《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》いつか終わりが來るのなら 6

あっという間に學園祭の日がやってきた。

三日間あるうち、演劇を披するのは二日目だ。三日目の後夜祭で、結果が発表されるらしい。クラスメイトのみんなが頑張ってくれたこと、そしてたくさん練習をしたことで、優勝も狙える自信があった。

1日目の今日はリネやクラスメイトのの子達と共に、上級生達がやっている出店を回ることになっている。勿論エルもったけれど、學園祭では出欠を取られないのをいい事に、彼は「だるいから寮で過ごす」と言って聞かなかった。

「ジゼル、たくさん買っていましたね」

「うん。エルへのお土産なんだ」

「バーネット様は本當に、幸せ者だと思います」

そしてリネは「お二人を見ていると、次々とアイデアが湧いてくるんです!」と微笑んだ。彼は將來、服のデザイナーになりたいのだと、先日こっそり教えてくれたのだ。

がいつも持っているスケッチブックには、沢山のデザイン畫が描かれていた。時折、どう見てもドレスよりもわたしの顔がメインに描かれているものもあったけれど。

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將來の夢があるというのは、本當に素敵なことだと思う。魔法學園に通っているのにおかしいですよね、と彼は苦笑いをしていたけれど、そんなことは全くないと否定した。

それに彼が考えてくれた明日演劇で著る裝も、本當に素敵だった。きっと、リネなら夢を葉えられるはずだ。わたしも何か、そんな夢中になれるものがしい。

やがて一通り回り終えて皆と別れると、出店で買い漁ったお菓子や食べを持って、エルの部屋を訪れることにした。

「こら、サボり魔」

そう言って部屋にれば、ベッドに寢転がりながら何かを書いていたエルは「うるせ」なんて言い、わたしに視線を向けた。彼は魔法で紙を宙に浮かせ、同じく魔法でペンをかし、なんだか難しそうな式のようなを書き込んでいる。

まだ魔力の扱いが下手なわたしにはそもそも出來ないし、出來たとしても普通ならば間違いなく、普通に書くよりも大変なのだけれど、エルにとってはこれくらいは息をするくらいに簡単で楽なんだとか。

「何してたの?」

「効率良く魔法を使う方法を考えてた」

「な、なるほど……」

「カスみたいな魔力量じゃ、出來ることも限られてるしな」

話しながらも彼は、サラサラとペンを走らせ続けている。

サボりを咎めようとしたけれど、想像以上にハイレベルな勉強をしていたようで、なんだか責めづらい。

「けど、せっかくの學生生活だもん。楽しまないと損だよ」

「楽しくねえよ」

「もう」

わたしは寢転がる彼のすぐ隣に座ると、真っ白でき通るような彼の頬を人差し指でつついた。

「演劇の練習も、結局最後まで出なかったでしょ」

「三つ編みの言う通りにキラキラさせときゃいいんだろ、練習なんていらねえよ」

エルと同じくリネも演出係のため、エルの指導にあたってくれることになっている。

「エルの出番って、冒頭の見つめ合うシーンと、途中の戦闘シーンと、最後のキスシーンの三つだけだもんね。確かに、リネも付いていれば大丈夫かも」

「は?」

するとその瞬間、宙に浮いていた紙とペンがエルの顔に落ちて。彼は紙とペンを振り払うと、何故かわたしを睨んだ。

「聞いてない」

「いや、臺本読んでなかったの?」

「読んでないし、失くした。キスシーンてなんだよ」

「キスシーンはキスシーンだよ。とは言ってもこうやって両手で隠して、寸止めだし」

本番でするように両手で口元を覆って見せたけれど「ふざけんな」と怒られてしまった。

「そんなの、し顔をかしたら當たるだろ」

「まあ、そうだけど」

練習で一度だけやってみたけれど、確かに照れてしまうくらい、近かった。周りにいた生徒達も「本當にキスしてるみたい」と騒いでいたくらいだ。

とは言え、相手はあのクライド様なのだ。間違いなど起きるはずもない。

「ファーストキスが演劇っていうのも、わたしだって嫌だもん。うっかりぶつからないように気をつけるね」

「…………」

「あ、そうだこれ! 出店で買ってきたんだよ。早めに食べてね。このキャンディは人気だったし、味しいのかな」

そう言って、買ってきたお菓子や食べをカバンから出した。どれか食べるかと尋ねれば、キャンディ、とだけ無想な返事が返ってきた。

思ったよりもしっかりと包裝されていた袋を開けながら、今日の學園祭について話し続けていたのだけれど。

「あ、ごめんね。一個先に食べちゃった」

話に夢中になっていたせいで、袋から取り出したキャンディをつい、自分の口にれてしまった。ころんと舌の上で転がせば林檎のような味がして、なかなかに味しい。

そしてすぐに、もう一つ取り出そうとした時だった。

「貰ってやろうか」

「なにを?」

「両方」

どういう意味だろうと顔を上げれば、エルはいつものように意地悪い笑みを浮かべ、わたしの口元を指差していた。

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