《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》煮てよし、揚げてよし、凍らせてよし!

イラストは古川アモロ様よりいただきました!

タイトルもってて表紙みたいです。

ありがとうございます~!!

長いようで短い、試験期間が終わった。

解放に浸りつつ、周は久しぶりに日曜日の朝、早めに起きた。

窓を開けてベランダに出る。今日は快晴だ。

既に起きていた義姉が洗濯を干している。彼の足元には三貓が丸まっていた。

おはよう、と義姉に聲をかける。

「あら、周君。ずいぶん早いじゃない?」

手伝うよ、と周は洗濯ったカゴに手をれた。白いシャツを手に取る。

賢司のものだ。

昨日は帰宅したのか。

顔を合わせなかったから深夜だったのだろう。

しホッとした自分に周は気付いた。

兄は、賢司は自分を憎んでいる。疎んでいる。

彼の母親と同じように。

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「……どうしたの?」

気がつけば手が止まっていたようだ。

「なんでもない」

「ねぇ、周君。今日の朝はフレンチトーストを作ってみましょうよ。昨日、テレビで味しい作り方をやってたのを見たの」

咲は明るい。

無理をしているのか、それとも今はもう吹っ切れたのか。

「いいね、手伝うよ」

周もつられるようにして笑顔を作った。

洗濯を干し終わり、二人で臺所に向かう。プリンがちょこちょこと咲の後をついてくる。

そういえばメイはどこにいるのだろう?

卵と牛と砂糖を溶いたボールにフランスパンを漬けてしばし待つ。

二人はダイニングテーブルに向かい合って腰掛け、テレビをつけた。ニュースをやっている。

今のところ県で大きな事件はなさそうだ。

日曜日だから隣も休みで、家にいるのかもしれない。

そしてローカルCMが流れる。広島銘菓のもみじ饅頭を宣伝している。

「ねぇ、今度もみじ饅頭の新しい餡って何が出るのかしらね?」と、咲。

「もう、何でもありだよな」周は応える。

二人で笑い合っているところへ、ニャーとメイがやってきた。

はぴょい、と周の膝に飛び乗って丸くなる。

それからテレビ畫面は切り替わり、今後市で行われる催しの宣伝を始めた。

『サンプラザホールにて名古屋シティフィル年末特別記念コンサート開催、12月23日、24日の2日間……チケットのお申し込みはフリーダイヤル……』

周は慌てて立ち上がり、固定電話の置いてある場所へ走ってを取り上げる。

「周君、どうしたの……?」

「コンサート、申し込むんだよ!!」

なかなか電話はつながらない。

おかけになった番號は現在、たいへん混み合っております……。

しばらく待ったが、回線がつながる気配は微塵もない。

電話がつながらないことに業を煮やした周は、義姉に向かってぶ。

「義姉さん、俺のスマホ持ってきて!!」

同時にスマホを使ってネット申し込みしよう。

咲は黙って周の部屋に行き、攜帯電話をとってきてくれる。

片手が塞がっているので、いっそ足で作しようと妙な制をとったら、腰が痛んだ。

「……何をしてるんだ、周?」

不意に、兄の聲がした。

「おはよう、二人とも早いね」

賢司がリビングに姿をあらわした。

別に悪いことをしている訳ではないのに、ひどく気まずい思いがして、周はを置いた。

「おはよう、賢司さん」咲は平靜に笑顔を浮かべる。

はコーヒー淹れるわね、と立ち上がってヤカンを火にかけた。

まともに賢司と目を合わせられない。

周は黙って床に置いた攜帯電話を持ち上げ、一度自分の部屋に戻った。

それからリビングに戻ると、兄はダイニングの椅子を引いて腰掛け、朝刊を広げていた。コーヒーのかぐわしい香りがリビングに漂う。

周は兄と目を合わせるのが怖くて、隠れるように臺所へ向かった。

用意しておいたフレンチトーストはそろそろ頃合いだろう。フライパンをコンロにかけ、バターを溶かす。

「そうだ咲、今日はし買いに付き合ってくれないか?」

新聞に目を落としたまま賢司が言った。

「え……? 今日はお仕事休みなの?」

咲は心底驚いた顔で問い返す。

賢司は苦笑して、

「僕だってたまには休むよ」

「俺も行く!」

咄嗟に周はそう口にした。

しかし兄は弟に一瞥くれると、

「君は貓と一緒に留守番だ、周」

「なんでだよ?!」

「……たまには夫婦二人きりにしてもらえないか」

そう言われて、反対する理由を周は持ち合わせていなかった。

「9時半頃に出かけるから、準備しておいて」

賢司はそう言い殘してリビングを出て行く。

「ねぇ、周君。電話は……申し込みは?」

心配そうに咲が問う。

「いいんだ、もう……」そんな気もなくなってしまった。

「何のコンサートだったの?」

「さっきテレビでCM流してた【名古屋シティフィル】っていう楽団に、父さんの友達がいるんだ。毎年、全國をコンサートで回っているんだけど、父さんが元気だった頃は……広島に來る時はいつも前もってチケット送ってくれてたんだ……人気があってなかなか取れないんだよな」

「そうだったの……周君って、クラシックが好きなのね。知らなかったわ」

そう言って、なぜか義姉は寂しそうに微笑んだ。

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