《愚者のフライングダンジョン》5ー幕間 婆ちゃん、ダンジョンアタック
『……首相が先日、世界的空化現象対策の記者會見を開きました』
ニートがヒルミミズの中で悠々自適な生活をしている頃、彼の日常とは正反対に世界は大きく変わっていた。
『世界的大地震、ならびに世界的空化現象から間もなく一週間となります。
空を見つけたら近寄らない。警察を頼る。他人に言いふらさない。
これら【3つのT】を國民の皆様に要請いたしました。國民の皆様ひとりひとりのご協力によって、世界各國と比べて日本の被害は低く抑えられています。
危険區域指定された空への進は罰則が課せられます。しかしながら、報告されていない空につきまして我が國では強制的な進規制ができません。
それでも被害の拡大を防げているのは國民の皆様ひとりひとりが努力を重ねてくださった、その果であります。ご協力してくださった全ての國民の皆様に心から謝いたします。
引きつづき、「空に近寄らない」「警察を頼る」「他人に言いふらさない」。この【3つのT】を國民の皆様に要請いたします。
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その一方で既に空化現象によって毎日の暮らしが壊された方々への支援策。私有地で空が発見され、危険區域指定された場合の補償についてお話しいたします』
ピンポーン。
ニートの祖母宅のインターホンが鳴る。
急いで茶碗のお茶漬けを掻き込み、丸太のような足が重い腰を持ち上げる。
作業著を上から羽織り、牛パックを絞るように飲んでから來訪者を迎えた。
「はいはーい。どちらさんですか?」
玄関先には警察の制服を著たが二人。祖母にとって見覚えのある顔が並んでいた。
「あらま。お久しぶりですう。警察の方がどうなされましたか」
「行方不明になったこちらのお宅のお孫さんの件についてお伺いさせていただきました。娘さんのお話しによれば、ご自宅に來たことを最後に居なくなったとお聞きしていますが……。あの……以前お會いしましたっけ……」
「ええ! こないだはどうも孫がご迷をおかけしましてすいまっせん!」
「えっとー。もしかして。あのときのお婆さまでいらっしゃいますか? てっきりお爺さまかと……以前お會いしたときよりもずっと大きく……その、たくましいおになられましたね」
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「ええ! 孫を助けるために鍛えまして!」
「助けるため? それはどういう意味でしょうか」
祖母はニートが居なくなってからずっとダンジョンと自宅を往復していた。久々に他人と喋ったせいで自分の口がったことに気付いて即座に話題を変える。
「最近は騒じゃありませんか。ダンジョンがどうのこうので若い子が気盛んで、お二人もお忙しいことでしょう。そんななか孫のことで來てくださって本當にありがとうございます」
「ああ! なるほど! そういうことでしたか」
話が繋がっているようで逸れた返答。流石年の功といったところか。
答えを逸らされたことにも気づかず後輩は解釈を拡大させ、今の世と結びつけている。
しかし、後ろで聴くだけだった先輩が祖母の答えに反応した。
「お母さん。いや、サツキさん。あなた今、何か隠しごとがありませんか?」
「先輩? 急にどうされたんですか。今日は私に任せるって…」
「サツキさん。その腰にぶら下がってる重い。ちょっと見せていただけますかー」
「ええ! もちろん。よかですよ」
カチャカチャと作業用ベルトを外し、腰袋を手前の後輩に渡した。
中を探る後輩。その後ろで先輩が見張るように祖母の仕草を見ていた。
「サツキさん。あなた。背中に何かを隠していますね。そちらも見せていただけますかー」
「どうしてそう思われるんです? あたしゃ手になにも持ってませんよ」
祖母は何食わぬ顔で、後ろに隠していた両手をひらひらと先輩に見せつけた。
「作業著の肩にホルダーが浮き出てますよー。ショルダーと組み合わせているみたいですけど、自作ですか?」
その察力の高さに祖母は先輩に対して興味を持った。この娘なら上手く立ち回れるんじゃないかと。
「あなたたち。名前は?」
「失禮いたしました。私たちこういうものです」
二人は警察手帳を広げて見せた。祖母は証票を一瞥して名前を確認する。そして運命のような偶然に笑みを浮かべた。
「ウヅキさんに、ヤヨイさんね。二人ともまだり立てなのに仲が良さそうじゃないの。どっちが年上なのかい?」
「ヤヨイ先輩が私の一個上なんです! 私たち馴染で! どっちも親が警察というのもあって一緒に警察になるのを夢見て目指して來たんです! 來年にはバラバラに配屬されるかもって思ってたんですけど! 空化現象の件で番勤務が3倍延長されまして! 不謹慎ですけどそれが嬉しくて」
「こーら。余計なことは言わない。すいません。この子、隙あらば語っちゃう格でして」
「それにしても偶然やね。私がサツキで、あなたたちはウヅキちゃんとヤヨイちゃん。もしかして生まれ月から?」
彌生(ヤヨイ)、卯月(ウヅキ)、皐月(サツキ)。舊暦の和風月名で3月、4月、5月。
三人の名前はそれぞれ生まれ月から名付けられていた。
「はい! ひと月違うだけで先輩とはいつもバラバラで…」
「こーら、言ってるそばから。今は一緒なんだからいいでしょー。お見苦しいところお見せしてすみません」
「へー、それはおめでたいこと。これも縁の巡り合わせかもしれんねぇ。もしバラバラになってもいつか巡り合うから絶対大丈夫だよ。こんなお婆ちゃんとも巡り合っちゃったんだから」
「ありがとうございます! 今は同棲してるから満足です!」
「そりゃあ、よかったねー! いっぱい遊べて毎日楽しかろう!」
「はい!」
「はあ……すみません。ショルダーのもの見せてください」
「はい。どうぞ。あなたたちを信じます」
観念した祖母は作業著をぎ、筋で盛り上がった肩を出した。嘆の聲が二人からあがる。
その肩からショルダーホルスターを手本にして作った鉈ホルダーを外してウヅキに渡した。
「鉈を二本背負ってたんですか。いったい、なんのために……」
ヤヨイはウヅキから鉈ホルダーを奪い取り、留めを外して鉈をじっくりと観察した。
「これはー、ですよねー。でも青い。やっぱアレは見間違いじゃなかったか。サツキさん。倉庫を見せてくれますか?」
「なんで倉庫なんかに興味を持つとね」
すぐにサツキは確信した。このヤヨイという娘は自分の味方になると。
おそらくこの娘は強さを求めてここへやってきたと直でわかった。
世界中でダンジョンがいきなり発見されたのが一週間前。そのなかでダンジョン帰りの警察仲間か自衛隊員かを見たのだろう。
そして祖母宅の倉庫を思い出してやってきた。ダンジョンがもたらす力にも類稀(たぐいまれ)なる察力で気づいている。そうに違いないとサツキは確信した。
「ウヅキ、頼みがある。これから見るものはみんなに緒にしてほしい。アンタのお父さんにもだよ」
「先輩? 急になんですか。あ、先輩……肩に手が」
「いい! この事実が知れたら世界中が混する! 約束しなさい!」
「顔が…あ…緒にします!」
何度も繰り返すようだが世界中にダンジョンが現れたのは一週間前。だが、祖母宅倉庫のダンジョンが現れたのはそれよりもずっと前。
ヤヨイはこう考えた。ケーちゃんが行方不明になったのは倉庫にあるダンジョンの中であると。そして、サツキのたくましいはダンジョンの中で鍛え上げられたものだと。
三人は倉庫に移し、大の前で立ち止まる。
「せんぱい、これって、やっぱり報告したほうがいいんじゃ…」
「だーめ。ウヅキ、前に來たときにウチはこの大を見たの。アンタと一緒にこの家に來たときにね。この意味がわかる?」
「わかりません」
「毎日ニュースで言ってたじゃない。大地震と空化現象は同時だってさー。この一週間で數々のダンジョンが迅速に見つかるのには理由があるのよ。
おそらくダンジョンの発生と地震の発生には因果関係がある。だから専門家が震源地から特定の場所を割り出して、その周辺をベテランの先輩方が捜索しているはずよ。
それじゃあ、この大はなんなのって話になる。このを見たのがどれだけ前か忘れちゃったけど、日誌を見れば正確な日付がわかるはず。その間に何度も地震が來てるわよね。だったら他にもこれと同じ大が地震のたびに現れていてもおかしくないんじゃないの?
今でも手一杯なのに、このことが知れたら作業量が大幅に増えるわよ。それだけじゃない。地震との因果関係に気づいた一般人は多くいるはず。その証拠にネット検索でダンジョンと打ち込むとサジェストに震源地が出てくる。
若い子が警察よりも速くダンジョンを発見して怪我してるのはそのせいなんじゃないの?
一週間前に世界で同時だったから世間が冷靜に対応できているの。このダンジョンの存在が広まったら、世界中で一般人によるダンジョン探しブームが始まるわよ。警察の捜査力を上回る勢いでね」
「にします」
早口で捲(まく)し立てられ、ウヅキは押され気味に約束した。
推理を披し終わったところでヤヨイが結論を伝える。己の願いも込めて。
「サツキさん。私もウヅキもこの大の事はにします。危険區域に指定されれば行方不明のケーちゃんは助けられませんよね。にするかわりに私たちを鍛えてください。必ずお役に立ちます」
「お願いします!」
「ふふふふ、鍛えるだなんて、そんな暇ないね。自力で強くなるのさ。……準備したらいつでも來なさい。倉庫の鍵はいつも開いてる。
いつか私が死んだときのために作っておいたノートがここにある。こいつを読んでから出直してきなさい。すぐに追って來るんじゃないよ。警察は々と忙しいだろう?」
腰袋と鉈を返してもらったサツキはヘッドライトの明かりを點けてダンジョンに潛って行った。以前より軽で出が多い裝備だ。もはや毒など対策しない。當たったら終わりなのだ。
毒を注される = に大が空く のだから。
「いってらっしゃい! 必ずまた會いましょう!」
サツキを見送り、倉庫に殘された二人は託されたノートを持ってホームセンターへと向かった。その瞳には強いへの憧れと勇気の輝きが宿っている。二人に迷いはない。
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