《愚者のフライングダンジョン》6-1 ニート、する
まるで人間を見てきたかのような擬人化を功させた新王アリ。彼は破滅したコロニーの最後の希だ。
「名前とかある? 喋ったりする?」
現在、新王はコロニーの破壊者と寢床を共にしていた。
「これ、食べる?」
アリの魔石を新王に近づけるニート。
寢床からサッと離れる新王。
「おいしいのに……」
ニートが魔石を食うと新王は寢床に戻ってきた。
新王は死んだ仲間たちの腹部を食べて栄養を補給している。
ちなみに寢床はヒルミミズを解して作ったものだ。腐るまでは使い続けようと彼は言った。もっとも魔石の有害質を濃したヒルミミズのは微生も食べないため腐ることがない。
新王の食事中はニートのターン。白い髪を手ぐしで解いたり、白い鎧の腰をでたりする。新王の尾は腹部の役割をしていてらかく、ニートがると逃げられる。
っても新王に嫌がられない部分はと鎧だけ。ニートはモフモフとカチカチしか楽しめずに鬱憤(うっぷん)が溜まっている。
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新王の姿にを刺激されて余計にらかいものをしている。
なまじ新王が大人しいからニートは無理やり行為におよぶことができずにいた。新王のと鎧に(ふ)れてを実してから、ヒルミミズのモチモチな毒布団で自分をめている。
ニートよ。だからいつまでも人はしてくれないのだ。こういうとき優しさは失禮に當たる。されたければ相手を壊すくらいで行け。
「よし決めた! 君の名前はマリアだ!」
アリの魔石を全て食べ終えるまで數日かかった。二人はその間もずっとヒルミミズの布団の上で付かず離れずの距離を保っている。
新王のボディラインは餌を食えば食うほど整っていき、今では白い全タイツを著たグラマーなに長している。ただしカチカチにい。
唯一らかい腹部兼尾は日を(また)ぐほど膨らんで、布団の占有面積を増やしていた。ニートがそれにろうとすると新王は怒って叩くようになった。叩かれたニートはおずおずと布団の隅に追いやられる。早くもに敷かれていた。
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ニートの力は魔石を食えば食うほど歪(いびつ)になっていった。外見はヒルミミズの魔石を食べた時から変わらないものの手を分裂させたり、皮の形狀を変えられるようになったりとますます怪が極まっている。不摂生がたたったのか重が増えて60キロになった。増えた脂肪を全の皮下に満遍(まんべん)なく配置して盛り上がった筋のように見せかけている。
そんな平和な期間に新王の容態が急変した。彼の腹部兼尾がはち切れそうなほど膨れていたのだ。
今日こそ膨らみの答えがわかる日だ。
「お、うんちか? うんちならそっちの溶解トイレで頼むぜ。ちょっと、どこいくねん」
溶解で作ったトイレに新王を運ぼうとするとニートは猛烈に叩かれた。
様子がおかしいとじたニートは発のを新王のに當てて胃の中を調べる。
「変なもん食べたわけじゃないもんなあ」
るニートに新王が自分から抱きついてきた。長い期間ふたりは寢床を共にしてきたがこんなことは初めてだ。
「ついにデレ期がきた!」
おそらく発によりニートのが熱を持ったからだろう。新王はニートに抱きつくことで自分のを溫めようとしているのだ。側からくる痛みを和らげるにはを溫めるのが効果的だ。
新王の抱き締める力が強くなり、尾の先が盛り上がる。
ぽふっ、という音が出た。ヒルミミズの布団の上に白くて楕円形の塊が転がる。
これは卵だ。
「なんでや。俺の子か?」
これはニートの冗談だ。新王とニートは一度もまぐわっていない。これは新王の無卵。
「無卵ってことはオスか……おぉマリア」
卵の中を見ようとしてニートが発を近づける。するとヒステリックを起こしたかのように新王の態度が一変してニートを蹴り飛ばした。
「いったあ! ごめんてえ! ちょっとるだけやんかあ! 俺の息子でもあるんやぞ!」
新王はこの日のために仲間の死骸を大量に集めていた。消耗した力を回復させるために仲間のを吸いながらヒルミミズの布団を占領する。
「さて、どんな顔をしてるんかな」
蹴り飛ばされる瞬間、り付けておいた粘著を引っ張って卵を一気に引き寄せた。
怒った新王はニートから卵を取り返そうと立ち上がったが、人質を取られた以上むやみに行するのは危険だと直して靜止する。
ニートは発を當てて卵にを照した。驚くべきことにアリの王子はまるで人の赤ん坊のようだった。関節はアリのようだがそれ以外の部分は人間のようだった。
「嫉妬するわー。なにー。この子とエッチしたいんかー。じゃあ俺の立場はなんなん。気まずっ!」
優しいニートは新王に卵を返した。
割らないように優しくけ取ると、新王は大事そうに卵を抱えてニートから遠ざかる。ニートが近づこうとすれば離れてしまった。
「よし! 決めた! その子の名はイエス! 貞であれ!」
さっきとはまるで別人のようになった新王に嫌気が差したのか。ニートは呪いの言葉を放ってコロニーの跡地から離れていく。
「元気でな! またいつか會いにくるけん! そん時は優しくしてくれよ!」
結局、新王は最後までニートの言葉に応えなかった。添い寢と産卵時の抱きつきだけがニートの甘い思い出として殘り続けるだろう。
ニートは久しぶりに流した涙を手で拭う。そして正解のわからない迷路へと戻っていった。
ニートがの巣から出てからすぐ、アリの死骸を貪る巨大な影があった。
あれは森の掃除屋グループだ。シデムシ、オサムシ、ゴミムシが仲良くトリオを組んでアリの死骸を貪っている。
「でかいなあ。王ほどじゃないけど」
森の掃除屋たちはアリの死骸に夢中。後ろを通り過ぎようとするニートのことなんて気にもかけない。
襲ってこないならめ事にする必要もないのでニートは素通りする。
この部屋はアリのコロニー造りに使われてだらけになっている。ダンジョンの通路へのり口とは別にアリの通路のもあって迷いが生じた。
さて、彼はどっちを選ぶのか。
「気が変わった」
ニートは最初から分かれ道なんて見えてなかった。脳は新王への未練でいっぱいだ。こんな大きなモンスターを殘してコロニーを去るほど不義理でない。
踵を返して森の掃除屋の背後を取る。
「団子をおくれよ」
ニートは粘著の網を3匹の上からかぶせてやった。
急にきにくくなったことに気付いた3匹の掃除屋は逃避行を取ろうとするが、けばくほど網が絡まって余計に縛りつけられた。
抵抗をやめない3匹の首筋に手が突き刺さり、神経毒が注される。もがいていた足が急に大人しくなった。
「さて、団子はどこかな」
溶解をまとわせた手を3匹の脳みそに突っ込み、魔石を取り出すとひとつずつ飲み込んでいく。
敵意のない相手に先制攻撃したらもはや戦闘にもならない。
ヒルミミズ戦以降、を削り合う激しい戦闘をしてこなかったが、いつのまにかニートは大型モンスターを3匹同時に相手にできる狩猟能力を手にれていた。これも全てヒルミミズに食われたおかげだ。
「じゃあな、マリア。元気で」
ダンジョン探索に戻り、アリが作った通り道を辿ること數十分。ようやく正規ルートへの道を見つけた。
正規ルートかどうかを見分ける方法は簡単だ。一本道を進み、時折振り返ったらいい。背後に三本の分岐路があれば、その道が正規ルートだ。
ニートは決めていたことが一つあった。もう帰り道は選ばない。正規ルートでゴールする。
このダンジョンを攻略すればニートはここから出られると思い込んでいた。ゴール地點にワープ機能があるだろうと楽観視している。これがゲーム脳ってやつだ。
正規ルートを辿っていけば大部屋に突き當たる。ゲジ同様これはボス部屋の扱いなのだろう。
ニートの予想通りボス部屋に突き當たり、ゲームのような配置を確信してワープ機能への期待をさらに膨らませた。
ボス部屋の隅の方でヒルミミズが食われている。ヒルミミズといってもニートが住んでいたものよりは遙かに小さい。
もしくは捕食者が大きすぎてヒルミミズが小さく見えるだけなのかニートはわからなくなっていた。
捕食者が部屋の侵者に気付いて食事を中斷する。
そして大きな顎で威嚇した。全が鎧で覆われた巨大な多足類。
「巨大ムカデか。定番やね」
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