"適用

「あ?」

TIPS€ "酔いによるダンジョンでの活制限の排除。及び、ダンジョンでの食事による超ボーナス"

TIPS€ ダンジョンでの食事による超(・)ボ(・)ー(・)ナ(・)ス(・)

「お?」

TIPS€ 怪種の、ダンジョン原生のキノコ摂取

TIPS€ 壽命プラス3日ーー

「マジ?」

凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜

〜おしまい〜

最終部につづく

読んでくれてありがとうしかありません。

あなたのおかげてこの語は完結しました、

味山達の探索はいったんここで終わり。

しば犬部隊の次の新作はとある上級探索者の最期、9月の出來事より始まります。

6月中旬予定! 異世界ファンタジーだよ!

じゃ、それまで!

またねー!

下にTwitterアカはってます。完結記念でちょっとしたQ&Aや新作告知などしてますのでよければフォローしてください

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