《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》遊びに行ってもいいですか?

「……何が?」

「退屈しのぎなら、和泉さんに聲をかければ喜んだだろう」

「だって……留守だったし」

ああ、と彼は不揃いのマグカップを二つ取り出した。

「そういえば、初の人に會いに行くと言っていたな」

「へっ?! 和泉さんにそんな人、いたんだ?」

「……昨日、班長とそんな話をしていたのをちらっと聞いた」

驚いた。

「もしかして……別れた奧さんとか……?」

駿河はしゃがみ込んで足元の三貓をで、

「詳しいことは何も知らない」と答えた。

「……そういう話、しないの……?」

すると彼はなぜか遠い眼をして、

「和泉さんと仕事以外のことで、まともな會話をした記憶はない」

ああ、納得。

「ただ……別れた奧さんは、前の県警本部長の娘さんだという話だけは聞いた」

「なんだよそれ。出世のため? よくあるだろ、そういうの」

駿河は黙ってしまった。

マズイことを言ったのだろうか?

湯が沸く。

「……そうだな」彼はコーヒーのったカップと、切り分けたケーキを皿に乗せ、周の前に置いた。「確かにあの若さで、ノンキャリアで警部補というのは……」

「でも和泉さんは仕事のできる人だろ?」

「君は……僕と、和泉さんについて論じ合うために來たのか?」

「ち、違う、そうじゃない! す、數學でわかんないとこあって、教えてもらいたかったんだよ」

もしかしたらあてになるかも、と思って參考書を持參した。

周はカバンから數學の參考書を取り出し、ここ、と付箋をったページを開いて見せる。

駿河は參考書を手に取り約3分余り黙りこんだ。

やがて彼は徐にシャーペンを手に持つと、さらさらと回答を書き込み始めた。

「……これで合っているか?」

「いや、問題を解いてくれって言った訳じゃなくて、教えてくれって……」

「……」

「いいや、後で和泉さんにメールする」

周は參考書をしまおうとしたが、駿河はそれを止めて、恐らく例題がこう説明していることから察するに、自分としてはこのように考えた、と、まるで上司に報告するような言い方で話し始めた。

正直なところ消化不良気味であったが一生懸命さは伝わってきた。

その真剣な橫顔を見ていて、周は思わず笑いそうになってしまう。

「……ありがとう」

周が微笑むと、無表な駿河の頬がしだけ赤くなったような気がした。

それから二人で一生懸命數學の問題を解いて、気がつけば正午になった。

食事はほとんど外食かコンビニだという駿河の為に、何も事件が起きなければ3日ぐらいは日持ちする料理を用意してやろうと、周は彼と一緒に近所のスーパーに出かけた。

好き嫌いは何もないというので、周は旬のものを選んでカゴにれた。

「ずいぶん手慣れているんだな」

レジで會計を済ませた後、食料品を袋に詰めていると駿河が言った。

「ま、伊達に長い間主婦めいたことしてないからな。ほら、これ袋に詰めて」

「えらいな……」

なんと返事をしたものか困ってしまった。

それから周は二人分の晝食と、作り置きの料理を小さくて使い勝手の悪いコンロで仕上げた。

二人の距離し変……(絵の話です)

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