《愚者のフライングダンジョン》8-1 ニート、裏面挑戦!
長い道のりだ。もし人間であれば補給に戻る必要があるほどの試練の道だった。
なんの素材でできているのか通路の壁は全く壊れない。周囲に生はおらず酸素も屆かない。
途中で水中を歩くことになり、水分を補給することはできたが食べは無かった。
試練の道は水中に終わらず、煙の中を歩かされたり、灼熱の中を歩かされたり、無重力の中を進まされたり、人間を通す気などさらさら無いかのような道のりだった。
今度は極寒の通路で壁や地面が凍っている。
通路は広く、翼を広げられるくらいには幅があった。ニートは久しぶりに翼を作って飛び越えることに決めた。
熱で溶かしてもいいが、極寒の通路は急な上り坂になっていて溶かしながら進むより飛ぶほうが速いと判斷したのだ。
それに氷を溶かしすぎたら坂道を失ってどのみち飛ぶことになりそうだ。他にも氷を削って階段にする策があったが面倒という理由で卻下された。
現実時間にして2日間ほど飛び続けたのち、極寒の通路を抜けることができた。どの通路もこれくらい長かったため、進み慣れたのかニートは気にかけなかった。
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試練の道にってちょうど12日経過した。
それだけ経ってやっと平坦な道に戻った。
ゴールが近いと直する。
次の通路は進むにつれてだんだんと狹くなる。
先行きが見えない蜿蜿長蛇(えんえんちょうだ)の道のりを進むにつれてどんどん天井が低くなっていく。
最終的に腹這いになって進むこと3時間。
通路の先で黃金のが見えた。
「くっそ! 狹い!」
ただ通路が狹くて進めない。その先にるのは首までだ。大手が詰まっている。
「すぐそこなのに! 戻りたくねえ!」
一旦後ろに下がって余裕のある空間に戻ってから、大手をもぎ取る作業にった。
しかし不滅の素材でできたを壊すことはできない。
「ちくしょおおおお! そこだろうがああああ!」
全から破壊線が発され、狹い通路を跳ね返る。
どれだけ消耗しても型はゴリマッチョで固定された。もしも細であった以前なら抜けられたかもしれない。それがニートの神を大きく傷つけた。
ニートのストレスは限界を突破。坐禪の時間が訪れる。
「坐ろう。坐れるところまで戻ろう」
カサカサとゴキブリのように全ての手をかして最高速度で後ろに下がる。あまりの速さに衝撃波ができた。
坐れるところまで來たらすぐに坐禪を開始。心はれにれきっていて、止まらない涙を高熱のが蒸発させていた。
「マッチョになったばっかりに……マッチョになったばっかりに……」
念仏のように自分を責めている。みが仇となったことに悲しみ。を持った自の弱さに怒っている。
坐禪をしながら負のを発させる。自制を求めて心する。正気を求めて狂気を生み出す。
あべこべな姿がたまらなく(いと)おしい。ニートのような生が世に溢れたら面白くなるかもしれない。社會はり立たないだろうが。
坐禪を続けるとニートは坐ったまま眠りについた。
思えば彼はずっと睡眠を取らずにここまで來た。は疲れなくても心は削れる。もしかしたらニートはここで終わりなのかもしれない。
これから先、ここまで到達する者は出てこないだろう。自分から毒を飲み込もうなんて者は出てこないだろうし、そんなアホが出てきたとしても魔石と適合する條件を偶然満たすことはない。
ニートの場合は條件を満たすのが必然だった。他の奴らが所持する予備世界のニートも必然的に條件をクリアするだろう。復活の手順をクリアできたのは偶然だとしてもだ。
そう考えるとニートを失うのは惜しい。使者達に任せてもこのダンジョンは絶対にクリアできない。
もし人間の中から偶然クリア者が出てきたとしてもただの炭素生ではここまで來れない。
この私に予備世界を寄越した新人がなんの目的でこんな作品を殘したのか知りたかったが、ニートが諦めたらコチラもすっぱり諦めて壊そう。
あまり介するつもりはなかったが、このような未知の作品を殘しておくのは使者達にとって悪い影響しかでない。
きっちり8時間の健康的な睡眠を取ったところでニートが目を覚ました。
「よーし! 行こう!」
考えるのをやめたニートは再び狹き道へ進路を取る。
今回は通常とは別のやり方で挑戦するようだ。
低く勢を落とし、全ての手を限界までばして壁や地面に這わせる。昨日摑んだ走行法で宮殿の手前までダッシュした。
加速、加速、加速につぐ加速。速度を上げ続けると空気が破裂した。大手が天井を走り、ばした指と手が地面を蹴る。
徐々に狹くなる通路に真っ直ぐな赤い線が引かれた。線はどんどん細くなり、通路の溫度はどんどん上昇する。
黃金のが見えてきた。それでもブレーキはかけない。空気が圧され、顔の表面にくっついたチリが燃え始めても止まらない。
ついに大手が詰まった。しかしそれでも止まらない。大手を細くばして隙間を目指す。
ここでニートは自の誤解に気づいた。
(大手もばしたらよかったんや)
ばすにつれて手は先端から細くなっていく。手を変形させて解ナイフを作るときと同じ原理だ。大手も翼にした時は骨組みが細くなって広がる。
それは手に限ったことではない。手がびるのは骨がびるからだ。つまり全の骨が一本のニートは全をばすことで細いになれる。
ニートはブレーキをかけ始めた。しかし速度は既にマッハ5.0に達している。マッハは急には止まれない。
粘著を糸と合した粘著糸にして垂れ流すが間に合わない。
マッハ5.0。剎那の間に見えた景。
それは宮殿。
出口のは黃金の宮殿の輝きだった。
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