「おや、坊やにはちょっと刺激が強すぎたかねえ。軽蔑したければするがいいさ」

「……別に軽蔑なんてしない。俺も同類みたいなもんだからな。だが俺はお前と違って、まだ復讐をし遂げていない。だからこんなところで負けるわけにはいかないんだよ」

自分の目的を再認識したおかげで、より一層気合いがった。今なら足もく。こいつの自分語りに謝だな。

「私だって負けるつもりは更々ないよ！　あんな形で私の人生が終わりだなんで冗談じゃない！　絶対に最後まで生き殘って転生権を勝ち取るんだ!!」

「そいつは無理な話だ。お前はここで落するんだからな!!」

俺は橫腹の激痛を堪えながら、城に向けて駆け出した。

「ふん、無駄だよ！」

再び地中にを隠す城。やっぱりそうくるよな。こんなことならさっきブン毆った時に【略奪】でスキルを奪っておけばよかった……いや、あの激痛の最中でそんな意志がり込む余地なんてなかったか。しかし便利なスキルだな、是非ともしいものだ。

さて、どうする。先程の一撃が効いているはずなので、奴もすぐには攻撃してこないだろう。その間に何か手を打たなければ。まずは奴を地中から引きずり出さないことには始まらない。いくら【怪力】でパワーを上げても當たらなければ意味はないし【略奪】も対象にれなければ発しないからな。

これ以上刺されたら俺のが保ちそうにないし、さっきのようなを斬らせて骨を斷つ戦法はもう使えない。また真冬が何か良い指示を出してくれたら……いや人任せでは駄目だ、自分で考えろ。どうすれば奴を地中から――

その時俺は、昨日の闘いの最中に鮫島の一撃で生じた巨大なを思い出した。そうか、別に地中から引きずり出す必要はない。地中そのものをなくせばいいんだ。俺は両手の拳を合わせ、深く呼吸をする。

『何してるの秋人!?　じっとするのは危険――』

真冬の聲に、俺は首を橫に振る。すまん真冬、今は黙っていてくれ。先程は〝痛い〟という意識に引っ張られすぎたせいで――言い換えるなら〝力〟への意識が弱まったせいで拳の威力が落ちた。ならば逆に〝力〟への意識が強まれば威力は上がるはず。

全神経を拳に集中させろ。余計なことは考えるな。

「――おおおおおっ!!」

俺は両の拳を大きく振り上げ、地表に叩きつけた。結果、遊や街燈ごと大量の土が四方八方に吹き飛んだ。

「なっ……!?」

巨大なが空くと共に、城のが空中に投げ出される。同時に俺も大の底に落下するが、すぐに勢を立て直す。そして大の壁を駆け上がり、宙を舞う城に向けて大きく跳躍した。

「空中ならどこにも潛れないよなあ!?」

「待っ……!!」

俺の全力の拳が、城のに炸裂。城は大の壁に激突し、底まで転がり落ちていく。俺はそのまま大の外に著地した。

「はあっ……はあっ……!!」

俺は【怪力】を解除し、大の底を覗く。そこにはぐったりと橫たわる城の姿があった。俺の勝利が確定した瞬間だった。

「こ……こんな坊やに……私が……」

そこで城の言葉は途切れた。おそらく絶命したのだろう。それを裏付けるように、城のが徐々に消滅していく。鮫島の時と同じだ。

「……訂正してやる。俺は坊やじゃない。２６歳のおっさんだ」

ってカッコつけてる場合じゃないだろ！　まだ奴のスキルを奪ってない！　早くしないと消滅してしまう！

俺は猛スピードで大の壁を走し、城の腕を摑んだ。直後、俺の脳裏に〝潛伏〟の二文字が浮かんだ。【略奪】が発したことの証だ。ギリギリ間に合った……!!

程なくして城のは完全に消滅した。スキル【潛伏】か。お前のスキル、大事に使わせてもらうぞ。

「うっ……!!」

いかん、闘いが終わって気が抜けたせいか、橫腹の激痛がますます……!!　おまけに出しすぎたせいか、意識も遠のいていく。また気絶するのか、俺……。

☆

意識が戻り、見えたのは真っ白な天井。なんかデジャブだなこれ。そして例によっての節々がとてつもなく痛い。もう日付が変わって朝になったようだ。

「おはよ。の調子はどう？」

ベッドの傍では春香がナイフでリンゴの皮を剝いていた。そう、ナイフで。俺は溜息をつきながら、ゆっくりと上を起こす。

「……ナイフで刺されまくった後なんだから、しは気を遣ってくれよ」

「そんな軽口を叩けるなら大丈夫そうね。はいどうぞ」

春香がリンゴを皿に乗せて俺に手渡した。

「またここまで運んでもらったみたいだな」

「そうよ。の底から引っ張り上げるの苦労したんだから」

「……恩に著る」

リンゴを口にしながら自分のを見てみると、この前と同じく全ての傷が綺麗サッパリ消えていた。春香がスキルで治してくれたのだろう。

「春香のスキルって、やっぱり治癒だよな？」

「さて、どうかしらね」

またはぐらかされた。治癒以外に考えられないと思うんだけど。

「それよりも昨日の闘い、秋人が橫腹にナイフを刺される場面あったでしょ。あれってわざと？」

「……まあな」

あの時は転がって回避する手もあったが、俺は敢えて刺されることで城を捕まえる戦法を選んだ。

「やっぱりね。どうせ後でアタシに治してもらえると思って自分のを囮にしたんだろうけど、今後はそういうのやめた方がいいわよ。アタシのスキルって対象にかなり負擔が掛かるんだから。その証拠に今はが凄く痛いでしょ？」

「……確かに」

この前も意識が戻った直後はの節々が軋むように痛かった。てっきり筋痛の類かと思っていたが、春香のスキルの影響だったのか。

「それに、刺された場所によっては死んじゃってたかもしれないのよ？　いくらアタシのスキルでも死んだ人間を生き返らせることなんてできないんだから」

「……そうだな」

グウの音も出なかった。もし運悪く心臓を貫いていたら、その時點でゲームオーバーだった。危機意識が低かったことは認めざるを得ない。俺が反省していると、部屋のドアが開いて真冬がってきた。

「春香。秋人の様子は……」

真冬は俺と目が合うと、安堵したように息をついた。

「この通り元気だ。戦闘中のサポートありがとな、真冬」

「……別に、大したことはしてない」

「にしても真冬もんだり揺したりするんだな。闘いながらしビックリしたぞ。そういう時の真冬の顔って想像できないから見てみたかったなー。あ、よかったら今ここで見せてくれないか？」

「～～～～!!」

真冬は小さく頬を膨らませた後、激しくドアを閉めて部屋から出て行った。ちょっとからかうだけのつもりだったけど、怒らせちゃったか。

「まったく。あれでも真冬は秋人のこと、凄く気に掛けてるんだから。真冬に心配かけない為にも、自分のは大事にした方がいいわよ」

「……ああ、分かった」