《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》4
目をさましたジルは周囲の安全をジークとカミラにまかせ、ハディスと傷の手當てをした。
ハディスが選んだ転移先は、末端の皇子として辺境に追いやられていた頃、あちこちに作っていた隠れ家のひとつらしい。ラキア山脈と近い低山の中腹にある、人里離れた場所だと説明をうけた。
「しおりれば大きな街があるんだけど、街道もこの山をさけるように迂回して作られてて誰も近寄らない。近くに竜の巣があるからね」
「竜の巣?」
すでにジルは、ラーヴェの姿も聲も完全に認識できなくなっていた。それはハディスも同じで、天剣も持てなくなっていた。
だが、ハディスの中にラーヴェはいるらしく、ハディスを通じて會話はできるという。何か言われたのか、顔をしかめてからハディスが答えた。
「竜が子どもを育てる場所だよ。ラキア山脈付近の山間によくあるんだ。絶対に近づくなってラーヴェが言ってる。まず問答無用で殺されるからって。竜の卵や鱗が磁場を作っていて、魔力が使えなくなったりもするらしい」
Advertisement
「陛下でも近づいたら駄目なんですか?」
「僕は大丈夫なんじゃないかな。え? ……ラーヴェなしじゃ駄目だって」
怒られたのか、ハディスが首をすくめている。それが頭の傷の痛みを隠しているようで、ジルはハディスのこめかみにもう一度、消毒をつけた布を押し當てた。
「ここは陛下の隠れ家だから、々道もそろってるんですね」
「うん。數日暮らす分には困らないと思うよ。まさか逃走先に使うことになるとは思わなかったけど」
「――魔力は、どうですか」
「ほとんど使えないな。君は?」
のしみこんだ布を、井戸で汲んだ綺麗な水に浸してみた。冷たい水だ。一度かき回してみたが、魔力の熱によってあたたまる気配はない。
「だめです、戻りません。……魔力封じのって言っても、完全に魔力が使えなくなるのは數時間のはずなのに。しかもわたしも陛下もなんて……」
「叔父上が持っていたあの武が介になって、魔を補強してるんだろう。天剣そっくりだったけど、いったいどこから持ちこんだんだか」
「どういう武であれ、あんな強力な魔を組める國はひとつしかありません」
魔大國クレイトス。浮かんだ自分の故國の呼稱に、ジルは嘆息する。
(やっぱり、今の時點でラーヴェ皇族の中に既にり込んでるのか)
覚悟していたことだが、油斷ならないことを、改めて思い知る。
「確かに強力だけど、永久にきく魔じゃない。自然に解除されていくだろうってラーヴェは言ってる」
「ほんとですか!? そのうちってどれくらい」
「完全回復まで一年くらい?」
「長すぎます!」
愕然としたジルの前で、ハディスは末な食卓に頬杖をついた。
「でも、四ヶ月もあれば、天剣が出せる程度には戻ると思う。君だってその頃にはそこそこ魔力が戻ってるだろう。無理をすれば解除する方法があるかもしれないけど、変にがこんがらがったりしたら長引くし……いずれにせよ、あの武についても、現狀についても報がいる」
思考を整理するようなハディスの言うことは、もっともだった。
「叔父上の様子からして、回しは終わってるとみたほうがいい。下手にけば罠の中に飛びこむようなものだ。今はし、様子を見よう」
「でも、……陛下は皇帝なのに」
「叔父上の行は想定の範囲だよ。ベイルブルグになかなか迎えがこなかったのも、ベイル侯爵の獨斷でできることじゃない」
「――すみません。わたしのせいです」
頬杖をつくのをやめて、ハディスがまばたく。その顔をジルは見られなかった。
「わたしがもっと慎重に行していれば、陛下まで魔力が封じられることもなかったのに」
「それは違うよ、ジル。もともと狙われていたのは僕だ。魔障壁に向かった君の判斷も行も的確だった」
「でも、陛下はわたしを助けて、魔力を」
頭を引きよせられたと思ったら、頭のてっぺんに口づけを落とされた。びっくりして、けないことを言うばかりだった口が止まる。
「怖い思いをさせたんだな。僕の力不足だ、ごめん」
「へ、陛下は、なんにも悪くな――うひゃっ」
耳たぶに息を吹きかけられて、をすくめてしまった。こんなときにと目を白黒させていると、ハディスがいたずらっぽく笑う。
「これ以上、ジルが自分を責めるならもっとめないといけなくなる」
「わっわかりました、もう言いません!」
「今回のことは、あんなものに遅れをとった僕の失態だ」
頭上から降った冷たい聲に、ジルはハディスの顔を見ようと視線を持ちあげる。日が沈みかけているせいで、硝子もない立てつけの窓からってくるはない。どこか遠くを見ているハディスの橫顔を、食卓の上にある蝋燭の燈りだけが照らす。そのせいなのか、ハディスの綺麗な郭がはっきりせず、ひどくあやうく見えた。
「……怒ってますか、陛下」
「どうしてやろうか、と思ってるだけだよ。君をかっこよくエスコートする旅路に泥をかけられた」
薄いの端が、わずかに持ちあがっている。
ハディスの膝の上によじのぼったジルは、背びをして、その両頬をひっぱってみた。どこから見ても完璧な形も、頬がびれば崩れる。
「なひほふるんだ」
「陛下はかっこよかったですよ、ずっと。わたしがかすり傷ですんだのは陛下のおかげなんですから」
頬をなでるハディスの顔が元に戻ったのを確認して、ジルは自省ばかりで自分が言葉を間違えたことを悟る。反省より大事なことを忘れていた。
「助けてくれてありがとうございます、陛下。わたしも、次こそ陛下をかっこよく助けられるよう、頑張りますね!」
「……。なんでそう、君はかっこいいかな」
「聞いてませんね。かっこよかったのは陛下ですよ?」
首をかしげると、今度はそっと額に口づけられた。お禮の口づけだとわかっているので、恥ずかしくない。むしろくすぐったくて笑ってしまう。それが気にらないのか、ハディスがむっと口を曲げる。
「なんで笑うんだ」
「陛下が子どもみたいだなって」
「子どもは君じゃないか。……それとも僕を子ども扱いするなら、君を子ども扱いしなくていい?」
首を傾げてのぞきこむ仕草は子どもっぽいのに、金の瞳の艶が増す。ジルは大急ぎで首を橫に振った。
「まっ間違えました、陛下は大人です!」
「大人をやめたい……」
「やめないでください、陛下ならできますから!」
「そうだ頑張れよ陛下、いい加減隊長から離れろ」
「アタシたち、もうそろそろ中にっていいかしらー?」
背後からの聲に、ジルはハディスとふたりして固まる。
「見てるなら見てるって先に言ってくれないか!? 盜み見なんて破廉恥だ!」
先にハディスが真っ赤になって怒り出すものだから、慌てるより先に呆れてしまう。人目を気にしないほうだと思っていたが、盜み見されるのは恥ずかしいらしい。
新たな発見にしをうずかせながら、ジークとカミラも加えて、報のすりあわせを始めた。
包帯の下の君は誰よりも可愛い 〜いじめられてた包帯少女を助けたら包帯の下は美少女で、そんな彼女からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜
雛倉晴の通っていた小學校には、包帯で顔を覆った女の子――ユキがいた。小學校に通う誰もが一度もユキの素顔を見た事がなく、周囲の子供達は包帯で顔を覆うユキの姿を気味悪がって陰濕ないじめを繰り返す。そんな彼女を晴が助けたその日から二人の関係は始まった。 ユキにとって初めての友達になった晴。周囲のいじめからユキを守り、ユキも晴を頼ってとても良く懐いた。晴とユキは毎日のように遊び、次第に二人の間には戀心が芽生えていく。けれど、別れの日は突然やってくる。ユキの治療が出來る病院が見つかって、それは遠い海外にあるのだという。 晴とユキは再會を誓い合い、離れ離れになっても互いを想い続けた。そして數年後、二人は遂に再會を果たす。高校への入學式の日、包帯を外して晴の前に現れたユキ。 彼女の包帯の下は、初めて見る彼女の素顔は――まるで天使のように美しかった。 そして離れ離れになっていた數年間で、ユキの想いがどれだけ強くなっていたのかを晴は思い知る事になる。彼女からの恩返しという名の、とろけた蜜のように甘く迫られる日々によって。 キャラクターデザイン:raru。(@waiwararu) 背景:歩夢 ※イラストの無斷転載、自作発言、二次利用などを固く禁じます。 ※日間/週間ランキング1位、月間ランキング3位(現実世界/戀愛)ありがとうございました。
8 95【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才少女は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~
各分野のエキスパートである両親と兄姉5人を持つリリアーヌ・アジェットは幼いころから家族から最高水準の教育を受け続け、15歳になった今ではあらゆる分野で天才と呼ばれている。 しかし家族が全員「この子はこんなに可愛い上に素晴らしい才能もあるのだから、自分くらいは心を鬼にして厳しいことを言わないとわがままに育ってしまうだろう」とそれぞれ思っていたせいで、一度も褒められた事がなかった。 ある日突然遠縁の少女、ニナが事情があって義妹となったのだが、いくら頑張っても自分を認めてくれなかった家族が全員ニナには惜しみなく褒め言葉をかける様子を見て絶望したリリアーヌは書置きを殘して姿を消した。 (ここまでが第8部分) 新天地で身分を偽り名を変えたリリアーヌだが、家族の言う「このくらいできて當然」という言葉を真に受けて成長したため信じられないくらいに自己評価が低い。「このくらいできて當然の最低レベルだと習いましたが……」と、無自覚に周りの心をボキボキに折っていく。 殘された家族は「自分を含めた家族全員が一度もリリアーヌを褒めたことがなかった」とやっと気づくのだが…… 【コミカライズ進行中】
8 170マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで
お遊びバンドがあっという間にメジャーデビュー、あれよあれよでトップアーティストの仲間入りを果たしてしまう。 主人公の入月勇志(イリヅキ ユウシ)は、そんな彗星の如く現れたバンド、Godly Place(ガッドリープレイス)のボーカル兼、ギターだが、もっぱら趣味はゲームやアニメで、平穏な生活を失いたくないがために顔出しはNGで突き通していく。 ボーカルの桐島歩美(キリシマアユミ)を始め、たくさんの女の子たちとドキドキワクワクなラブコメディになる予定。
8 140ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最兇生體兵器少女と働いたら
大規模地殻変動で崩壊した國の中、その體に『怪物』の因子を宿しているにもかかわらず、自由気ままに暮らしていた元少年兵の青年。 彼は、數年越しの兵士としての戦闘の中、過去に生き別れた幼馴染と再會する。 ただの一般人だった幼馴染は、生き別れた先で優秀な兵士となり、二腳機甲兵器の操縦士となっていて……!? 彼女に運ばれ、人類の楽園と呼ばれる海上都市へ向かわされた青年は……。 気がつけば、その都市で最底辺の民間軍事會社に雇用されていた!! オーバーテクノロジーが蔓延する、海上都市でのSFアクションファンタジー。
8 156これが純粋種である人間の力………ってこんなの僕のぞんでないよぉ(泣
普通を愛している普通の少年が、普通に事故に遭い普通に死んだ。 その普通っぷりを気に入った異世界の神様が、少年を自分の世界に転生させてくれるという。 その異世界は、ゲームのような世界だと聞かされ、少年は喜ぶ。 転生する種族と、両親の種族を聞かれた少年は、普通に種族に人間を選ぶ。 両親も當然人間にしたのだが、その事実はその世界では普通じゃなかった!! 普通に産まれたいと願ったはずなのに、與えられたのは純粋種としての他と隔絶した能力。 それでも少年は、その世界で普通に生きようとする。 少年の普通が、その世界では異常だと気付かずに……… ギルクラとかのアニメ最終回を見て、テンションがあがってしまい、おもわず投稿。 學校などが忙しく、現在不定期更新中 なお、この作品は、イノベイターとはまったく関係ありません。
8 122何もできない貴方が大好き。
なーんにもできなくていい。 すごく弱蟲でいい。 何も守れなくていい。 私の前では隠さなくていいんだよ? そのままの君でいいの。 何もできない貴方のことが好き。 こうしていつまでも閉じ込めておきたい。 私だけは、貴方を愛するから。 『…ふふっ 寢顔かーわい』 純粋な愛のはずだった。 しかしある日を境に、少女の愛は狂気へと変わっていく。
8 173