《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》落ち著かない距離 3

「エ、エル……! 夏休み、リネのお家に遊びに來てって言われちゃった! どうしよう、嬉しい、どうしよう」

「どうもしねえよ」

月末に行われる校外學習を終えれば、あっという間に二ヶ月近くもある夏休みがやって來る。

その間、ハートフィールド家に戻らなければいけないのかとヒヤヒヤしたけれど、帰省出來ない生徒もなくないようで、殘りたい生徒は寮で過ごしても良いということだった。

二ヶ月間、エルと何をしようかなと考えていたところ、なんとリネが家に遊びに來ないかとってくれたのだ。彼の家はここからはわりと離れた、第二都市にあるらしい。

一週間でも二週間でも是非泊まっていってしいと言ってくれて、嬉しくなる。友人の家にお呼ばれするなんて初めてだ。リネの家は平民だけれどお金持ちのようで、部屋もいくらでもあるからエルも一緒に、とまで言ってくれた。

「エルも絶対、一緒に行こうね!」

「遠いしだるい」

「お菓子を沢山持って行って、お喋りしてたらすぐだよ」

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お土産も持って行かなきゃと浮かれながらも、わたしは現在、てきぱきと自室の掃除をしていた。エルは相変わらずベッドに転がっていて、つまらなそうにわたしを眺めている。

「お前、それも持ってきてたのかよ。きも」

「寶だもん、當たり前でしょ」

そう言ってエルが指差したのは『やさしい大魔法使い』の絵本だった。きも、とは相変わらず失禮だ。

掃除もキリのいいところまで終わったしと、わたしは休憩がてら絵本を持ち、寢転がっているエルの元へと移した。

「読み聞かせてあげよっか、もう暗記もしてるんだよ」

「なら読むな、捨てろ」

「ひどい!」

この絵本のことになると、やけにエルは手厳しい。

けれどそんなのはもう慣れっこで、わたしはそっと絵本を開く。あの家で暮らし、エルに出會う前は毎日のように読んでいたけれど、魔法學園に來てからは初めてだ。

ゆっくりと、ボロボロのページをめくっていく。

「大魔法使い様の髪のって、この國の男の人では珍しく長いよね。白髪も珍しいし」

「ふざけんな、銀髪だ」

「えっ! そ、そうなの……?」

絵本では白っぽく描かれていてわからなかったけれど、どうやら銀髪だったらしい。い頃からずっと白だと思っていたわたしには、かなりの衝撃だった。

そしてエルは何故か、相変わらずとても詳しい。やはり照れているだけで、大魔法使い様のファンなのかもしれない。

「大魔法使い様も素敵だけど、お姫様も可いね。やっぱりこういう、の子らしいタイプが好みなのかな?」

「別に」

「それは流石に、エルの意見でしょ」

そう言うと何故か、鼻で笑われてしまった。

それからもページをめくり続けたわたしは、ずっと気になっていた部分で手を止めた。やけに詳しいエルならば知っているかもしれないと、尋ねてみる。

「ねえエル、この黒いのって何か知ってる? 魔図鑑にもこんなのいなかったけど」

後半で大魔法使い様が倒している、黒い大きな化けみたいなもの。子供ながらにひどく怖かったのを覚えている。

「……………」

「エル?」

けれど、何の返事も返って來ない。不思議に思ってエルへと視線を移せば、彼はふいとわたしから顔を背けた。

「…………知らん」

そしてそう呟くと、「気分が悪くなった」なんて言い、わたしのベッドで晝寢を始めてしまったのだった。

◇◇◇

「わあ、すごい……!」

それからあっという間に時は流れ、校外學習當日。

館を見學し終えたわたし達は、神殿へとやってきていた。博館だけでも一緒にとったけれど、エルは面倒だと言って來てくれなかった。

神殿の敷地には真っ白な大きな建が連なり、あちらこちらには格好いい像が沢山建っている。

「な、なんだか神聖なじがする……!」

「ふふ、わかります。とても空気が澄んでいますよね」

ちなみにリネや他のクラスメイト達はほぼ皆、12歳の頃に來たことがあるらしく、浮かれているのはわたしだけだ。

それからは説明をけながら建を見て周り、とりどりのしい花が咲き誇る、庭園の中を歩いていた時だった。

「あれ……?」

全員で列になって歩いていたはずなのに、気が付けば周りには誰もいなくなっていて。隣にいたはずのリネの姿も見えない。広い庭園には、わたし一人きりになっていた。

夢中になって見ているうちに、はぐれてしまったのだろうか。とにかく皆を探さなければと、慌て始めた時だった。

「今日は、風が心地良いな」

そんな聲に振り向けば、そこには息を呑むほどしいがいて。わたしは思わず足を止め、彼に見惚れてしまう。

燃えるような真っ赤なしい髪と、金の瞳。それらが印象的なは、やがてらかい笑みを浮かべて言った。

「可らしいお嬢さん。しだけ、私と話をしないか?」

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