《星の海で遊ばせて》寄り添う二羽(9)
散歩から戻り詩乃の家。
二人は上著をいで、詩乃はちゃぶ臺の前に座った。
「ケーキ、食べる?」
「あぁ、うん、折角だからね」
詩乃は立ち上がって、二人分の平皿とフォークを出した。
「あ、でも水上君のババロアもあるんだっけ?」
「あるけど――」
「食べてもいい?」
「いいよ。じゃあ、自分はケーキをもらうよ」
「わかった。水上君は座っててよ」
詩乃は言われたとおりに、またちゃぶ臺の前に座りなおした。柚子は詩乃の作ったババロアを切り分け、ケーキを詩乃の皿に置いた。ちゃぶ臺に運んで、柚子も座る。
「じゃあ、歌おっか?」
「え、歌?」
「ハッピーバースデーの歌」
「え、なんで――」
言いかけて、詩乃は、自分の誕生日が昨日だったことを思い出した。
「水上君、もしかして、忘れてた?」
「……うん」
「えー、噓でしょ。自分の誕生日なんだから」
「いや、何があるわけでもないからさ……」
「じゃあ、ババロアは……?」
「新見さんに、食べてもらおうと思って。そんなのでも、お禮になれば」
柚子は、詩乃の心遣いにしてしまった。
「わざわざ作ってくれたんだ。ありがとう」
詩乃は柚子から視線を逸らして俯いた。
柚子は部屋を暗くして、カーテンを閉めた。それから、詩乃のショートケーキに真っ赤な蠟燭を立て、火を點ける。恥ずかしがる詩乃の反応を楽しむように、柚子は元気いっぱいに誕生日の歌を歌った。
「ほら、水上君、消して!」
柚子に急かされて、詩乃はふっと蝋燭の火を消した。
柚子は部屋の電気をつけ、そして、バックから詩乃へのプレゼントを取り出した。ラッピングされた小さな長方形。それを、詩乃に差し出す。
「これ、プレゼント」
「え? 自分に?」
「うん。どうかな……」
詩乃は、ラッピングを破って開けた。その豪快さに、柚子は思わず笑ってしまう。
紺の箱――詩乃はそれを開けた。
中は、萬年筆だった。
「作家と言えばこれかなぁと思って」
柚子は、はにかみ笑いを浮かべながら言った。
しい深碧のキャップと軸。クリップとキャップリングの煌めく金。詩乃はその萬年筆を取って持ち上げ、キャップをひねった。金のペンが、らかに、を映している。
「プレゼント?」
「うん。どう?」
「一生大事に使うよ」
そんな長くは持たないよと思う柚子だったが、どうやら水上君は本気らしいと、その真剣な眼差しを見てわかった。
「新見さん、誕生日はいつ?」
「え?」
「いつ?」
「十二月三日だよ」
詩乃は、その日付を繰り返しながらスマホを探し、カレンダーに柚子の誕生日を登録した。誕生日はこの先何度訪れるかわからない。でも今日の日は、きっと一生忘れないだろうと詩乃は思った。
【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~
---------- 書籍化決定!第1巻【10月8日(土)】発売! TOブックス公式HP他にて予約受付中です。 詳しくは作者マイページから『活動報告』をご確認下さい。 ---------- 【あらすじ】 剣術や弓術が重要視されるシルベ村に住む主人公エインズは、ただ一人魔法の可能性に心を惹かれていた。しかしシルベ村には魔法に関する豊富な知識や文化がなく、「こんな魔法があったらいいのに」と想像する毎日だった。 そんな中、シルベ村を襲撃される。その時に初めて見た敵の『魔法』は、自らの上に崩れ落ちる瓦礫の中でエインズを魅了し、心を奪った。焼野原にされたシルベ村から、隣のタス村の住民にただ一人の生き殘りとして救い出された。瓦礫から引き上げられたエインズは右腕に左腳を失い、加えて右目も失明してしまっていた。しかし身體欠陥を持ったエインズの興味関心は魔法だけだった。 タス村で2年過ごした時、村である事件が起き魔獣が跋扈する森に入ることとなった。そんな森の中でエインズの知らない魔術的要素を多く含んだ小屋を見つける。事件を無事解決し、小屋で魔術の探求を初めて2000年。魔術の探求に行き詰まり、外の世界に觸れるため森を出ると、魔神として崇められる存在になっていた。そんなことに気づかずエインズは自分の好きなままに外の世界で魔術の探求に勤しむのであった。 2021.12.22現在 月間総合ランキング2位 2021.12.24現在 月間総合ランキング1位
8 111【書籍化】捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜國の王太子からの溺愛が待っていました
★ベリーズファンタジーから発売中です!★ 伯爵令嬢ロザリア・スレイドは天才魔道具開発者として、王太子であるウィルバートの婚約者に抜擢された。 しかし初対面から「地味で華がない」と冷たくあしらわれ、男爵令嬢のボニータを戀人として扱うようになってしまう。 それでも婚約は解消されることはなく結婚したが、式の當日にボニータを愛妾として召し上げて初夜なのに放置された名ばかりの王太子妃となった。 結婚して六年目の嬉しくもない記念日。 愛妾が懐妊したから離縁だと言われ、王城からも追い出されてしまう。 ショックは受けたが新天地で一人生きていくことにしたロザリア。 そんなロザリアについてきたのは、ずっとそばで支え続けてくれた専屬執事のアレスだ。 アレスから熱烈な愛の告白を受けるもついていけないロザリアは、結婚してもいいと思ったらキスで返事すると約束させられてしまう。しかも、このアレスが実は竜人國の王子だった。 そこから始まるアレスの溺愛に、ロザリアは翻弄されまくるのだった。 一方、ロザリアを手放したウィルバートたちは魔道具研究所の運営がうまくいかなくなる。また政務が追いつかないのに邪魔をするボニータから気持ちが離れつつあった。 深く深く愛される事を知って、艶やかに咲き誇る——誠実で真面目すぎる女性の物語。 ※離縁されるのは5話、溺愛甘々は9話あたりから始まります。 ※妊娠を扱ったり、たまにピンクな空気が漂うのでR15にしています。 ※カクヨム、アルファポリスにも投稿しています。 ※書籍化に伴いタイトル変更しました 【舊タイトル】愛されない妃〜愛妾が懐妊したと離縁されましたが、ずっと寄り添ってくれた専屬執事に熱烈に求婚されて気がついたら幸せでした〜 ★皆さまの応援のおかげで↓のような結果が殘せました。本當にありがとうございます(*´ー`*人) 5/5 日間ジャンル別ランキング9位 5/5 日間総合ランキング13位
8 96エルフさんが通ります
エルフの里をなんやかんやの理由で飛び出したリリカ・エトロンシア。 人間の言葉はわかるが読み書きが微妙な彼女がなんとなく町をブラブラしたり冒険したり戀愛?(本人的にはウェルカムラブ)したり犯罪したりするなんとも言えない冒険譚
8 120【書籍化決定】前世で両親に愛されなかった俺、転生先で溺愛されましたが実家は沒落貴族でした! ~ハズレと評されたスキル『超器用貧乏』で全てを覆し大賢者と呼ばれるまで~
両親に愛されなかった男、『三門 英雄』 事故により死亡した彼は転生先で『ラース=アーヴィング』として生を受けることになる。 すると今度はなんの運命のいたずらか、両親と兄に溺愛されることに。 ライルの家は貧乏だったが、優しい両親と兄は求めていた家庭の図式そのものであり一家四人は幸せに暮らしていた。 また、授かったスキル『超器用貧乏』は『ハズレ』であると陰口を叩かれていることを知っていたが、両親が気にしなかったのでまあいいかと気楽な毎日を過ごすラース。 ……しかしある時、元々父が領主だったことを知ることになる。 ――調査を重ね、現領主の罠で沒落したのではないかと疑いをもったラースは、両親を領主へ戻すための行動を開始する。 実はとんでもないチートスキルの『超器用貧乏』を使い、様々な難問を解決していくライルがいつしか大賢者と呼ばれるようになるのはもう少し先の話――
8 65存在定義という神スキルが最強すぎて、異世界がイージー過ぎる。
高校生の主人公 ─── シンはその持つスキルを神に見込まれ、異世界へと転移することに。 シンが気が付いたのは森の中。そこには公爵家に生まれ育ったクリスティーナという少女がいた。 クリスティーナを助ける際に【存在定義】という名の神スキルを自分が持っていることに気付く。 そのスキルを駆使し、最強の力や仲間、財寶を手に入れたシン。 神に頼まれた事を行うのと一緒にした事は……のんびりな日常? ※基本のんびりと書いていきます。 目標は週一投稿!
8 84異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~
ある日突然、美の女神アフロディーテにより異世界《アーテルハイド》に送りこまれた少年・カゼハヤソータ。 その際ソータに與えられた職業は、ぶっちぎりの不人気職業「魔物使い」だった! どうしたものかと途方に暮れるソータであったが、想定外のバグが発生! 「ふぎゃああああぁぁぁ! 噓でしょ!? どうして!?」 ソータは本來仲間にできないはずの女神アフロディーテを使役してしまう。 女神ゲットで大量の経験値を得たソータは、楽しく自由な生活を送ることに――!?
8 130