《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》17
うつむいたスフィアの聲が、倉庫に響く。
「私にわかったのはその見えない何かが、とてもハディス様を心配していることくらい。だから正直にそう答えたわ。でも、それがいけなかったのね。戻ってお父様にその話をしたら、怒られてしまった。どうして見えると言わなかったんだって」
「……でも、それでは皇帝陛下に噓をつくことになるのでは」
「そうね。でも、お父様が言うには、ハディス様が婚約者候補のと會う際には必ず尋ねるクイズみたいなものだったんですって。見えるって言わないのは不正解だと怒られて……支度金や今まで育ててやった分の金を返せと言われたわ。高級娼婦にでもなれば稼げるって」
ジルの中でベイル侯爵が八つ裂きにしていい男に分類された。
傷ついた様子もなく苦笑いを浮かべているスフィアが、痛々しい。
「でもそれをたまたま通りがかったハディス様に見られてしまって……私のことをお茶友達にしたいってかばってくださったの」
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ハディスは誰も婚約者に選ばなかった。となると、たとえお茶友達扱いでも、スフィアは達の中で一歩抜きん出た存在になる。
ベイル侯爵も無下にはできず、スフィアは皇都のベイル侯爵家の屋敷に住むことになった。
「陛下はお忙しい方だったけれど、私の扱いが悪くならないよう一ヶ月に一度、必ずお茶をご一緒してくださったわ。とてもおいしいケーキやクッキーを用意してくださって」
まさか手作りか、と思ったが話に水を差すのは控えた。
「でも、婚約はできないと仰った。婚約者にすれば私が危ないと」
「危ないって……その、他の婚約者候補に嫌がらせをされるとかそういう?」
ふるふるとスフィアは首を橫に振った。
「呪いよ。……皇太子が立て続けに亡くなったことを、あなたは知ってる?」
「話には聞いております」
「そう。私はずっと地方にいたせいで、陛下の呪いについて詳しくは知らなくて……初めて聞いたときは恐ろしいとは思ったわ。でも、いつも陛下はとてもさみしそうだった。ご兄弟にもさけられて。それをしかたないって言ってらっしゃったけど……お優しい方なのに……」
「だからお茶友達をやめなかった……スフィア様は勇敢ですね」
こんなの子がたったひとりで呪われた皇帝と対峙するなんて、どれだけの勇気が必要だっただろうか。
スフィアは目を丸くしたあとで、薄汚れた倉庫の床に目をおとした。
「そんなことはないと思うわ。私は陛下のお茶友達でなくなれば、お払い箱。それが嫌だっただけだから……」
ふわふわしているだけかと思ったら、ちゃんと自分の置かれた狀況をよく見ている。
「陛下はそんな私の思をすべて承知でお茶會を続けてくださった。私が変死でもしたら、陛下のせいになるのに。そのほうがよほど、勇気がいることじゃないかしら」
「……そうですね」
「だから私、陛下のお力になりたいと思ったの。クレイトス王國に行く前に、思い切って告白したわ。私を陛下の妻にしてくださいって。そうしたら……じゅ、十四歳以上はだめだと言われて」
これまでのいい話を臺無しにする発言である。思わずジルもそっと目をそらした。
「き、きっと私を傷つけないための冗談だと思っていたら、クレイトスから本當に小さなの子をつれてお戻りになられてっ……こ、これはだめだとっ……しかも今回の騒はその子が原因だったなんて、陛下をこれ以上の悪評からお守りするには、私はどうしたら……!?」
「お、落ち著いてください。それよりも今をどうにかしないと」
「そ、そうね……そうだったわ、ごめんなさい取りして……」
ぐすぐす洟をすすりながら、スフィアがを引き結ぶ。それを見て、ジルは苦笑した。
いい子だ。できるなら助けてやりたい、と思った。
だが、父親のベイル侯爵は黒だ。
(神父も黒だったしな……娘を捨て駒か)
スフィアとふたりで出したとしても、逃げた先でスフィアの拐犯か殺害犯にされかねない。もうし、ジルの無実を晴らす補強材料がしい。
こちらの利は、手引きした裏切り者としての役を割り當てられたジルがまだつかまっていないことだ。そこに勝機がある。
せめてもうし、人手があれば。
「ここにってろ! 手間とらせやがって……!」
「ちょっと汚い手でさわんないで、汚れちゃう――きゃっ!」
「フン。たったふたりに手間取るお前らが無能なだけだろうに」
鉄製の扉が開き、一人目が悲鳴と一緒に倉庫の中に蹴り飛ばされ、二人目は毆られて餅をついた。さらにもう一人、ぽいっとのように投げれられた青年がジルの足元近くまでごろごろ転がる。
なぜか青年はその手に走前に著ていたジルの上著をにぎっているのを見て、ぎょっと目を剝いた。
(部屋の見張りだった兵士! まずい、顔を見られたら……!)
と思ったが、見張りの兵士は目を回している。ほっとした。
「おとなしくしてろよ!」
捨て臺詞と一緒に鉄製の扉が閉まる。
最初に倉庫に放りこまれたふたりが、のそりと上半を起こした。
「完全に主犯扱いだな。お前のせいだぞ、この馬鹿が」
「アタシのせいじゃないわよ、あんたが暴れるから利用されちゃったんでしょ!」
「……ジークに、カミラ?」
それは、六年後死んだと聞かされた部下の名前だった。
呆然とつぶやいたジルに、ふたりが振り向く。
「なんだ、このガキは。知り合いか? カミロ」
「うっせぇ本名で呼ぶな的にすんぞ。あ、やだごめんなさぁい。大丈夫よ、アタシは優しいカミラお姉さん! こっちはジーク。でも……うぅん、知らない子ねぇ。ごめんなさい、どこかで會ったことあったかしら……あらやだ、どうしたの、泣いてるの?」
顔を手で覆ったジルを、カミラが心配そうに覗きこむ。記憶より若々しいが、右の目にある泣きぼくろの位置が同じだ。
「やだーあんたのせいよジーク。あんたが怖い顔してるから脅えてるじゃない。うしろのお嬢さんも顔面蒼白になってるし。どうにかなさいよ」
「知ったことか。これは地だ」
言葉ほど冷たくはなく、ジークがそっぽを向く。記憶よりまだ背が低い気がした。でもいつも気難しげに刻んでいる眉間のしわが、変わらない。
ああ、とジルは笑いに似た息を吐き出す。
(そうか。わたしは……まだ何も奪われてないんだな)
これからだ。――六年前に巻きもどって初めて、心の底からそう思った。
モテない陰キャ平社員の俺はミリオンセラー書籍化作家であることを隠したい! ~転勤先の事務所の美女3人がWEB作家で俺の大ファンらしく、俺に抱かれてもいいらしい、マジムリヤバイ!〜
【オフィスラブ×WEB作家×主人公最強×仕事は有能、創作はポンコツなヒロイン達とのラブコメ】 平社員、花村 飛鷹(はなむら ひだか)は入社4年目の若手社員。 ステップアップのために成果を上げている浜山セールスオフィスへ転勤を命じられる。 そこは社內でも有名な美女しかいない営業所。 ドキドキの気分で出勤した飛鷹は二重の意味でドキドキさせられることになる。 そう彼女達は仕事への情熱と同じくらいWEB小説の投稿に力を注いでいたからだ。 さらにWEB小説サイト発、ミリオンセラー書籍化作家『お米炊子』の大ファンだった。 実は飛鷹は『お米炊子』そのものであり、社內の誰にもバレないようにこそこそ書籍化活動をしていた。 陰キャでモテない飛鷹の性癖を隠すことなく凝縮させた『お米炊子』の作品を美女達が読んで參考にしている事実にダメージを受ける飛鷹は自分が書籍化作家だと絶対バレたくないと思いつつも、仕事も創作も真剣な美女達と向き合い彼女達を成長させていく。 そして飛鷹自身もかげがえの無いパートナーを得る、そんなオフィスラブコメディ カクヨムでも投稿しています。 2021年8月14日 本編完結 4月16日 ジャンル別日間1位 4月20日 ジャンル別週間1位 5月8日 ジャンル別月間1位 5月21日 ジャンル別四半期2位 9月28日 ジャンル別年間5位 4月20日 総合日間3位 5月8日 総合月間10位
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★書籍化&コミカライズします★ 目が覚めると、記憶がありませんでした。 どうやら私は『稀代の聖女』で、かなりの力があったものの、いまは封じられている様子。ですが、そんなことはどうでもよく……。 「……私の旦那さま、格好良すぎるのでは……!?」 一目惚れしてしまった旦那さまが素晴らしすぎて、他の全てが些事なのです!! とはいえ記憶を失くす前の私は、最強聖女の力を悪用し、殘虐なことをして來た悪人の様子。 天才魔術師オズヴァルトさまは、『私を唯一殺せる』お目付け役として、仕方なく結婚して下さったんだとか。 聖女としての神力は使えなくなり、周りは私を憎む人ばかり。何より、新婚の旦那さまには嫌われていますが……。 (悪妻上等。記憶を失くしてしまったことは、隠し通すといたしましょう) 悪逆聖女だった自分の悪行の償いとして、少しでも愛しの旦那さまのお役に立ちたいと思います。 「オズヴァルトさまのお役に立てたら、私とデートして下さいますか!?」 「ふん。本當に出來るものならば、手を繋いでデートでもなんでもしてやる。…………分かったから離れろ、抱きつくな!!」 ……でも、封じられたはずの神力が、なぜか使えてしまう気がするのですが……? ★『推し(夫)が生きてるだけで空気が美味しいワンコ系殘念聖女』と、『悪女の妻に塩対応だが、いつのまにか不可抗力で絆される天才魔術師な夫』の、想いが強すぎる新婚ラブコメです。
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.。゜+..。゜+.書籍発売中!TOブックス様よりイラストはゆき哉様で発売中! コミカライズ化決定!白泉社様マンガparkにて11月下旬、漫畫家水晶零先生で公開です!。.。゜+..。゜+お読みくださる皆様のおかげです。ありがとうございます! 勤め先のお弁當屋が放火されて無職になった透瀬 了(すくせ とおる)22歳。 経験と伝手を使ってキッチンカー『デリ・ジョイ』を開店する。借りた拠點が好條件だったせいで繁盛するが、ある日、換気のために開けた窓から異世界男子が覗きこんで來た。弁當と言っても理解されず、思わず試食させたら効果抜群!餌付け乙!興味と好奇心で異世界交流を始めるが、別の拠點で営業していたら、そこでもまた別の異世界へ窓が繋がっていた!まったり異世界交流のはずが、実は大波亂の幕開けだった…。 注:キッチンカーではありますが、お持ち帰りがメインです。立ち食いOK!ゴミだけは各自で処分ねがいま……じゃなかった。料理メインでも戀愛メインでもありません。異世界若者三人の異文化(料理)交流がメインです。
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