《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》出會いと呼ぶにはお末な 4

わたしはソファから立ち上がり、先程の殘ったお金を布袋にれると、呆然としているエルに「はい」と手渡した。

エルは信じられないと言った表で、わたしと布袋を見比べている。自分でも、おかしな言をしている自覚はあった。

頭の中がお花畑だとか砂糖菓子だとか言われても、當然だと思う。わたしですらエルの立場だったなら、何か裏があるのではないかと疑うに違いない。

「わたしね、魔法が大好きなんだ。だから大好きな魔法で誰かを無理やり縛るなんて、やっぱり嫌だと思って。奴隷市場まで行ってエルを買って來たくせに、変だよね」

「……魔法が、大好き?」

「うん」

何故かエルはわたしの「魔法が大好き」と言う言葉に対し、ひどく驚いた表を浮かべている。

──今、エル一人を自由にしたところで、奴隷制度は無くならない。だからこそ、こんなことはただの偽善でしかない。そうわかっていても、エルにあの首を著けたまま一緒に過ごすなんて、やっぱりわたしには出來なかった。

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そもそも、エルを買ったお金だって偶然手にれたものだ。天國のピヨちゃんもきっと、わかってくれるだろう。

それにわたしには、まだ時間がある。ムキムキの青年は諦めて、別の方法で味方を探せばいい。そう決めた時だった。

「……いい」

エルはそう言って、布袋を突き返してきたのだ。

「どうせ行く當てもないし、こんな姿じゃまた攫われて売られる可能もある。お人好し花畑お嬢様のところにいた方がまだ安全そうだし、しばらくはここにいてやってもいい」

やはり上から目線だし偉そうだし、失禮だけれど。わたしは「そっか、これからよろしくね」と微笑んだ。

そしてエルにも帰る場所がないことに、が痛む。この子もきっと、一人ぼっちなのだろう。

「そもそもお前、なんで奴隷市場なんかに來た?」

「……誰にも言わない?」

「誰に言うんだよ」

わたしは自の過去や二日前に聞いた話、18歳の誕生日までに逃げ出したいということを全て、話すことにした。

「……ふーん。お前、ただの溫室育ちじゃなかったんだな。服も部屋の中も貧乏臭いし、変だとは思った」

この年、なかなか痛い所を突いてくる。

わたしの服は、社の場に出る時や外出用の最低限のドレス以外は基本、平民が著るような質素な服ばかりだ。この部屋の中の家も、貴族令嬢とは思えないものが並んでいる。

とは言え、元々平民で貧乏生活をしていたわたしは全く気にはならないどころか、十分に思っていた。

「そうだ。お前、ついでに俺の呪いを解くのにも協力しろ」

「の、呪い……?」

「ああ。こんなもの、呪いでしかない」

なんとエルは、家族もおらず攫われて売り飛ばされた上、呪いまでかけられているらしい。

──正直わたしは今の今まで、自分のことを割と不幸だと思っていた。けれど上には上がいたことを知り、そんな自分が恥ずかしくなる。

エルの口や態度の悪さなんて気にならなくなるくらい、わたしは彼が可哀想で仕方なくなっていた。

「方法は知ってるの?」

「何も知らん。でもお前は魔法使いだろ? 他の人間よりもしは役に立ちそうだ」

「えっ」

どうして、それを。誰にも言ったことがなかったのにと、わたしは驚きを隠せない。

ちなみにこの國で魔法を使えるのは、人口の二割程度だ。分に関係なく、魔法使いは生まれてくる。

だからこそ、魔法を使えない方が普通なのだ。こうして言い當てられたことが、不思議で仕方なかった。

「ど、どうしてわかるの? だってそういうのは、神殿とかにいる本當に偉い人にしか見えないって」

「俺の眼は特別なんだ。これだけは無事だった」

無事だった、とは一どういう意味なのだろう。先程言っていた、呪いとやらが関係しているのだろうか。

「……あーあ、それにしてもなんで────の俺が、こんなクソガキの世話にならなきゃならないんだよ。あんのクソババア、次に會ったら絶対に許さねえ」

「…………?」

なんだろう、今の。エルの言葉の一部分が、不自然にもやがかかったように聞こえなかった。もしやこれも、エルの言う呪いなのだろうか。

そしてさらっとクソガキなんて呼ばれたけれど、間違いなくわたしはエルよりも歳上だ。

「ねえ、エルはいくつなの?」

「いくつに見える」

「ええと、10歳くらい」

「じゃあそれで」

年齢とは、そうして決めるものだっただろうか。

「……ていうかお前、魔力量、おかしくないか?」

「えっ?」

「こんな馬鹿みたいなやつ、神殿にだって早々いない」

「そ、そうなの……?」

の魔力量のことなど知らなかったわたしはやはり、驚きを隠せない。もしやわたしには何かしらの才能があって、立派な魔法使いになれてしまったりするのだろうか。

そしてエルは何故、神殿のことまで知っているのだろう。

「12歳の誕生日に、神殿で見て貰っていないのか」

「お前なんぞが魔法を使えるわけがないだろう、って言われて、連れて行ってすらもらえなかった」

魔法使いは12歳になると魔法が使えるようになる。

けれど全員がすぐに魔法を使えるようになる訳ではなく、その力が眠ったままのこともあって。だからこそ皆、神殿で見て貰い、人によっては力の解放までして貰うのだ。

ちなみにわたしはある日、部屋で一人絵本に出てくる魔法使いの真似をしてみたら、うっかり魔法が使えてしまい、自が魔法使いだということを知った。

ちなみに一昨年、ひとつ歳下の妹であるサマンサは神殿で見てもらい、魔法が使えることがわかっている。

義母を筆頭に「サマンサは素晴らしい、お前なんかとは違う」と言われ続け、そんな中で実はわたしも……なんて言い出しては面倒なことになると思い、ずっと黙っていたのだ。

「へえ、かわいそ」

そう言ってわたしを鼻で笑うエルは、本から格がひねくれてしまっているようだった。

ここまでスレてしまうなんて、わたしが想像している以上にエルは今まで酷い目にあってきたに違いない。

犬や貓を拾ってきたわけではないのだ、エルをこうして連れ帰ってきた以上、わたしには責任がある。

これからはし歳上のわたしが、エルをなんとかしてあげなければと、気合をれたのだった。

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