《星の海で遊ばせて》ためらう風鳥(5)
隅田川の夏祭りは、今年は八月四週目の土曜と日曜の二日間で行われる。都でも有名な祭りの一つで、もともとは七月に行われていたが、數年前のコロナ危機における行政措置の影響のために、三年前は十月、去年と今年は八月の開催となっている。しかし、開催月が変わっても、祭りの人気、盛況ぶりはかつてと変わらず、遠くからも、たくさんの人が訪れて大変な賑わいを見せる。
茶ノ原高校の部活は、ダンス部以外にもこの祭りのイベントに參加している。軽音楽部、吹奏楽部、社ダンス部、その他、個人的に主催者側として祭りに攜わっている生徒も多い。紗枝もそんな生徒の一人で、実は毎年、奉納舞いを神社で舞っている。
柚子が、古典の講義を抜け出した日から二週間が過ぎ、いよいよ夏祭りがやってきた。
土曜日。柚子は、午前中に一年時に仲の良かった男の五人グループで集まり、淺草駅近くの神社で神輿を見し、振る舞われる甘酒を飲んだりして楽しんだ。その後柚子はそのグループから離れ、今度は2年A組のクラスメイト數名と集まって、紗枝の奉納舞いを観た。紗枝は、奉納舞いが終わると、法被姿で、そのグループに合流した。四時過ぎ頃までそのグループで祭りの出しなどを見て回った。そこでグループは解散になって、柚子はその後、紗枝の家に招待された。いかにも歴史のありそうな木造の一軒家。柚子の家は裝も外裝も西洋風の家屋なので、一年生で初めて紗枝の家に招待されたときは、思わず家の前で聲を上げてしまったものだった。
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柚子は、紗枝の家でし早い夕食をご馳走になった。華やかなちらし壽司に、江戸前壽司。
「こんなご馳走、本當にいいの!?」
「いいのいいの! 父さん、壽司取るの好きなんだから」
「そうそう、遠慮しないで食べてね!」
紗枝と、紗枝の母が柚子に言う。
紗枝の父はというと、壽司にはほとんど手を付けず、狹い庭に面した縁側に座り、枝豆の皿を脇に緑のサワーを注いだジョッキをぐいぐい飲んでいる。そのうち、「お、そろそろか」と言って、出て行ってしまった。柚子の知っている父親像と全く違う紗枝の父に、柚子は驚きを隠せなかった。
「お壽司、あんまり食べなかったね……」
「だから、取るのが好きなんだって」
気にしなくていいよと言って、紗枝は鯛の壽司をぱくっと口に運んだ。
ゆっくり食事をして、日もすっかり沈む頃、柚子は紗枝に連れられて、近くのマンションにやってきた。その屋上は、祭りの日には毎年解放され、地元の人間しか知らない、花火の隠れた観覧スポットになっている。屋上には地元の人たちが何人かいて、フェンス越しに、花火の上がる川の上空の方を見上げている。空がすっかり暗くなり、遠くから花火の打ち上げ開始を告げる放送が聞こえてきた。
ほどなく、ひゅるひゅると、一本の白いの筋が、夜空に上った。
上る勢いが弱くなって、一瞬、が消える。
そして次の瞬間、大きな丸い、オレンジのの花が、ぱあんという音とともに弾けて咲いた。あたりから聞こえてくる、わあっという歓聲。柚子のが、ドキンと高鳴った。
ぼん、ぼんと、次から次へと、花火が打ち上げられてゆく。
遠くから見ると、小さい花火は綺麗に映る。
でも、ここからの花火は、綺麗というよりも、まずその迫力に圧倒される。に響く発の音。その音とは不釣り合いな、しい火の花びら。大きく広がり、降ってくるようだ。
「やっぱり、夏はこれでしょ!」
紗枝が言った。
も形も、いろんな花火が、休む間もなく咲いては消えていく。打ち上げの音が空に響き、自然と、気持ちが昂る。
「やっぱり私、水上君のことが好き」
「え!?」
突然の柚子の宣言に、紗枝は驚いてしまう。
「明日、告白する!」
「告白!? まだ早いんじゃない!?」
期間で言えば、柚子と詩乃が知り合ったのは四月だから、おおよそ四か月。時間だけを考えれば、別に早すぎるということは無い。でも、と紗枝は思った。初デートで告白というのは、ちょっと焦りすぎだ。柚子はスペックが高いんだから、もうちょっと水上と仲良くなって、デートもあと數回重ねてからだって、遅くはない。その間にあの水上を逃すということは、まずないだろう。これは告白の功率という話ではない。プライドの問題である。誰のプライドかと言えば、私のだ。柚子と付き合いたければ、ちょっとは勇気を見せて、告白くらい自分からして來い、と紗枝は常々思っていた。柚子と水上の持久戦は、柚子は何かを勝手に不安に思って焦っているようだが、どう考えても、有利なのは柚子だ。男らしくない水上なんか、じらされて悶々とした夜を過ごせばいい。
「でも、告白しちゃうと思う」
明日は、水上君と一緒にこの花火を見る。それを想像すると、とても、この気持ちをしまっておくことはできないと思った。
「柚子、もしかして、自分から告白って、したことない?」
紗枝が聞くと、柚子は、恥ずかしそうに頷いた。
あちゃーと、紗枝は額を覆う。
祭りにってみれば、と提案したのは紗枝だったが、柚子にはもうし、段階を踏んだ作戦が必要だったかもしれないと思ったのだ。デートの回數が足りないなら、まず祭りデートという大デートに対して、それの準備のための小デートを挾めばと、そこまで提案すればよかった。祭りに著ていく服を一緒に選ぼうとか、選んであげるとか、とにかく何でもいい。祭りに対して、その準備のために一回。これを挾めば、今日告白するにしても、裁は整う。何の裁かはわからないが、紗枝の中では、とはそういうものだった。
「まぁ……わからなくもないけどさ」
紗枝は、花火を見ながら言った。
毎年見ている花火でも、年ごとにしずつ違って見える。きっと、柚子には今日の花火は、去年とは全然違う風に見えているのだろうと紗枝は思った。そして、明日の花火も――。
「ダンス、水上も見に來るんでしょ」
「そう言ってた」
「じゃあ、いつもより派手に踴って、もうそれで、落としちゃえ」
「ダンスで?」
そんな鳥がいたなぁと、柚子は思い出して笑った。
剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)【書籍化&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】
※書籍版全五巻発売中(完結しました) シリーズ累計15萬部ありがとうございます! ※コミカライズの原作はMノベルス様から発売されている書籍版となっております。WEB版とは展開が違いますのでお間違えないように。 ※コミカライズ、マンガがうがう様、がうがうモンスター様、ニコニコ靜畫で配信開始いたしました。 ※コミカライズ第3巻モンスターコミックス様より発売中です。 ※本編・外伝完結しました。 ※WEB版と書籍版はけっこう內容が違いますのでよろしくお願いします。 同じ年で一緒に育って、一緒に冒険者になった、戀人で幼馴染であるアルフィーネからのパワハラがつらい。 絶世の美女であり、剣聖の稱號を持つ彼女は剣の女神と言われるほどの有名人であり、その功績が認められ王國から騎士として認められ貴族になったできる女であった。 一方、俺はそのできる女アルフィーネの付屬物として扱われ、彼女から浴びせられる罵詈雑言、パワハラ発言の數々で冒険者として、男として、人としての尊厳を失い、戀人とは名ばかりの世話係の地位に甘んじて日々を過ごしていた。 けれど、そんな日々も変化が訪れる。 王國の騎士として忙しくなったアルフィーネが冒険に出られなくなることが多くなり、俺は一人で依頼を受けることが増え、失っていた尊厳を取り戻していったのだ。 それでやっと自分の置かれている狀況が異常であると自覚できた。 そして、俺は自分を取り戻すため、パワハラを繰り返す彼女を捨てる決意をした。 それまでにもらった裝備一式のほか、冒険者になった時にお互いに贈った剣を彼女に突き返すと別れを告げ、足早にその場を立ち去った 俺の人生これからは辺境で名も容姿も変え自由気ままに生きよう。 そう決意した途端、何もかも上手くいくようになり、気づけば俺は周囲の人々から賞賛を浴びて、辺境一の大冒険者になっていた。 しかも、辺境伯の令嬢で冒険者をしていた女の人からの求婚もされる始末。 ※カクヨム様、ハーメルン様にも転載してます。 ※舊題 剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で出直すことにした。
8 123クリフエッジシリーズ第一部:「士官候補生コリングウッド」
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