《ドーナツから蟲食いを通って魔人はやってくる》18話 合流
城に著くと、シーバートは早速出迎えてくれた。品の良い老匠はディアナの前にひざまずき、頭を垂れる。
「王様、よくぞご無事で」
仰天したのはエリザだ。
狀況を飲み込めず、狼狽えるのは無理もない。隣でひざまずくユゼフに助けを求めた。
「どういう狀況なのか説明してくれ」
「このお方は鳥の王國國王クロノス陛下の第一王ディアナ殿下であらせられる」
口をあんぐりと開けて、立ち盡くすエリザの腕をユゼフは摑み、半ば強引にひざまずかせた。
「この娘さんは?」
シーバートが尋ねる。
「道中、私を助けてくれました。怪しい者ではありません」
ディアナはスカーフをぎ、輝く髪をあらわにした。
「エリザ、おまえは私に対して數々の無禮な行いをしたが、ナフトでの働きは大したものだった。今後、態度を改めるのなら許しましょう」
何も言えないでいるエリザをユゼフは肘で突っついたが、聲が出ないようだった。
「申し訳ありません、ディアナ様。エリザは驚きの余り聲が出ないようです」
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ユゼフは代わりに答えた。
「まあ、そうでしょうね。私とユゼフが兄妹という設定には大分無理があったけど……エリザ、おまえに一つ聞きたいことがあります」
「は、はい」
エリザはようやく裏返った聲で返事をした。
「おまえの話から推察すると出は平民ではなさそうだが、姓は何という?」
「……家出したので、姓はありません」
「でも國には帰るつもりだったのでしょう?」
「親元に戻るつもりはありませんでした」
「言いなさい。おまえの本當の名前は何?」
エリザはためらいつつも、小さなかすれ聲で答えた。
「エリザベート・ライラスと申します」
「……ライラス」
ディアナは呟き、シーバートを見る。
シーバートはしばし考えてから答えた。
「恐らく、アニュラスのの東部ケルマン地方にそう言った名前の小領主がいたかもしれません」
アニュラスのというのは、このの形をした大陸中央に広がる円形の海の事である。海とも呼ばれている。この海には多數の小さな島々が點在しており、毎年のように新しい島が発見され続けていた。
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諸侯らにも序列があり、海の島々の一部を領地に持つより大陸側に領地を持つ方が地位は高い。
「エリザベート、おまえに禮を言うわ。助けてくれてありがとう。そして私の侍従であるユゼフの傷の手當てや宿泊場所の手配をしてくれたこと、謝する。家へ帰りたくないのなら私に仕えればいいわ。國に帰った後、そのように取り計らおう」
ディアナは涼しい顔で言い、ひざまずくエリザの頭に手を載せた。
このような態度は以前のディアナからは考えられないことだ。
この逃亡生活の間、ディアナは変わった。それは近くにいるユゼフが一番じている。
以前は誰も彼も見下していた。家來を道のように扱い、思いやりの欠片もなかったのだ。目下の者に禮を言うなど考えられなかったのである。
『恐怖験がいい方に作用することなどあるのだろうか……』
つい、ひねくれた疑問を抱いてしまう。
その後、シーバートがディアナを部屋へ案し、エリザがの回りの世話をするために付き添った。
レーベに託した亀のアルメニオを返してもらえたのはシーバートが戻ってからである。
ユゼフはすぐさま餌を與えた。ディアナを連れて宿営地から逃れた時、一番の懸念がこのアルメニオの存在だった。
致し方ない狀況だったとはいえ、ユゼフを嫌悪するレーベに預けたのは不安で仕様がなかった。火災の中、放置されてないか、レーベにげられていないか、ずっと気に病んでいたのである。
アルメニオの健康に問題ないことを確認してから、ユゼフはようやく安堵し、同じく安心して眠ってしまったアルメニオをスリングにしまった。
國で何が起こっているのか、シーバートから聞いたのはその後である。
ガランとした大広間でシーバートは一枚の文を元から取り出した。
かつては頻繁にパーティーが開かれていたであろう大広間は、蜘蛛の巣だらけで床も所々抜け落ちている。朽ちた栄の跡は恐ろしさより悲しさを湧かせた。白い幽霊が踴っていても、不思議ではないぐらいボロボロだ。
「二通、文があります。一通目はアダムが持ってきたもの。二通目はマリクが持ってきたものです。共にヴィナス王殿下のサインがあります」
シーバートがなぜ自分に敬語を使うのか、ユゼフは不審に思いつつ、折り畳まれた文を開いた。
シーマの筆跡──
書かれてあったのは驚くべき容だった。
まず、國で謀反が起こった。
襲われたのはヴァルタンの瀝青城。
そこで會合中だった王子、諸侯達、ユゼフの父エステル・ヴァルタン、次兄サムエルらが討ち取られる。その場にいたグリンデル高と婦人數名は捕虜となった。
その後、反國王軍は王城へ攻めり、占拠。長子アレース王子含め、十二人の王子とその子息達、合計四十四人の王子が犠牲となった。
大怪我をした國王はヴィナス王と共にシャルドン領シーラズ城にを寄せ……その後、息を引き取った。國王が亡くなったことは二通目に書かれてある。
謀反を起こしたのは、シーマ・シャルドンではなく──イアン・ローズ。
ユゼフの従兄弟だ。
あの人騒がせで迷な暴者が……
反対にシーマは國王を保護する立場にある。國王と第二王ヴィナスがを寄せているのはシーマの城だ。ちなみにシーマの父ジェラルド・シャルドンは捕虜としてローズ城に囚われている。
つまり、シーマが何らかの方法で馬鹿なイアンをそそのかし、謀反を起こさせた。そして、全ての邪魔者を始末させたのだ。
前に五十二人いれば殺せばいい──
言った通りになった。
これで宦にならなくて済む。
でも、ユゼフは全然嬉しくなかった。
父と兄を殺されたのだ。
たとえ、主人と下僕のような関係であっても、のつながった親であることに変わりはない。それを卑劣な方法で……ひょっとして、ベイルに殺された長兄ダニエルも──
漠然とした野心を伝えられ、ただ王を守ることに熱意を注いでいたユゼフは自分が愚かだったことに気付いた。
シーマが頑なに話そうとしなかった理由。それも分かった。ユゼフは間違いなく反対しただろうから。
──どうして、こんなことを? どうして……
微笑みを浮かべるシーマからは想像がつかない。彼は人気者だったが、権威を傘に著ることはなく、優しく平等な人だったはず。負けず嫌いではある。だが、激しい熱をにめてはいても、誰かを不用意に傷つけたり、貶めたりするような人ではなかった。
「どうされました??」
老シーバートの聲でユゼフは我に返った。訝しげに顔をのぞき込まれては、言い訳をするしかない。
「あ、あ、あ、あの……驚いてしまって……」
「そうでしょう。私も驚きました。この廃城近くにある蟲食いを通って、グリンデルへ行くよう書いてありますので、そのように致しましょう。実は最初のアダム・ローズの手紙にもそのように書かれてあったのです。モズに壁を通れる場所があると通達したのは噓だったのですよ。何かあった時のため、ダニエル隊長と話し合い、噓の通達を出したのです。そうそう、レーベはダニエル隊長との待ち合わせ場所へ向かわせました」
シーバートの説明を他人事のように聞きながら、ユゼフは死んだ人の名前に気付いた。
シーバートへ文を返そうとしてから、また引っ込める。
「あ、あ、あ、あ、兄は……ダニエルは……」
「……何でしょう??」
「な、な、な、な……」
「??」
「な……死にました」
絶句するシーバートにユゼフは一禮した。幾ら揺していようが、次にすべきことも分かっている。
「ふ、ふ、文をしばらく預かってもよろしいでしょうか? き、き、気になることがあるのです」
ユゼフは思い切って言ってみた。父と兄達が存命だったらそんなおこがましいことは言えない。だが今はもう、誰にも遠慮しなくていいのだ。
文にはヴィナス王のサインがあったが、本文は間違いなくシーマ・シャルドンの筆跡だった。
シーマが文を書いているということは、間違いなくユゼフに宛てて何らかのメッセージが含まれているはず。二人にしか分からない方法で、誰にも気付かれないように。
シーバートの返事は──
「まあ、いいでしょう。一時間程度でお返し頂けるなら」
息を止めていたユゼフは、安堵の溜め息が出そうになるのを懸命にこらえた。
ぎこちない笑みを浮かべ、震える手で文をしまう。
明らかに挙不審であるが、父と二人の兄を突然殺されたのだ。それも、以前から親のある従兄弟の手によって……揺していたって、ちっともおかしくはないだろう。
──シーマがとんでもないことをしでかしてしまった。そして俺も知らぬにその片棒を擔がされていたのだ
余りの出來事に思考がついていかない。それでもやるべきことをやらねば……ユゼフはカクカクしたきで背を向け、広間を出ようとした。
一歩、二歩……五歩……あともうし……
「あ、そうだ。ユゼフ殿?」
不意にシーバートから聲をかけられ、ユゼフはビクッと肩を震わせた。
「陛下がお亡くなりになったことは、ごにお願いいたします。二通目の文はディアナ様にお見せしないでください。しばらく黙っておいた方がいいと思うのですよ。ここ數日、々なことが起こり過ぎております。これ以上は重荷になるだろうから」
「わ、分かりました」
それだけ答えると、ユゼフは逃げるように広間をあとにした。
赤い線が國境、時間の壁が立ってる部分です。渡れません!
アルファベット◎は蟲食い。同じアルファベットの所に瞬間移できます。
異空間ワームホールです。(お願い。覚えといてね)
赤丸の所がこれから利用しようとする蟲食いです。
明日は9時に更新します。
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