《ドーナツから蟲食いを通って魔人はやってくる》14話 ナフト
(盜賊の頭領アキラ)
盜賊の隠れ家は「魔法使いの森」の奧深くにあった。
隠れ家に著くなり、アキラは王探索の為にかなければならなかった。雇い主のコルモランから便りが屆いていたからである。
王はまだ見つからないのか? もし死んでいた場合、前金は返してもらいたい。勝手にこちらの間者を殺されては困る。この埋め合わせは必ずしてもらう……そんな容の手紙だった。
間者というのはダニエル・ヴァルタンの従者だったベイルという裏切り者の事だろう。
アキラは家來達に森の近くの村や町、宿場を全て調べるよう命じた。戦うのは好きでも、探索や雇い主との駆け引きは苦手だ。
アキラがナフトの町を訪れたのはたまたまだった。持っていた大剣の鍔(つば)の一部分が欠けたので、鍜治屋に修理を依頼するためである。
ヴァルタンの従者を斬った時に気付いたのだが、以前からひびのっていた所が割れてしまっていた。
『全くついてないな』
コルモランから仕事を引きけてからろくな事が起こらない。早く終わらせたかった。
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「背が高めで右目にほくろがある奴なんざ、ゴマンといますぜ」
バルバソフは苛(いら)ついた口調だ。
「連れの、だ」
アキラは訂正した。
アキラが伴ったのはバルバソフとアスターだけだった。
元々、家來をズラズラ引き連れるのはあまり好きじゃない。
ダリアン・アスター、バム男爵──正確には爵位を剝奪されているので男爵ではない。この男は勝手に付いてきた。
「魔法使いの森」の旅籠(はたご)で出會ったのが縁。王とユゼフ・ヴァルタンの探索が面白そうなので力を貸してやってもいいと言ってきたのである。
バルバソフは憤慨した。
「こんな男、信用出來ねえ」
「まあ、何かの役にたつかもしれないし……腕に覚えはあるだろうから」
アキラはそう言ってアスターの好きにさせたのだった。
追放のであっても王を無事に連れ帰れば、免罪され爵位と領地を取り戻せるかもしれない。その為にアスターが協力している可能もあった。
『裏切ったら殺せばいいだけのこと』
そう思い、アスターを同行させたのはこの風変わりな元貴族に興味を抱いたからだろうか。それと元々、事を深く考えることが苦手なせいでもあった。結局、押しの強いアスターに流されたのである。
ナフトの町は魔法使いと商人でごった返していた。
まずは腹拵えがしたい。行き付けの店は町の外れにある。アキラは人混みをかき分け、町の中央にある集會所辺りまで歩いて行った。その時だ。
ぞわっと背筋に鳥がたった。
振り向いたところ、そこにはアスターしかいない。
「今、嫌なじしなかったか? なんか凄い邪悪な……」
「私か? 私は何もじなかったが」
アスターは答えた。
『気のせいか。いや、そんな筈は……』
見るとバルバソフは大分離れた所にいた。
集會所はモスクのような艶(つや)やかな外裝をしている。これは宗教的な建ではない。魔師達は悪魔の力を借りる為、信仰を捨てるのである。集會所からびている一本道は緩やかな坂になっており、その中腹にバルバソフはいた。
「バルバソフ、早く來い! こっちだ」
アキラが怒鳴ろうが、バルバソフは反対側を向いたまま反応しない。巨大なに隠れて見えないが、誰かと話しているようにも見えた。
『全く何をやっているのだ。あの男は』
「ケンカのようだな」
と、アスター。
「ケンカだと?」
町の外で暴れる分には文句を言わない。しかし、幾ら王のいないモズであっても自警団というものがある。魔師達は戦い方が違うだけで決して弱くない。騒ぎを起こしてはしくなかった。
考えている間にバルバソフが腰のサーベルを抜いた。
観念したアキラは人混みをかき分け、バルバソフの元へと走った。バルバソフは獰猛な目で相手を見據え、斬りつけようとしている。
「おいっ! お前、どういうつもりで……」
怒り顕(あらわ)に駆け寄ったアキラを前に、
「こいつ、今二人を逃がしました。あっしが追いますんで、あとお願えします」
バルバソフは言い捨て、人混みに突っ込んだ。目の前にいた男は目が合うや否や、剣を抜いた。
キィーーーンと剣撃の音が響けば、周りの人々は広がるインクのシミのように離れていく。細の長剣は銀と銅の合金でしい銀白に輝いていた。
『こいつ、騎士ではない』
なりはまあまあ良し。
高価で飾りにしかならない剣を持っているのだから、そう思うのは當然だ。顔を見ると右目にほくろがあった。
『あー、そういうことか』
ようやく合點のいったアキラは勢いよく大剣を振り下ろした。
離れた所で野次馬が見守る中、派手な金屬音が響く。打ち込み、けられ、しばらくそれが続いた。
何度か剣戟をわすと、アキラは相手が定石通りのきをしていることに気付いた。
『軽い』
打ち込む力が弱く、ける剣には重みがない。
これが馬車の中から見張りの心臓を一突きで貫いた犯人だとは思えなかった。速さはまあまあだが、弱い癖に剣を振りかぶっての攻撃が多く、習ったままをその通り生真面目になぞっているかのようだ。
アキラはわざと隙を見せるなど、相手が突きの攻撃をしないか確かめてみたが無駄だった。
『まあ、遊んでる場合ではないか』
折りを見て倒そう……
相手が振り下ろす途中、鍔の近くを力一杯叩き、剣を弾き飛ばした。
剣はクルクルと円を描き、群衆の方へとって行く。
それを足で止めたのはアスターだ。
アキラは鋭く尖った鋼を男の鼻先に突き付けた。
男は息を切らしている。
明らかに戦い慣れしていない。
「お前がユゼフ・ヴァルタンか?」
男は答える代わりに元へ手をばそうとした。
「くな!」
剣先で男の元を軽く突くと、赤いが滴り落ちる。
その時、男の上ポケットから何かが落ちた。男のは微かにいている。
「もう一度聞く。お前は……」
次の瞬間、
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」
轟音が響き渡り、辺りはに包まれた。
現れたのは巨大な芋蟲の姿をした魔……ワームだ。
逃げう群衆に長いを打ち付け、大きな口で近くに居た人間を片っ端から補食し始めた。
一瞬で辺りは阿鼻喚に包まれる。
アキラは舌打ちし、巨蟲の間合いに飛び込んでを真橫に斬りつけた。
クリームのが吹き出た途端、蟲のは真っ二つになる。雄びをあげる蟲の前にアキラは降り立ち、大きく開けた口に止めを刺した。
戦い慣れたアキラのきは無駄がなく鮮やかだった。魔が現れ、退治するまでの時間は一分にも満たなかったはずだ。
だが、その一分で町の様相は一変した。
周囲は泣きぶ者、罵聲を浴びせる者、金切り聲をあげている、歓聲をあげて拍手している男などがおり、大騒ぎになっている。
そして狂騒のなか、男の姿は消えていた。
これはただ埋もれていくだけの小説です。
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ここまでお読み下さりありがとうございました。お気に召されましたら、ブクマ、評価してくださると幸いです。
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