《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》22
魔力を知して、ハディスは顔をあげた。軍港のほうだ。
「ハディス! ハディス聞けよ、嫁がおもしろすぎる!」
ジルを見に行くように頼んだ相棒が、廚房の壁をすり抜けて現れる。
げらげら笑っているその姿には竜神の威厳もへったくれもなく、生クリームの加減を見ていたハディスはつい冷めた目を向けた。
「彼を守れと僕は言わなかったか? こうして歓迎の準備もしているのに」
「だっていらねーって言われたし。すげーよ、実際いらねーわあれ。自力で出して俺が見つけたときには聖堂で敵と戦してた」
思わぬ返答に、ハディスは生クリームを泡立てる手を止めた。
「は? 戦? なぜ彼が?」
「今は手が離せないから、お前のとこに戻れって言われてさー竜神を邪魔者扱いだぜ!」
ひいひい笑ってラーヴェが飾り用に切っておいた桃を一切れ、勝手に食べた。
「んーうまい。何作ってんだよ」
「桃のムース。摘まみ食いしてないで答えろ。どういう狀況なんだ?」
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「スフィア嬢ちゃんは聖堂で守られてる。生き殘ってる北方師団が、嫁の指揮で頑張って敵を押し返してるぜ。軍港を取り戻すんだってさ。すげーすげー」
「軍港……それを本気で言ってるのか、彼は」
「本気で言ってるし、やってるな」
あれだけの魔力を持っていて戦えるのだから、自力出くらいは想定だ。だが軍港を取り戻すなんてことまでは期待していなかった。
「皇帝陛下の為にってすげー演説ぶちかましてんの。北方師団、お前が自分達を助けるために嬢ちゃんをよこしてくれたって信じてるぜ」
「まさか助ける気なのか、全部。なんて無茶をするんだ……」
だが、これで北方師団の面子も立つ。ハディスだけではどうにもしてやれない、スフィアを助ける道筋も見えてきた。
「襲撃してきた連中に逃げられる可能は? 町への被害は出るか?」
「軍港で暴れてるだけだから被害は出てない。嬢ちゃん、あちこちぶっ壊して退路を斷ってるな。そうそう、港にあった船もぶっ壊してたぞ」
「襲撃者を捕らえて、ベイル侯爵の言い逃れをふせぐためか。僕のお嫁さんが優秀すぎる」
汚名返上どころか、功績を立てるところまで視野にれているのだ。それなら軍港を占拠されたことも、北方師団の失態ではなく作戦のひとつだったと言い張れる。
さらに、ベイル侯爵が裏で糸を引いているところまで引きずり出せたら。
(スフィア嬢を連れて逃げてくるくらいは考えていたが……想定以上だ)
だが、いったいどれだけの破壊が行われたのか。その損害額を試算しようとして、途中でやめた。
「再建費用はベイル侯爵から搾り取ろう。一家斷絶よりはましなはずだ」
「お、じゃあ丸くおさめられそうか?」
「丸いかどうかは知らないが、落とし所はつけられる」
「よかったな」
生クリームと混ぜ合わせたムースを型に流しれていたハディスは、意味がわからずまばたく。
「これでスフィア嬢ちゃんも北方師団もベイル侯爵家も、全部諦めて見捨てたり殺したりしなくていいってことだろ。恐怖政治せずに、みんなに嫌われない皇帝陛下になれるかもな」
びっくりして目が丸くなってしまう。遅れて、そわそわした気持ちがこみあげてきた。
「……つ、つまり僕は……みんなに好かれる皇帝陛下になれる、のか……!?」
「いや、そこまで言わねーけど。でもいい嫁じゃねーか。案外、ほんとにお前をしあわせにするかもなぁ」
「や――やめてくれ、そんな」
いきなりはねあがった心音に、口元をおさえる。
「き、気分が悪く……み、水……」
「あぁうん、おめーもその殘念さをどうにかしような……ふられるぞ」
「し、心臓に悪いことを言うんじゃない。なぜそうなるんだ」
「だっておめー、今のとこなんにもしてねーじゃん」
衝撃できが止まった。傾けた水差しからぼたぼたとエプロンに水がこぼれる。
「おいこぼれてる! タオルタオル、濡れたら風邪ひくだろーがお前は!」
「……い、いや、僕は桃のムースを作っていた! それじゃだめなのか!? はっ今からベイル侯爵の私軍を壊滅させるのはどうだ!?」
「まだ何もしてねぇ軍を壊滅させるな、恐怖政治に戻ってんだろうがそれ……」
「だったら何をすれば彼に嫌われないんだ!? わからない、難しい!」
「あーもうわかんねぇなら、せめて嬢ちゃんのみを葉えてやれよ!」
「わかった、これを完させればいいんだな!?」
「ちが――いや違わない気がするな。え、待ってくれよ俺ってお前と同レベル……?」
頭を抱えた竜神を橫目に濡れたエプロンをはずしたところで、廚房の扉が開いた。
わらわらとってきたのは、兵士達だ。制服の袖にベイル侯爵家の紋章がっている。
つまり、ベイル侯爵の私軍だ。
「失禮致します、皇帝陛下。ベイル侯爵より護衛を仰せつかりました!」
「護衛? 私は今、ムースを作っている。邪魔をしないでしいんだが」
真面目に頼んだのだが、ふんと鼻で笑われた。
「軍港を占拠した賊達がこの城を目指しているとの報がりました。念のため、皇帝陛下には安全な場所に避難していただきたいとのことです」
北方師団が軍港を奪還する可能が出てきたせいで焦ったのだろう。ジルと會わせないための時間稼ぎ、その場しのぎの策にハディスは呆れる。
だが、それだけベイル侯爵にとってこの事態は想定外なのだろう。たかが十歳のの子にこうも振り回されるのはいかがなものかと思ってから、ふとが弧を描いた。
(それは僕もか)
まさか夫の自分がベイル侯爵と同じでいいはずがない。
兵士達は剣の柄に手をあててずっと警戒している。ハディスを逃がしたりしないよう、雇い主であるベイル侯爵に言われているのだろう。おかしなことだ。
皇帝が逃げる理由などどこにもない。
ムースは冷やすだけだ。飾り付けはあとにしよう。
「埃を立てられるのは困るな。――そのまま跪け」
三角巾をはずして命じる。足元からさざ波のように広がった魔力が、城をゆらした。
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