《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》足りないものを、埋めていく 1
翌日から、エルは執事見習いとして働くことになった。
とは言えまだ子供なうえに、伯爵家から給金が出ているわけではないため、形だけだ。日に數時間だけ執事長に仕事を教わった後、あとはわたしの部屋でひたすら寢転がり、だらけている。本當にこれでいいのだろうか。
その中で驚いたのは、エルはわたし以外の人間の前では、信じられないくらいに良い子だったことだ。まるで大人のような口ぶりで話し、どんなことでもさらっとこなしてしまう。
とても10歳とは思えないと、執事長であるダニーは彼のことをべた褒めしていた。そもそもエルが本當に10歳なのかも、怪しいところなのだけれど。
正直あの態度だ、働くことも勿論嫌がると思っていた。けれどエルはこの家にいる以上、仕方がないことだと理解しているようで、大人しく働いてくれていて安心した。
けれど今度は、別の問題が発生していた。妹のサマンサがエルを一目見た瞬間、彼がしいと言い出したのだ。
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確かに彼は、どんな寶石よりも綺麗で。綺麗なものがなによりも大好きな彼が、彼を気にることなんてし考えればわかることだったというのに。
お姉様だけずるいと駄々をこねる彼に、伯爵夫妻も困っている様子だった。
いつもならばすぐにサマンサに譲ってやりなさいと言われていただろうけど、流石に可い娘に元のわからない異の子供を近づけるのは嫌なのだろう。
「サマンサ、しいものなら何でも買ってあげるから」
「いやよ、エルヴィスしかしくない!」
義母とサマンサの、そんなやりとりが聞こえてくることもなくない。彼に何でも買ってあげるお金があるのなら、とりあえずロドニー様を何とかしてしい。
エルはそんなサマンサを上手くかわしているらしく、気にはしていないようで安堵したけれど。
彼はその分のストレスをわたしにぶつけ始め、クローゼットの中の服をズタズタにされたり、すれ違い様に突き飛ばされたりと、中々にやりたい放題だった。服は先日余ったお金で買えばいいとしても、痛い思いはあまりしたくはない。
しばらく彼を諦めそうにないサマンサの様子を見ては、わたしは重たい溜め息を吐いた。
◇◇◇
そんなエルがハートフィールド伯爵家に來て、數日が経ったある日のことだった。
ルビーと共に今後の作戦會議をしながらのんびりと庭を散歩していると、丁度仕事を終えたらしいエルがこちらへと向かって歩いてくるのが見えた。
「エル、お疲れ様」
「ん」
遠くから聲を掛ければ、そんな返事が返ってくる。
やがてエルとすれ違うというタイミングで、わたしはずるりと足をらせバランスを崩してしまった。前日に雨が降ったせいか、まだしぬかるんでいる場所があったのだろう。
けれどちょうどが倒れていく先にエルがいて、安心したのも束の間。エルはそんなわたしをすい、と避けて。
その結果、わたしは泥の上に思い切り倒れ込んだ。
「お嬢様……! 大丈夫ですか!」
「う、うん。大丈夫、だけど……」
慌ててルビーが抱き起こしてくれて、わたしはよろよろと立ち上がる。髪まで泥がべったりとついていたものの、シャワーを浴びて著替えればいいだけだ。
けれど、それよりも気になることがあった。
「……ねえ、エル。なんで避けたの?」
「むしろ、何で俺が抱きとめなきゃいけないんだ?」
「えっ?」
「すっ転んだお前が悪いだろ。泥だらけになるのも汚れた服を洗うのも俺じゃないし、俺は何も困らない」
そんなことを、エルはさも當たり前のように言ってのけた。
確かに、わたしが悪い。わたしが勝手に躓いて、転んだだけ。けれどエルがほんのし手を差しべてくれれば、防げたはずだ。とは言え、避けたこと自が問題なのではない。
エルは本気で自の為にならないことなど、何一つする必要がないと思っているようで。それがひどく心配だった。
──エルには、何か大切なものが欠けている気がする。
そしてそれは、間違いなく一朝一夕でどうにかなる問題ではないだろう。そんなことを考えながら、何食わぬ顔でわたしの橫を通り過ぎ歩いていく、エルの背中を見つめる。
ルビーは良い子の姿のエルしか見たことがなかったらしく、驚きつつ、かなり怒っている様子だったけれど。わたしは大丈夫だからと言い、風呂の準備を頼んだのだった。
泥を洗い流し著替えて部屋へと戻ってくると、自室にはエルの姿があった。彼はどうやら本棚を眺めているらしい。
屋敷に部屋は余っていて、かなり狹いとはいえ彼専用の部屋があるものの、エルは何故かわたしの部屋にいることが多かった。本當にエルは、よくわからない。
……これから、どうやってエルを良い方向に変えていけばいいのだろうか。思っていた以上に狀況が深刻なことに気づいたわたしは、頭を悩ませていたのだけれど。
「うわ、この気持ち悪い本、まだあったのかよ」
そんな中、エルが手に取ったのはわたしの寶である『やさしい大魔法使い』というボロボロの絵本だった。
それに対し気持ち悪い本とは、失禮が過ぎる。
「よくもまあ、こんな100年も前の本を持ってたな」
「エル、この絵本を読んだことがあるの? 亡くなったお母さんがくれた大好きな本で、わたしの寶なんだ」
この絵本は、やさしい大魔法使いがたくさんの人を救い、幸せにするお話で。中でも、大魔法使いが辛い目にあっているお姫様を迎えに行くシーンが、わたしは大好きだった。
辛い時には何度も読み返し、時には自を登場人に置き換えて、想像してみたりもした。わたしの一番の支えだ。
「……知ってるも何も、」
「えっ?」
「なんでもない。こんなもの、読んだこともない。つーかお前、もう絵本なんて歳じゃないだろ。くだらない」
エルは深い溜め息を吐き、本を本棚に戻して。そのままわたしのベッドにぼふりと倒れ込んだ。
けれど初めてこの絵本を知っている人に出會ったわたしは、つい嬉しくなってしまう。
「ねえねえ、大魔法使い様は長生きだって聞くけれど、この絵本に出てくる方は、今もどこかにいるのかな」
「……生きてる」
「本當? それなら何歳なんだろう」
「150は超えてるだろうな」
「なんでそんなに詳しいの? もしかしてファン……?」
「気持ち悪いことを言うな」
エルはごろりと寢返りを打ち、わたしを睨んだ。
「あんなもの、イメージアップの為に造された噓だらけのものなんだよ。同じなのは見た目くらいだろ」
「なんでそんなことが分かるの?」
「何でもだ」
やけに斷定して言うエルが、不思議で仕方ない。かと言って、噓をついているような様子もなかった。
「そもそも大魔法使いっていうのは、その辺の奴らを魔法で幸せにするためにいるわけじゃない」
「…………?」
そんなエルの言葉が、やけにひっかかる。大魔法使いは、常に一人だけ存在するということはわたしも知っていた。
けれど何のためにいるのかまでは、わたしは知らない。
「……そもそも、普通ってのは魔法使いよりも王子なんかに憧れるものだろ」
「そうかな? わたしは、大魔法使い様がいい」
「変な奴」
エルはやっぱり、そんなわたしを鼻で笑う。
「大魔法使い様ってどんな方なんだろうね」
「お前が思っているような奴じゃないのは、確かだろうな」
「そうなの?」
「幻滅したか?」
「ううん」
気にはなるけれど、大魔法使い様がどんな方でもいい。その存在に、わたしが何度も救われてきた事実は変わらない。
「この世界のどこかに居てくれるだけで、すごく嬉しい」
「……何だよ、それ。ほんと、変な奴」
エルはそう呟くと「晝寢する」と布団を被り、それからしばらく、そこから出てくることはなかった。
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