《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》12
急いで駆け込んだ訓練場は、興に包まれていた。
竜騎士団の見習い騎士とはいえ、まだ竜が常駐する駐屯所や廄舎は立ちり止だ。まずはひととおりの実力や適を見極め、竜に関する座學を學びながら竜の世話をまず覚える、と説明をけていた。ゆえに竜と接できるのはまだ先だと思っていたのだが、果屋の店長がいったとおり、団長――エリンツィアとその騎乗竜がいたことで、ジルも目を輝かせる。
整列、という一喝で並びはしたものの、皆の視線が集まるのは竜だ。
そんな新人達を苦笑い気味に見つめ、エリンツィアが正面で聲を張り上げた。
「本日は私の竜と挨拶をしてもらう! 話は単純、ただ頭をさげて挨拶してもらえるかどうかだけだ。それで相を見極められる。ローザ……私の竜の名前だが、この子は最上級に近い竜だ。鱗のを見てしい」
エリンツィアがかたわらの赤い鱗の竜をなでた。
ぐるっとローザがを鳴らして紫の目を細める。
「竜は鱗ので階級が決まる。上から白銀、黒、赤。よく晝、夜、黃昏だと言われるな。同の階級は目ので見分ける。金目が上位、紫目が下位だ。こう表現すると赤竜は単に三番目ということになるが、まず白竜――金目の白銀竜は竜神ラーヴェ様以外にいない」
Advertisement
ぼんやりとジルの頭に、威厳のかけらもなくげらげら笑っているラーヴェの姿が浮かぶ。白銀に輝く肢に金目、言い伝え通りの合いだ。
(ラーヴェ様、竜神なんだなあ……天剣になれる時點でわかってたけど)
なんとなく安心したような、殘念なような。
「白銀はラーヴェ様のみに許されたなので、白銀に紫目の竜は存在しない。となると次は黒竜の金目がくるが、これもまた伝説じみた存在だ。一説には竜帝だった頃のラーヴェ様のと言われている。そのせいかラーヴェ皇族は髪か目のどちらかに、黒、金、紫のを持って生まれる者が多い。竜の階級にならったなんだろう。私も目が黒だ」
ハディスは綺麗な黒髪に、輝く金の瞳をしている。伝説の竜帝そのままの合い、そして天剣とくれば竜帝に決まったようなものだと思うが、ラーヴェ皇族のを引いていれば髪と目のは偶然と言い張ることはできるのかもしれない。
「竜に話を戻そう。つまり、黒竜は金目はもちろん紫目もほとんど人前に姿を現さない。白銀の竜が神なら、黒竜は王、王だ。人と変わらぬ知恵を持ち言葉で會話もできるらしい。何百年と生きた竜の鱗が何度も生え替わり、最後にそのになると言われてはいるが、いずれにしても滅多にお目にかかれない存在だ。ここまで言えば、ローザが現実的に最上級の竜だという意味がわかってもらえると思う」
Advertisement
白銀の竜はラーヴェのみ。黒竜も伝説の生きに近い。
となると、人間が扱える竜としての最上級は、階級三位の赤竜になる。
「赤がラーヴェ皇族のなのも、竜の階級からきてると言われてる。白と黒は竜の神と王だから敬意を表してさけ、赤を選んだそうだ。あとの鱗のは上から橙、黃、緑、要は虹にあるだ。加えてわりあいよく見かける茶や灰、斑模様を含むその他の分類になる。竜騎士団の階級章にもそれが現れる。見習いは一番下っ端ということで腕章が竜の鱗にはない水だ」
見習いには制服は支給されないが、腕章が配られていた。ジルは自分の腕を見てを確認する。確かに水だ。そしてこちらをうかがっている先輩騎士の腕章は緑である。
「赤竜に乗れる最高位の騎士は鱗ではなく、瞳のにあやかって紫になる。赤は皇族のだからね」
そう言ってエリンツィアが自分の腕章を見せる。瞳の分類で上位にあたる金ではないのは、やはり竜神のを慮ってとのことなのだろう。
「ちなみに水はもちろん、青の鱗を持つ竜は存在しない。空をしがる神クレイトスが奪っていったという神話があってね。神は青を空だと勘違いしたまま、クレイトス王族のにしてしまったとか」
ふとジルはクレイトスのの逸話を思い出す。
(確か空はラーヴェだけのものではない、という由來だったような。ラーヴェでは、奪われた竜のという表現になるわけか)
二國間の解釈の違いは面白い。
ラーヴェ帝國のである赤も同じだ。今、竜の階級に敬意を表して赤を選んだと説明されたが、クレイトスでは竜に支配されないよう人間ののを神が分け與えた説が主流だ。
「個數の多さと階級の高さは逆転するとか、そのあたりは座學で覚えてくれ。本題はここからだ。竜は階級がはっきりして、竜との相の目安になる。わかりやすく言えば、上位の竜に認められた人間は自然と下位の竜に認められる。もちろん、あとから緑竜や茶竜、その他の竜もくる予定だから、ローザにそっぽを向かれたからといって心配しなくていい」
だが、とエリンツィアは笑った。
「ローザが挨拶を返せば、竜騎士団でもエース級の橙竜に乗れることは間違いない。れることを許されれば赤竜に乗るのも夢じゃない。出世コースまっしぐらだ。ま、ほとんどが無視されるだろうが、どうせなら大きな夢から挑戦したいだろう?」
エリンツィアのいに歓聲が応じた。ジルも両手を握りしめて目を輝かせる。
ローザに挨拶する順番はこの間の試合の順位順になった。
つまりジークが一番のりだ。
皆の注目をあびながら、ジークがものすごく嫌そうな顔でエリンツィアに言われたとおり、正面で顔を伏せて跪く。いわゆる、服従の姿勢からることが竜への挨拶になるそうだ。
皆が固唾を呑んで見守っている中で、ジークに目をやったローザが、じっとその姿を見たあと、頭をさげようとしたと思ったら、ふんと鼻息を思い切り浴びせ、ジークに餅をつかせた。
そのあとは目をぱちくりさせているジークなど知らんぷりで、そっぽを向いている。
意味がわからずぽかんとしている中で、エリンツィアが豪快に笑う。
「いいじゃないか。今のは一昨日きやがれという意味だ」
「は!? 喧嘩売ってんのか、どこがいい――ん、ですか?」
途中でエリンツィアが団長だと思い出したらしく、ジークがすぼみに敬語になる。だがエリンツィアはそんなことは気にせず、豪快に笑って説明を続けた。
「まるきり無視はしなかっただろう、からかっただけいい傾向だ。緑竜あたりが挨拶を返してくれるんじゃないか? それに、ここでいきなりローザが挨拶を返したら、竜騎士団の先輩騎士の面目が丸つぶれじゃないか」
エリンツィアのひとことに、新人達の洗禮を見しにきている先輩の竜騎士たちが笑う。
(いい雰囲気だな。鋭の竜騎士団をちゃんとまとめてる)
ジークが立ちあがりその場から去ると、エリンツィアが手を鳴らした。
「言っておくが緑竜でも立派な竜騎士だ。竜騎士団の大半は緑竜を筆頭にして茶竜や灰竜、斑竜がしめてるんだからな。さあ、落ちこんでないで次だ次!」
勢い込んで新人が進み出るが、ばんと地面を足で踏まれて脅かされたり、一瞥しただけでそれきりだったりが続く。頭をさげる挨拶をかわしてもらえる者は出ないまま、ジルの順番がまわってきた。
どきどきしながら進み出たジルに、エリンツィアが意味深に笑う。
「ああ、君か。君はどうかな」
「頑張ります!」
宣言して、ジルは目を閉じ、頭を垂れてその場に片膝をつく。
(仲良くなれますように! 自分の竜がほしい! それで陛下みたいにかっこよく乗れたらいいな。そう、竜はできれば――)
ふわっと風が吹いた。優しいというには勢いのある――殺気。
本能的にジルは地面を蹴って飛びのいた。鋭く大きな爪がかすめ、肩からにかけて服を切り裂く。斬り付けられたような、かすかな熱と痛みが走った。
「ローザ!? 何をしている!」
エリンツィアの制止も無視して、ローザが吼えた。大きく翼を開き、ジルをねめつける。ぎらぎらとした紫の目に宿っているのは敵意だ。
「ローザ、やめろと言っている! 君――ジルだったか、早くさがって、手當てを!」
竜の座學などけていなくてもわかる。ローザが向けているのは、完全な威嚇行だ。
呆然とそれを見ているジルを、ジークが抱きあげてその場から離れる。
「大丈夫か、隊長。傷は」
「だ、大丈夫……です。服が破れたくらいで、かすり傷です」
「一応、救護室に行くぞ」
「どうして……わたし、竜妃なのに。陛下の、奧さんなのに……」
思わずこぼしたつぶやきにジークは一瞬、足を止めたが、何も言わず大で救護室へと歩き出した。
リターン・トゥ・テラ
かつて地球で行われたラグナレク戦爭。 約100年にも及ぶその戦爭の末、大規模な環境汚染が進み、人々は宇宙への移民を余儀なくされた。 地球に、幾多の浄化裝置を殘して…… それから約1000年の時が経とうとしていた。 浄化が終わった資源の星、地球をめぐって地球國家と銀河帝國は対立し、ついに大規模な戦爭が始まろうとしていた……
8 117悪役令嬢の中の人【書籍化・コミカライズ】
乙女ゲームの好きな平凡な少女、小林恵美は目を覚ますと乙女ゲームアプリ「星の乙女と救世の騎士」の悪役令嬢レミリアになっていた。世界の滅亡と自身の破滅を回避するために恵美は奔走する! ……その努力も虛しく、同じく転生者であるヒロインの「星の乙女」に陥れられた恵美は婚約破棄された上で星の乙女の命を狙ったと斷罪された。そのショックで意識を失った恵美の代わりに、中から見守っていた「レミリア」が目を覚まし、可愛い「エミ」を傷付けた星の乙女と元婚約者の王子達に復讐を行う。 主人公は「レミリア」です。 本編は完結してますが番外編だけ時々更新してます。 おかげさまで一迅社から書籍化されました! コミカライズはpixivのcomic poolさんにて11/19から始まります! ※ガールズラブタグは「人によってはガールズラブ要素を感じる」程度の描寫です
8 187【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可愛すぎる彼女たちにグイグイ來られてバレバレです。
【講談社ラノベ文庫より8/2刊行予定】 権力者の孫娘にして超人気聲優アイドル・瑠亜の下僕みたいな立場に甘んじていた俺。 「アタシと幼なじみなこと、光栄に思いなさい! ッシャッシャ!」 しかし、しかし……。 彼女がやった「あること」がきっかけで、俺はぶち切れた。 お前とはこれまでだ、さらばブタ女。 これまでずっと陰に徹して、ブタの引き立て役だった俺。 ようやく普通に生きられると思っていたが、「普通」はなかなか難しい。 天才が集うS級學園の特待生美少女たちに、何故か次々とモテてしまって――。 これは、隠れハイスペックの主人公がヒロインとの「絶縁」をきっかけにモテまくり、本人の意志と関係なく「さすがお前だ」「さすおま」されてしまう物語。 ※ジャンル別日間・週間・月間・四半期1位獲得 ※カクヨムにも投稿
8 60異世界転生したら生まれた時から神でした
中學3年の夏休みに交通事故にあった村田大揮(むらただいき)はなんと異世界に!?その世界は魔王が復活しようとしている世界。 村田大輝……いや、エリック・ミラ・アウィーズは様々な困難を神の如き力で解決していく! ※処女作ですので誤字脫字、日本語等がおかしい所が多いと思いますが気にせずにお願いします(*´ω`*) この作品は小説家になろう、カクヨム、アルファポリスにも掲載しています。 作者Twitter:@uta_animeLove
8 166手違いダンジョンマスター~虐げられた魔物達の楽園を作りたいと思います~
神がくしゃみで手元が滑り、手違い、と言うか完全なミスによって転移させられ、ダンジョンマスターとなってしまう。 手違いだというのにアフターケア無しの放置プレイ、使命も何もない死と隣り合わせのダンジョン運営の末、導き出された答えとは!? 「DPないなら外からもってこれば良いのでは? あれ? 魔物の楽園? 何言ってるんだお前ら!?」
8 182転生しているヒマはねぇ!
異世界で転生する予定になり、チキュウからマタイラという世界の転生界へと移動させられた『カワマタダイチ』。 ところが、控え室で待たされている間に、彼が転生するはずだった肉體に別の魂が入れられ、彼は転生先を失ってしまう。 この大問題を、誤魔化し、なおかつそうなった原因を探るべく、マタイラ転生界の最高責任者マーシャが彼に提示したのは、冥界に來た魂を転生させるこの転生界の転生役所で働くことだった。 ニホンでやる気を持てずに活力なく生きていたダイチは、好みの女性陣や気の合う友人に勵まされながら、少しずつ活力を取り戻し、それでも死んだままという矛盾に抗いながら、魂すり替え事件やマタイラの冥界と現界を取り巻く大問題と、わりと真面目に向き合っていく。
8 76