《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》14
翌日、朝から調が悪いふりをして、ジルは布団に潛りこんだ。
見張りはこちらが申し訳なくなるほど大層心配してくれて、水と薬をくれた。晝食は先に斷り、寢かせておいてしいと頼む。いだ服などを詰め込んで布団を膨らませ、著替えたあとは通気口の中へった。
魔力はあまり使いたくない。平常時とはいえ、軍港だ。いくら魔力がラーヴェ帝國で珍しいとしても、魔力を使える兵がいないとは限らない。
聖堂の裏側に出たジルは、ほこりを払い、結いあげた髪を帽子の中にれ直す。聖堂で世話になっている年、という設定だ。軍人の振る舞いはそのままジルを年のように見せてくれるし、ベイルブルグにたどり著いてからジルの顔をまともに見ているのはスフィアと扉の見張りくらいしかいない。走がばれない限りは、まず見破られないだろう。
(……そういえば聖堂に子どもがいないな? どこかに皆で出かけているのか)
さてまずどこへ向かおうと首をめぐらせると、可憐な聲が耳に屆いた。
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「神父様、私は……私はどうしたらいいでしょうか……!」
聖堂のほうからだ。窓が開いているのだと気づいて、ジルはそっと背びをして中をのぞいてみる。
中は禮拝堂になっていた。祭壇の前に神父らしき服を著た男がおり、その前でスフィアがうなだれている。
「嫌な予がするのです。床に伏せっておられますが、あの方はハディス様です。なのにどうして、ハディス様ではないなどと……お父様は何をお考えなのでしょう。何も心配しなくていいとおっしゃるのですが、それでいいのでしょうか」
「ベイル侯爵はあなたのことを思っておられるのです。信じられてはいかがですか」
穏やかな神父の回答に、スフィアがきつくを噛みしめて、うなだれた。
「……のない政略結婚だった前妻との娘でも、ですか……」
「あなたはハディス様の婚約者候補です。大事にしないわけがありません」
「そう……ですね。ハディス様が目をかけてくださっている間なら……でもハディス様は昨日、クレイトスから連れ帰ったの子とお會いになったのです」
ぎくりとしたジルの焦りを、神父が否定してくれる。
「まさか。ハディス様は伏せっていらっしゃるのでしょう」
「ですが、そうとしか思えません! 昨日まで『僕の紫水晶はどこに』と、ずっと心配しておられて……わ、私は自分のわがままを恥じたくらいです。なのに昨日からいきなり、『近づくと危険だ悸がひどい、城で養生する』とおっしゃるようになられて……」
「それは……その、冷靜になられたのでは?」
「違います! する乙をなめないでくださいっ! ハディス様はに落ちかかっておられるのです!」
(いやそれはない)
しかしジルの心の聲はスフィアに屆かない。
「そして、今朝はお菓子作りのレシピ本を片っ端からお読みに……!」
それはジルのせいかもしれない。
「が喜ぶ飾りや味について相談されたのです、私に! あれは絶対に小さなの子を想定しておられますっ……こ、こんなひどい仕打ちがありますか……!?」
「お、落ち著いて……そうだ、スフィアお嬢様への贈りかもしれません」
「そ、それは……はい……でも、ハディス様は……じゅ、十四歳未満でないと……!」
ついにスフィアがわっと床に伏せて泣き出した。
「こ、婚約の話をもう一度考えていただけないかと言う私に、十四歳未満ではないからだめだと、はっきり……ほ、他のことなら努力もできますが、年齢はっ……なぜ十四歳未満なのですか!? 十六の私が悪いのですか!? し、しかもそれを聞いたお父様が、十四歳未満の従姉妹を宴に呼ぶ準備を……!」
スフィアの嘆きを頭の痛い思いでジルは聞く。だが、いつまでもここでスフィアの愚癡を聞いているわけにもいかない。
申し訳なく思いながらも、そっと窓下から壁にそって移した。
(確かに年齢でふられると、納得はしがたいだろうな。なんで十四歳未満なのかと言いたくもなるか)
実際、なぜなのだろう。あえて趣味の可能をはぶき、十四歳、十四歳と考えて歩く。
クレイトス王國で十四歳といえば、天界でただのだった神がその権能に目覚めたと伝えられている年齢だ。それにちなんで、クレイトス王國に生まれたは十四歳の誕生日に花冠を作ってもらい特別なお祝いをする――そこまで考えて嫌な思い出が蘇った。
城壁から飛び降りたあの夜の、きっかけになったことだ。
(フェイリス王の十四歳の誕生日だから、王都に戻って……やめよう、考えるの)
理由は本人から話してもらうしかない。聞くのが怖い気もするが。
「いやでも近いうちにはっきり聞いておくべきだな……でないとわたしが十四歳になったらどうするのかという問題が――」
「おい、合図はまだかよ」
「門が閉まったらだ、もうすぐだよ。靜かにしろ!」
聖堂の正面に回ったジルは、れ聞こえた聲に咄嗟に近くの茂みに隠れた。そのまま聖堂前の通りを數人の男達が、どこか急ぎ足で進む。
(おかしいな……ここの軍人は貴族の子息が多いとしたら、何か)
育ちのよさというのはきににじみ出る。歩き方がどこか雑で、しなまっている気もした。まるで傭兵か何かのようだ。
だが、著ているものは北方師団の軍服だった。
「標的は間違いなくここにいるんだな?」
聖堂の扉をさす仕草に、ジルはまばたく。
「ああ、今、神父が引き止めてる。もう片方もされてる部屋はわかった」
「基地に殘ってる北方師団の奴らは」
「せいぜい十人程度って話だ。ほとんど使いにはならねぇだろうよ」
正直、啞然とする以外なかった。
(ちょ……待て、だめだめすぎないか北方師団! そんなに弱かったか!? ……ま、まさかこれをきっかけに建て直したのか……)
いや、問題は今だ。とてもまずい狀況にあるのではないかと思ってる間に、門がおりたと聲があがった。聖堂の扉が蹴破られる。中から悲鳴が聞こえた。
「な、なんですかあなた達は……!」
スフィアの聲だ。やっぱりか、と思ってジルは頭を抱える。だがすぐ決斷した。
(わたしの役目は報収集!)
「あの、今、悲鳴が……どうしたんですか!?」
飛びこんだジルに、腕をつかまれたスフィアが涙目で振り向く。
なんだこのガキは、という聲と一緒にジルも押さえこまれるまで、そう時間はかからなかった。
レビュー書いてくださった方、有り難うございました!
ブクマ・評価・想も勵みにさせていただいております。ハディスが通報皇帝にならないか心配です(笑)
引き続き楽しんでいただけるよう頑張りますので、宜しくお願い致します~!
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