《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》ちいさな世界をそっと開いて 1

桜舞い散る春。まだし固い制服にを包み、魔法學園の一年生になったわたしは、機に突っ伏して頭を抱えていた。

ハートフィールド家を離れ、移り住んだ寮生活はとても快適で、魔法の授業だってすごく楽しい、けれど。

「どうして、友達ができないの……?」

そう、學して一週間が経ったにも関わらず、わたしには友人と呼べる存在が一人も出來ていなかったのだ。

學前には友達100人出來るかな、なんてワクワクしていたわたしの夢は、すでに破れかけていた。

「どうしても何も、お前が嫌われてるだけだろ」

「い、今はそういうの本気で効くからやめて……」

相変わらず偉そうな態度で隣に座っているエルは、そんなわたしを鼻で笑うと、キャンディを口に放り込んだ。

そんな彼は、學當初は何故か貓を被っていたものの「だるくなった」と言い始め、たった二日で素の狀態になっていた。だからこそ、ぼっち仲間になると思っていたのに。

「エルヴィス様、先程の授業のノートです」

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「ご苦労」

友人なんていらないとまで言っていたエルは何故か、普通にクラスに馴染んでいた。こんなにも偉そうなのに。むしろ彼は馴染むどころか、謎の地位を確立してすらいる。

……この一週間、様々な授業をけたけれど、エルの魔法に関する知識や技がとんでもないことを、わたし含めクラスメイトや先生方も皆、思い知らされていた。

本人はいつも、自の魔力量をしょぼいだとか言っていたけれど、一般的に見ればかなり多い方な上、屬をいくつも持っているとか。エルは本當に凄い人だったらしい。

その結果、彼は皆から一目置かれ、尊敬されているようだった。ファンのような人々も現れ始めていて、彼らはエルの口や態度の悪さまで素敵だと言っているらしい。

「昨日も珍しくの子から話しかけられたと思ったら、エルヴィス様とはどんな関係なんですか? だよ……」

「へえ」

「弟みたいなものだって言っておいたけど」

「ふざけんな」

そう言うとエルは思い切り、指でわたしのおでこをはじいた。ちなみにこれ、なかなか痛い。

「でも、すごく可い子もいたよ。どう?」

「バカ言うな、俺を変態にする気か」

「へんたい……?」

よく分からないけれど、エルは今のところには興味はないらしい。正直しだけほっとした。今エルに人なんて出來てしまえば、わたしは本格的なぼっちになってしまう。

とは言え、エルとこうして一緒に過ごせるのは楽しいし、何よりも嬉しいけれど。の子の友達もしい。

「わたしは友達と、お晝に一緒にランチをしたり、オシャレの話をしたり、カフェでおしゃべりをしたり、好きな男の子の話とかしてみたいだけなのに……」

「つまんなそうだな」

Sクラスの男比は同じくらいで、の子は15人いる。その中でも貴族令嬢は數人で、殘りは平民らしい。ちなみに今年はかなり多い方だという。

クライド様、そしてジュードも同じクラスだった。彼らだけはわたしに気さくに話しかけてくれて、とても嬉しい。けれどやっぱり、の子の友達もしかった。

貴族令嬢の子達に嫌われているのは、まだわかる。サマンサが言いふらした噂のせいもあるだろう。けれど平民の子たちに挨拶をしてみても「お、おはようございます…」と、恐ろしいものを見るかのような視線を向けられてしまうのだ。

伯爵令嬢だから気を遣われているのかと思い、授業でし會話をするきっかけがあった時には、平民としての生活の方が長いことを伝えてみたりもしたけれど、効果はなかった。

「やっぱり、相部屋にしたら良かったかな」

「お前と同じ部屋の奴は可哀想だから、良かっただろ」

「なんで?」

「寢言うるせえもん」

「えっ、そうなの……?」

相部屋なんて絶対に嫌だと言っていたエルは、ユーインさんに頼み、追加でお金を払って個人部屋にして貰っていた。

そしてユーインさんから「エルヴィスのお守りをして貰っているお禮と言っては何ですが、ジゼルさんも是非」と言われ、ついお言葉に甘えてしまったのだ。

……友達って、どうやって作るんだろう。わたしは深いため息をつくと、次の授業の準備を始めたのだった。

◇◇◇

全ての授業が終わり、今日は眠たいからさっさと帰って寢るというエルと別れ、一人子寮に向かって歩いていた。

とは言えまっすぐ帰っても暇だし、図書館にでも寄ろうかなあなんて思っていると、不思議なきをしている子生徒を見つけて。その橫顔から、クラスメイトのリネット・ダウンズさんだと気が付く。栗の髪が良く似合う可い子だ。

ちなみに友人がしすぎるあまり、わたしは同じクラスのの子の顔と名前だけはしっかりと覚えてある。

「ねえ、何か探してるの?」

「ハ、ハートフィールド様……!」

そう笑顔で聲をかけると、ダウンズさんはびくっとを大きく震わせた。わたしって、そんなに怖いんだろうか。

けれど名前を覚えてくれていたことが、とても嬉しい。

「あの、ペットが逃げ出してしまって……」

「ペット?」

「て、手乗りのサルなんです」

「サル」

ちなみに寮では、小ならば飼っていいことになっている。とは言え、手乗りサルとは驚いた。すごく気になる。

「わたしで良ければ、一緒に探すよ。なんて名前なの?」

「そんな、ハートフィールド様にこんなこと、」

「できたらその呼び方は止めてほしいな。ジゼルでいいよ。それにわたし、探しは昔から得意なの」

そう言って腕をまくると、彼しだけ泣きそうな表を浮かべながら「リ、リンです」と答えてくれた。

「リンちゃんね! 任せて」

「あの、本當にありがとうございます」

「ううん。早く見つかるといいな」

そうして、二人で探し始めて1時間ほど経った頃。ようやく、木の枝の上にいるリンちゃんを発見した。

くりっとした大きな目がとても可くて、後で是非抱っこさせてもらいたいと思ってしまう。

「リン、降りておいで」

けれど、いくらダウンズさんが呼びかけても、リンちゃんは降りてこようとしない。やがて10分程それを続け、彼が枯れてしまうのではないかと思ったわたしは、低い場所にある木の枝を摑んだ。

「ジ、ジゼル様……?」

そしてわたしはそのまま、木に登り始めた。昔から木登りは得意なのだ。すいすいと登って行き、無事にリンちゃんを抱っこできたことで、ほっとする。

久しぶりの木登りに疲れたわたしは、降りる前にしだけ休もうと、太い枝によいしょと腰掛けたのだけれど。

「あ」

やがてべキッという嫌な大きな音がしたかと思うと、わたしはそのまま、地面へと落ちて行ったのだった。

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