《星の海で遊ばせて》かさね目の炎(8)
奈の指摘に、柚子はギクリとした。
確かにそうなのだと、柚子も気づいていた。未年のではないのだから、進んだ先にあるものが何かくらい、互いにわかっている。明は確かに、実業家らしい抜け目なさはあるけれど、自分のことを遊びと考えているようには見えない。
いまいち浮かない柚子の顔を見て、奈は眉を顰めた。
「まぁでも、ひとまず人関係になっておきたいくらいの気持ちかもしれないか」
奈は、柚子の顔を見ながら、獨り言のように言った。
柚子は、靜かにワインを飲んだ。
十二月三日の夜、明は自分とのデートのために、東京灣を一周するクルーザーを貸切った。単なる誕生日祝いとは思えない。たぶん、奈の見立てが正しいだろうと、柚子は直していた。
「先輩、保留にしてるんですか、返事」
「うん」
冬璃の質問に、柚子は頷いた。
「いいですねぇー」
奈が、悪戯っぽく笑いながら言った。
いいんですか、と冬璃が奈に返す。
Advertisement
「いや、だってさ、新見さんが誰かに主導権握られるのって、何か嫌じゃない?」
「あー……わかります」
冬璃は苦笑いを浮かべた。
二人が、自分の背中を押そうかどうしようか、考えてくれているのが柚子には分かった。
「十二月三日までに答え出さないといけないんだ」
柚子が言うと、奈と冬璃は同時に口を開き、同じことを言った。
「誕生日ですか!?」
「え、あぁ、うん……あれ、私誕生日教えたっけ?」
「プロフィールに載ってるじゃないですか」
柚子の疑問に、冬璃が応えた。
冬璃も奈も、共演者の誕生日はすっかり把握していた。それだけでなく、実は二人はすでに、柚子への誕生日プレゼントも準備していた。奈は、柚子に予定が無ければ家に招待しようかと思っていたくらいだった。
「誕生日デートですかぁ」
奈は、柚子を祝えないことの殘念さをすっかり隠して、にまっとした笑みを浮かべながら柚子を見た。
「う、うん……」
柚子は恥ずかしそうに俯いた。
Advertisement
その反応に思わず、冬璃はを打たれてしまった。落ち著いていて、包容力があって、およそとして限りなく完されていそうなのに、時折、小學生のような子供っぽさを見せる。ガードが堅いのか、無防備なのか、冬璃は柚子の事が分からなくなる時がこれまでにもしばしばあった。そういう時には必ず、そのアンバランスさに魅了されてしまう。
「プロポーズされたら、けるんですか?」
ドキドキしながら、冬璃は柚子に聞いた。
柚子は、を結んで俯いた。
「付き合うにはいいけど、結婚ってなるとちょっと違うなって相手、いますよね」
奈が言った。
柚子は顔を上げて、慌てて応えた。
「棲常さんは良い人だよ。でもそんな、急がなくてもいいかなって」
柚子の「急がなくてもいい」が強がりなのか何なのか、奈にはしわからなかった。二十七――もうすぐ二十八になるが、婚期を意識しないわけがない。結婚をした友達に嫉妬をするなんて言っていたくらいだ。決定を先延ばしにするには、それなりの理由があるはずだと奈は思った。奈はもうし、そのあたりを突いてみることにした。
「――まぁ、確かに、慌てることないですよね。新見さんなら、引く手數多そうだし」
「そういうんじゃないんだけど――」
「いや、そうですよ。新見さんを口説く勇気のある男はないかもしれないですけど」
奈のツンとした言い方に、冬璃はハラハラしてしまう。
柚子はぎゅっと奧歯を噛んだあと、フォンデュ鍋のけたチーズを見つめて言った。
「……本當は、相談したい人がいるんだけど」
「え、誰ですか?」
奈はマッシュルームをフォークに突き刺し、チーズに絡めながら柚子に聞いた。
「もうその人、連絡取れなくて」
「友達ですか?」
奈が訊ねる。
「うーん……高校の時の同級生なんだけどね。友達というより、なんていうのかな……私の、先生みたいな人」
「えっ! 先生ですか!?」
「違う、違うよ! 同級生!」
奈に変な誤解をされそうなので、柚子は慌てて訂正した。
「え、じゃあ、會えるんじゃないですか。今週、同窓會なんですよね?」
奈は、何気なく柚子に言った。冬璃も、柚子の同窓會の予定は知っていた。一度聞いたことは、他人のスケジュールでもプロフィールでも、何となく頭にって、記憶してしまう。それは、奈にしても冬璃にしても同じだった。
「連絡先わからないから、招待狀出せなかったんだ」
柚子が言うと、し間を置いてから冬璃が柚子に聞いた。
「その人って、男の人なんですか?」
「うん」
おや、とワインを飲む奈の肩がぴくりと反応した。
ワイングラスの縁から奈はにやりと笑みを浮かべた。
「元カレですかぁ?」
柚子は、うっと息を止めた。
ドクンと、心臓が飛び跳ねる。
「あ、ホントにそうなんですか?」
柚子は、はにかむような笑みを見せ、微かに頷いた。
「二人もそういう人、いない?」
柚子は二人に訊ねた。
ところが柚子の予想に反して、奈も冬璃も首を傾げて考え込んでしまった。
「え、二人とも初いつなの?」
柚子が聞くと、冬璃は応えた。
「初は中學生だったと思うんですけど、ただ片想いして終わりました。私すっごい地味だったんで、その、青春っぽい事全然してこなかったんですよね」
あはははと、奈が笑った。
「いや、椎名、私もそう」
「えー、いや、池さんは私とは全然輝きが違うじゃないですか」
「まぁ、地味じゃなかったけど、ドロっとした青春だったわよ。初とか、もう、サイテーだったし」
奈はそう言った後、柚子と冬璃の興味深々という表を見て、心の中で小さくため息をついた。自分が話題を振った手前、もう話すしかないか、と諦めて口を開いた。
「いや、全然面白くないんですよ。高二で、まぁ、ちょっと悪っぽい仲間とツルんでた時代ですよ。初ちゃあ初だったんだと思うんですけど、まぁ、彼氏ができて――でも三カ月くらいで別れました。――結局、目的だったんですよね。そういう畫撮影されそうになって、一気に冷めて。で、これじゃダメだと思って、勉強始めたんです」
奈は言い終わった後、殘りのワインを一気に飲みした。
柚子は、早速、奈のグラスに冷えたワインを注いだ。
「で、新見さんの初はどうだったんですか?」
「私は……」
柚子はし考えた後、懐かしむ様な眼差しでワインのボトルを見つめながら言った。
「文蕓部だったんだ、その人。今頃作家になってるかも」
「あ、わかりましたよ、新見さん。まだその人の事、忘れられないんじゃないですか?」
だから、今カレと「進む」ことを躊躇っているんですよねと、そういう言葉を口調と表に含ませて奈が言った。頭の悪い脳的な発想だと奈は自分でも思ったが、今は、柚子とこの話題で盛り上がれるなら何でも良かった。
そんなことないよ、と柚子は大袈裟に笑って否定した後、思い出話をしてくれるだろうと奈は思った。ところが柚子は、時間が止まったように固まってしまった。
奈も冬璃も、あれ、と思った。
柚子ははっと思い出したかのように呼吸を再開し、二人に笑みを見せ、自分の作ってしまった不自然な沈黙を取り繕うように明るく応えた。
「ううん、もう忘れたよ」
『ええ、絶対忘れてないじゃないですかぁー』と、奈は話を広げられそうな返しを用意していた。今日は新見さんに話させようと、奈はそう決めていた。二人だけだと、どうしても自分ばかり話してしまうから、今日は冬璃も連れて來た。
しかし奈は柚子の反応を見て、この話はこれ以上聞いちゃいけないと直した。ただ恥ずかしがっているのとは違う。何かわからないが、新見さんの中のブラックボックスにれてしまったような気がする。
「あ、ごめんね、ちょっと電話する所あるんだった。ちょっと席外すね」
柚子はそう言うと、攜帯を持って部屋を出た。
二人殘された奈と冬璃は、顔を見合わせた。
「どうしたんですかね?」
冬璃は、小聲で奈に聞いた。
「どっか連絡忘れてたんじゃない?」
奈はあっさりと言った。
「そうですかねぇ……」
訝しむ冬璃に、奈はその思考を遮る様に訊ねた。
「椎名、彼氏いるの?」
「え! いきなりですか!?」
「大丈夫、報売ったりしないから」
冬璃は思わず力なく笑い、応えた。
「います。――大學からの付き合いなんですけど」
「椎名、大學京都だったよね? もしかして、今遠距離?」
「そうなんですよ!」
「大學から続いてるんだ」
「はい」
ふーん、と奈は相槌を打ち、それから、にやりと笑みを浮かばて冬璃に言った。
「京都でも國だったら、向こうは毎日會えるもんね」
冬璃は、笑いながら応えた。
「でもあんまり、見てほしくないんですよね」
「なんで?」
「恥ずかしいですよ」
「え、今更?」
「いや、そうじゃないんですよ」
冬璃はぎゅっと顔を窄めた。冬璃が悩んでいる時は、いつもこの顔になる。
「カメラの前って、やっぱり言葉遣いとか、表とか、気を付けるじゃないですか。それを見られるのが、嫌です」
「作りもの見られるのが嫌って事?」
「作りものってわけじゃないですけど、嫌じゃないですか?」
「他の男には見られてもいいのに?」
冬璃はまた、梅干しみたいな顔になる。
「半分タレントみたいなもんなんだから、割り切らなきゃ」
冬璃はそう言われて、し腹が立った。
【書籍化】竜王に拾われて魔法を極めた少年、追放を言い渡した家族の前でうっかり無雙してしまう~兄上たちが僕の仲間を攻撃するなら、徹底的にやり返します〜
GA文庫様より書籍化が決定いたしました! 「カル、お前のような魔法の使えない欠陥品は、我が栄光の侯爵家には必要ない。追放だ!」 竜殺しを家業とする名門貴族家に生まれたカルは、魔法の詠唱を封じられる呪いを受けていた。そのため欠陥品とバカにされて育った。 カルは失われた無詠唱魔法を身につけることで、呪いを克服しようと懸命に努力してきた。しかし、14歳になった時、父親に愛想をつかされ、竜が巣くっている無人島に捨てられてしまう。 そこでカルは伝説の冥竜王アルティナに拾われて、その才能が覚醒する。 「聖竜王めが、確か『最強の竜殺しとなるであろう子供に、魔法の詠唱ができなくなる呪いを遺伝させた』などと言っておったが。もしや、おぬしがそうなのか……?」 冥竜王に育てられたカルは竜魔法を極めることで、竜王を超えた史上最強の存在となる。 今さら元の家族から「戻ってこい」と言われても、もう遅い。 カルは冥竜王を殺そうとやってきた父を返り討ちにしてしまうのであった。 こうして実家ヴァルム侯爵家は破滅の道を、カルは栄光の道を歩んでいく… 7/28 日間ハイファン2位 7/23 週間ハイファン3位 8/10 月間ハイファン3位 7/20 カクヨム異世界ファンタジー週間5位 7/28 カクヨム異世界ファンタジー月間7位 7/23 カクヨム総合日間3位 7/24 カクヨム総合週間6位 7/29 カクヨム総合月間10位
8 52世界最強はニヒルに笑う。~うちのマスター、ヤバ過ぎます~
數多(あまた)あるVRMMOの1つ、ビューティフル・ライク(通稱=病ゲー)。 病ゲーたる所以は、クエスト攻略、レベルの上がり難さ、ドロップ率、死亡時のアイテムロスト率、アイテム強化率の低さにある。 永遠と終わらないレベル上げ、欲しい裝備が出來ない苦痛にやる気が萎え、燃え盡き、引退するプレイヤーも少なくない。 そんな病ゲーで最強を誇ると言われるクラン:Bloodthirsty Fairy(血に飢えた妖精) そのクランとマスターであるピンクメッシュには手を出すなと!! 新人プレイヤー達は、嫌と言うほど言い聞かせられる。 敵と見なせば容赦なく、クランが潰れる瞬間まで、仲間の為、己の信念を通す為、敵を徹底的に叩きのめし排除する。例え、相手が泣き叫び許しを乞おうとも、決して逃がしはしない!! 彼女と仲間たちの廃人の廃人たる所以を面白可笑しく綴った物語です。 ゲーム用語が複數でます。詳しくない方には判り難いかと思います、その際はどうぞ感想でお知らせください。
8 113勇者の孫、パーティーを追放される~杖を握れば最強なのに勇者やらされてました~
とある魔王討伐パーティーは魔王軍幹部により壊滅し、敗走した。 その責任は勇者のアルフにあるとして、彼はパーティーを追放されてしまう。 しかし彼らはアルフの本當の才能が勇者以外にあるとは知らなかった。 「勇者の孫だからって剣と盾を使うとは限らないだろぉ!」 これはアルフが女の子たちのパーティーを率いて元仲間たちを見返し、魔王討伐に向かう人生やり直しの物語。
8 191明日流星群が見れるそうです。
綺麗な星の夜、どこかで謎の墜落事故があった。奇跡的に生き殘った彼女は、人間と言うにはあまりにも優しく、殘酷な生き物だった。 子供時代、心にとても深い傷を負った長崎安曇(ながさき あずみ)は彼女と出會って少しづつ前に進んでいく。
8 160陽光の黒鉄
1941年、世界は日英、米仏、獨伊の三つの派閥に分かれ、互いを牽制しあっていた。海軍の軍拡が進み、世界は強力な戦艦を産み出していく。そして世界は今、戦亂の時を迎えようとしている。その巨大な歴史の渦に巻き込まれる日本、そして日本の戦艦達。その渦は日本に何をもたらすのだろうか。
8 100魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
地元で働いていた黒川涼はある日異世界の貴族の次男へと転生する。 しかし魔法適正はなく、おまけに生まれた貴族は強さを求められる家系であった。 恥さらしとバカにされる彼は古代魔術と出會いその人生を変えていく。 強者の集まる地で育ち、最強に鍛えられ、前世の後輩を助け出したりと慌ただしい日々を経て、バカにしていた周りを見返して余りある力を手に入れていく。 そしてその先で、師の悲願を果たそうと少年は災厄へと立ち向かう。 いきなり最強ではないけど、だんだんと強くなる話です。暇つぶしになれば幸いです。 第一部、第二部完結。三部目遅筆… 色々落ち著いたら一気に完結までいくつもりです! また、まとめて置いているサイトです。暇潰しになれば幸いです。良ければどうぞ。 https://www.new.midoriinovel.com
8 113