《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》14

気分が持ち直せば、視野が広くなる。

ジークは竜騎士の適があると判斷されるだろう。竜と相がいいなら、竜の廄舎に出りするとか、竜と接する機會が増えるはずだ。反対にジルは騎士団の補助的な雑務に回されるだろう。持ち場が離れることで、自然と二手に別れられる。

よく考えると、報収集にはちょうどいい展開ではないだろうか。

喜ぶジルにジークは仁王立ちで言った。

「だったら俺も補助に回る。當然だろう。俺はお前の騎士なんだ」

「わたしは陛下の妻です。そろそろ竜騎士見習いだって、陛下の捜索にも駆り出されるかもしれません。竜騎士団の戦力や帝都の報も手にれましょう」

「聞け。俺は、お前の、騎士だ」

「わたしは、陛下の、妻です。ということでお願いしますね。萬が一正がばれたとき、ジークのほうが危険な場所にいるんですよ。竜騎士団の部にっていくんですから」

両腕を組んだジークは長考した末に、諦めたように後頭部をかいた。

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「わかった。だが無理はするなよ。昨日の一件で、隊長をなめる馬鹿が絶対出てくる。多腕が立とうが、竜騎士になる適がないってな。扱いも変わるかもしれん」

そのジークの懸念は、ある意味で當たった。

「本日午前は街の巡回でありますか」

「ああ、君には本日、街の警邏に當たってもらう」

「はい、教。わたしは訓練に參加できないということでしょうか?」

「そうだ。街の中央にある噴水広場に別班が待機している。彼らの指示に従うように。見習いの腕章を目印にするといい」

竜騎士の適がないと判斷されると、見習いでも別の任務が課されるらしい。

(竜騎士になる人から先に竜の扱いを教える。當然の判斷といえばそうか)

を叩き込むために見習い期間中は平等にしごくのが軍だが、ここは竜騎士団だ。勝手が違うのだろうと、ジルはを引き結ぶ。

うしろで忍び笑いが聞こえたが、背筋をのばして、慣れた敬禮を返した。

「拝命致しました! 警邏に向かいます」

「午後の座學に間に合うよう、正午にはこの場に戻るように。――次!」

名前を呼ばれた人間が、びくっとを震わせたあと、青ざめる。おそらくジルと同じで、竜からの反応が芳しくなかった人間だろう。

何か言いたげなジークに小さく首を橫に振り、ジルは訓練場から出た。

座學をけられるということはクビではない。だが何人かは今日、もう正午までに戻ってこないかもしれないと思った。

(竜騎士団の報はジークにまかせよう。わたしは市井の報収集だ)

問題は噴水広場に何が待っているかだ。別班がいるということだが、おそらく竜騎士の適が低いと判斷された者達の集まりなのだろう。

まさか鋭とうたわれる竜騎士団で、くだらないいじめや穀潰し部署が橫行しているとは思わないが、上から下まで清廉潔白な組織など存在しない。窓際部署はどこにでもある。

(まあその辺はクレイトスだろうがラーヴェだろうが一緒か)

見習いには制服は支給されない。腕章のみが目印だ。噴水広場にたどり著いたジルは、周囲を見回して、まばたいた。

この間の試験で竜に踏み潰された噴水の縁に座り、本を読んでいる人がいる。左腕にはジルと同じ見習いを示す水の腕章をつけていた。

「あの」

話しかけると、噴水に座っていた人が顔をあげた。

白いに、白金の髪。くわえて簡素な白のシャツを著ているせいで、青みがかった瞳のが冴えて見える。青年というには早く、年というには大人びている仕草でこちらを見た。向けられた和な笑みに、騎士の豪膽さはまったくない。だが靜かな眼差しは深く、鋭い。

「ああ、君がこの間団したっていうの子か。噂には聞いてるよ。その年でずいぶん腕が立つとか」

し高めの聲が優しく響く。

だが決して油斷してはならない。ジルは、その理知的な目を、よく知っていた――今から六年後に、いやというほど知り盡くしていた。

「俺はロレンス。よろしく」

差し出された手を、握り返す。どうしてここに、とは問わない。

「ジルです。よろしく」

「ジルか。いい名前だね」

ジルの正に気づいていてもおかしくないのに、彼はそれをみじんもじさせず笑う。

そういう腹蕓ができる人だ。よく知っている。

なぜなら彼は、かつてのジルの副。そして今は、ジェラルド・デア・クレイトス王太子殿下の部下のはずである。

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