《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》生き字引き

イラストは一條えりん様からいただきました!!

いつもたいへんお世話になっております。

これも表紙のイメージですね!

しの間、沈黙が落ちた。

「……結局、橫領の疑については?」

奈々子は首を橫に振る。

「闇の中です。何しろ20年近く前の話だし、時効は立しているし、何より社長が犯人は決まっている上に、の恥をさらすわけにいかないの一點張りで。うやむやになったままなんです」

そうですか、と和泉が相槌を打った頃にパフェが運ばれて來た。

「私は橫領だの稅だの、そういうお金に関する難しいことはよくわかりませんけど、古くからいるベテランさんの話では、経理関係については社長が一切取り仕切っていて、他の人がチェックをれる隙がなかったそうです……だから皆、言ってます。実際のところ橫領犯は社長で、亡くなった弟さんに全部罪をなすりつけたんじゃないかって。もっとも確たる証拠もありませんけどね」

奈々子はしゃべりながら用にパフェを口に運んだ。

「ワンマン社長とその人ですか。権力者が白いものを黒だといえば、その下の人間は皆それに肯かざるを得ない……中小企業にはよくある話です」

「警察にはないんですか?」

和泉は苦笑せざるを得なかった。

「まぁ、そのことはともかく。當時のことをよく知っている人に話を聞くしかありませんね。旅館の存続のためには、膿を排除する必要がある……」

「……あ!」

突然、奈々子が大きな聲を出した。

「どうしました?」

「思い出しました、宮島のことなら野良貓が何匹赤ちゃんを生んだかまで把握してる生き字引みたいな人がいるって聞いたことあります。ただ、すごく気難しい人で、なかなか會うことも難しいって話ですよ」

「大丈夫ですよ、私にはこれがありますから」

和泉はポケットからちらり、と警察手帳を見せてみる。

「名前と住所は……ちょっと待ってくださいね」

奈々子は攜帯電話で誰かに電話をし始めた。

うんうん、と頷きながら紙ナプキンを手元に引き寄せ、帯に挿していたボールペンでメモを取った。

淺井梅子(あさいうめこ)、広島県廿日市市宮島町……。

「ありがとうございます」

和泉は禮を言って伝票を取り上げた。

和泉さん、と彼が呼びかける。

咲さんは私の、命の恩人なんです。いろいろあって、一度に何もかもなくした私を助けてくれたのは……生きるための糧を與えてくれたのは彼なんです。だから私、彼のためなら、しでも苦しみを和らげてあげられるなら……何だってします! お願いします、どうか……」

わかりました。和泉は営業用ではなく、心から微笑んで見せた。

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