《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》プロローグ

「約束通り、迎えに來てやったぞ。お姫様」

わたしの大好きな絵本のセリフに似た言葉を、ひどく意地悪な笑みを浮かべ、彼は言ってのけた。

──くだらないだとか、子供くさいだとか言ってバカにしながらも、結局しっかり読んでいたらしい。

そしてそれを今、この狀況で言うなんて反則だ。嬉しさとしさでじわりと涙が滲み、視界がぼやけていく。

「……おそい、よ」

「そこはお待ちしてました、だろ」

今やわたしよりも頭ひとつぶん背の高い彼は、再び絵本の中のセリフを口にすると、子供のような笑みを浮かべた。

き通った蒼い瞳をらかく細める姿は、泣きたいくらいに綺麗だった。腰まである絹のような銀髪が時折風に揺れ、人間離れした彼のしさを引き立てていて。

まるで神様みたいだとすら、思ってしまう。

ぽろぽろと涙が溢れ出したわたしに、「本當、まだまだガキだな」なんて言った彼は、ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、長い指で涙をひどく優しい手つきで拭ってくれた。

「遅くなって、悪かった」

初めて會った頃には想像もつかなかった、その優しい表と聲に、わたしは余計に涙が止まらない。

謝ることだって、何よりも苦手で嫌いだったくせに。

「っエル、無事で、よかった。會いたかった」

「知ってる」

素直な気持ちを告げれば、いつの間にかきつくきつく抱きしめられていて。懐かしい溫と匂いに、また涙が出る。

「……俺もずっと、會いたかった」

やがて、ひどく優しい聲でそう呟いた彼さえ傍に居てくれれば、わたしにはもう、怖いものなんてない気がした。

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