《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》30
クレイトス王國からの使者もすでに到著していた。
今後の両國の関係について話し合いたい、という先れだ。ジル宛の手紙もこの使者が持ってきたものらしい。
公的な扱いではなく、話し合いの場も皇都ではなく明朝にジェラルドが到著するだろうここ水上都市ベイルブルグで、ということだった。時間も心の準備もあったものではない。というか、させる気がないのだろう。
「ジル様、目の焦點があってません。もっと、淑らしい笑顔をお願いします」
早速謁見だということで支度を手伝ってくれることになったスフィアが、ジルの顔を見るなりそう言った。
言われたとおり、ジルは頬を無理矢理あげてみる。
「こうですか?」
「……完全に悪役顔です」
「ではこう」
「もっとだめです。獲を前にして舌なめずりしているようです」
「では、こういったじは」
「……もう、虛無のほうがましなんじゃない」
出り口のほうから飛んできたカミラの忠告に、スフィアが嘆息する。なんだか申し訳なくなった。
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「すみません、可い笑顔は苦手で……あの、足をかせるドレスはあるでしょうか。それなら気も休まるのですが」
「足をみせるのですか? そうですね……そういった流行もありますし、ジル様は子どもですから破廉恥というより可らしくていいかもしれません」
「いえ、そうではなくて足技が決められないです。あとは太ももの辺りに暗をしこめるようガーターを」
「おい。戦場に行くんじゃないぞ、謁見だ。それだと、護衛の立場がない」
ジークの意見はもっともだが、ジルとしてはできれば謁見相手の息のを止めたい。
スフィアが眉をよせた。
「……お顔がますます兇悪になっているのですが……」
「地です」
「ジル様は可らしいですよ。張せず、もっと自信を持ってください。お好きなドレスのや形はありますか?」
「一息で殺すためには、やはり回し蹴りができるドレスがいいです」
「……本當にジェラルド王太子がお嫌いなのですね……ですがジル様、笑顔というのは淑の武のひとつですよ」
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武、という言葉にジルはし反応した。
「はどうであれ、クレイトス側ではジル様は拉致されたという認識なのですよね」
「はい」
「そうでないと否定するならば、ジル様はしあわせそうでなければなりません。優雅に、気品を損なわず。自分はここで遇されているのだと、笑うのです――このように」
すっと両手を合わせて綺麗な姿勢をとったスフィアが、顎を引いてしく微笑んだ。
びりっとジルの背中に何かが走る。
(いつものスフィア様じゃない)
穏やかに、見る者をほっとさせるような優しさのこもった可憐な微笑だ。この笑顔を見せられたらなんでも流されてしまうだろう、と思う。
「どうでしょうか?」
「……スフィア様の言っていることはわかりました。頑張ってみます。……スフィア様はお強いのですね」
スフィアがちょっと嬉しそうに笑顔を崩す。そうするといつものスフィアだ。
「足の開けるドレスを選んできます。理由はともかく、しでも気持ちを楽にできるほうがいいですから」
そう言ってスフィアは、ハディスがジルのために用意した裝部屋にって、ジルがむようなドレスを見繕ってくれる。
そのあとはひたすら支度だ。をしっとりさせる薬剤をれて白になった風呂にり、薔薇水を頬や額に叩き込まれ、を全にばし、香油で髪をすく。コルセットはいらないと言われてほっとした。子どもだから化粧は薄く、だが健康的に見えるように、は瑞々しさが出るよう蝋を塗る。
新しく城に雇われた使用人たちもよくよく心得ていて――というか完全にジルをおもちゃにして、それはもう素晴らしいお姫様を作り上げてくれた。
全鏡で見た際にはちょっと誰だかわからなかったくらいだ。
(あとは笑顔、笑顔……!)
頭の中で念じながら、ジークとカミラを護衛につれて歩く。
大理石の廊下の先、大きな両開きの扉の前で、ハディスが立っていた。ラーヴェはいない。おそらくハディスの中にいるのだろう。
肝心のハディスは、いつもと変わらない出で立ちだった。元がいいものだから、立っているだけで凜と咲き誇る花のようにしい。
(……著飾ると逆にわたしがかすむやつだ、これ……)
努力しようと思った笑顔が、今度は別の意味で消えた。
「ジル様をお連れしたわよん、皇帝陛下」
「護衛は本當に外だけでいいのか」
「問題ない。公的なものではないし、向こうも王太子ひとりだ」
そりゃあそうだろうとジルは冷めた目で思う。ジェラルドは強いのだ。
(わたしでも試合で勝てたことがない。……何かしかけてこられたら)
警戒に気づいたのか、ハディスが視線をジルに落とした。
「クレイトス側は君が僕に拐されたと言っている。そうではないという証明もかねて君を同席させるが、君は基本、にこにこしているだけでいい……んだが…………」
意味深にハディスが黙りこんだ。きっと自分の顔のせいだ。
両の拳をにぎり、ジルは両目をきつく閉じる。
「申し訳ございません、陛下。敵襲だと思うと、殺気がおさえきれず……!」
「そ、そうか……相変わらず勇ましいな、君は。せ……せっかく迎えがきてるのに、ときめいたりは」
「しません。そもそもジェラルド王太子の本當の目的が、わたしであるはずがありません」
それだけは、はっきりと言い切れる。
「必ずお守りしますので、わたしのそばを離れないでください、陛下」
「……あっちょっと陛下!?」
よろめいたハディスが、心臓あたりに手を當てる。陛下、とジルも駆けよった。
「大丈夫ですか、陛下」
「ちょ、ちょっと呼吸がれただけだ……平気だから」
「そうだ、頑張れよ皇帝陛下。男をみせるんだ。やり返すくらいの気持ちでいけ」
「わ、わかった」
「ジルちゃんもこんなときに陛下の心臓をもてあそんじゃだめよ」
なぜ自分が叱られるのだろう。
ジークに背中をなでられ、カミラに差し出された水を飲んだハディスは、深呼吸をしてジルを抱きあげた。
「そろそろ時間だ、行こうか」
「本當に大丈夫ですか? ジェラルド王太子と渡り合うのに調不良では……」
「……まさか君は、僕があの王太子に負けるとでも言いたいのか?」
ひやりとくる口調で言われ、ジルは慌てて首を橫に振った。
「そ、そんなことはありません」
「ならいいが」
前を向いたハディスの金の目の奧にが宿る。為政者の顔に変わった。
ひゅうっとジークが口笛を鳴らし、カミラは意味深に笑っている。
(……々あぶなっかしいが、こういうところはちゃんと大人なんだな……)
じいっと橫顔を見ていると、人差し指で襟元を直したハディスに怪訝そうに見返された。
「まだ何か不安か?」
「陛下が立派に皇帝の顔をしていらっしゃるのに、可い笑顔というものに絶的に縁がない自分がふがいなく……スフィア様の笑顔は素晴らしかったので真似をしたいのですが」
「なんだ、そんなことか。君は何も気にしなくても――」
「そういう気遣いはけっこうです陛下! わたしは! あなたの妻として! にっこにこの笑顔にならなければいけないのに……!」
足を引っ張ると思うと悔しい。ハディスがし考えてから、そっと目をそらして言った。
「……どうしても可らしく振る舞いたいというならば、方法はある……が……」
「本當ですか!?」
「で、でもだめだ。荒療治すぎるし、つけこむみたいだし……まだ早いと思うんだ、君には」
今度はそわそわしながらハディスが目をそらす。だがジルは食いついた。
「どんな荒療治でもわたしは耐えてみせます! 足手まといになりたくないんです」
「だ……だまされないぞ。また真にけて、嫌われたり怒られたりしたら……」
「怒りませんし嫌がりません! 勇気を出してください、陛下」
「……。絶対に怒らないし、嫌がらない?」
「はい、お約束します!」
「絶対に絶対に絶対か?」
何度も念押しされて、し笑ってしまう。
積極的に口説こうとしていたようだが、ジルに嫌われるのを怖がるところは変わらないらしい。
「絶対に絶対に絶対に、大丈夫です。わたしに二言はないって、陛下はご存じでしょう?」
「……わかった。君を信じる」
「は――んぅっ!?」
がしゃんとを落とす音が聞こえた。ジークかカミラだろう。
視界をハディスの顔でふさがれたジルは、その音で我に返る。何が起こっているのか、一息もつけないことで理解する。
口づけされているのだ。こんな人前で、脈絡もなく――混が恥になり、怒りとまざりあいかけたとき、狙いすましたようにハディスが瞳をあけた。
元を食いちぎらんばかりの壯絶な気をたたえた金の瞳に、きがかなわなくなる。
「――君は僕に油斷しすぎだ」
間近で妖艶に微笑まれ、呼吸困難もあわせて、ぼんっと頭から湯気が噴き出る。そのままぐたりとハディスの首元によりかかった。たぶん、腰が砕けた。
大事そうにジルを抱え直したハディスがささやく。
「そのまま君は僕の腕の中でとろけていればいいよ」
「お、大人の男として、今の所業はどうかと思うわよ陛下……」
「おい、さすがに今のは一発毆らせろ、反則だ」
「だってジェラルド王太子に見せつけるにはこれが一番じゃないか?」
怒らない。嫌がらない。約束した。だがひとことだけ、恨み言を言いたい。
「……は……初めて……だった、のにっ……!」
「でも絶対怒らないって君は言った」
だが毆らないとは約束していなかったな、とジルは思い直した。
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