《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》

西の城門をくぐると、まず目にったのは街の中央まで続く舗裝された大通りだった。

ずらりと並んだ建や店は高低もさまざま、煉瓦造りから壁の塗裝のまで華やかだ。行きう人々も多く、大通りからそれた小道でも店が立ち並び、呼び込みの聲がやまない。はしゃぎ聲と一緒に子どもが噴水広場へと駆けていく。

ジークをつれて中にったジルは、呆然とその景を眺めたあと、ぶ。

「ものすごく大きい街じゃないですか!?」

「そらノイトラール公のお膝元の城壁都市だからな」

てっきりノイトラール公爵領に點在する街のひとつだと思っていたのだが、ノイトラール城塞都市、本家大本だった。

「ということはここの竜騎士団って……」

「ノイトラール公が率いる竜騎士団だ」

竜騎士団の中でも鋭中の鋭ではないか。ジルは唸る。

「どうりでさっきから験者がいかついと……皆、気合いがってると……!」

「本気で竜騎士目指してる連中が集まってるんだろう。別年齢元不問っていうのは、あやしげな奴は叩き出せる自信があるってことだ」

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しかも、ノイトラール公爵のお膝元ということは、政治的な意味でより中央――帝都ラーエルムに近いということになる。敵陣まっただ中に飛びこむようなものだ。

「しかも、ゲオルグ・テオス・ラーヴェは、帝都で三公と有力諸侯を集めて天剣をお披目済み。で、三公を含めた各領地に偽帝ハディス・テオス・ラーヴェの捜索を要請する。そうなってるだろうと思ったが、今やすっかり陛下はお尋ね者だな」

途中で回収した新聞と、出回っている手配書を持ってジークが嘆息する。

「よかったことといえば、寫真がないことくらいか。顔がよすぎて、似顔絵も似てない。黒髪金目、『一度見たら忘れられない形』ってとてつもなく正確な報が書いてあるが」

「その報を書いたひと、賢いと思います……」

ハディスが見つかれば即通報される、と改めて実する。

「あとはもうひとつ報がついてるな。金髪の小さなの子連れ」

もちろん、ジルのことだろう。ゲオルグはハディスがかばったジルを覚えているのだ。

「ベイルブルグにも照會がいってるでしょうね」

「二人連れ扱いで、俺やカミラの報はない。――誤魔化してくれてる気もするが」

「スフィア様、大丈夫でしょうか」

「信じるしかないだろう。それに、上にはもっと報が回ってるかもしれん。今更だがどうする、やめるか?」

ジークに尋ねられ、ぶんぶんとジルは首を橫に振る。

「ここまで警戒されずにすんでます。このままいきましょう」

「まあ、即通報顔はともかく、金髪のの子なら珍しくないしな」

「それに陛下にお弁當持たされたんですよ。これを食べるまで帰れません」

ジルが背負っているリュックには、ハディスが早起きして作ってくれたお弁當と水筒がっている。

いってらっしゃいとさみしげに見送ってくれたのだ。それだけの果を持って帰りたい。

「弁當だけ食べて帰ればいいだろうに……」

「でも、夕飯はシチューなんですよ!? 仕事を終えたあとの陛下のご飯……!」

「帰る気がないのはわかった。だが、魔力もないのに、かる見込みはあるのか?」

「わたしはこれでも戦闘民族の中で育ったので!」

「戦闘民族……」

ぼやきながらも、ジークはついてきてくれる。

竜騎士団の兵舎と詰め所は、大通りをまっすぐいって、役所がある広場が見えたら左に曲がる。そう城門の兵士が教えてくれた。今日は竜騎士団の見習いを選抜する日なので、験者の証として右腕に黃い布を巻きつけられただけで、城門が通過できたのだ。

やはり、こんな好機を逃す手はない。

「ジークはかる自信、ありますか?」

「ただの騎士ならまだしも、竜騎士はわからん。竜に好かれるかって問題があるんだろ。こういう変則的な試験を突破するのはカミラが得意なんだが」

「ああ、カミラは得意ですよね。頭の上にのった林檎をって合格、みたいな」

捜査のときは、よくカミラの立ち回りと一蕓に助けられた。未來の話を思い出して笑うジルに、ジークが胡な目を向ける。

「……見てきたみたいに言うんだな」

「えっ……あ、いえ、そういうのが得意そうだなって、そういう……」

「まあいい。それより広場が騒ぎになってるぞ」

本當に気にしていないようで、ジークは行き先を指さした。

ジルも視線をかす。

大通りが十字にかさなる広場で、人だかりができていた。左に曲がる道をふさがれ立ち往生しているのは、腕に黃い布をまかれている者達、すなわち竜騎士団の見習い志者だ。

「トラブルって、試験はどうなるんだ」

「はるばるここまでやってきたんだぞ! せっかくのチャンスなのに」

「現在、竜騎士団は出払っておりますので、いったんここでお待ちください」

「だからそれはいつまでだよ!」

「とにかくここでお待ちください」

験前の張がそうさせるのか、繰り返される問答に罵聲が飛び始める。

竜騎士団の兵舎へ向かう通路をふさいでいるのは、數名の若い男達だ。全員、同じ騎士服を著ている。

「あのひとたち、竜騎士団の騎士でしょうか?」

「だろうな。どうする――って、待つしかないか」

「トラブルってなんなんでしょうか……」

つぶやきながらジルは周囲を見回す。

広場に集まって押し問答をしている験生を遠巻きにして住民たちが見ていた。騒ぎを聞いて集まってきているのだろう。同じものを見たジークが舌打ちする。

「不用意に人目につくのはまずい。いったん離れるか」

「……試験まで時間はどれくらいあるんですっけ」

「ああ、そういやもうそろそろ――」

ジークの答えを、正午の鐘が遮った。

一瞬、問答も忘れたように広場の喧噪がおさまる。直後、鐘の余韻を上空からの風と羽ばたきが吹き飛ばした。

広場を半分、大きな影が覆う。最初に指をさしたのは、住民だ。

「っ……竜、竜だ!」

「お、驚くな。竜くらい、この街には竜騎士団があるんだから――」

「くそっ仕留められなかったのか!?」

竜騎士団のびと同時に、しなやかなをした竜が広場の噴水を踏み潰した。

人は乗っていない。すなわち、飼われていない竜だ。

じろりと人間を見おろす竜の瞳に、誰かがぶ。

「暴れ竜だ!」

悲鳴があがり、またたくまに恐怖が広場に伝染する。

びをあげた竜が、空に向かって炎を吐いた。

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