《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》出會いと呼ぶにはお末な 3

「いやあ、流石はお嬢様! お目が高い!」

そんな店主の貓なで聲によって、はっと我に返る。どうやらわたしと彼のやり取りを、しっかりと見ていたらしい。

「あの子ほどのしい子は、滅多に手にりませんよ。すこーしだけ、お値段が張りますが」

「いくらなの?」

「380萬バレルでございます」

全然、すこーしなんかではない。とは言え、そんなとんでもない値段でも、今のわたしには買えてしまうから困る。

ついあの年を買うような流れになってしまったものの、どう見てもわたしよりも歳下にしか見えないのだ。逃げ出す際に助けになるどころか、お荷になる可能すらある。

やはりここは、先程のお兄さんにした方が賢明だろうと思っていると、「ありがとう」とでも言いたげに、キラキラと瞳を輝かせた年と目が合ってしまう。

そんな様子を見てしまっては、今更やっぱり他の人にするからごめんね、なんて言えるはずもなく。

「……あの子を、連れて帰ることにする」

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「お買い上げ、ありがとうございま〜す!」

ひどく浮かれる店主とは裏腹に、わたしは心頭を抱えていた。そもそも、人を買ったという覚も落ち著かない。

そんなわたしをルビーは心配そうに覗き込み、「お嬢様、ムキムキはどうされたんです……?」と尋ねてくる。

普通の青年ならば買えるお金はまだあるけれど、何人も一度に連れ帰っては流石に怪しまれるに違いない。

また今度にするとルビーに伝え、わたしは代金の支払いをするよう頼んだ。

◇◇◇

「お嬢様、お待たせしました」

自室のソファで休むわたしの元へ、小一時間程してルビーが連れてきたのは、先ほどよりも輝きが増した年だった。

伯爵家に戻ってきたわたしは、エルヴィスと名乗った年を風呂にれ、綺麗な服に著替えさせるよう頼んだのだ。

伯爵には、ルビーの知人の子供を雇うという無理がありすぎる理由を伝えたけれど、「勝手にしなさい。給金は出さないから自でなんとかするように」「変な間違いだけは起こすなよ」と言われただけだった。興味がないにも程がある。

「自分で洗うといって聞かなかったのでやらせたのですが、しっかり綺麗になったようです」

「ありがとう」

まだ子供とはいえ、彼も男の子なのだ。を洗われるのはやはり恥ずかしいのだろう。

溫かいお茶を用意した後、彼と二人きりにするよう言うと、ルビーはしだけ躊躇う様子を見せた。けれど流石に子供相手だから大丈夫だと判斷したのだろう。

部屋の前で待機しているから、何かあったらすぐに呼ぶよう言うと、彼は出て行った。

わたしはエルヴィスを隣に座らせると、お茶を飲むよう勧めたけれど、彼は一向に手を付けようとしない。ただひたすらじっと、探るような瞳でわたしを見つめ続けている。

こうして近くで見ていると、より彼のしさを実する。品のある整った顔立ちは、まるで人形のようだった。

「改めて、わたしはジゼルっていうの。よろしくね」

「……ジゼル」

「うん。エルって呼んでもいい?」

こくりと頷いた彼は、もう一度わたしの名前をぽつりと呟くと、小さな掌をそっと首元の首に沿わせた。

この真っ赤な首は奴隷の証であり、主人がいつでも苦痛を與えることができる魔法がかかっている。そしてエルの主人は今、わたしに設定されているのだけれど。

「……それ、気になるよね」

そう聲を掛ければ、エルは再びこくりと頷いた。そんなものを著けていれば、落ち著かないに決まっている。

子供の細い首には不釣り合いで、痛々しい首を見ているだけで、が痛む。やがてわたしは自らの手をかざすと、首に向かって「契約解除」と唱えた。

それと同時に首は赤くり、カシャンという軽い音を立てて外れ、壊れた。エルは信じられない、といった表で床に落ちた首と、わたしの顔を見比べている。

「なんで、」

「そんなものを著けていたら、落ち著かないでしょ?」

そう言って、笑顔を向けた時だった。

「お前さあ、バッカじゃねえの?」

「…………?」

突然とんでもない言葉が聞こえてきて、戸ったわたしはつい辺りを見回す。けれどこの部屋にはやはり、わたしと目の前のひどくしい顔をした年しかいなくて。

そんなわたしを鼻で笑うと、エルは続けた。

「俺がお前を殺してここにある金目のもの盜んで、このまま逃げるとか考えないわけ? あんな大金払って」

「ころ……?」

「さっすが金持ち貴族のお嬢様だな。頭の中はお花畑かよ」

目の前の年はどかりとソファに背を預けると、長の割に長い足を組み、肘をついた。

何故エルは、こんなにも偉そうなのだろう。あまりのことに驚きすぎているわたしは、言葉に詰まってしまう。

うわたしに、エルは尚も続けた。

「お前、誰よりもチョロそうだったもんな。ここまで上手くいくとは思わなかったけど」

「ちょろ……」

「まあとにかく、変態ババアなんかに買われずに済んで助かった。流石に死ぬところだった」

最近の子供というのは、こんなにも口が悪いのだろうか。

けれどエルだって、好きであんな場所にいた訳ではない。子供のうちから奴隷として心共に辛い日々を送り、こんなにもスレてしまったのかもしれない。

もしかすると、この口の悪さもエルの自己防衛のひとつなのかもしれないと思うと、がひどく痛んだ。

貧民街の子供が攫われ、奴隷として売り飛ばされるのは珍しい事ではない。わたしだって、一歩間違えればあそこに商品として並べられていたかもしれないのだ。

とは言え、今もこんなお嬢様の姿をしていたって、結局はお金の代わりに売り飛ばされようとしているのだけれど。

だからこそ、もしもエルに家族や帰る場所があるのならば、わたしの分まで自由になってしいと思ってしまう。

「……うん、わかった。お家に帰っても大丈夫だよ。実はお金はもうあんまりないんだけど、なるべく持たせるから」

「は?」

そう言って彼の頭をそっとでれば、エルは信じられないものを見るような目で、わたしを見ている。

しばらくの沈黙の後、エルは「お前の頭の中は、砂糖菓子でも詰まってんのか……?」と呟いた。

読んでくださり、ありがとうございます。しばらくヒーローの口も態度も悪いですが、しずつ変わって行きますので引き続きお付き合い頂けると嬉しいです。

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