《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》きっとゴールドカード(年會費1萬円)

何を買うのかと思えば新しいスーツだそうだ。

週明けから東京の本社へ出張らしい。

賢司はその辺りに吊り下げられている量販の既製品ではなく、オーダーメイドで、それも有名なブランドのかなり高価なものを惜しげもなくカードで購した。

デパートの店員は想良く、上客にひたすらを振りまいてくれた。

「君も何かしいものはないのかい?」

買いを終えて夫は言った。

咲は黙って首を振る。

「そうだ、近いに田代先生のところのパーティーがあるんだった。君にも出席してもらうから、新しいドレスか著を用意しよう。やはり和服がいいかな……」

田代先生とは地元の代議士である。藤江製薬と深いつながりのある政治家であり、資金パーティーの折りには必ず賢司が出席することになっており、時折咲も參加を強要される。

以前は仕事が忙しいからと言い訳もできたけれど、今はそれもできない。

賢司は案板を見、紳士服売り場よりも下の階に著を扱うフロアがあるとわかると、すたすたと下りエスカレーターの方に歩き出した。咲は慌てて後を追いかける。

Advertisement

そんなもの要らない。

でも、言えなかった。

和服を扱う売り場では比較的年嵩のが暇そうな顔で立っていた。

「すみませんが、彼に似合うものを仕立ててもらえますか?」

店員のはにこっと笑って、

用向きはいかがです?」

「パーティーに出席するんです」

賢司が言うと店員はかしこまりました、と咲を、売り場奧の畳が敷いてあるスペースに案する。

それから何著か試した後、賢司がこれにします、と決めて購した。

咲は恐ろしくて値段を見なかった。

売り場を後にするとすぐ、正午をお知らせいたします、とデパートの館放送が流れた。

「お腹、空いてる?」

咲は首を橫に振った。

なんてしもない。

一刻も早く家に帰りたい。

この人と一緒にいたくない。

「ここからし移するんだけどね、駅の近くにおいしい洋食屋さんがあるんだ。行ってみようよ」賢司は笑って言った。

デパートから駅までは再び路面電車に乗って移することになる。

日曜日の今日は地元民に加えて観客も多く、電車はひどく混雑している。

ふと咲は、賢司の顔が優れないことに気付いた。

「……ねぇ、気分でも悪いの?」

客は日本人だけではない。外國人はかなり強い匂いの香水を振りまいているし、同國民の若い達はテンション高く、きゃあきゃあと笑い合っている。

「大丈夫だよ」

「でも……」

夫の額には汗が浮かんでいる。

「大丈夫だって言っているんだ」

咲は口を噤んだ。

その後乗客はれ換わったものの、混雑ぶりと賑やかさはあまり変わらない。

隣に立っている賢司は、今にも吐くのではないかという顔をしている。

何を言っても無駄だ。

咲は黙って彼の手をつかみ、彼を引っ張り次の駅で降りた。

「何を……」

電車を降りると賢司は彼の手を振り払った。

「これからお晝ご飯を食べに行くのに、隣でそんな吐きそうな青い顔されたら食なくすわ。もう帰りましょう? 用事は済んだんでしょう。家に帰ってし休んでから……」

「だめだ」

咲は溜め息をついた。

「だったら……タクシーにでも乗ればいいじゃない。あんな高いスーツや著を一括で買えるぐらいなんだから」

そうだね、と賢司は力なく笑った。

「父が……好きだったんだよ、路面電車に乗るのがね」

どういうつもりだろう?

そう、とだけ答えておく。

    人が読んでいる<ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~美人ヴァイオリニストの橫顔、その陰翳が隠す衝撃の真実>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください