《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》5
転移した先は、ラーヴェ帝國の西方、ノイトラール地方だった。クレイトス王國との國境であるラキア山脈の北半分と接した、ノイトラール公爵家の領地だ。険しい山脈があるとはいえ、國境を守るために作られた街はどこも城壁があり、士學校も多く、ノイトラール公爵家が誇る竜騎士団が見回りを欠かさない。
そもそもノイトラール公爵家とは、ラーヴェ帝國の三大公爵家――三公のひとつである。代々の皇帝は三公から妃をとるのが習慣で、ラーヴェ皇族のいわば親族だ。ハディスを偽皇帝と糾弾したゲオルグも、三公のひとつフェアラート公爵家の令嬢が母親だった。
貴族の後ろ盾なしに皇帝になったハディスにとって、三公は親戚であり政敵だ。すぐに追っ手をかけられてしまうのではとジルは焦ったが、ハディスが明かしたは思ったものと違った。
「ノイトラール公爵家は、他の二公にくらべると騎士気質なところがあって、権力的な爭いには中立を保つことが多い。帝位を狙うよりも、防衛と領地経営に口を出されないために立ち回ってるじだ」
Advertisement
「じゃあ、ひょっとして陛下の味方をしてくれますか?」
「うーん。ノイトラール公爵家の皇妃が生んだ皇太子が死んでるからなあ」
呑気に言ったハディスに、ジルのほうが顔を引きつらせてしまった。
「そ、それってやっぱり呪いの……陛下のせいってことに……?」
「なってるね」
「……助けは求めないほうが無難だな」
ジークの判斷に、カミラが眉をひそめる。
「っていうか、陛下が助けを求められる貴族っているの?」
「心當たりがない。僕の母親は平民――踴り子か何かだったらしいから」
分が低かったとは聞いていたが平民だった。よく許されたものだと思ったが、前皇帝には大勢跡継ぎがいた。だから許されたのだろう。
「じゃあ、陛下の兄上……ヴィッセル皇子はどうなの? 今、皇太子なんでしょ?」
「兄上の後ろ盾は叔父上だよ。叔父上はひとりだけ娘がいるんだけど、その子が兄上の婚約者なんだ」
「味方の味方が敵になってんじゃねぇか! それ味方も敵のパターンだろ!」
吼えたジークの気持ちに、ついジルも追従したくなったが、こらえた。
なくともハディスは実兄を信じている。できれば兄弟仲を裂くようなことは言いたくない。
「つまり陛下を皇帝たらしめているのは、神の呪いをのぞけば、前皇帝の譲位と天剣なんですね……」
「その中でもいちばんの理由は天剣だ。ラーヴェの姿は普通、見えないしね。天剣が偽だと言えれば、今の僕を皇帝から追い落とすのは簡単だろう。叔父上のとった策は正しいよ。帝都は僕抜きでもヴィッセル兄上がいれば政治は回るようになってるし」
「おい、じゃあ手詰まりじゃねーか」
「そんなことはないよ」
頭をかいていたジークがまばたきをする。カミラもさぐるような目を向けた。ジルも、さすがににこにこしているハディスの言っていることがわからずに、首をかしげる。
「何か手があるんですか?」
「あの天剣は長くはもたない。そのうち壊れるよ。それを待っていればいい」
「壊れるって……あ。魔力封じの反……?」
ゲオルグが持っていた偽天剣が、強力な魔の介にされているのは間違いない。ジルに加えハディスの魔力まで封じたのだから、並大抵の武ではいずれ持たなくなる。
「僕とジルの魔力が回復するということは、あの天剣が力を失っていくということだ」
「……なるほど、だったら確かに待つのが一番の手だな」
「焦って敵の罠にハマるのもムカツくしね」
「まずは、安全第一でおとなしくしていよう。そうすれば戦い方も見えてくる」
ハディスの言うことには説得力があった。ほっとしたジークとカミラの顔に、ジルはちょっぴり誇らしくなったくらいだ。
だから油斷した。
(まさか、本當に、ほんっとーーーーに何もしないなんて!)
まずは傷を癒やしつつ、安全を確保することで十日がすぎた。生活をととのえようと半月がすぎ、もうそろそろ何か変化や指示があるのではと待ってそろそろ一ヶ月だ。
その間の収穫といえば、ハディスが丁寧に育てたキャベツやじゃがいもくらいである。キャベツを作るハディスを蹴っ飛ばしたくもなるというものだ。背中の傷も完治している。
「いい加減! 何か! しましょう!」
ついに我慢できず、夕食のポトフを囲む食卓でジルは宣言した。
いつも読んでくださって有り難うございます。
想やレビュー、評価等々勵みにさせて頂いております。
一応、今日でGWは終わり?なのか?ということで、ここから先は月水金の朝7:00の更新に切り替えたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します~!
【書籍化】絶滅したはずの希少種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】
【書籍化&コミカライズが決定しました】 10年前、帝都の魔法學校を首席で卒業した【帝都で最も優れた魔法使い】ヴァイス・フレンベルグは卒業と同時に帝都を飛び出し、消息を絶った。 ヴァイスはある日、悪人しか住んでいないという【悪人の街ゼニス】で絶滅したはずの希少種【ハイエルフ】の少女が奴隷として売られているのを目撃する。 ヴァイスはその少女にリリィと名付け、娘にすることにした。 リリィを育てていくうちに、ヴァイスはリリィ大好き無自覚バカ親になっていた。 こうして自分を悪人だと思い込んでいるヴァイスの溺愛育児生活が始まった。 ■カクヨムで総合日間1位、週間1位になりました!■
8 63魔力、愛、君、私
姉を探すリルと戦士のハルマ、 お互い同じ國の出身でありながらリルには小さな身體で殘酷な過去を抱えていた。 メーカーお借りしました() https://picrew.me/share?cd=cljo5XdtOm 亀さんペースですごめんなさい
8 119SNS仲間で異世界転移
とあるSNSオフ會で高校生5人が集まった。 そのオフ會會場、カラオケ屋のリモコンにあった「冒険曲」ではなく「冒険」の選択アイコン。その日、カラオケルームから5人が一斉失蹤を起こした
8 63異世界転生~神に気に入られた彼はミリタリーで異世界に日の丸を掲げる~
右翼思想の持ち主鹿島良太はある日天照大御神によってクラスごと神界に召喚される。有無を言わせず適當な特典を與えられて異世界に送られる中八百萬の神の一體稲荷輝夜に気に入られ一人好きな能力を特典に選べることが出來た。彼はその特典に選んだミリタリーを使い異世界に日本を作ろうとついてきた輝夜と奮闘する。
8 92ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~
ダーティ・スーとは、あらゆる異世界を股にかける汚れ役専門の転生者である。 彼は、様々な異世界に住まう主に素性の明るくない輩より依頼を受け、 一般的な物語であれば主人公になっているであろう者達の前に立ちはだかる。 政治は土足で蹴飛ばす。 説教は笑顔で聞き流す。 料理は全て食い盡くす。 転生悪役令嬢には悪魔のささやきを。 邪竜には首輪を。 復讐の元勇者には嫌がらせを。 今日も今日とて、ダーティ・スーは戦う。 彼ら“主人公”達の正義を検証する為に。
8 93男子高校生5人が本気で彼女を作ろうと努力してみる!
殘念系イケメン、アフロ筋肉、メガネ(金持ち)、男の娘、片想いボーイ(俺)の5人を中心に巻き起こるスクールギャグエロラブコメディ。 可愛い女の子も登場します! 実際、何でもアリの作品です。
8 162