《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》足りないものを、埋めていく 3
エルに魔法の使い方を教えてもらってからというもの、わたしは毎日、自室で一人練習に勵んでいる。
その結果、段々とコツを摑んできたことで、小さな怪我ならば完全に治せるようになっていた。お蔭でサマンサのせいで出來た傷も、全て綺麗になっている。
治癒魔法を使える人間はとてもなく、かなり貴重なんだとか。きちんと學べば、仕事に困ることはなさそうだ。
けれどエルは何故、魔法を使える年齢でもないのに、使い方やコツを知っているのだろう。それだけではない。彼は神殿や魔法使いについての知識もあるようだった。
その上、屬まで見えるような特別な眼を持っているなんて、彼には不思議が多すぎる。ちなみに火魔法は眠っている狀態らしく、まだ起こす必要はないとエルは言っていた。よくわからないけれど、そうしようと思う。
……そしてあの日エルが言った『そんなもの、俺にはいないし、いらない』という言葉が、頭から離れない。
彼が過去に、家族に関してひどく辛い想いをしたことが想像出來る。今後は家族という言葉には気をつけつつ、謝ろうと思ったけれど。あの後改めて顔を合わせた彼は、こちらが拍子抜けしてしまう程、いつも通りだった。
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そんなある日の、午後。
庭の隅にある、ピヨちゃんのお墓の周りに咲く花に水やりをしていると、エルがこちらへと歩いてくるのが見えた。
「エル? どうかした?」
「お前の好きなケーキが焼けたって、廚房のおっさんが」
「わあ、ありがとう。エルも一緒に食べよう」
わざわざ彼が、こんなところまで呼びに來てくれるなんて珍しく、なんだか嬉しくなる。とは言え、わたしを待たずに歩き出した彼を、慌てて追いかけようとした時だった。
強い風が吹き、壁に立てかけてあった廃材がぐらりと傾いたのが見えて。そのすぐ先には、エルの小さながある。
「っ危な──」
考えるよりも先にがき、慌ててエルの背中を突き飛ばした直後、わたしの背中からはみしり、という聞き慣れない音がした。
それと同時にじたこともない痛みが全を駆け抜けていき、廃材と共に地面に倒れ込む。
あまりの痛みに意識が遠のく瞬間、最後に見えたのは呆然とした表でわたしを見つめる、エルの姿だった。
◇◇◇
「…………いっ、」
ふと意識が戻った瞬間、刺すような痛みをじ慌てて目を開ければ、視界に飛び込んできたのは見慣れた天井で、自室のベッドの上にいるのだとすぐに理解した。
そしてそのすぐ橫の小さな椅子には、表の読めないエルが靜かに座っている。顔が整いすぎているせいか、本當に人形のように見えて、一瞬どきりとしてしまった。
「エル……?」
「ああ」
ゆっくりとを起こせば、ずきずきと背中が痛んだ。
「ええと、今、何時?」
「夕方5時だ。お前、三日以上気絶してた」
「えっ」
數時間くらいかと思いきや、まさかそんなにも時間が経っていたなんて。そんな大怪我だったのかと思ったけれど、エルに話を聞いたところ、命に別狀はないらしい。
流石の伯爵夫妻も醫者を呼んでくれたようで、しっかりと手當てもされているようだった。
「なんで、助けた」
「…………?」
「そんな怪我をしてまで、今の俺に助ける価値なんてないだろ。今の俺は、何も持ってない。お前に何の得もない」
どうやらエルは本気で、そんなことを思っているらしい。
助ける価値、今の俺、というエルの言葉の意味は、わたしにはよくわからない。けれどエルが自分のことをそう思っていること、そんな風にしか考えられないことが、悲しかった。
「あんな一瞬の間に、そんなこと考える時間なんてないよ」
「…………」
「でもわたしはエルが痛い思いをするのも、危ない目に遭うのも嫌だから。何度でも、同じことをすると思う」
「……なんで、」
「わたしね、エルが可いの」
そう答えれば、エルは「は?」と間の抜けた聲をらした。
──ルビーだって、わたしにとても良くしてくれているけれど、分の差や立場がある以上、常に一線を引かれている覚はある。仕方のないことだとも思う。
けれどエルは態度も口も悪いものの、わたしに対して何の遠慮もなく接し、側にいてくれている。むしろ、遠慮がなさ過ぎると思う。それでも、母が亡くなってからずっと一人だったわたしにとって、その存在はとても心地良くて。
いつの間にか、エルのお菓子を嬉しそうに食べる姿も、時折見せる無防備な寢顔も。何もかもがおしく思えていた。もしも弟がいたら、こんなじなのかもしれない。
「わたしは、エルが側にいてくれるだけで嬉しい」
「…………」
「それだけで、怪我くらいする理由になるよ」
そう言い切れば、エルは戸うような表を浮かべ「お前、やっぱり変だ」と呟いた。
「あ、それにわたし、だいぶ治癒魔法うまくなったんだよ」
痛むでなんとか背中に手をかざせば、包み込むような溫かさと共に、痛みが和らいでいく。治癒魔法、便利すぎる。
「……よし、これで大丈夫。エル、付き添ってくれてたんだよね? 本當にありがとう」
目が覚めて一人じゃなかったことも、嬉しかった。
けれどそんなわたしに、エルは「勘違いするな」なんて言うと、そのまま部屋を出て行ってしまう。
大きな音をたてて閉まったドアを見つめながら、いつかエルにも大切な人が出來て、この気持ちを理解できる日が來ますようにと、願わずにはいられない。
けれど翌日から、エルにしだけ変化が現れた。
いつも獨り占めしていたクッキーを1枚だけ、わたしにくれるようになった。
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【書籍発売中&コミカライズ決定!】 「新山湊人くん……! わ、私を……っ、あなたのお嫁さんにしてくれませんか……?」 學園一の美少女・花江りこに逆プロポーズされ、わけのわからないうちに始まった俺の新婚生活。 可愛すぎる嫁は、毎日うれしそうに俺の後をトテトテとついて回り、片時も傍を離れたがらない。 掃除洗濯料理に裁縫、家事全般プロかってぐらい完璧で、嫁スキルもカンストしている。 そのうえ極端な盡くし好き。 「湊人くんが一生遊んで暮らせるように、投資で一財産築いてみたよ。好きに使ってね……!」 こんなふうに行き過ぎたご奉仕も日常茶飯事だ。 しかも俺が一言「すごいな」と褒めるだけで、見えない尻尾をはちきれんばかりに振るのが可愛くてしょうがない。 そう、俺の前でのりこは、飼い主のことが大好きすぎる小型犬のようなのだ。 だけど、うぬぼれてはいけない。 これは契約結婚――。 りこは俺に戀しているわけじゃない。 ――そのはずなのに、「なんでそんな盡くしてくれるんだ」と尋ねたら、彼女はむうっと頬を膨らませて「湊人くん、ニブすぎだよ……」と言ってきた。 え……俺たちがしたのって契約結婚でいいんだよな……? これは交際ゼロ日婚からはじまる、ひたすら幸せなだけの両片思いラブストーリー。 ※現実世界戀愛ジャンルでの日間・週間・月間ランキング1位ありがとうございます!
8 74高校生男子による怪異探訪
學校內でも生粋のモテ男である三人と行動を共にする『俺』。接點など同じクラスに所屬しているくらいしかない四人が連む訳は、地元に流れる不可思議な『噂』、その共同探訪であった--。 微ホラーです。ホラーを目指しましたがあんまり怖くないです。戀愛要素の方が強いかもしれません。章毎に獨立した形式で話を投稿していこうと思っていますので、どうかよろしくお願いします。 〇各章のざっとしたあらすじ 《序章.桜》高校生四人組は咲かない桜の噂を耳にしてその検証に乗り出した 《一章.縁切り》美少女から告白を受けた主人公。そんな彼に剃刀レターが屆く 《二章.凍雨》過去話。異常に長い雨が街に降り続く 《三章.河童》美樹本からの頼みで彼の手伝いをすることに。市內で目撃された河童の調査を行う 《四章.七不思議》オカ研からの要請により自校の七不思議を調査することになる。大所帯で夜の校舎を彷徨く 《五章.夏祭り》夏休みの合間の登校日。久しぶりにクラスメートとも顔を合わせる中、檜山がどうにも元気がない。折しも、地元では毎年恒例の夏祭りが開催されようとしていた 《六章.鬼》長い夏休みも終わり新學期が始まった。殘暑も厳しい最中にまた不可思議な噂が流れる 《七章.黃昏時》季節も秋を迎え、月末には文化祭が開催される。例年にない活気に満ちる文化祭で主人公も忙しくクラスの出し物を手伝うが…… 《八章.コックリさん》怒濤の忙しさに見舞われた文化祭も無事に終わりを迎えた。校內には祭りの終わりの寂しさを紛らわせるように新たな流れが生まれていた 《九章.流言飛語》気まずさを抱えながらも楽しく終わった修學旅行。數日振りに戻ってきた校內ではまた新たな騒ぎが起きており、永野は自分の意思に関係なくその騒動に巻き込まれていく 《最終章.古戸萩》校內を席巻した騒動も鎮まり、またいつものような平和な日常が帰ってきたのだと思われたが……。一人沈黙を貫く友人のために奔走する ※一話4000~6000字くらいで投稿していますが、話を切りよくさせたいので短かったり長かったりすることがあります。 ※章の進みによりキーワードが追加されることがあります。R15と殘酷な描寫は保険で入れています。
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