《愚者のフライングダンジョン》5-2 ニート、心までは怪になるな

ヒルミミズが逆さの狀態で眠りについてから長い時間が経過した。何度も日付が変わっている。ニートはまだ出られていない。

というのも出られるかどうかはヒルミミズ次第なのだからニートは待つしかない。

だがそんなニートにも限界が來ていた。

「腹が減った」

食料がない腸には留まれず生理求にしたがって既に腸を移していた。腸の壁を何度も挑戦し、やっとのことでたどり著いたのは第三嗉嚢。3つある貯蔵のうち最後のひとつ。

ここはもう水分がなく、室に溜まっていたのはほぼヘドロだった。

ただそこにも食べられるものが殘っていた。魔石だ。

ニートは全ての覚を使ってヘドロの中の魔石を探った。全手と尾から溶解が偶然噴されてからは、それも使ってヘドロを溶かしながら探していた。

第二嗉嚢と比べて第三嗉嚢は空間が狹い。四つん這いに近い形で進まないといけない。

彼は見つけた魔石をヘドロごとパクッと一口で食べていた。どうやら相當に飢えていたらしい。そのような狀態になるまで腸に留まるとは流石ニートだ。

第二第三の嗉嚢の魔石を全て回収したニートは坐禪を組んだ。再び変化先をイメージするのだろうか。彼の頭を覗いてみると、骨を増量したいと考えているようだ。手や尾の長さや太さの調整は骨の総量に依存している。骨の総量が増えれば手の間合いが広がる。

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ただし、それをするには皮の向上も同時に必要だ。手や尾には皮と毒腺が付屬するため、骨をばしすぎると皮と毒腺が途中で剝がれてしまう。

魔石が遅れて融合を開始した。坐禪を組む間は融合の速度が落ちるようだ。

今度こそ魔石はニートのイメージ通りに働いてくれるのか、ニートの要に魔石はこたえてくれるのか……。

結果は果たして──。

なんと魔石は要にこたえた!

ニートの皮が高まり、手の長さや太さの調整が更に向上。

余った骨はの臓と筋の隙間にりこんで防力が更にアップ。

もはや解剖は諦めた方が良いくらいに骨が臓と筋に絡み合っている。

これはもうほぼ骨の生きだ。

そしてニートが知らないうちに毒袋がひとつ追加された。ただし中は空っぽ。毒袋にどんな毒をれるか魔石が決めかねているようだ。

現在、毒袋は3つ。1つは〖溶解〗、2つ目は〖神経毒〗だ。

融合を幾度も経たことで、ニート自が融合の終わるタイミングを把握した。終わったと同時に坐禪を解き、次の魔石を探しにクライミングしていく。

次の臓も腸だった。ここのはほぼほぼ固形。つまりうんちだ。この先に門がある。

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ニートはうんちの中から顔を出し、もう一度潛った。うんちをかき分けて魔石を見つけると、うんちの中で食べている。

彼は変わってしまった。清潔で獨り言が多かったひきこもりニートはもういない。

今は全らせながら多くの手で排泄の中を泳ぐ魔石回収家だ。魔石を見つけると無言で食う。

その姿はまるで寄生蟲。

いや、実家に寄生していたから寄生蟲なのは元からか。

前言撤回、ニートはそこまで変わってなかった。

うんちの魔石を回収したあと、ニートは門に向かわなかった。

逆走だ。魔石を求めて逆走している。

うんちの中を抜け、ヘドロの池を通り、腸の中を泳いで……。

ついにヒルミミズのの魔石は核を除いて無くなった。ついでに食料も盡きたことになる。

新たな融合では外見がそれほど変わっていない。背中の大手が増えて左右3本ずつ計6本になったくらいだ。もはや大した変化ではない。

細かいところまで指摘すると今まで変化がじられなかった両手両足の爪が外骨格と一化したくらいだ。この程度、大した変化ではない。

ニートが今どこにいるかというとヒルミミズの食道だ。両手の手を使って壁にを開けている。

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こんな大掛かりな工事をすれば痛みでヒルミミズが暴れてしまうだろう。

ところがを開けてその中をニートが移しても、危懼される事態は起こらない。

新しい毒の効果だ。麻酔効果のある〖神経毒〗は毒耐が高いヒルミミズにも通用した。

ニートが〖神経毒〗の存在に気付いたのは、魔石を求めて逆走しているときだ。

逆走していると胃の中に囚われたアリと出會った。ヒルミミズが移中に飲み込んだのだろう。

戦闘はすぐに始まり一瞬で終わった。アリは既に衰弱していたからだ。

ぐったりとしたアリに手を刺して外皮を溶かす目的で溶解を噴したとき、他にも注できそうな余裕があるとニートはじた。

溶解らかくなった外皮に手を突き刺し、新たな毒を大量に注した。その瞬間にアリが昏睡狀態に変わったのだ。しかしそのときニートには何が変わったのかわからなかった。

アリの魔石を生きたままいただき、アリのお腹に溜まったを飲んだとき、ニート自も眠りに落ちた。

目を覚ましたあとでやっと気づいた。ニートは一度、鼻の手をする際に全麻酔を験したことがある。眠りに落ちる瞬間にその時の覚を思い出した。

対アリの時は神経毒をれすぎたため、を吸うと同時に大量の神経毒を摂取してしまった。それで眠らされたのだ。

同じ神経毒がヒルミミズの食道に使われる。ニートは食道に開けたからり込み、を掘り進めながらヒルミミズの脳を目指すことにした。

神経毒を上手に使って隠を開け、脳の周辺に大きな空を作った。

ヒルミミズの脳は目の前にあり、魔石はいつでも取り出せる狀況にある。しかし手を出さない。

そう、ニートはヒルミミズの中で快適に引きこもろうとしている。

いつでもヒルミミズの魔石を取り出せる狀況だけ作っておいて脳の隣に住み著いた。

まさに寄生蟲────。

ニートがヒルミミズの脳を拠點に改造してから數ヶ月が経つ。

部屋の中でヒルミミズの行を待ちつづける日々は退屈であるが、ニートはこの狀況を楽しんでいた。

「もしかしたらカレンダーが変わる頃なんかな」

ニートが脳で暮らし始めてからというものヒルミミズは元気になり、ダンジョンの地中をきまわっていろんなを食うようになった。だがなかなかダンジョンの地表に戻らない。

周りの狀況はセンサーを使うことで知覚している。ヒルミミズの皮過してニートが外を見れるのはこのおかげだ。

「腹が減った。そろそろ収穫に行くか」

脳の部屋を出て通路を歩いていく。

ヒルミミズのはもうボコだ。ただを開けただけではすぐに治癒されてしまうが、新たに獲得した3つ目の毒袋〖粘著〗を使うことで治癒をさせない方法を編み出した。

その方法は単純だ。溶解で開けたが再生する前に、壁の表面に〖粘著〗を塗りつけるだけでの壁を固められる。

そうやってヒルミミズのにニート専用の通路をつくった。

3つの毒袋。〖溶解〗〖神経毒〗〖粘著〗はヒルミミズに住み著くための貢だったのだ。

ニートが向かったのは貯蔵の第二嗉嚢。ここが一番魔石を拾える。

泥とヘドロに飛び込み、手を用にって底に溜まった魔石を回収した。

回収した魔石を皮の抜け殻で作った袋に詰めて通路へ戻る。

「おっと。ドア閉めないと」

第二嗉嚢から消化れないよう、忘れずに粘著を塞ぐ。

次に向かったのは腸だ。腸の中を泳いで底にある魔石を袋に詰め込む。

最後に向かうのは胃だ。脳へ戻る途中に立ち寄る。胃はニートお気にりのスペースとなっていた。

匂いはかなり酸っぱいが、胃酸がや魔石の汚れを落としてくれる。

ニートが言うにはレモン炭酸風呂に浸かっているようで気持ちが良いそうだ。

「胃の中の蛙、けっこー快適。最適げこげこ」

の汚れを落としたらヒルミミズの脳に作った拠點へ戻る。胃酸が付いたままの手で巨大な脳にれるとヒルミミズが走り出す。

ヒルミミズの走行をセンサーで観ながら魔石を食べるのがニートの楽しみだ。

もう何度日付が変わったかもわからない期間をヒルミミズの中で過ごしたため、俗世に戻ったときが楽しみなのだそうだ。この空白期間に日本がどれだけ変化したのか、タイムスリップする覚を味わいたいらしい。

「ぺちゃくちゃ。今日はやけに速いなあ。なんか見つけたのかなあ。ぺちゃくちゃ」

突如、センサーがをとらえる!

懐かしき巨大蛍のだ!

このニートはダンジョンの中で別の冒険をしていたが、本來の冒険の場所に帰ってきたのだ。

流石の彼もこれには喜ぶかと思ったが、そうでもないらしい。

ヒルミミズの椅子に座ってのんきに魔石を食っている。

まずは狀況確認ということで発の出力を上げて空間を把握した。

り輝くヒルミミズの頭部。ヒルミミズ自は特に気にしていないようだ。

センサーが捉えたダンジョン地表は悲慘だった。どこもかしこもアリ、アリ、アリ。

今ここから出るのは得策ではないという判斷でニートがいた。

彼は一歩前に出て巨大な脳の前に立つ。両足の手を植のように這わせて幹を固定した。

両手に〖溶解〗と〖神経毒〗をごく量出して混ぜ合わせる。毒に濡れた手で巨大な脳の表面をでたり、離したりを繰り返し始めた。

するとヒルミミズが暴れ回る。暴れに暴れ、地表のアリを叩き潰していった。ヒルミミズの口にアリがれば噛み砕き、アリに噛みつかれたら上に飛び跳ねて叩き潰す。

ヒルミミズのラジコンだ!

「いっけーヒルミミズ! はねる攻撃だ!」

ヒルミミズによる躙(じゅうりん)にも怯まず果敢に噛みつくアリたち。次々と援軍が來てはヒルミミズに潰されていく。

ヒルミミズ一とアリ軍団の戦爭がどんな結末を迎えるのか。

その行方をヒルミミズが撤退しないように見張りながら、ニートは魔石を頬張った。

戦爭に飽きて座っていたニートだが魔石を食べ終わり、融合を終えた頃に戦況を再確認する。

大量のアリの死骸が散していた。しかしまだ戦いは終わっていない。

ヒルミミズの表を覆い盡くすほど生首だけになったアリが噛み付いている。へろへろの兵隊アリが新しい生首を作るために突撃していた。

もうアリの戦力は殘りわずかといったところだ。しかしまだ王が出てきていない。おそらくアリの巣の奧からかないのだろう。ということは親衛隊もまだ出てきていない可能がある。

ボロボロのヒルミミズをコントロールして奇妙にあいたへ向かわせる。そのはダンジョンのにしては大きく、削られたような傷跡が殘っていた。

の先にはヒルミミズが収まるほど大きな空間があった。壁側にびっしりと卵が積まれている。部屋の中央では巨大な王アリが今まさに卵を産むところだった。

いくら巨大王アリといえど大きさはヒルミミズに劣る。

例えるなら3階建て電車(ヒルミミズ) VS 2階建てバス(ジョウオウアリ)。

王アリには戦闘力が無いらしくヒルミミズが近づいても攻撃しようとはしない。卵を守るように盾になるくらいだ。

王部屋の地面はらかくなっていたようで、ヒルミミズが土に潛って逃亡しようとしたところをニートが阻止。

ヒルミミズは王の前で暴れ回り、卵を潰し、王のらかい腹を潰す。

そこにようやく親衛隊が到著。なにやらサナギを擔(かつ)いできたようだ。

他より一際大きいサイズのアゴで親衛隊がヒルミミズに噛みついた。そしての先から蟻酸(ぎさん)を注する。

ヒルミミズは天井にぶつかるほど大きく飛び跳ねて親衛隊の半分を潰した。殘りは10匹くらいだ。

このまま押し切れるかというところでヒルミミズの力に限界がきた。もう死にかけだ。

ニートは神経毒を含んだ手で脳味噌をでてヒルミミズの労をねぎらう。

「ようがんばった。ありがとう戦友(とも)よ」

無謀な作戦で戦地に送り出し、撤退も許さないニート指揮から戦友と呼ばれるのは腹が立つだろう。寄生している奴が何様だ。

ニートのターン。ついにヒルミミズの脳を溶かして魔石を両手で取り出した。

他のモンスターの魔石とは比較にならないほどヒルミミズの魔石は大きい。例えるとボウリングボールくらいの大きさだ。

ダイヤモンドの輝きを放つボウリングボール大の魔石にニートがかぶりついた。

【戦闘終了】

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