《星の海で遊ばせて》リトマス紙(6)
詩乃はぶらぶらグランドの中を歩き、そういえば自分は、何をしにここに來たんだっけなと、思い立ち、柚子の事を思い出した。須藤先生に言われるままに、何となくふらっとここに來てしまったが、新見さんを見つけて、それで何をしようというのだろうか。心配してくれたお禮を言うは普通の事らしいが、詩乃はまだ、その考え方をけれたわけではない。わざわざ口に出すというのは、どうにもかえってわざとらしく、邪なように思えてしまうのだった。
バンドの演奏が終わる頃には、空に殘っていたも消えてしまった。校舎の明かりと、グランドの所々に置かれた四十センチ大の卵型ライトに源の主役が移り変わり、グランドの外に散っていた生徒たちが、しずつグランドに集まってきた。それが、何かの始まる前れということはわかっても、何が始まるのか、詩乃にはよくわからなかった。
しすると、仮設ステージに燕尾服姿の生徒が一人登壇し、マイクを持った。それだけで、パチパチパチとまばらな拍手が起きる。
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『レディースアーン、ジェントルメン――』
スピーカーから聞こえてきた聲は、艶のあるバリトンボイス。ムーディーなラジオ番組で、MCが曲を紹介するときのキメ聲そのものである。
『放送部、二十代目ダンディだ。ダンディーは、野暮な前説はしないぜぇ。育祭の最後はクールダウンだ。隣の彼の手を取って、彼の手を取って、ゆっくり踴ろう。ミュージックはジャズ研で、ブルースナンバー、〈ロングサマータイム〉』
二十代目ダンディと名乗ったその生徒が言うと、スピーカーから流れてきたのは、泣くようなギターと、ピアノのメロディー。スローテンポのブルースに揺られて、グランドのペアたちが、踴り始める。この中に新見さんはいるのだろうかと、詩乃はグランドに視線を漂わせた。
ぼんやりした生徒たちのシルエット。ゆら、ゆらっと、波を漂うクラゲのようだなと詩乃は思った。そんなシルエットの中に、詩乃はふと、柚子の姿を見つけた。不思議なことに、柚子の姿だけが、詩乃にははっきり見えた。
柚子は、男子と二人で手をつなぎ、お互いに片方の腕を背中に回している。
詩乃はその様子を見て、立ち盡くしてしまった。
持ち前の冷靜さで、このショックはきっと、新見さんにまつわるショックではなく、熱中癥からくるの疲れが引き起こしているものに違いないと、心に言い聞かせる。
別に悲しいわけではない。最初から新見さんは、誰のものでもなかった。なくとも、自分みたいな日者には眩しすぎた。あの、明るいの中で踴っているのが、新見さんには良く似合っている。そしてそれを遠目から眺めているのが、自分には良く似合っている。そこまで思考を巡らせた詩乃は、不意に『百萬本のバラ』のメロディーを思い出し、時だなと、グランドに背を向けた。詩乃は一瞬、柚子と目が合ったような気がしたが、それはきっと、自分の勝手な期待と思い出の名殘からくる幻想だろうと、振り返らずにグランドを出た。
別に、失をしたわけじゃない。
新見さんとの思い出が消えるわけじゃない。
それでいいじゃないか。
詩乃は自転車置き場に向かうと、ぽつんと置かれている自分の自転車に手提げを放りれ、思い切りペダルを踏んだ。
――水上君だ!
ダンスの最中、柚子は詩乃を見つけた。一瞬、目が合った。しかし詩乃は、すぐに目を逸らすと、柚子に背を向けて、足早にグランドから離れていってしまった。
その瞬間、柚子は言い様のない焦りと不安を覚えた。
今目、逸らされた?
たまたまそうじただけ?
「ごめん、ちょっと用事!」
「え、ええ!?」
柚子は、ペアの同意を待たずダンスを切り上げて詩乃を追いかけた。グランドを橫切って走ったが、中庭で見失ってしまった。いいじのカップルがベンチで、ピンクのムードを醸し出している。
水上君は、そういえば自転車で登校していると言っていた。
柚子は思い出し、駐場に向かった。
正面玄関時計塔から正門に続く煉瓦の道にやってきたとき、柚子は、自転車に乗る詩乃の後ろ姿を見つけた。
――やっぱり、さっきのは水上君だったんだ。
しかし、詩乃を呼び止めるには距離が遠すぎた。
詩乃は、柚子の五十メートルほど先の正門を、あっという間に通り抜けて、柚子の視界から消えていってしまった。柚子は、中途半端に開けた口で、はぁはぁと呼吸を繰り返した。
間に合わなかった。
茫然と立ち盡くす柚子の心には、その事実だけが打ち付けられた。
6/15発売【書籍化】番外編2本完結「わたしと隣の和菓子さま」(舊「和菓子さま 剣士さま」)
「わたしと隣の和菓子さま」は、アルファポリスさま主催、第三回青春小説大賞の読者賞受賞作品「和菓子さま 剣士さま」を改題した作品です。 2022年6月15日(偶然にも6/16の「和菓子の日」の前日)に、KADOKAWA富士見L文庫さまより刊行されました。書籍版は、戀愛風味を足して大幅に加筆修正を行いました。 書籍発行記念で番外編を2本掲載します。 1本目「青い柿、青い心」(3話完結) 2本目「嵐を呼ぶ水無月」(全7話完結) ♢♢♢ 高三でようやく青春することができた慶子さんと和菓子屋の若旦那(?)との未知との遭遇な物語。 物語は三月から始まり、ひと月ごとの読み切りで進んで行きます。 和菓子に魅せられた女の子の目を通して、季節の和菓子(上生菓子)も出てきます。 また、剣道部での様子や、そこでの仲間とのあれこれも展開していきます。 番外編の主人公は、慶子とその周りの人たちです。 ※2021年4月 「前に進む、鈴木學君の三月」(鈴木學) ※2021年5月 「ハザクラ、ハザクラ、桜餅」(柏木伸二郎 慶子父) ※2021年5月 「餡子嫌いの若鮎」(田中那美 學の実母) ※2021年6月 「青い柿 青い心」(呉田充 學と因縁のある剣道部の先輩) ※2021年6月「嵐を呼ぶ水無月」(慶子の大學生編& 學のミニミニ京都レポート)
8 193【二章開始】騎士好き聖女は今日も幸せ【書籍化・コミカライズ決定】
【第二章開始!】 ※タイトル変更しました。舊タイトル「真の聖女らしい義妹をいじめたという罪で婚約破棄されて辺境の地に追放された騎士好き聖女は、憧れだった騎士団の寮で働けて今日も幸せ。」 私ではなく、義理の妹が真の聖女であるらしい。 そんな妹をいじめたとして、私は王子に婚約破棄され、魔物が猛威を振るう辺境の地を守る第一騎士団の寮で働くことになった。 ……なんて素晴らしいのかしら! 今まで誰にも言えなかったのだけど、実は私、男らしく鍛えられた騎士が大好きなの! 王子はひょろひょろで全然魅力的じゃなかったし、継母にも虐げられているし、この地に未練はまったくない! 喜んで行きます、辺境の地!第一騎士団の寮! 今日もご飯が美味しいし、騎士様は優しくて格好よくて素敵だし、私は幸せ。 だけど不思議。私が來てから、魔物が大人しくなったらしい。 それに私が作った料理を食べたら皆元気になるみたい。 ……復讐ですか?必要ありませんよ。 だって私は今とっても幸せなのだから! 騎士が大好きなのに騎士団長からの好意になかなか気づかない幸せなのほほん聖女と、勘違いしながらも一途にヒロインを想う騎士団長のラブコメ。 ※設定ゆるめ。軽い気持ちでお読みください。 ※ヒロインは騎士が好きすぎて興奮しすぎたりちょっと変態ちっくなところがあります。苦手な方はご注意ください!あたたかい目で見守ってくれると嬉しいです。 ◆5/6日間総合、5/9~12週間総合、6/1~4月間ジャンル別1位になれました!ありがとうございます!(*´˘`*) ◆皆様の応援のおかげで書籍化・コミカライズが決定しました!本當にありがとうございます!
8 119地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、來訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝國を手に入れるべく暗躍する! 〜
※2022年9月現在 総合PV 150萬! 総合ポイント4500突破! 巨大な一つの大陸の他は、陸地の存在しない世界。 その大陸を統べるルーリアト帝國の皇女グーシュは、女好き、空想好きな放蕩皇族で、お付き騎士のミルシャと自由気ままに暮らす生活を送っていた。 そんなある日、突如伝説にしか存在しない海向こうの國が來訪し、交流を求めてくる。 空想さながらの展開に、好奇心に抗えず代表使節に立候補するグーシュ。 しかしその行動は、彼女を嫌う実の兄である皇太子とその取り巻きを刺激してしまう。 結果。 來訪者の元へと向かう途中、グーシュは馬車ごと荒れ狂う川へと落とされ、あえなく命を落とした……はずだった。 グーシュが目覚めると、そこは見た事もない建物。 そして目の前に現れたのは、見た事もない服裝の美少女たちと、甲冑を著込んだような妙な大男。 彼らは地球連邦という”星の海”を越えた場所にある國の者達で、その目的はルーリアトを穏便に制圧することだという。 想像を超えた出來事に興奮するグーシュ。 だが彼女は知らなかった。 目の前にいる大男にも、想像を超える物語があったことを。 これは破天荒な皇女様と、21世紀初頭にトラックに轢かれ、気が付いたら22世紀でサイボーグになっていた元サラリーマンが出會った事で巻き起こる、SF×ファンタジーの壯大な物語。
8 195美女女神から授かったチートスキル〜魅了〜を駆使して現代社會でたくさんの嫁を娶りたい!
幼児に戻って美少女開拓!一妻制には大反対!--- 結婚式の主役の新郎。彼の名は佐藤篤樹(サトウ アツキ)。彼は結婚式の途中で何故かしら神界へと飛ばされてしまった。 飛ばされた理由は彼が愛に関して不満があったからだ、と愛を司る美女の女神が言う。彼の不満の正體、それは女神の全てを見通す神眼によって明らかになった。 それは現代の日本では1人の女性としか結婚できないことである、 彼は女神そうに指摘されて、納得する部分があった。 そんな指摘を受け、今度こそ欲望に忠実に突き進もうとする彼に女神は力をいくつか授けた。その一つに【魅了】がある。 その力を駆使して主人公がいろんな可愛いヒロインを社會の常識に囚われることなくひたすらに攻略していく。 そんなわがままな主人公のハーレム作成の物語。 この主人公の行為が現代日本を救うことになるとは……
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