《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》落ち著かない距離 1

6月にり、夏が近づいてきた今日この頃。大きなテストを數日後に控えたわたしは放課後、リネやエル、クライド様、そしてメガネくんと共に教室で勉強していた。

とは言えエルは「勉強なんてする必要がない」と言ってお菓子を摘みながら、一人読書をしているだけだけれど。それでも、一緒に教室に殘ってくれただけで嬉しい。

ちなみにメガネくんはクライド様と一緒にいる時は、わたしに対しても普通のクラスメイトとして、當たり障りない態度をとっている。仕事モードなのだろうか。

「ジゼルは本當に、理解が早いですね」

「いえ、クライド様の教え方がわかりやすいからです」

最近は苦手も大分克服してきていて、この調子ならいい結果を殘せる気がする。

ちなみに上位総合30位までは廊下に名前が張り出されるらしく、わたしはそれを目標としていた。

「クライド様はきっと、一位ですね」

「まだわかりませんよ」

「どの教科も完璧ですもん、絶対にそうです。それにいつもこうして勉強を教えて頂いていて、申し訳なくて……」

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何かお禮をしたいのですが、と付け加えれば「ああ、そうだ」と彼は何かを思いついたように微笑んだ。

「では一番をとったら、僕とデートしてくれませんか」

「えっ」

予想外の言葉に、驚きの聲がれる。それはわたしだけではなかったようで、近くにいたリネやメガネくんですら、驚いたような表を浮かべ、クライド様を見つめていた。

視界の端にいたエルだけは、いつもと変わらず涼しげな表で本に目を落としているままだ。

「駄目ですか?」

「い、いえ……そんなことは」

「良かった。お蔭で頑張れそうです」

クライド様は嬉しそうに微笑み、再び教科書に視線を落とす。わたしはそんな彼の橫顔を見つめながら、何だか落ち著かない気持ちになっていたのだった。

◇◇◇

「……ねえエル、デートって何をするんだろう」

「知るか」

「それにしても、クライド様も趣味が悪いな」

「何でお前がいるんだよ」

翌日。エルに連れてきてもらい、わたしは男子寮の彼の部屋で勉強していたのだけれど。いつの間にかメガネくんも混ざっていて、さりげなく失禮なことを言っている。

「まあ良い。クライド様が一位をとるだろうし、お前はデートでも何でもして、たまにはエルヴィス様から離れろ」

「…………」

「クライド様は出來たお方だ。お前には間違いなく釣り合わないが、子供同士気も合うだろう」

メガネくんはそう言うと、小馬鹿にするようにフフンと笑った。その上、子供同士だなんて変な言い方だ。

「そもそも、お前はいつまでもエルヴィス様にくっ付いてないで、しは自立しろ。度が過ぎている」

「えっ」

「お前、異常だぞ。まあ、お前みたいなタイプは好きな男でも出來ればコロッと変わるだろうけどな」

「ど、度が過ぎている……異常……」

そんなメガネくんの言葉に、わたしは頭を思い切り毆られたような衝撃をけていた。そう言われるまで、自では全く気が付いていなかったのだ。

……けれど彼の言う通り、確かにわたしはエルにし寄りかかりすぎているのかもしれない。何をするにもエルのことを考え、エルを中心に生きているのは間違いなかった。

家族だからと思っていたけれど、母に対してこうだったかと言えば、絶対に違う。そう考え始めると、度が過ぎている気しかしない。もしやエルにも負擔になっているのかもしれないと、わたしは焦り始めていた。

「き、気をつけます……」

「ああ。クライド様と仲良くな」

わたしの言葉に、メガネくんは満足げに微笑んだ。彼に笑顔を向けられたのは初めてな気がする。

「それにクライド様も俺が見ている限り、割と本気で」

「うるさい、失せろ」

エルはいきなり、メガネくんの言葉を遮るようにそう言うと、風魔法でメガネくんを部屋から吹き飛ばし、思い切りドアを閉めた。今のは絶対に痛いと思う。

突然のことに、わたしは戸いを隠せない。

「エ、エル……?」

「お前も、バカじゃねえの」

「えっ?」

「むかつく」

エルはかなり苛立っている様子で、睨むようにじっとこちらを見つめている。

「な、何がむかつくの?」

「全部」

そして訳が分からないまま、わたしもふわりと窓から追い出されてしまったのだった。

數日後。無事に全てのテストを終えたわたしは、リネと共に廊下に張り出された結果を見に來ていた。

ちなみにあれからエルとは、あまり話せていない。放課後になると、彼はすぐに教室を出て行ってしまうのだ。とにかくテストも終わったことだし、今日こそは彼をカフェにってお喋りをしたいなあなんて思っていた。

やがてわたしは、自の名前を28位と書かれた文字の下に見つけ、ほっと安堵する。リネは19位で、二人で頑張って良かった、お疲れ様會をしようねと抱き合った。

「あ、そうだ」

一応、クライド様の一位を見ておこうと、わたしはそのまま順位の高い方へと視線をずらしていく。

そして一番端にあった名前を確認した瞬間、わたしの口からは「えっ」と驚きの聲がれた。

「……エルヴィス・バーネット」

なんと一位はクライド様ではなく、エルだったからだ。

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