《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》足りないものを、埋めていく 7
「お前、いつもの數倍アホみたいな顔してんぞ」
「……だって、その、」
「あー、冷た。まっじで最悪」
聲も、先ほどよりもし低い。顔立ちだってさが抜けて
大人っぽくなった。郭だって、濡れた前髪をかき上げた手だって、なんだか男らしさが増した気がする。
戸いを隠せずにいるわたしに、「頭でも打ったか?」なんて言うエルは、自の変化に未だ気付いていないらしい。
わたしが「だから背が、いや顔もだけど、」としどろもどろになりながらも訴えれば、彼もようやく、目線の高さが変わっていることに気が付いたようだった。
「……お前、小さくなった?」
「そうじゃなくて、エルが」
わたしはそう言って、水面を指差した。ゆらゆらと揺れていたそれが、しんと靜まりかえった瞬間。そこに映った自の顔を見たエルは、「は?」と間の抜けた聲をらした。
「エ、エルがわたしと同い年くらいになっちゃった……」
どう見ても、今の彼はとても10歳には見えない。わたしと同い年、もしくはし上くらいに見えるのだ。
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服だって、今にも破けるのではないかというギリギリの狀態で。手足は裾からはみ出し、シャツのボタンは取れ、首元ははだけている。彼が急激に長した何よりの証拠だった。
ぽたりぽたりと、銀の髪からも水が滴っているエルは、日のをけて輝いていて。そのはっと目を見張るほどのしさに、まるで湖のみたいだなんて思ってしまう。
それにしても、人間がこんなにも一瞬で長するなんてこと、聞いたこともない。そこでわたしは、ふと彼が以前言っていた「呪い」という言葉を思い出していた。
「もしかして、前に言ってた呪いが関係してるの?」
「多分な」
「ど、どこか痛かったりはしない?」
「ああ」
「良かった。ごめんね、エルまで濡れちゃって。それと、助けようとしてくれてありがとう。すごく嬉しかった」
「……あっそ」
そうして二人で湖から出て、お互い髪や服の裾をぎゅっと絞る。靴や下著の中までべっちゃべちゃで、気持ちが悪い。
ぶるりと鳥が立って、くしゃみが何度も出た。このままでは風邪を引いてしまいそうだ。
「さ、さむ……とにかく、急いで帰ろう」
そう、聲をかけたのだけれど。エルは自の手のひらを見つめた後、しばらく考え込むような様子を見せて。
やがてわたしに向かって、無言で右手をかざした。
「…………え、」
すると突然、ぶわりと溫かい風がわたしの全を包んだ。心地よいそれは、あっという間に髪や服の水分を飛ばしていき、気が付けば何もかもが元通りに乾いていた。
誰がどう見たって、今のは魔法だった。
「まじか」
エル自、ひどく驚いている様子で。やがて彼は自にも同じ魔法をかけ、あっという間に彼も元通りになっていた。服だけは流石にぴちぴちのままだったけれど。
目の前で起きている信じがたい景に、わたしはやはり驚きを隠せずにいた。
「エル、魔法、使えるようになったの……?」
「みたいだな。魔力、しょっぼいけど」
本當に訳がわからないことだらけで、わたしは呆然とエルを見つめることしかできない。彼はいきなり數歳分長した上に、魔法まで使えるようになったのだ。
「とりあえず、戻るぞ。々試してみたいこともある」
「う、うん」
とにかくわたし達は、屋敷に戻ることにしたのだった。
◇◇◇
「だから俺は────で、元々───なわけ。俺自もよく分からないけど、今後も───する可能はある」
「…………?」
帰宅後、人目を避けるようにして自室へと戻ったわたし達は、いつも通りソファに並んで座った。けれどエルが一回り大きくなった今、違和がすごい。
そして彼のわかる範囲での説明を求めたけれど、恒例のもやがかかったようなじになり、さっぱりわからなかった。
「とにかく、この変化は良いことではある」
「そうなんだ」
エルがそう言うのなら、良かったと安堵する。
「でも、どうして急にこうなったんだろうね? 湖に落ちた衝撃とかが関係してるのかな」
「さあ」
どうやら彼も、本気でわからないらしかった。
相変わらずどかりとソファに深く腰掛け、より長くなった足を組んでいるエルは、子供らしさが抜けたせいか、なんだか余計に偉そうに見える。
「でも、これからどうしよう。急に大きくなったエルを見たら、みんな絶対おかしいって言うよ」
「それくらい、魔法でなんとかなる」
「えっ」
エルはそう言うと、細く長い指先からキラキラと輝く、綺麗なを出して見せた。
「クソみたいな魔力量だけど、元々この見た目だったって屋敷の人間の認識をいじるくらいなら、出來るはずだ」
「そ、そんなことができるの……?」
「はっ、これくらいで驚いてたら────だぞ」
「うん?」
やはりもやがかかって、よくわからなかったけれど。無造作にソファの上に置かれていたエルの左手を取ると、わたしは自の両手でぎゅっと握りしめる。
わたしよりも大きくなったその手は、以前よりも固くて骨張っていて、なんというか、男の人の手になっていた。
「これからも今まで通り暮らせるってことだよね?」
「……まあ」
「良かった……!」
これでエルが追い出されたりしてしまっては、どうしようかと思った。一緒に出て行くことすら真剣に想像してしまっていたわたしは、ひどく安堵していた。
泣きそうになっているわたしに向かって、エルが呟く。
「……変だとか気持ち悪いだとか、思わねえの」
「なんで?」
「普通に考えて、こんなのおかしいだろ」
もちろん、変だとか気持ち悪いだなんて思わない。わからないことは多いし、気になることも數えきれないけれど。
エルが元気で、ここに居てくれるのなら何でも良かった。
「エルはエルだもの。赤ちゃんになっても、お爺さんになってもわたしは何も気にしないし、大切だよ」
「…………」
そう答えればエルは何も言わずに、読めない表を浮かべたまま、ガラス玉みたいな瞳でわたしを見つめていた。
でも、ひとつだけ確認させて。とわたしは続けた。
「……エルの方が大きくなっちゃったけど、まだわたしがお姉さんってことでいい?」
「うるせえ、バカ」
いつも読んでくださり、ありがとうございます。これにて一章は終わりです。引き続き、よろしくお願いいたします!
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