《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》紅一點

イラストは一條えりん様よりいただきました。

うさこ、可いでしょ?

稲葉結(いなばゆい)はその日、早朝から攜帯電話の著信音で起こされた。

この頃は比較的平和な日々が続き、定時出勤で良かったから、久しぶりの早起きはきつかった。

はい……寢惚けた聲で応答すると、なんと班長からだった。

一気に目が覚める。

事件発生の知らせ。

宮島口駅前に急行しろとの指示だ。

は急いで顔を洗い、服を著替えて化粧をし、バタバタと玄関に向かった。

両親と暮らす彼は、いつもは母親が用意してくれる朝食を食べてから出勤するのだが、今朝はそんな余裕がない。

「結ちゃん、また事件?」母親の聲が背中から聞こえた。

「うん、しばらく帰れないから!」それだけ言い殘すと、結車に飛び乗る。

ぐずぐずしていると母親の愚癡が始まる。それだけはごめんだ。

いつも仕事が忙しいってばっかりで、ちっとも浮いた話がないじゃない。

好きな人はいないの?

こないだの婚活パーティーだって、仕事がったってキャンセルして……。

ああ、うるさい。

走り出して間もなく、攜帯電話が鳴り出した。

最近、運転中にも通話できる機能を車に取り付けた。

『うさこ、もう出たか?』相棒の日下部からだ。

「はい、今現場に向かってますよ」

『悪い、俺を拾ってくれないか? 車検で足がないんだよ』

「了解でーす」そう答えて、その足で結は日下部の自宅に向かう。

初めて日下部に會った時は、がやたら大きくてし怖そうな外見になからず構えたが、中は至って小心な気のいいおじさんだった。

し歳の離れた実の兄によく似ていて、結はすぐに彼と打ち解けた。

日下部は時折、自宅に連れて行ってくれることもあり、彼の妻とも親しくなった。

相棒の家に到著すると、本人とその妻が待っていた。

「結ちゃん、おはよう」日下部の妻の久子は紙袋を差し出した。「ちゃんと朝ごはん食べられなかったでしょう? これ、持って行って」

ほかほかと湯気と甘い香りが漂う。焼きたてのスコーンだ。

「久子さんありがとう!」

「気を付けてね。お仕事頑張って」

車が走り出すと日下部は落ち著かなそうにきょろきょろ見回し、

「なぁ……水死かな、刺殺かな? 何が一番キツいって、焼死だよな。できることなら死なんて見たくない……」

「私だって見たくないですよ! ていうか、私だからいいですけど、そんなこと和泉さんの前で口にしたら絶対ダメですよ?!」

「わかってる……」

ほんとうに気が小さい男だ。

は溜め息をつきたいのを我慢した。

それでも憎めないのは、彼がいざという時には優しくて、ちゃんと味方になってくれるからだ。

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