《【書籍化&】冤罪で死刑にされた男は【略奪】のスキルを得て蘇り復讐を謳歌する【コミカライズ決定】》兄弟の參加者

「兄さん!!」

もう一人の男が雪風のもとに駆け寄る。やはり敵は他にもいた。マルチプルというインパクトにわされて、敵は一人だと勝手に思い込んでいた。真冬が言っていた〝見落とし〟とはこのことだったのだろう。三人以上の可能も考えていたが、他に人間は見當たらないので敵はこの二人だけのようだ。

「大丈夫兄さん!? しっかりして!!」

「……心配ないよ、貴史」

貴史と呼ばれたその男の右腕には〝61〟の痣があった。60と61の痣、そして兄さんという発言。これらから導き出されるのは……。

「まったく、初対面の相手をいきなり毆るなんて禮儀がなっていない。せっかくこうして出會えたのだから、まずはゆっくりお話をしようじゃないか」

ふざけるなと言いたいところだが、闇雲に闘って勝てる相手ではないだろう。一刻も早く倒したいのは山々だが、焦ってはいけない。今は氷の壁に阻まれて手を出せないと思わせて、好機を窺うのが最善だ。

「では改めて自己紹介をしよう。僕は雪風貴之。そして僕の弟、雪風貴史だ。僕達は共に死に、共に転生杯の參加者に選ばれた、実の兄弟なのさ」

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やはりそうか。敵が兄弟だとはさすがに予想していなかった。そもそも兄弟で參加者に選ばれること自が驚きだ。

俺は改めて空間を見回してみる。テニスコートほどの広さがあり、照明スタンド、テーブル、本棚など様々なが置かれている。まるでどっかの部屋を丸ごと転移させたかのようだ。というか実際にそうしたのだろう。

「お前は氷を生するスキル、そして弟は対象を転移させるスキル。そうだな?」

「ま、ほぼ正解だね」

余裕の表れか、雪風はあっさり認めた。こいつが校舎と部室棟を瞬間移できたのは、弟のスキルのおかげだったわけだ。あの時痣の反応がいつもより強かったのは、同時に二人の參加者に反応していたからだろう。

「お前は俺達を攪させる為、わざわざ俺達の痣を一度反応させた。そんなことをしなければ、俺の接近を察知して襲撃に備えられただろうに、慢心が仇になったな」

「攪? ああ、あの時のことか。あれは結果としてそうなっただけで、元々攪させるつもりなんてなかったけどね」

「……どういう意味だ?」

「ほら、地中ってトイレがないだろう? だから校舎のトイレを借りようと貴史と一緒に校舎に行ったら、たまたま君の仲間が近くにいて痣が反応しちゃったんだよね」

は?

「これはいけないと思って部室棟に場所を変えたら、また君の仲間が近くにいて痣が反応してしまい、校舎に戻ったらまた痣が反応して……。いやあ、あの時は苦労したよ。まあそれで君達が混していたのは面白かったから結果オーライだけどね」

なんだそりゃ! ただトイレに行きたかっただけかよ! 紛らわしいことしやがって!

「いやしかし、貴史のスキルには本當に優秀だ。氷世界を維持する関係上、僕は氷世界から出ることができなかったからね。だから食べや生活に必要なは全部、貴史が外から持ってきてくれた。本當に頼りになる弟だ」

「あ、ありがとう兄さん……」

氷の牢獄を外部から維持するのは難しいはず、という真冬の推測は的中していたようだ。この七日間皆を散々苦しませておきながら、自分は安全な場所で悠々と過ごしていたのかと思うと、ますます怒りが込み上げてくる。

「しかしたったの七日間とはいえ、よくこの環境を耐え抜いたものだ。よければ想を聞かせてくれないかな。やっぱり地獄だった?」

「……地獄、ね。殘念だが、その程度の煽りは俺には効かないな」

俺が生前に検察庁や刑務所で味わわされた苦痛と屈辱に比べたら、この程度は地獄と呼ぶには程遠い。

「今すぐ氷の牢獄を解除して皆を解放しろ、と言っても無駄なんだろうな」

「當然だね。あと氷の牢獄ではなく氷世界だ。勝手に騒な名前で呼ぶのはやめてくれないかな」

「……おい、お前」

俺が弟の方に呼びかけると、そいつはビクッと肩を揺らした。

「お前の兄のせいで大勢の人が苦しみ、死人も出た。それを知ってお前は何とも思わないのか?」

「そ、それは……」

弟は見るからに気弱そうであり、とても自らの意志で行しているとは思えない。おそらく兄の指示に従っているだけだろう。

「僕の弟を誑かそうとするのはやめてくれないか? 貴史、こんな男の言葉に耳を貸す必要はないよ。お前は僕の手助けさえしてくれたらいい。僕達には偉大な目的があるのだからね」

「……うん、分かってる。兄さんの力になれるのなら、何だってするよ」

「それでこそ僕の弟だ」

偉大な目的……? なんにせよ弟は雪風を裏切る気はないようだ。まあ元から説得しようなんて考えは全くない。雪風に無理矢理従わされているのではないと分かった以上、心置きなく闘える。

「やはり皆を解放する為には、お前をブッ倒すしかなさそうだな。高みの見もここまでだ雪風」

いや、地中だからこの場合は低みの見か? どうでもいいけども。

「ほう、この僕と闘うと? 忠告しておくけど、僕の力は他の參加者とはレベルが違う。死する方がまだ幸せだったと後悔することになると思うけどね」

「だからどうした。いくら託を並べたところで俺の意志は変わらない」

「なるほど。ではここまで來てくれたお禮に、相手になってあげるよ。君がどれだけ抗えるか楽しみだ」

「楽しみ、か……。俺もだ」

おかげさまで20萬字突破しました。引き続き応援よろしくお願いします。

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