《愚者のフライングダンジョン》8-4 ニート、裏面挑戦!

『いいよいいよ。そんなことより裏面攻略おめでとう! 助かったぞ! ケーちゃんがいてくれて本當に助かった!』

「誰だ!」

ニートは聲のする方へ振り返った。センサーではその存在をじられなかったからだ。

聲の主がニートの瞳に映る。

オークル。剝き出しの白い骨。盛り上がった発。形の違う手の數々。

「うわ! ばけもの!」

『おまえじゃい!』

瓜二つの姿で現れた『この私』にニートが驚くフリを見せた。驚くフリだ。

『じゃあ、こっちの姿ならどうだ。怪同士が向かい合う絵面はさすがに気持ち悪い』

「うわ! 誰や!」

ダンジョンにる以前のニートの姿に変してやると次は本心から驚いた。

毎日のように鏡を見ていたのに自分の顔を忘れちゃったのかな。

『これはケーちゃん、おまえだよ。ほら、思い出して』

「ああ。長高いから別人かと思った。俺が低くなったのね」

『いうて1センチ程度の差だ。そんなことより本題にろう。その神鏡を渡してくれるかね』

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「嫌です」

『安心しろ。それはこの私の所有といってもいい。この世界のは全て園田蓮華から貰いけたものだ。だから渡してもいいんだよ』

「いゃ…」『嫌ですはやめろ』

「なんでもお見通しなんだから。ボケ殺しだよ全く」

『尺を取るんだよ。そのくだりが。テレビでしょっちゅう見てきただろう。永遠にやれるのだそういうコント。ほら渡せ。ボケるなよ。ほら』

「ったくよお。ほらよ……なんつって!」

渡そうとした神鏡を手前に引かれた。このフェイントを2回ほど繰り返したところでようやく渡してくれた。初対面なのに最後までボケる。そういうところだぞ。親しい間柄でもイラつかれるぞ。

『ありがとう。ただ、もうボケるな。嫌われるぞ』

そんなことよりも神鏡だ。

『本來この私は使者にも姿を見せないんだがな。今回は特例だ。まさか貰いものにこんな弾が仕込まれているとは思わなくてな。

ちゃんとチェックしたつもりだったのだが、他の神からの報告もないし安全かと思いきや、これだ。あの新人を疑っていてよかった。そしてケーちゃん、お前のおかげでこのバックドアを見つけられた』

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神鏡には一方通行のバックドアが仕込まれていた。あの新人、園田蓮華は神鏡を通じて他の神の世界に侵するつもりだったのだろう。これは報告して他の神と報を共有する必要がある。

『こんな神鏡はこうだ!』

ぱりーん、と鏡が地面で割れた。

「あー! 俺のなのに! 破損だー!」

『おまえ宛のラブレターじゃないだろうが。しっかし、文にまで細工するとは嫌われるのも無理はないな』

鏡の破片を拾い集めるニートは放っておいて、報告だ報告。

『あー、もしもし。……珍しいだろう。言葉は翻訳できるよな』

〘……〙

『そりゃあ、聴かせたい相手がここにいるからだよ。彼には知る権利がある。彼が見つけたんだ』

〘……〙

『予備世界の話だ。あの新人から手土産を貰っただろう』

〘……〙

『そうそう。滅んだ極神の後継だ。疑っていた通り、あの新人が相當なクズだったようでな』

〘……〙

『いやいや、怪しかったろ。騙されてんな。先代の世界を複製して配るところまではいいものの、まさか自分を産んだ神の世界に細工するとはな。はっきり言って不快だ。なぜ吾が君はあんなのを神にしたのか』

〘……〙

『まあそうだな。あんなのだからか。とりあえず送ったデータを拡散しておいてくれ。コチラは人を待たせているんでな』

〘……〙

『そういうわけではないが、70億の同胞たちと満遍なく仲が良いのは君だけだろう』

〘……〙

『そういうわけじゃないって言ってるだろうが! こっちは人を待たせてんの! ではな!』

こんなに話をしたのは久しぶりだ。普段は何にも干渉しないようにしているからか、余計な事まで話してしまった。會話の相手が聞き上手だからかもしれないが。

そういえばニートが直近の世界で初めての會話相手か……。

初めての會話相手には通訳になってもらうつもりだったが……ちょっと預言者には向いてないな。ノーカンにしよう。

『見苦しいところを見せてすまなかった。ケーちゃんのおかげで數々の世界から不正がひとつ無くなった。なにか褒をあげたいがしいものはあるかね』

さっきの會話を聞いていればこの世界のことを多は気になってくれただろう。質問に答える程度なら安い願いで済むはずだ。神の過干渉は規則を破壊しかねないからな。

「これ食ってもいいかな?」

訊く前から既に割れた神鏡を食べていた。これは驚いた。ニートはさっきの通話をひとつも聞いていなかったようだ。なんなんだこいつは……真面目か。他人の電話に聞き耳を立てないタイプか。えらいやつだな。だから社會不適合者なんだろうな。

『腹壊すぞ。それは魔石ではない。そして普通の鏡でもない。さすがのお前でも消化はできない』

「味がするけどなあ。これ味しいよ」

なんだか騒ぎがするぞ。すごーく嫌な気配をじる。なんらかの規則が破られたな。今この瞬間に。

「ありゃあ。なんね? あそこにおるのは貴方の知り合いね?」

『あーもう。あのクソッタレが! 神鏡も罠か!

……もしもし! おう、さっきぶり! 神鏡も罠だ! 消滅もしくは変換したら『しわよせ』が出る! あの新人の仕業だ! あいつ、相當歪んでるぞ!』

本殿とエントランスホールの境目に闇の中で目立つ白い者がいた。あれはおそらく反型の『しわよせ』だな。ニートが一番する存在が反映されたのだ。

「マリアがなぜここに……追ってきたんか?」

貓でもなく、両親でもないんだな。一番する存在がアリのモンスターって。ほんのちょっとの期間一緒にいただけだろうが。それでいいのか地球人。

『あれは新王アリではない。『しわよせ』と呼ばれる存在だ。あれは一番するものの姿となっておまえに襲いかかるであろう。頼む、あれを倒してくれ。訳あってこの私はあれと戦えないんだ』

「裏ボスか! でも、家族じゃなくてなんでマリアが……。他人をするのに時間は関係ないってことか」

『生半可な出力では倒せない。あの『しわよせ』はおまえ自の力を寫す鏡だ。自の実力を超える力でなければ絶対に倒せない。それと絶対にあれと接しないようにしろ。れたら取り込まれるぞ。例えダークマターのおまえであろうとな』

「ヒント助かる。俺はダークマターなのか。クックックッ……」

『やれ! まずは破壊線だ!』

ニートは指示通り紫の破壊線を放つ。同時に『しわよせ』も破壊線を放った。

二人の中央で破壊線がぶつかり合い、空気を破壊するほどのエネルギーがせめぎ合う。

二人の距離はだんだんと短くなる。破壊線を撃ちながら『しわよせ』が近寄っているのだ。ニートを取り込むために。

対するニートは破壊線を撃ちながら『しわよせ』に近づく。

アホなのか。さっきの話を聞いていなかったのか。なぜ自ら『しわよせ』に近づいているのだこのアホ。

ニート側の破壊線は出力が落ちて押し負け始めた。『しわよせ』は破壊線の出力を弱めない。どんどんニート側にの波が押し寄せてくる。

ついにニートの破壊線が押し負け、膨大なが彼を覆い盡くした。だが、『しわよせ』の破壊線がどんどんと小さくなる。

に〖黒紫のオーラ〗を纏ったニートが破壊線を飲み込んでいた。気持ち良さそうな表をしている。破壊線を弱めたのはわざとだ。この期に及んで死の快じているのだ。

このままではそのまま接されてお陀仏になる。ニートが消え、『しわよせ』がこの世に殘されるのはコチラにとって大きな損失でしかない。

なにせ、この反型『しわよせ』は取り込んだ相手の力を倍にしてパワーアップするのだ。このる怪の2倍だぞ。

そんなパワーアップをした『しわよせ』がダンジョンから出たらコチラの世界まで滅びる。ニートをその気にさせなければ余計な犠牲が出てしまう。それはもったいない。

『ケーちゃん! 〖黒紫のオーラ〗は破壊線と合できるぞ!』

ここは仕方ない。神の助言には聖なる力が宿り、自で気づいた発見よりも大きな果に変わってしまう。割と良くある話だから今回は特例ということで自分を許そう。

「うおおおお! 俺の必殺技にするううう!」

「喰らえええ! 黒紫せぇぇえん!!!」

黒紫の破壊線が紫を飲み込んでいく。

すぐに『しわよせ』はニートを真似て〖黒紫のオーラ〗を纏うが意味がない。むしろ黒紫線の威力が上がった。

たったの一瞬のうちに『しわよせ』がチリも殘さずに消え失せた。

「味が薄いなあ。魔石っぽくないぞ」

『まさか……

『しわよせ』を取り込んだのか。

ケーちゃん……おまえ死ぬぞ』

「え! うそ! 俺死ぬんか!?」

『ああ死ぬ。ほらもう死ぬぞ。すぐに死ぬ』

「死にたくねえ!」

『だろう。死にたくないだろう。だが、この私なら助けられる。どうする? 褒はなんにする? ケーちゃんのおかげで數々の世界が救われたんだ。なんでも葉えるぞ』

「そーだなー……なんにしよう」

『え、そこ悩むとこ? もう死にそうだからこっちで勝手にやるぞ』

「おまかせしまーす」

よし、人間に戻してやろう。

と思ったが、コチラに任せてくれたのに流石にそれはかわいそうだ。なぜならただの炭素生がもう一度あの通路を戻れるわけがないからだ。

人間 = 死だ。

ここにはワープ裝置なんて便利なものはない。文の宛先の人にワープ裝置なんて必要ないからだ。どうやら新人にとってもこいつは想定外のイレギュラーだったようだな。

しかしどうしよう。この怪は新人の想定だけでなく、この私の想像までも超えてきた。『しわよせ』を飲み込んで滅びない存在は神などの超越存在を除いてほかに知らない。使者だろうと即滅だ。

放っておいても本當は死なないから騙す形になったが、こいつの好きに願いを葉えるわけにはいかない。別の『しわよせ』が産まれそうだからな。

だからといって褒を與えないのは上に立つ者として尊厳に関わる。

なにかニートがむものはなかったか……。

そうだ! あの願いがあった!

『よし、これで死ななくなったぞ。おまけにしがっていた髪のを付けておいた。手のようにかせるから一人でちょんまげも結えるぞ。ありがたく思え』

「あざっす!」

髪のは黒を基調に構造の虹を加えておいた。ニートは貞だからユニコーン繋がりで虹が似合う。この褒は神であるこの私にしかできないな。ありがたく思え。

『ではこれで帰るとしよう。本當に謝する。さっきのとは別のお禮として、使者となる條件を満たしたら直屬の使者に任命してあげよう。今の使者たちはちょっと真面目で楽しくない。おまえみたいな奴がしいと思っていたんだ。

……なにか言いたいことがありそうだな』

「ワープ裝置とかあったりする?」

『ない。徒歩だ。がんばれ』

「うす」

そして、ダンジョン裏面攻略は終わった。この事実は世界の記憶庫に記録される。

だがニートの冒険はまだ終わらない。帰るまでが冒険なのだ。そう、彼は強くなった今でも迷い子。ダンジョン攻略の間に世界がどれだけ変化したかも知らないアウトロー。

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