《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》輝いて見えたのは、きっと 6
「エルヴィス・クレヴァリー……?」
「ああ」
「だい、まほうつかい?」
「そうだけど」
「……エルが?」
「そ、俺が」
さも當たり前のことのようにエルはそう言ったけれど、わたしの頭ではさっぱり、理解しきれていなかった。
エルの本當の名前を知ることができたのは、嬉しい。
けれど彼があの大魔法使い様だということが、いまいち頭の中で結びつかない。だって、わたしの知る大魔法使いというのはこの國で一番の魔法使いで、とても偉くて。
そして何より、わたしがい頃から支えにしていた絵本に出てくる、大好きな人だった。
「お前、大魔法使いが好きなんだろ」
「うん」
「それならもっと喜べよ。泣いてもいい」
「……な、なんか、よく分からなくて」
「は?」
戸いを隠せずにいるわたしを見て、エルは拗ねたような表を浮かべると、両頬を軽くつねってきた。
「どうしたら信じるんだよ」
「ひ、ひんひへはいはへじゃはいほ!」
「へえ?」
エルはわたしに、噓をつかない。それは分かっている。信じていない訳ではない。
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それでも、ずっと一緒にいたエルが実は大人だった、ということだけでも驚きだというのに。大魔法使い様でもあったなんて、すぐに理解出來るはずがない。
やがて彼は頬から両手を離すと、今度は顔を包み込むようにしてれて。じっと、二つの碧眼でわたしを見つめた。
「嬉しいか?」
「うれしい、です」
「どれくらい」
「す、すっごく」
「ならいい」
エルはそう言うと、子供みたいに嬉しそうに笑った。そんな様子を見ているとがぎゅっと締め付けられて、悲しくもないのに泣きたくなる。
そして立ち上がると、彼はわたしの頭に片手を置いた。
「し顔を見にきただけだから、もう行く」
「どこに?」
「神殿。久々だから、ババアにこき使われてる」
大魔法使い様が神殿にいるということは、知っていた。以前、彼は神殿にはれないと言っていたけれど、呪いが解けた今はもう、大丈夫なのだろう。
立ち姿を見て気付いたけれど、今彼が著ている服だって、神殿に勤める人々が著ているものに似ている。けれど過去に見たどんなものよりも豪華で、彼の位が高いことを示しているのは、無知なわたしにも分かった。
それに、エルのあの魔法に関する知識量にも、その技にも全て納得がいく。本當に彼はあの大魔法使い様なのだと、わたしはしずつ実し始めていた。
「そのうち全部ちゃんと話すから、待ってろ」
「……うん」
「とにかくゆっくり休め。飯もちゃんと食え」
「そうする。ありがとう」
「あと、男は部屋にれるなよ。ユーインだけは許す」
「ええと、わかりました」
「ん、じゃあな」
くしゃりとわたしの頭をでると、エルはあっという間に姿を消して。一人きりになると、急に寂しさに襲われた。
……もちろん、嬉しかった。ずっと憧れていた大魔法使い様が、大好きなエルだったなんて。夢みたいだとも思う。
けれど、誰よりも近な存在だと思っていた彼が、今はとても遠くじられてしまうのだった。
◇◇◇
翌日、朝一番にわたしの部屋を訪れたのは、シャノンさんとユーインさんだった。
「バカ、バカ! っお前が無事で、本當に良かった……!」
シャノンさんはわたしの顔を見るなり抱きつくと、わんわんと大聲を上げて泣き始めて。そんな彼につられて、わたしも気が付けば泣いてしまっていた。
彼がいなければ、わたしは間違いなく死んでいた。それに、彼がいてくれたからこそ、最後まで頑張れたのだ。禮を言えばこっちの臺詞だと怒られてしまい、笑みが零れた。
「ジゼルさんが無事で、本當によかったです」
「シャノンさんと、エルのお蔭です」
「貴も、とても頑張りましたよ。ありがとうございます」
そしてお見舞いだと言って、ユーインさんはとても綺麗な大きな花束を手渡してくれた。
ちなみにあの後、すぐに宿泊研修は中止になったらしい。わたし達以外も皆無事らしく、ひどく安堵した。
「エルヴィスはもうすぐ、落ち著くと思いますので。そうしたら、ゆっくり會えるかと」
「そう、なんですね」
今まで、毎日當たり前のようにエルと一緒に居たけれど。きっとこれからはもう、そうではなくなる。そう思うと、寂しさや悲しさで押し潰されそうになり、泣きたくなった。
「エルヴィスの正を聞いて、驚きましたよね」
「……はい」
「ずっと黙っていて、本當に申し訳ありませんでした。ジゼルさんさえ良ければ、2日後に神殿へ來て頂けませんか? マーゴット様も、貴と話をしたいと仰っているので」
「分かりました」
「ありがとうございます。エルヴィスの魔力を封印し、あの姿にしたのも彼ですから。全てを話すつもりでしょう」
エルのことを、全て知ることが出來る。それはとても嬉しいはずなのに、何故かひどく怖くもあった。
とにかく2日後、全てを聞けるのだ。わたしはそれ以外に気になっていたことを、ついでに尋ねてみることにした。
「あの、どうしてあの場所に、あんな魔が出たんですか」
「……もうすぐ、良くないものが復活するんです」
「良くないもの?」
「ええ。その結果、魔が大量に発生し、本來なら生息しない場所にも現れているようで」
「そんな……」
良くないものというのは、一何なんだろう。それに、あんな魔が次々と現れれば、間違いなく被害は大きくなる。
「大丈夫なんですか……?」
「はい、大丈夫ですよ」
絶対に、何とかしてくれると思います。そう、ユーインさんは言ってのけた。まるで他の誰かがどうにかしてくれるような、そんな言い方が不思議だったけれど。
わたしはそれ以上、深く気にすることはなかった。
◇◇◇
そしてその日の夜、エルはいつものようにわたしの部屋へとやって來た。けれどいつもとは違い、転移魔法で突然現れたことで、驚きすぎて心臓が飛び出るかと思った。
「あー、つっかれた。クソババア、本當ふざけんなよ」
エルはソファに座るわたしの隣に腰を下ろすと、深い溜め息をついた。どうやらかなり忙しかったらしく、そのしい橫顔には、疲れのが浮かんでいる。
「お前は今日、何してた?」
「ユーインさんとシャノンさんが來てくれたのと、あとはずっと部屋でゆっくりしてたよ」
「ふーん」
學園も大事をとって數日間休むよう言われており、大人しく部屋にいることしか出來ていない。時折、リネやクラスメイトのの子たちがお見舞いに來てくれていた。
「そうだ、これ」
そんな中、ふと彼が思い出したように取り出したのは、大きな布袋だった。その中には、信じられないほどのお金がぎっしりと詰まっている。
「こんな大金、どうしたの?」
「お前が俺を買った金。返しとく」
俺は金持ちなんだ、なんて言ってエルは笑ったけれど、わたしは上手く笑うことが出來なかった。こうして算することで、余計に彼が離れていくような気がしてしまう。
そんなわたしの様子に気が付いたのか、彼は眉を顰めた。
「なんかお前、昨日から素っ気ないよな。助けに行くのが遅くなったせいか?」
「そ、そんなことないよ! ごめん」
「じゃあ何でだよ。……まさか歳上は好みじゃないとか、今更言うわけじゃないよな」
「えっ?」
エルの焦ったような様子と、予想もしていなかった問いによって、わたしは思わず固まってしまうのだった。
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