《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》落ち著かない距離 4
「あの、わたし、戻らないといけなくて」
「大丈夫。ほんのしだけさ」
そう言って、彼は近くのベンチに腰掛けた。ぽんぽんと橫のあたりを叩き、隣に座るよう促される。
初めて會うはずなのに、この人に大丈夫だと言われると何故か、本當に大丈夫な気がしてしまう。おずおずとその隣に腰掛けると、彼は花が咲くような笑みを浮かべた。
「神殿はどうだ?」
「ええと、とても素敵です。落ち著くというか」
「魔法使いなら、余計にそうじるだろうな」
「えっ……」
どうしてわたしが、魔法使いだと分かるのだろう。
もしかすると神殿の偉い人なのかもしれない。服裝やその雰囲気からも、そんなじがする。
「學園生活は楽しい?」
「はい。とても楽しいです」
「それは良かった」
わたしがそう答えると、まるで自分のことのように嬉しそうに微笑んでくれて。その笑顔のあまりのしさに、同だというのにどきりとしてしまう。
時折ふわりと長い真っ赤な髪が風に揺れ、甘い香りが鼻をかすめる。整いすぎた橫顔に思わず見惚れていると「そんなに見つめられては、が開く」と笑われてしまった。
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「誰かに意地悪されたりはしていないか?」
「い、意地悪ですか? されていないです」
「ははっ、そうか」
しばかり、メガネくんからの當たりが強いくらいで。
いくつか質問をした後、やがて彼は長い睫に縁取られた黃金の瞳で、わたしをじっと見つめた。まるでの奧まで見かされるような、そんな覚に襲われる。
「お前は魂まで綺麗なんだな」
「たましい?」
「ああ。こればかりは生まれつきだ」
魂が、綺麗。
生まれて初めてそんなものを褒められ、戸ったわたしは「あ、ありがとうございます……?」としか言えなくて。そんな様子を見た彼は、やっぱりおかしそうに笑った。
「あの子が惹かれるのもわかる気がするよ。ああ、そうだ。これを離さず、に著けておくといい」
「えっ?」
「お前を守ってくれる」
そう言って手渡されたのは、真っ赤な寶石のついたとてもしいネックレスだった。
守ってくれる、ということは魔道か何かなのだろうか。寶石などに何も詳しくないわたしにも、とても高価なものだということがはっきりと見て取れた。
「し、初対面でこんな高価そうなもの、け取れません」
「それ以上のものを、私は貰っているんだ。禮だと思ってけ取ってくれないか」
どう考えても、目の前のにお禮をされるようなことなど何もしていない。けれど無理やりぎゅっとネックレスを握らされてしまい、戸っていた時だった。
「神殿長、お時間です」
「わかった」
突然現れた男にそう聲をかけられ、彼は立ち上がる。そして彼は今、間違いなく「神殿長」と呼ばれていた。
つまり、今までわたしが隣に座って話していた相手は、神殿で一番偉い人だったことになる。
どうしてそんな人がわたしに話しかけ、良くしてくれるのかさっぱりわからない。驚きで聲も出ないわたしに向かって彼はらかく目を細め、微笑んだ。
「これからも、変わらずに側に居てやってしい」
「えっ?」
「……あれはし、可哀想な子なんだ」
そう呟いた彼は一瞬、寂しそうな、悲しそうな表をしたけれど。すぐに再び、真っ赤なで弧を描いた。
「またな、ジゼル。會えて嬉しかったよ」
どうして、わたしの名前を知っているのだろう。
そして先程の言葉の意味も、わからないまま。彼の姿が見えなくなったのと同時に、気が付けばわたしは先程までと同じく、クラスメイトの列に混ざって立っていたのだった。
◇◇◇
「あれ、エル! 來てたんだ。ただいま」
「ん。あれ買ってきたか?」
「うん、ばっちり」
帰宅後、わたしは自室のベッドで転がっていたエルに、神殿の前にある屋臺で買ってきたキャンディを渡した。彼の好らしく、おつかいを頼まれていたのだ。
それをけ取る為だけに部屋で待っていたなんて、余程好きなのだろう。多めに買ってきてよかった。
エルはキャンディを早速口に放り込んだあと、突然わたしの制服のポケットの辺りを指差した。その中には、先程貰ったばかりのネックレスがっている。
「どうした、それ」
「神殿で、神殿長の綺麗なお姉さんにもらったの」
そうして今日の神殿での不思議な験についてエルに話すと、彼は深い大きな溜め息をついた。
「……ババア、余計なことを」
そう呟くと、エルは「それ、貸せ」と手を差し出した。
ネックレスを乗せれば、エルは探るようにそれをしばらく見つめた後、わたしに投げ返してきた。なんとかキャッチしたけれど、高価ななのだ。心臓に悪いからやめてしい。
「とりあえず、それはしばらく著けとけ」
「どうして?」
「ユーインがかけた、強力な防魔法がかかってる」
「えっ」
エルがそう言うのなら、間違いなくそうなのだろう。
そしてこれをユーインさんが作ったということにも、わたしは驚いていた。それを神殿長が持っていたということは、彼は有名な魔道師か何かなのだろうか。
「でも、なんでしばらくなの? 効果が切れるとか?」
ふとそんな疑問を口にすると、エルはしだけ困ったような、なんとも言えない顔をした。
「……今度」
「うん?」
「ユーインに持ってこさせる」
「何を?」
「俺が、昔作った魔道」
「エルって魔道も作れたの? すごいね! でも、わたしはこれ1つあれば十分だよ」
いくつも高価な魔道をにつけるほど、危ない目に遭うとは思えない。そもそも、一つでも分不相応だ。
けれど何故か、睨まれてしまって。
「良いから俺の言う通りにしろ、バカ」
エルはそう言うと、そっぽを向いてしまったのだった。
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